ゲーム開発者による、「ゲーム開発に隠された嘘」を暴露する投稿が流行る。“光る円錐ワープトンネル”など、「効率的だまし絵」続々
あるゲーム開発者による「ゲーム開発は“嘘まみれ”であると暴露する動画」が大きく話題になっている。ゲーム開発者による演出にあたっての工夫が注目されているかたちだ。

とあるゲーム開発者が、ゲーム開発は“嘘まみれ”であると暴露する動画をX上で投稿し話題を呼んでいる。投稿はゲーム内での見え方と実際の制作風景の落差を紹介しており、シンプルな仕組みで壮大な演出を生み出す様子や、プレイ中は見られない裏側の光景が驚きと感心を集めているようだ。この「暴露」は広く話題となり、流れに乗った複数の開発者からさまざまな“嘘”、もとい工夫が次々と投稿されている。
発端となったのは、インディーゲーム開発者のJuancho Abad氏の「ゲーム開発が“嘘”であることの証明その256(Proof #256 that #gamedev is a lie:)」と題した投稿。これはAbad氏が3Dアーティストを務めたツインスティックシュ-ター『Go Mecha Ball』の演出に関するものだ。本作はステージ間移動の際に、ワームホールを蛇行して進むような映像が挟まれる。『ボーダーランズ』のファストトラベル/リスポーン演出などを彷彿とさせる、SF的な世界観を持つゲームで使われることの多い派手な映像だ。

この演出についてAbad氏は、『Go Mecha Ball』ではただ「角状のポリゴンメッシュ」を置き、回転・拡大縮小させているだけだと説明。実際の開発画面を映した動画では、疾走感のあるエフェクトが表面にループして走る「円錐」の内側をのぞき込むようなかたちでカメラが置かれている。カメラ視点では奥から手前に向かってエフェクトが流れるが、その状態で円錐を引き伸ばしたり、先端を捻じ曲げたりを繰り返すことで、あたかもプレイヤーが高速でくねくねと進んでいるように見える。
つまり、必要最低限の範囲だけを動かし“それっぽく”見せることで、余計な処理負荷や、実際に長いワームホールを制作する手間を減らしているわけだ。なおこの演出は他作品でも同様の仕組みで実装されているかは不明。とはいえSF映画等でも用いられる印象的な演出が、意外なほど単純なかたちで作られていることに、コミュニティからは驚きの声が集まっている。この投稿はXで2万8000を超える「いいね」を獲得するなど話題を呼び、それに刺激を受けた他の開発者からも、ゲーム開発における様々な「嘘」事例がSNS上で次々と紹介されている。
その一例が、壮大な遠景を見せる演出だ。スロバキアを舞台にしたJRPG『Felvidek』を手がけたBrozef氏は、同作の気球で空に浮かびあがるシーンを、実際には気球を動かさずに作ったと説明。カメラ前に気球をアップで固定し、数枚に分かれた背景を異なるタイミングで動かすことで、気球が上昇しながら眼下に景色が広がる開放的な演出を作り上げている。これも「動いているのは実は周りの方」という点で、前述のワームホールと共通する発想だろう。
同様にゲーム開発者のKevin Andersson氏は、自身の手がけた3Dプラットフォーマー『PaperKlay』の「世界がパタパタと展開し広がる演出」について暴露。実際には「最終的に展開した状態(final unfold)」に向けて、それぞれのタイルが回転するアニメーションを再生しているだけなのだという。つまり地形が直接ポップアップするのではなく、見えない状態で置かれていた地形が、タイルの動きに合わせて「非表示状態を解除」されることで、まるでその場に展開したように見せているというわけだ。一部タイルに遅延を組み込むことで、自然に見せる工夫も取り入れられている。
3Dゲームにおいては、プレイヤーから見えない場所にはテクスチャすら貼られておらず、透明な何もない空間であるケースも多い。また過去にはゲーム版『The Walking Dead』において、車中の「ルームミラーの反射」が、実際には“反転したキャラやオブジェクトを対面に置いただけ”だった、という例もある(関連記事)。「プレイヤーが正しく見えてさえいればOK」という割り切りは、ゲーム制作においては一般的な考え方なのだろう。
このほかXでは、しんしんと降る雪が実際にはカメラの周りに“蚊”のようにまとわりついているだけと明かす投稿や、キャラクターの影を直接地面に描き込むことでリアルタイムの光源があるように見せる仕組みなど、力業も含めた“嘘”が多く明かされている。
一連の投稿から浮かび上がるのは、ゲーム開発における創意工夫の精神だ。最新の技術をもってしても、開発者たちはなお「どう効率的にそれらしく見せるか」を追求している。前述のワームホール演出や局所的な雪表現も、ただの手抜きというよりは、グラフィックや演出のリアリティを損なわずに処理負荷や工数を最適化しようという試行錯誤の結果だ。こうしたリソース節約テクニックは『Starfield』の天候表現をはじめ、ハード性能が上がった近年のゲームにおいても活用されている(関連記事)。開発リソースは有限である以上、「見えないところを簡略化する」賢さは今後も価値を失わないだろう。
また近年は生成AI技術の発展によって、膨大なコンテンツを機械的に生み出し開発を効率化するアプローチが台頭しているが、人間のアイデアが生んだ“手作りの嘘”による効率化の手法は、リソース削減という目的は同じでも、一種の職人芸的に好意的に受け取られている。嘘と言いつつ、少ない労力でプレイヤーを没入させようというクリエイティブな姿勢が賞賛を呼んでいるのかもしれない。
今回、開発者の工夫の賜物である映像や演出の裏側が、意外性を伴って注目を集めたかたち。見せ方ひとつでプレイヤーの体験は大きく変わるということを、改めて思い知らせてくれる興味深い話題といえる。今後もゲームが、いかにスマートなやり方でプレイヤーを気持ちよく騙してくれるのか、注目していきたい。
この記事にはアフィリエイトリンクが含まれる場合があります。


