「助成金約1500万円+2年以上かけて開発中止になったゲーム」の開発者がデモ版から何からほぼ全部公開。無念のお蔵入りゲームを、あえて世に出す

2年以上をかけてプロジェクト中止となったFPS『Barrow』のデモ版やデータが公開され、話題となっている。

ある開発者が2年以上の開発期間を経てプロジェクト中止となったゲームを公開し、話題となっている。公開されたページでは、ゲームのトレイラーやプレイ可能なデモ版、コンセプトアートやキャラクターのデザイン画、ゲーム内の音楽など、開発中止までに制作されたほとんどすべてが公開されている。デモ版の対応プラットフォームはPC(itch.io)。

今回開発が中止されたのはガーデニングFPSBarrowである。開発の中心となっていたのは同作の公開をおこなったNicholas McDonnell氏だ。同氏は2023年11月に閉鎖されたスタジオSamurai Punkに所属していた経歴を持ち、同スタジオで開発していた『Barrow』の権利を取得。スタジオの閉鎖後に新スタジオSearching Interactiveを設立して、『Barrow』の開発を続行した。しかしその後、イベント出展や売り込みで期待した成果が得られず、開発に十分な資金を調達できないとして開発中止が決定されたようだ。

『Barrow』が公開されているページでは、Samurai Punk時代のものも含めて、開発に参加したクリエイター全員の名前がクレジットされている。今回の公開は、クリエイターが開発実績として履歴書やポートフォリオに記載できるようにするためだという。今後もオープンソース化するような可能性は低いそうで、あくまで作品をお蔵入りさせずWeb上に残す意図のようだ。

現在公開されているデモ版では、ゲームの序盤1〜2時間程度を遊ぶことができる。主人公は突如解雇されたジャーナリストJamie Blackwood。Jamieは毎年夏に遊びに行っていた祖母の家を久しぶりに訪ねることを思いつくが、祖母の家に生えてきた巨大な木の洞が異世界とつながり、祖母は行方不明となってしまう。異世界はまるで銃や手榴弾のように使える植物で溢れており、プレイヤーはJamieとして武器やアイテムをガーデニングで育てながら祖母を探すことになる。

そんな本作は、FPSにユニークな仕組みと世界観を加えたいという発想で開発がスタート。当初のプロジェクト名は「Rip and Care」だったとのこと。2023年後半にSamurai Punkで開発が始まり、過去に開発中止となったプロジェクトの技術やアセットを使うことでプロトタイプをかなり早く作ることができたようだ。その成果もあって、オーストラリア・ビクトリア州政府のクリエイター支援機関VicScreenからの助成金の承認を得るのに成功した。しかし、助成金の承認とほぼ同時に同スタジオが閉鎖となってしまう。助成金は事業体との紐づけが必要だったため、Nicholas氏はSearching Interactiveを新たに設立して再申請することになった。

その後、再申請は承認され『Barrow』は約14万5000オーストラリアドル(約1460万円)の助成金を獲得した。ただ、これはゲームの本格的な開発をスタートするにはとても足りない金額だったとのこと。そのためNicholas氏はさらなる資金調達のため、ゲームの売り込みに使えるデモ版の開発をおこなうことになった。予算の都合でフルタイムのスタッフを雇うことはできず、スタッフの入れ替わりも経験しながら開発が進められた。この期間中ずっとNicholas氏は、『Barrow』が資金調達に成功するようデモ版の改善をするべきか、それとも新しいゲームのプロトタイプを作るべきか葛藤していたという。

Nicholas氏は『Barrow』を2024年3月のGame Developers Conferenceに出展し、同8月のGamescomで本格的な売り込みをスタート。2025年1月から2月にかけて売り込み用のデモ版の配布をおこない、多数のメールも送信した。なんとかゲームが目に留まるよう数か月に渡って奮闘し、2025年10月のMelbourne International Games Weekにも出展したものの、十分な資金調達は得られず、開発を中止する決断に至った。

そうして公開されたページでは、これまで『Barrow』が辿ってきた歴史について詳しく説明されている。また、同作の開発に参加したクリエイターが実績として公開できるよう、参加クリエイター全員のクレジットと、スタジオが将来使うかもしれないソースコードやアセットなどを除いたすべてがまとめられている。

Nicholas氏が海外掲示板Redditにてこのページを紹介したところ、本稿執筆時点で約550件のUpvoteを獲得して話題となった。これはゲーム開発について語るサブレディットgamedevでは、かなり注目を集めたと言える数字だ。投稿には多くのコメントも寄せられており、こうした貴重な経験が語られることへの感謝や、ゲームのコンセプトを見て未完に終わることを惜しむ声、スタッフたちの今後の幸運を祈る声などで溢れている。中には、スタッフの1人だと思われるユーザーからの開発に参加できて楽しかったというコメントも見られた。

Nicholas氏の話からは、数多くのゲームが毎日のようにリリースされている中で注目を集める難しさや、ゲーム開発費が高騰していると囁かれる中でスタッフを集めて開発をおこなう難しさがうかがえる。また『Barrow』の売り込みが本格的にスタートしたという2024年は、折悪しくも業界でレイオフやスタジオ閉鎖が多発し、1万4000人以上が職を失ったと推計されている年。実績あるスタジオでもパブリッシャー探しに苦戦していたという報告が見られ(関連記事)、タイミングの悪さも一因となったのかもしれない。

ちなみにNicholas氏は今回の経験も踏まえつつ、現在短編サバイバルホラーゲーム『Crabmeat』を開発中とのこと。『Barrow』に携わったほかのスタッフらも含め、それぞれの新天地での活躍を祈りたい。

『Barrow』デモ版はPC(itch.io)向けに公開中。リリースされる予定はない。

Naoto Morooka
Naoto Morooka

1000時間まではチュートリアルと言われるようなゲームが大好物。言語学や神話も好きで、ゲームに独自の言語や神話が出てくると小躍りします。

記事本文: 285