マルチ対応デッキ構築ゲーム『Across the Obelisk』は“自由度がとんでもない冒険RPG”として遊ぶべし。新たな拡張DLCは“ダークでホラー”な刺激たっぷり
デッキ構築要素のあるローグライトRPG『Across the Obelisk』本編の魅力に迫りつつ、拡張DLC「Necropolis of the Damned」の内容を紹介する。

Paradox InteractiveのレーベルParadox Arcは12月3日、『Across the Obelisk』の拡張DLC「Necropolis of the Damned」をPC(Steam)向けに配信開始した。価格は税込1767円となる。
『Across the Obelisk』はデッキ構築要素のあるローグライトRPGだ。ゲーム内は日本語表示に対応し、ソロプレイおよび最大4人での協力プレイが可能だ。本作ではプレイヤーは、さまざまなヒーローから4人パーティーを編成。カードを使って敵と戦い、マップを攻略していく。
弊誌は今回、本作の拡張DLC「Necropolis of the Damned」を先行プレイする機会に恵まれた。本稿では、まずは本編である『Across the Obelisk』の魅力に迫りつつ、本DLCにて追加されたコンテンツの内容を紹介しよう。

CRPGとして面白い『Across the Obelisk』
「Necropolis of the Damned」の紹介に入る前に、本編である『Across the Obelisk』の魅力について語りたい。本作は大まかにジャンルを設定するのならば、デッキ構築ローグライク(ローグライト)作品ではあるのだが、実際に遊んでみると、CRPGのような作品だと筆者は感じる。CRPGとは、テーブルトークRPG(TRPG)をコンピューターで遊べるようにしたもので、豊富なキャラカスタマイズや、クエスト、ストーリーの分岐などが作品の特徴に挙げられる。
強大なボスを倒すというひとつの目標のために、デッキの改造と最適化を繰り返すデッキ構築ローグライクと、大きな目標を掲げつつも、そこにたどり着くまでは自由なCRPG(及びTRPG)。一見すると、水と油のような2つのジャンルだが、『Across the Obelisk』は、それをうまく融合させ、デッキ構築の楽しさを味わいつつも、自由な探索から生まれる発見や、驚きに満ちた展開を楽しめるような作品となっているのだ。

その理由のひとつとして、「4人1組の自由なパーティーシステム」が挙げられるだろう。多くのデッキ構築ローグライクゲームでは、それぞれのコンセプトを持ったキャラクターをひとり選び、単独でマップを攻略するのが一般的である。それに対して本作では、防御力が高いウォーリアーや攻撃を得意とするスカウト、属性攻撃を繰り出せるメイジ、回復が得意なヒーラーといった4クラスを保有するヒーローの中から4人を選び、ひとつのパーティーとしてマップを進んでいく。
それだけならば「ただプレイする人数が増えただけなのでは?」と思うかもしれないが、このパーティーシステムの自由度こそが本作のキモとなっている。パーティーを組む際には、ウォーリアーとスカウトは前線、メイジとヒーラーは後衛といった“推奨構成”がゲーム内で案内されるものの、実際にはクラス構成に一切の制限はない。つまり、ウォーリアーやメイジを2人入れる、メイジを前線に置く、さらには全員ヒーラーにするといった自由なパーティー構成が楽しめるわけだ。

さらに、ヒーローにはそれぞれ固有のデッキが存在するのだが、必ずしも固有デッキに縛られなくてもいいという点も本作の自由度につながっている。本作は複数人でマップを攻略する性質上、「パーティー全体のシナジー」を意識したデッキづくりが重要となる。パーティーメンバーを強化するために、自身の固有カードを廃棄し、より効果的なシナジーを生み出せるカードを組み込むことも可能だ。
本来のデッキ構築ローグライクであれば、「固有デッキをどう自分らしく最適化していくか」に目を向けがちだ。しかしパーティーで戦う本作では、あえて固有デッキを崩すことで思わぬ効果を得られる可能性がある。ヒーロー選択からデッキ構成まで“かなり自由度が高い”からこそ、攻略の幅が広く、プレイのたびにさまざまな発見がある。
ワクワクと発見に満ちた冒険
パーティ構成が自由なだけであれば、「自由度の高いデッキ構築ローグライク」という評価に落ち着くが、もうひとつの要素が本作をよりCRPGらしいと思わせる。それが「濃密なイベントシステム」だ。多くのデッキ構築ローグライクでは、戦闘・イベント(中ボス戦や休息など)・ショップといった要素がランダムに配置され、イベントはあくまでもランダム性を強化するための存在にとどまりがちである。
しかしながら本作では、マップがランダム配置ではなく、すべてのマスが固定されている。イベントの内容も固定となっているため、極論をいえば周回する際のランダム性はないに等しい。その代わりに、イベントひとつひとつの内容が濃密となっている。

