『テトリス』をプレイすると「トラウマを思い出しづらくなる」との研究結果。頭の中でピースを回転、嫌な記憶の“侵入”予防に

『テトリス』がPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を抑制する可能性を示す研究結果が公開された。

ウプサラ大学のEmily Holmes氏をリーダーとする共同研究チームは、精神医学に関する学術誌「The Lancet Psychiatry」にて、『テトリス』がPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を抑制する可能性を示す研究結果を公開した。『テトリス』のプレイによる意外な効果が示されるとともに、視覚空間的なタスクがどのようにトラウマ記憶の発生を低減させるかというメカニズムも浮かび上がった。

Holmes氏をリーダーとする研究チームでは、PTSD患者の症状の一つである「侵入的記憶」に対して、「Imagery Competing Task Intervention(イメージ競合課題介入)」(以下、ICTI)と呼ばれる治療法を考案。これは、トラウマの視覚的な記憶を短時間思い出した直後に、「メンタルローテーション(心的回転)」という心の中のイメージで物体を回転させる認知テクニックを用いながら『テトリス』をプレイさせるというものだ。

研究の対象となったのは、イギリスの公的医療サービスであるNHSで働く医療従事者のうち、新型コロナウイルス感染症のパンデミック中に職場でトラウマを経験した99人。研究チームは被験者を3つのグループに分け、そのうちの1つのグループには最初にスタッフのガイド付きセッションをリモートでおこなったのち、その後被験者に自分のデバイスでテトリスを20分プレイさせた。また比較する対照群として、モーツァルトの弦楽二重奏を20分聴かせたグループと、従来の治療を継続したグループを用意した。

すると、ICTIを用いたグループでは実験開始から4週目の時点で、どちらの対照群と比べても侵入的記憶の発生回数の中央値は10分の1に減少。統計モデルを用いた予測では、減少率は70%程度になるとの推計が導き出された。またこの効果は24週間にわたって持続したといい、ICTIを用いた患者の70%は、侵入的記憶の発生回数が24週間後にゼロになったとのこと。さらに、侵入的記憶という一つの症状に的を絞った治療であったのにも関わらず、PTSDの症状全体の軽減が見られたほか、睡眠障害や不安、うつといった関連症状にも改善が見られたとのこと。

約1時間のガイド付きセッションさえおこなえれば、そのあとは専門のセラピストが不要で個人でも実践できるという点で、チームはICTIの手軽さやスケールのしやすさを評価。また対照群と比較して、ICTIをおこなったグループに特有の有害事象は確認されなかったことから、安全面でも有望な治療法であるとも捉えている。

研究チームはこのアプローチについて、トラウマ記憶を思い出した際に、それに続いて視覚空間的なタスクをおこなうことで、侵入的記憶の再定着プロセスに干渉させる「retrieval-dependent interference models(想起依存干渉モデル)」という理論に基づいたものだと考察。そして『テトリス』でのスコアが高く、かつ思い出した記憶の鮮明さが低いほど、翌日に特定の侵入的記憶がゼロになる確率も高いことも判明しており、脳のリソースを競合するタスクに割くことが記憶の侵入性を低下させるとの理論の裏付けになっているとの見解を示している。ただし、同研究でおこなわれた分析はあくまで探索的なものであり、今後は神経生理学的な評価なども取り入れて調査する必要があるとして、今後さらなる検証が必要になると結論付けている。

なお、リーダーのHolmes氏は数年前から『テトリス』をメンタルヘルスの改善に役立てる研究をおこなってきた。パンデミックにおけるPTSD患者を対象とした研究は2023年にも発表しているが、今回発表された論文では、厳密な比較をおこなうためにモーツァルトの音楽を聴かせた「アクティブコントロール群」を追加した点や、24週間という長期にわたる持続効果を証明した点などでアップデートされている様子だ。

近年ではゲームのプレイが精神にプラスの影響をもたらす可能性についてさまざま研究されており、先日にはオープンワールドゲームが幸福感の向上に繋がる可能性を示す研究結果も出ていた(関連記事)。やりすぎによる悪影響が取り上げられることも多いゲームだが、今後研究が進めば、健康のために特定のゲームのプレイが“医学的に推奨される”ような未来も来るかもしれない。

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Shion Kaneko
Shion Kaneko

夢中になりやすいのはオープンワールドゲーム。主に雪山に生息しています。

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