推理アドベンチャー新作『探偵の眼:さらば、最愛の人よ』は、『逆転裁判』『ファミコン探偵倶楽部』好きに届けたい。堀井雄二ファン欧米開発者の、コマンド選択式ADVへの熱い愛

デベロッパーのArmonicaは日本時間の11月27日、『探偵の眼:さらば、最愛の人よ(Detective Instinct: Farewell, My Beloved)』をリリースした。対応プラットフォームはPC(Steam)/Nintendo Switch。ゲーム内は日本語表示に対応している。
『探偵の眼:さらば、最愛の人よ(以下、探偵の眼)』は、コマンド選択式の推理アドベンチャーゲームだ。大学生である主人公は、友人のエマと共に長距離列車に乗っていた。しかし旅の途中、列車内でひとりの女性が忽然と姿を消してしまう。さらに奇妙なことに、その失踪した女性の存在を、エマ以外の誰も覚えていないのだ。本作では、ビジュアルノベル形式で進むパートと、ポイント&クリックによる探索・推理パートを交互に進めながら、この謎めいた事件の真相を解き明かしていくことになる。

この度弊誌では、本作を手がけるインディーゲームスタジオのArmonicaにメールインタビューを実施した。本作の魅力に加えて、日本のアドベンチャーゲームへの愛や制作にかける情熱など、興味深い回答の数々を聞くことができたため、以下に紹介する。
──自己紹介と、開発チームの紹介をお願いします。
Joey Lopes(以下、Joey)氏:
こんにちは!Joey Lopesです。『探偵の眼:さらば、最愛の人よ』のディレクターであり、シナリオや音楽も担当しています。メインアーティストのPrismとPictoは兄弟で、本作のピクセルアートと3D背景の多くを手がけました。イラストレーターのJetoはカットシーン用イラストの大半を制作しています。そしてプログラマーのErik Goughを含めた以上のメンバーが、コアチームを構成しています。私たちはこれまで欧米のインディーゲーム界隈で活動してきましたが、チームとして共同でプロジェクトに取り組むのは今回が初めてです!
──Xアカウントを見るに、日本のゲームに非常に詳しく、好んでプレイされているようですね。お気に入りの作品と、その魅力について教えてください。
Joey氏:
私たちは皆、日本のゲームを遊んで育ってきました。『マリオ』や『ゼルダ』シリーズといった任天堂のゲームから、『ファイナルファンタジー』や『ドラゴンクエスト』シリーズのようなRPGまで、幼い頃から日本のゲームに触れてきたため、私たちの感性は日本のゲームによって形作られたと言っても過言ではありません。振り返ってみると、子どもの頃から心揺さぶられ、今なお胸に響き続けているのは、当時の日本の偉大なゲームクリエイターたちが、まさに真のアーティストとして、時代を超えて文化的に意味を持ち続けるような奥深い作品を生み出そうとしていたことだと思います。
具体的に挙げるなら、私が生涯でもっとも好きなゲームは『ドラゴンクエスト』シリーズです。堀井雄二氏のストーリーテリングのセンスが大好きで、シリーズ全体のゲームデザインも本当に見事だと思っています。また、作曲家としての私に大きな影響を与えたのも、すぎやまこういち氏の音楽でした。

──ご自身が影響を受けた作品として、『ファミコン探偵倶楽部』や『ウィッシュルーム 天使の記憶』、『逆転裁判』シリーズなどを挙げていますね。これらのゲームに関して、なにか個人的な思い入れはありますか?
Joey氏:
かつて日本のアドベンチャーゲームは、欧米ではあまり知られていませんでした。というのも、初期の作品はほとんどが英語にローカライズされなかったからです。たとえば『ポートピア連続殺人事件』のような作品はこっちで発売されませんでしたし、『ファミコン探偵倶楽部』シリーズも、数年前にNintendo Switch向けリメイク版が出るまで触れる機会さえありませんでした。
そんな中、『逆転裁判』シリーズは初めて本格的に欧米で人気を獲得した日本のアドベンチャーゲームのひとつでした。初めてプレイしたときの衝撃は一生忘れません。ゲームプレイのスタイルにも、圧巻の物語にも一瞬で魅了され、「もっとこういうゲームを見つけたい」「このジャンルの歴史を知りたい」と興味を持つようになりました。
それがきっかけで『ファミコン探偵倶楽部』シリーズや、『ウィッシュルーム 天使の記憶』など、幸運にも英語にローカライズされた日本のアドベンチャーゲームに出会うことができました。これらのゲームは非常に特別な存在であり、ゲームプレイを通じて物語性や雰囲気を高めるその手法は唯一無二で、私たちにインスピレーションを与えてくれます。
──そうした作品の影響は、本作のどのような点に反映されていますか?
Joey氏:
本作のゲームシステムは、会話重視のコマンド選択式アドベンチャーという点で、『ファミコン探偵倶楽部』シリーズに最も近いと言えます。ビジュアルスタイルやキャラクターイメージは『逆転裁判』シリーズ、特にゲームボーイアドバンスからニンテンドーDS時代のドット絵に通ずるものがあります。また、ストーリーの雰囲気は『ウィッシュルーム 天使の記憶』に少し似ていますが、より現実的で人間ドラマに焦点を当てたものになっています。
これらの作品が好きな方には、きっと共感していただける部分が多くあると思います。同時に、このジャンルに対する私たちなりの独自のアプローチを感じていただけるはずです。

