基本プレイ無料PvPシューター開発者、リリース後1か月で“有料化”を決断、今なら無料。「ジャンル選びから間違えた」と反省、最後にあがいてみる

Vector Interactiveは、現在基本プレイ無料で配信中のPvPシューター『Ravenous Horde』の有料化を発表。開発における失敗を振り返っている。

デベロッパーのVector Interactiveは11月19日、現在基本プレイ無料で配信中のPvPシューター『Ravenous Horde』を12月6日に有料化することを発表した。対応プラットフォームはPC(Steam)。ゲーム内は日本語表示に対応している。本作は12月6日までにライブラリに追加すれば、それ以降も無料で遊ぶことができる。

『Ravenous Horde』は人間とゾンビの大群による非対称PvPシューターゲームである。最大64人までのマルチプレイに対応しており、リリース後にPvE専用サーバーが追加された。さまざまな武器や強化要素、服装カスタマイズ、天候変化のあるマップなどが楽しめる作品だとされている。

本作は11月6日に無料でリリースされたものの、サーバーの安定性やゲームバランスなどの問題が指摘され、本稿執筆時点でSteamユーザーレビューは80件、そのうち51%が好評とする「賛否両論」ステータスに留まっている。開発元のVector Interactiveを運営するRinke Nuijten氏はそんな現状を踏まえ、事後分析として開発プロセスを詳細に語りつつ、本作を12月6日に10米ドルの有料作品へと切り替えることを発表した。有料化した後、現在の有料アイテムはゲーム内で獲得できるようになる。

ゲーム開発が一段落した後に、ゲーム開発の良かった点、悪かった点を挙げつつ今後の開発に活かす事後分析「ポストモーテム」は、海外掲示板Redditのゲーム開発について語るサブレディットなどでは頻繁に見かけるものである。ひとの犯した過ちを他山の石とできるよう、開発者間で経験談が共有されているわけだ。ただ、ユーザーに向けた告知などがおこなわれるSteamのコミュニティ上に、こうした事後分析が投稿されることはいささか珍しい。本作をすでにプレイしているユーザーの意見も交え、今後に活かしたいということなのだろう。質問などがあればコメントしてほしいとのRinke氏に対し、励ましの言葉や厳しい言葉が寄せられている。

Rinke氏は最初に、本作がこれまでに売り上げた収益が、リリースからの2週間で約203米ドル(約3万2000円)であることを明かしている。開発に費やした労力や時間、サーバーを運用するための費用などを考えれば、目を覆わんばかりの数字だ。Rinke氏自身も「dumpster fire」(燃え上がるゴミ箱、転じて手のつけようのないひどい有り様のこと)と表現している。

とはいえ本作はリリースまでに約1万7000件のウィッシュリスト登録を獲得しており、ある程度の注目を集めることには成功していた。実際にゲームがSteamライブラリに追加された数は5万件以上にものぼり、とりあえず無料作品だからとライブラリに追加する程度の注目を多くのプレイヤーから獲得していたことは間違いない。

ところが、実際に本作を起動したのは約5700人にとどまるという。その多くは起動しただけ、あるいは一度遊んで終わりだったのか、平均プレイ時間は約30分。これは本作の1ゲームにかかる時間とおおよそ同じだと思われる。ゲームを開始するハードルは低かったものの、プレイヤーが満足していたとは考えにくい。

そうしたプレイ時間の短さや「賛否両論」ステータスとなった理由のひとつとして、Rinke氏はサーバーの弱さを挙げている。事前にAIプレイヤーを使ったテストなどもおこなわれたとのことだが、実際のプレイヤーを受け入れるには不十分だったようだ。

Rinke氏はサーバーの弱さはもちろんのこと、1つのサーバーにつき最大64人のプレイヤーが参加できるというマルチプレイ実装の方法にも問題があったと分析。プレイヤーのPC同士で通信をおこなうP2P方式であれば、専用サーバーを立てずとも多くのプレイヤーを受け入れられたはずだと振り返っている。そもそも個人開発者にとってマルチプレイ専用シューターというジャンル選択そのものに無理があったと反省している様子だ。

また、収益化方法についても問題点を挙げている。本作は基本プレイ無料の方式をとり、ゲーム内で利用できるアイテムとして各種おしゃれアイテムなどを有償で購入する仕組みだ。『エーペックスレジェンズ』など実際にそうした手法で成り立っている人気作品も多いが、それを実現するにはウィッシュリスト登録数が10倍も100倍も必要だったとRinke氏は語る。

さらにRinke氏は、いわゆるダークパターンを実装しなかったという。プレイヤーが意図に反してついついお金を支払いすぎてしまうような仕組みは、倫理的に問題があると考えて実装しないことに決めたようだ。加えて、世界観を損なう見た目変更アイテムの実装も避けたようで、Rinke氏が場違いと考えるようなアイテムは本作には登場しない。

こうしたさまざまな理由から基本プレイ無料にしたこと自体が間違いだったとRinke氏は判断し、今回の有料化へと至ったようだ。10米ドルという価格についても、このゲームが見どころの一つもないまったくの駄作ではないと考えての設定のようだ。有料化後にも現在寄せられているレビューは残るものの、評価についてはあらためて計算されることになる。12月6日を境に、仕切り直しというわけだ。

ちなみに本作を手がけるVector Interactiveは、Rinke氏による個人運営のインディーゲームデベロッパーである。過去にSteamでは、コースをデザインしてビー玉が転がる様子を眺めるゲーム『Marble World』をリリースしている。こちらは本稿執筆時点でSteamユーザーレビューが約1150件で、そのうち90%が好評とする「非常に好評」ステータスを獲得している。これほどの高い評価を獲得できる開発者であっても、ジャンル選択や収益化方法を見誤れば大変な結果を招いてしまうということだろう。

Rinke氏は本作を12月6日に有料化した後となる21日に、パフォーマンス改善やバグ修正のアップデートを配信すると予告している。また、本作とは別の新作の計画がすでにあり、今回の反省を活かしてこれからの開発を進めていくと結んでいる。大変な苦境を経験した開発者の生み出す、今後の作品にも注目したい。

『Ravenous Horde』はPC(Steam)向けに無料で配信中。ライブラリに追加しておけば今後も無料で遊ぶことができる。12月6日からは10米ドルへ有料化の予定。現在のSteamの基準では国内向けには1200円程度となる見込みだ。

Naoto Morooka
Naoto Morooka

1000時間まではチュートリアルと言われるようなゲームが大好物。言語学や神話も好きで、ゲームに独自の言語や神話が出てくると小躍りします。

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