イベントマスに止まると、その位置に連動したさまざまな物語が紡がれる。湖の前では釣り大会がおこなわれていたり、キャンプの近くでは野党がうろついていたりといった具合だ。そしてプレイヤーは、それに対してさまざまな選択が可能。イベントを受ける・無視するといったものから、カードの合計マナ数で結果が変わる選択肢、さらには選んだヒーローによって固有の選択肢が用意されていることもある。
また、選択肢が豊富なだけでなく、イベントをこなす利点もしっかりと存在する。たとえば一部のイベントではアイテムを獲得でき、そのアイテムが後のイベントで重要な役割を果たし、厄介なイベントを避けられることもある。また、新たなヒーロー解放のフラグになっているケースも。さらには、マップごとに固有のダンジョンが用意されており、イベントの選択によってはダンジョン内を探索することも可能。ダンジョンには固有ボスが存在し、倒すと専用の装備品が入手できるのだ。

本作を「デッキ構築ローグライク」として見ると、操作するプレイヤーが4人いて複雑なことや、デッキの最適化がなかなか難しいこと、さらにはランダム要素が薄いことから、ボス戦で超高火力デッキを回し続けたいタイプのプレイヤーには向かないかもしれない。しかしながら「デッキ構築ローグライクをテーマとしたCRPG」として捉えると、攻略の幅が広いパーティーシステムと、豊富なイベント・選択肢によって、1回のプレイでじっくりとビルドを構築していく楽しさや、冒険と物語を満喫できる楽しさに満ちている作品といえる。
そして、最大4人でのマルチプレイに対応している点も本作の良いところ。ソロならば選ばないヒーローやデッキ構築、物語の選択など、プレイヤー数が増えることによって思わぬ発見をもたらしてくれる。そうした点もある種CRPG、もといTRPGらしいといえる部分だ。
ダークファンタジーホラーな世界と“曲者”なふたり
本作の魅力をひととおり語ったところで、今回配信される拡張DLC「Necropolis of the Damned」の紹介に入ろう。本DLCはダークファンタジーホラーがテーマとなっており、これまでの『Across the Obelisk』とはひと味違うダークな物語が展開する。怪物や幽霊、ヴァンパイアなどが蔓延るおどろおどろしい新マップ「夕闇の国(The Dusk Lands)」を冒険していくのだ。
前述したように、本作はCRPGのような魅力を持つ作品であるが、「Necropolis of the Damned」はその魅力に刺激的なスパイスを与えるDLCになっていると感じた。テーマであるダークファンタジーホラーを体現した新マップ・夕闇の国は、複雑なマップ構造と奇妙なイベントが発生し、まるでお化け屋敷にいるかのようなドキドキとワクワクを楽しめる。と同時に、登場する敵たちはスピードも早く、連続攻撃が当たり前で、与えられたスタックを解除し、その分回復したりするなど、厄介な効果を次々と繰り出してくる。マップ自体がゲーム後半に用意されているだけあって、“死ぬのは避けたいがそれにしても敵が強すぎる”という死にゲー並みの緊張感を持つマップとなっている。

これだけでも十二分に刺激的になっているが、それ以上に追加されたふたりのヒーロー、「ヴェラリオン(Velarion)」と「ネバームーア(Nevermoor)」の“曲者さ”は、本作の自由なパーティ構成に新たな深みをもたらしてくれた。
血の魔法を得意とする半吸血鬼「ヴェラリオン」
まず紹介するのが、ヒーラーとメイジのマルチクラスであるヴェラリオンだ。今回追加されるふたりのヒーローは、2つのクラスの特徴を兼ね備えるマルチクラスとなっている。使えるカードの枚数も多いが、その分ビルドも複雑な少しクセのあるクラスだ。

ヴェラリオンは半吸血鬼であり、呪われた城のなかで血の魔法を叩き込まれ闇落ちしかけたというヒーロー。固有デッキにもそのダークなエッセンスがしっかりと反映されている。固有カードには、ターン毎にスタック分蓄積ダメージを与える効果「出血」と、本DLCから追加された新たな効果「寄生」、2つの効果を持つカードを多く有している。
「寄生」はスタック式の効果となっており、寄生スタックを敵1体に一定数与えるとそのスタックが取り除かれ、出血スタックがその数値分増加する。さらにはスタック分ごと味方全体のHPを回復させるというものとなっている。まさしく半吸血鬼であるヴェラリオンらしい効果と言ってよいだろう(血の力で全員回復するというのは少し不思議だが)。
ヴェラリオンの強みは、この寄生スタックと出血スタックのシナジーにある。寄生スタックを貯めて出血スタックにすることで、一気に蓄積ダメージを与えると同時に、味方全体を回復。さらに、出血スタックを貯めてじわじわと継続ダメージを与えると同時に、パーティーに癒やしを施すことで、継続戦闘しやすいかたちに持ち込むことができるのだ。

