「マルチプレイゲーム専用のGOTYを作るべき」とのアイデアに議論白熱。“ノミネートさえ珍しい”マルチプレイ作品のGOTY事情

GOTYの選定において「マルチプレイ作品が冷遇されているのではないか」という問題提起が投じられ、議論を巻き起こしている。

年の瀬が近づき、今年も各ゲームアワードでの「Game of the Year」(以下、GOTY)の発表に注目が集まっている。そんな中で過去のノミネート・受賞作品の傾向から、GOTYの選定において「マルチプレイ作品が冷遇されているのではないか」という問題提起が投じられ、議論を巻き起こしている。

今回の議論の発端となったのは、shroud氏ことMichael Grzesiek氏の発言だ。shroud氏といえば、Twitchにて1100万人以上のフォロワー数を誇る人気ストリーマー。過去にプロチームCloud9にて『Counter-Strike: Global Offensive』の選手として活躍し、2018年に引退してからはストリーマーとして活動してきた。元プロFPS選手としてのプレイスキルや、対戦ゲームへの深い造詣から人気を博している人物といえる。


GOTYは分けるべき?

そんなshroud氏は最近、10月30日に発売された『ARC Raiders』をプレイし続けている。『ARC Raiders』は、荒廃した未来の世界を舞台とするPvPvE形式の脱出シューターだ。ソロプレイまたは最大3人でのチームプレイに対応しており、敵NPCである戦闘機械「ARC」が占拠する地表から、貴重な物資を探索して地下居住区に持ち帰ることを目指す。PvPvE作品として、ほかのプレイヤーとの敵対、あるいは共闘が発生する点も特徴だ。発売以来非常に高い人気を維持しており、全世界累計販売本数が400万本を突破したことも発表された(関連記事)。

これまでshroud氏は銃撃戦の緊張感や脱出を重ねるゲームサイクルの出来栄え、演出面などさまざまな点で本作を称賛し、今年のGOTYにふさわしい作品だと述べてきた。なお後述の発言も含めて、shroud氏のいうGOTYはThe Game AwardsのGOTYを指しているとみられる。Golden Joystick Awards、The Game Awards、D.I.C.E. Awards、Game Developers Choice Awardsからなるいわゆる「4大GOTY」の中でも、The Game AwardsのGOTYはひと際話題性のある賞といえる。

そんなshroud氏が11月7日におこなったライブ配信での発言が議論を巻き起こしている。同氏は協力プレイ仲間のjust9nことJustin Ortiz氏とのボイスチャットのなかで「GOTYは(マルチプレイ作品とシングルプレイ作品の)2つの部門に分けるべきだと思う」と発言。マルチプレイ作品とシングルプレイ作品が競うことは理にかなっていないとも述べており、シングルプレイ作品とはゲームサイクルが異なることも多いマルチプレイ作品が同列で評価されることへの違和感を伝えているのだろう。また同氏は、シングルプレイ作品の方がGOTYにおいて圧倒的に有利だという持論も述べている。

shroud氏はその根拠として、2016年の『オーバーウォッチ』第1作以来、“マルチプレイ作品”がGOTYを受賞していないと言及。これを聞いたjust9n氏からは2021年にGOTYを受賞した2人プレイ専用ゲーム『It Takes Two』の存在を指摘されているが、『It Takes Two』はshroud氏が想定するマルチプレイ作品の枠組みとは異なるようだ。その後両氏の会話ではどのようにカテゴリ分けをおこなうのがふさわしいかについてのアイデアも挙がりつつ、結局は『ARC Raiders』のプレイに集中すべく議論は立ち消えとなった。


ノミネート率10%未満

「GOTYはマルチプレイ作品とシングルプレイ作品で分けるべき」という発言は、あくまで友人同士のカジュアルな会話にて浮上したアイデアとみられるが、一部海外メディアに報じられるかたちで注目を集め議論を呼んでいるようだ。