──なぜ本作を作ろうと思ったのでしょうか?開発経緯についてお聞かせください。
Joey氏:
こうしたスタイルのゲームを作ろうと最初に思いついたのは、2022年2月のことでした。当時、私と友人たちの小さなチームは数年ほど、小規模なゲームの制作を続けていました。そこで私は、アドベンチャーゲームというジャンルは、より大きなプロジェクトへと進む次のステップにちょうど良いと感じたのです。
そして、このジャンルのゲームにふさわしいような、面白くてユニークな物語を考え始めました。真っ先に思い浮かんだのは、いくつかの古典的な映画で使われている「消えた女性」という定番のプロットでした。簡単に言うと、以下の通りです。ある人物が失踪し、その友人や知人、親族が行方を追おうとすると、まるで最初からその人はいなかったかのように、誰も失踪した人物のことを覚えていない。そこから主人公は陰謀に巻き込まれたり、自分の正気を疑ったり、誰を信じたら良いのかわからなくなったり……といった展開です。代表的な例としては、アルフレッド・ヒッチコック監督の『バルカン超特急』が挙げられます。ちょうど私たちのゲームと同じく、列車を舞台にしている作品です。
そのアイデアを核として、ストーリーの概要を書き上げて友人たちに見せたところ、すぐに賛同してくれました。それからすぐに制作が始まり、今日に至ります!本当にシンプルな経緯なんです。『探偵の眼』は、最初から最後まで情熱で作られた作品です。

──本作のサウンドや世界観にはどこか懐かしさを感じます。ゲームボーイアドバンスとニンテンドーDS、どちらの影響がより大きいのでしょうか?
Joey氏:
面白い質問ですね!実を言うと、作曲中にゲーム音楽というジャンルを強く意識していたわけではありませんでした。私が最も影響を受けたのは、1960〜70年代のロック音楽や映画音楽で、それらはアコースティック楽器を使うことや、旋律的なメロディを書くことをとても重要視していました。
とはいえ、私はゲームボーイアドバンスやニンテンドーDSのゲーム音楽を聴いて育ちましたし、人生で最も好きな曲のいくつかは、それらのコンソール向けに作られたものです。大好きな作曲家たちのゲーム音楽を何時間も聴き込み、研究してきた経験が、無意識のうちに私の音楽づくりに影響を与えているのは間違いありません!
全体的に見ると、私たちのゲームの美学に与えた影響が一番大きいのは、ニンテンドーDSだと思います。『逆転裁判』シリーズや、シングが手がけた『ウィッシュルーム 天使の記憶』『アナザーコード 2つの記憶』といった作品のほか、『極限脱出 9時間9人9の扉』のようなタイトルまで、ニンテンドーDS はアドベンチャーゲームやビジュアルノベルゲームにとって素晴らしいプラットフォームでした。特にピクセルアートやビジュアルスタイルにおいては、まさにその雰囲気を意識して制作しました。

──日本語ローカライズにはかなり力を入れているようですね。なぜ日本をメインターゲットに据えているのでしょうか?
Joey氏:
『探偵の眼』が今ここに存在しているのは、このジャンルを切り開いてきた日本の素晴らしいゲームクリエイターたちのおかげであることは疑いようがありません。ですから私たちとしては、英語圏のプレイヤーだけでなく、第一にこのゲームを作るきっかけを与えてくれた国のプレイヤーにも、私たちの情熱を届けるということを大事に考えていました。
私たちは完全なインディースタジオであり、ゲームはセルフパブリッシングをおこなっています。そのため、日本語ローカライズに取り組むのは簡単なことではありませんでした。しかし、挑戦して本当に良かったと思っています。日本語ローカライズを最良のものにするために尽力してくださった翻訳者のToshiya Nambaさんと、シナリオ監修を担当してくださったとおく弥生さんには、感謝してもしきれません。
──本作の中で、日本のプレイヤーが共感できそうな、お気に入りのポイントはありますか?
Joey氏:
エマと主人公の関係こそが、本作の中心にあるものだと考えています。プレイヤーの皆さんには、ふたりの友情に心を動かされつつ、一緒に過ごす時間を楽しんでいただけたら嬉しいです。

──本作はどういった人に遊んでほしいですか?
Joey氏:
欧米ではコマンド選択式アドベンチャーゲームというのは非常に珍しく、多くのプレイヤーはこうしたゲームをこれまで遊んだことがなかったでしょう。しかし日本では、コマンド選択式アドベンチャーを愛し、その古き良き魅力を求めているプレイヤーの方々にこそ、ぜひ本作を届けたいと思っています。
若い世代のプレイヤーにとってもこのジャンルの魅力を知るきっかけになれば嬉しいですが、何よりも、『ポートピア連続殺人事件』や『ファミコン探偵倶楽部』シリーズといった作品を遊んで育ってきたこのジャンルの愛好家の皆さんには、海外発のコマンド選択式アドベンチャーの試みを楽しんでいただけるのではないかと感じています。本作がこのジャンルの魅力を、私たちならではの形で表現できていたら幸いです。

──最後に、日本の読者に向けてメッセージをお願いします。
Joey氏:
『探偵の眼』に興味を持ってくださり、本当にありがとうございます!私たちは、これまでに生み出されてきた数々の素晴らしいアドベンチャーゲームから多大なインスピレーションを受け、そうした作品への深い愛情と敬意を込めて本作を制作してきました。その情熱が完成したゲームから伝わり、ストーリーに心を動かしていただけたなら、これ以上の喜びはありません。
──ありがとうございました。
『探偵の眼:さらば、最愛の人よ』は、PC(Steam)/Nintendo Switch向けに配信中だ。