じわじわと相手を継続ダメージで苦しめながら、自分たちはそれで回復するというのはまさしく曲者流の戦い方。ボス戦や厄介な敵が複数体いる状況でも、敵の猛攻に耐えつつ着実にダメージを与えられるため、回復に追われ続ける必要がない。攻撃にリソースを割きやすく、長期戦にはピッタリのヒーローだと言えよう。
シナジーとしては、攻撃的に立ち回りたいのであれば、出血スタックを貯めるのが得意な「グルクリ」と組ませるのが良い。じっくりと時間をかけて安全に攻略したいのであれば、防御値を貯め継続戦闘を得意とする「ハイナー」と組み合わせると、ヴェラリオンの強みをより活かせそうだ。
使うカードによって戦略が変わる闇の戦士「ネバームーア」
次に紹介するネバームーアは、夕闇の国の王子であったが、闇の魔法によりカラス人間となってしまった悲しき過去を持つヒーロー。そんなネバームーアは、ヴェラリオン以上に曲者なヒーローとなっている。

ネバームーアの固有能力は、本DLCで追加された新効果「ルーン」だ。ルーンには攻撃すると溜まる赤のルーン、防御で溜まる青のルーン、回復で溜まる緑のルーンの3種類が存在。それぞれのルーンをひとつずつ貯めると、特殊な追加効果が発動する。
筆者が特に気に入って使っていたのは、攻撃で溜まる赤のルーンだ。効果としては、攻撃をする度に被ダメージを増やす「標的」スタックを貯めるというものなのだが、赤のルーンが2つ溜まると、与える標的スタックが増加するだけでなく、周囲にいる敵にも標的スタックが与えられるのだ。これによって、単一の敵を狙うだけでも敵全体に与えられる被ダメージが増えるため、全体攻撃を効果的に与えやすい。
さらに赤のルーンの真価が発揮されるのは、「連続攻撃」のカードを発動した時だ。ネバームーアの固有デッキは連続攻撃を主体とする構成になっている。赤のルーンが溜まった状態で連続攻撃を発動させると、1撃目で標的スタックが付与され、2撃目ではそのスタック分の追加ダメージを与えつつ新たなスタックをさらに上乗せする。3撃目ではさらにその分のダメージが乗り……という具合に、倍々方式でダメージが跳ね上がっていく。1回のカードによる連続攻撃で敵の体力を三桁単位でゴリゴリ削る瞬間は、筆舌に尽くしがたい快感がある。

ルーンが溜まっていないときはそこまで強力ではないものの、ターンを重ねて適切にルーンを貯めれば強力な効果を叩き込めるのがネバームーアの圧倒的な強みだ。ひとつのルーンを活かすデッキだけでなく、複数のルーンを状況に応じて使い分けるデッキ構築も試せるため、プレイスタイルの幅はどのヒーローよりも広いのではないだろうか。クセが強いものの、ウォーリアーとヒーラーのマルチクラスとなっていることや、基礎ステータスも高いため、今後さまざまな可能性が切り開けるヒーローだと言えよう。
シナジー面では、継続戦闘に適したヴェラリオンをおすすめしたい。ヴェラリオンで体力と出血スタックを貯めてじわじわ削りつつ、体力の多い敵はネバームーアの連続攻撃でゴリッと削るという戦法は、今回追加された2ヒーローの“曲者ぶり”を大いに味わえる組み合わせとなるだろう。

作品世界にダークさとホラーさという“刺激”を与える
ここまで、ふたりのヒーローのステータス的な“曲者さ”を大いに語ったわけだが、もうひとつの要素として、ダークなバックストーリーにも注目したい。先ほど触れた設定だけでもかなり影のあるふたりだが、夕闇の国を探索していると、彼らの過去に何があったのか、夕闇の国でどのような役割を担っていたのか、そしてなぜプレイヤーと行動を共にすることになったのかが少しずつ明らかになっていく。その過程で、夕闇の国で何が起きたのか、なぜ怪物やヴァンパイアたちが徘徊しているのかといった背景にも触れられるようになる。
本作の良いところは、マップ内で強敵を倒してデッキや装備を強化していくだけでなく、ヒーローのバックストーリーやマップの背景にある世界そのものを知っていける点にある。夕闇の国には墓場や城、奇妙な祠や儀式場など、とても1回では回りきれないほど濃密なロケーションが存在する。それらを探索することで、影を背負うヒーローのバックストーリーや、奇妙で不気味なダークファンタジーの物語を味わえるDLCとなっている。
これまでにも、危険な海賊蔓延る海や、神々眠る砂漠の神殿、本編の10年前を描くストーリーなど、多彩な物語がDLCで描かれてきた。しかしながら、本作の“ダークな側面” が深く掘り下げられることはなかった印象だ。そういう意味でも、本DLCは作品世界に新たな刺激を加えてくれている。2022年の正式リリース以降、アップデートやDLCによって着実に世界を広げてきた本作だが、本DLCを遊んでいると、まだまだ拡張の余地があると感じられる。拡張し続ける世界を自由に冒険できることが、今後ますます楽しみである。
『Across the Obelisk』はPC(Steam)向けに配信中だ。ゲーム内は日本語表示に対応している。また、拡張DLC「Necropolis of the Damned」もPC向けに配信中。価格は税込1767円となっている。