この中ではThe Game Awardsにはすでにマルチプレイゲーム向けのBest Multiplayer部門があると反論する意見もみられる。とはいえshroud氏のアイデアは、ジャンルごとの一部門ではなく、GOTYのような最優秀賞としての立ち位置でマルチプレイゲームを表彰する部門を作るべきではないかという考えかもしれない。

ちなみにこれまでのGOTYのノミネート・受賞作品には、マルチプレイが副次的な要素といえる作品であれば一定数見られる。とはいえ“マルチプレイが主体”の作品となるとノミネートされた例は珍しく、広く含めても先述した『オーバーウォッチ』『It Takes Two』のほか、『Titanfall 2』『PlayerUnknown’s Battlegrounds(現・PUBG: BATTLEGROUNDS)』『モンスターハンター:ワールド』『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』あたりとなるだろう。2014年のThe Game Awards発足後の62作品中、“マルチプレイ作品”はわずか6作品程度しかない。

そうした傾向は過去にも海外メディアPolygonに指摘されていたほか、昨年のGOTYにおいては大人気協力プレイTPS『HELLDIVERS 2』が選考されていなかったことへの不満も一部みられた(Windows Central)。“マルチプレイ作品”の冷遇は、GOTYにおいてしばしば議論されてきたトピックといえるわけだ。今年は『ARC Raiders』が高い評価を受ける中でshroud氏の発言などもきっかけになり、そうした議論が再び熱を帯びているとみられる。


あえて「線引き」する難しさ

とはいえ、仮にGOTYを“マルチプレイ作品”とそれ以外に二分するにしても、どのように切り分けるかには難しさもある。たとえば過去のノミネート作品である『モンスターハンター:ワールド』はシングルプレイでもメインストーリーやほとんどのコンテンツをプレイ可能。対して『It Takes Two』のように、ストーリー主導ではありつつも協力プレイ専用の作品もある。マルチプレイの形式は作品によってさまざまであり、もしGOTYを部門分けしたとしても、並び立つ2つの部門のどちらにそれぞれの作品を振り分けるかといった問題は付いて回るだろう。

なおThe Game AwardsのGOTYは、審査員投票90%とユーザー投票10%による混合投票で決定されている。そのため受賞作についてはユーザーの声も一定は反映されてきたものの、ノミネート作品の選出については、メディアや部門ごとの専門審査員の投票によって選考される仕組みだ。選考基準は明かされておらず、これまでにはたとえばリメイク作品がノミネートされることや、DLCがノミネートされることなどについてメディアやゲーマーコミュニティからは批判も寄せられてきた(関連記事)。

とはいえオリジナル版から内容が大幅に変わるリメイク作品や、大規模なボリュームを備えたDLCもある。先述したマルチプレイ作品も含めて、どのように分類するにせよ誰もが納得する線引きが難しいことはノミネート作品について議論が生じやすい背景にあるのかもしれない。

なお今年は『ARC Raiders』に限らず、さまざまなマルチプレイ作品が話題を呼んできた。特に協力山登りゲーム『PEAK』についてはユーザー投票型のゲームアワードGolden Joystick Awardsにて、GOTYにあたる「The Ultimate Game of the Year」にノミネートされていることでも注目を集めている(関連記事)。

このほか発売タイミングとしてはThe Game Awardsのノミネート作品発表後となるものの、11月20日には22年ぶりのシリーズ続編として『カービィのエアライダー』が発売予定。同作にはシングルプレイ用の「ロードトリップ」モードも用意されているものの、マルチプレイ主体の作品といって差し支えないだろう。同作では発売まで週末にオンライン体験会「おためしライド」が実施されており(関連記事)、SNS上で早くも話題を博している。

The Game Awardsのノミネート作品発表は日本時間11月18日と告知されており、そうしてゲーマーコミュニティを賑わしているマルチプレイ作品がGOTYにノミネートされるかは注目されるところ。すでにGolden Joystick AwardsにてThe Ultimate Game of the Yearにノミネートされている『PEAK』が受賞するかどうかも含め、各アワードの発表が待たれる。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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