熟練ゲーム開発者が「開発期間7年・ウィッシュリスト数3万超のゲームが全然売れない」と悲鳴。早期アクセスでの発売が“裏目に出た”可能性

Sonderlust Studiosが手がけるコロニーシム『Generation Exile』は決して順調とは言えないスタートを切った。その理由について、開発元の創設者は「早期アクセス」での配信が一因にあるのでは、と分析する。

海外のあるゲーム開発者が、自身の立ちあげたスタジオ発のタイトルの売れ行きが伸び悩んでいることを嘆いた投稿が話題となっている。投稿では、多くのウィッシュリスト登録数を集めつつも失敗に至った理由や「早期アクセス配信」という形態そのものの難しさが分析された。

今回RedditとBlueskyに当該投稿をおこない話題となっているのはNels Anderson氏。同氏はカナダ・バンクーバーに拠点を置くインディゲームスタジオSonderlust Studiosの創設者だ。過去には『Mark of the Ninja』のリードデザイナーや『Firewatch』のゲームデザイン/プログラミングを担当するなど、実績のある人物だ。

つまずきスタートとなった渾身の一作

Sonderlust Studiosは11月5日、『Generation Exile』の早期アクセス配信を開始した。同作はPC(Steam)向けにリリースされた、SFコロニーシミュレーションゲームだ。舞台となるのは世代宇宙船。船内では人口が増加し続け、要求される資源も増え続けていた。そんななか、プレイヤーは限られた資源をやりくりして都市を構築し、生態系を築き上げ、人類を存続させていくわけだ。コロニーの維持にはさまざまな選択をする必要があり、NPCの運命も左右する。世代が下れば、そのNPCの子も登場する。

Nels Anderson氏によれば、『Generation Exile』の開発には7年の歳月を費やしたという。2024年にPC Gaming Showにてトレイラーを公開。そして今年6月には体験版配信イベント「Steam Nextフェス」にあわせデモ版をリリースした。リリース直前には、3万5000件以上のウィッシュリスト登録数も記録していたという。しかし11月5日にいざ早期アクセス配信開始されても売上は伸びず、11月10日時点では300本未満の販売本数となっているとのこと。同スタジオのデビュー作でもある渾身の作品ながら、かなり苦しいスタートといえる。

We launched GenExile, our solarpunk city-builder, in Early Access last week. We had ~35k wishlists before launch (not a barnburner but not nothin').And they said, "Well, there's no way you'll convert literally 0% of your wishlists to sales."I looked them dead in the eyes and said, "Watch me."

Nels Anderson (@nelsanderson.zone) 2025-11-10T19:35:59.073Z

“失敗”の一因に「早期アクセス」あり?

なおNels Anderson氏はウィッシュリストに登録したユーザーがその「300本」のうちに入ってないことも明かしている。Blueskyに共有された画像では、ウィッシュリスト登録数に対する売上本数比である「Sales/Wishlist Multiplier」が0となっていることがうかがえる。ウィッシュリスト登録数に対する売上本数、いわゆるコンバージョンが現状ではまったくないことを示しており、Anderson氏は初動における“失敗”の理由を分析している。

Anderson氏は、そもそも今では「早期アクセス」という形態そのもののメリットが薄れていると分析。『Hades II』のように非常に有名な作品の続編であるか、あるいは有名タイトル/ジャンルに似ているけれど少し違う、というような作品であるときのみ効果を発揮するだろうという考えを示した。

『Hades II』

続けてAnderson氏はSteamストア上で「早期アクセス」と分類されること自体も影響しているとの考えを述べている。というのも同氏の見解では、「早期アクセス」という形態でひとくくりにまとめられて評価されることがあるという。たとえば他のRPGやFPSが失敗したところで、ジャンルが同じでも自身が出すRPG/FPSの評価には影響しない。しかしこれが「早期アクセス」というくくりであれば、過去に“低品質タイトル”に出くわしたユーザーが早期アクセス配信作品自体に疑いの目を向けることがある、という見解だ。

なお同氏は、自身が『Mark of the Ninja』『Firewatch』などのヒット作に携わっていた経験も、『Generation Exile』の後押しになると考えていたという。しかしそうした要素もあまりプラスには作用しなかったようだ。同作と同時期には『ARC Raiders』や『Dispatch』といった話題作が出たことにも触れつつ、クリエイターやメディアの可処分リソースが限られている場合、より有名なスタジオの新作などを優先して取り上げる傾向があるのだろうとの考えも述べている。

早期アクセスの難しさ

ちなみに昨今のSteamで早期アクセス配信として開発することの別の側面でのリスクについて、過去には大ヒット作『shapez 2』の開発者が述べていたことがある。同作の開発元トップのTobias Springer氏によれば、(まだ未完であることを前提とした)早期アクセスにおいても、UIやUXの品質が微妙であったり、チュートリアルが不足していたりバグがあったりするとユーザーは厳しい目を向けるとの考えを示していた(関連記事)。そのため同作は早期アクセス配信の前に、まずはDiscordやPatreon上でのテストプレイでブラッシュアップを進める方式で開発が進められたという。

早期アクセスはいわば未完成品を販売するかたちで、開発費を確保しながらフィードバックを受け取ることで正式リリースに向けコンテンツの拡充や改善を図る開発方法だ。ユ―ザー側としては正式リリース時より安価で購入できるといったメリットもある一方で、早期アクセス配信開始時点での作品のクオリティはまちまちといえる。そうした状況で、金銭を支払う以上一定のクオリティを求めるユーザー層や、あるいは今回Anderson氏が述べたように早期アクセス配信作品自体の品質に懐疑的なユーザー層もいるのかもしれない。

なお『shapez 2』は発売後数日で売上15万本を達成(関連記事)。これはヒット作『shapez』の続編という要因もあるだろう。また早期アクセス配信前には先述したようなテストプレイが25回も実施されていたそうで、配信時点ですでに高いクオリティを確保しているといったイメージがファンコミュニティに定着していたことも初動の好調の理由のひとつとして考えられる。

『shapez 2』

翻って『Generation Exile』でも、現時点でレビュー数こそ多くないもののゲームプレイ自体は好評だ。しかし本作については、7年間もの開発でブラッシュアップが進められ、多くのウィッシュリスト登録を集めたにもかかわらず苦戦を見せているかたち。

ウィッシュリスト数が実際の売上に繋がらない事例は、たびたび話題にのぼるトピックといえる(関連記事)。とはいえ今回はそこからさらに、早期アクセス配信であったことが一因として分析されている点で興味深い。Steamでは日々多くのタイトルがリリースされていることもあり、“早期アクセス”というワードを受けて、ユーザーの中での購入の優先順位が後回しになってしまう傾向もあるのかもしれない。今後のセールや正式リリースのタイミングで売上が伸びる可能性はあるものの、現在のSteamで新興スタジオが1作目に早期アクセス配信タイトルを展開する難しさも垣間見える。

『Generation Exile』はPC(Steam)向けに早期アクセス配信中だ。

Kosuke Takenaka
Kosuke Takenaka

ジャンルを問わず遊びますが、ホラーは苦手で、毎度飛び上がっています。プレイだけでなく観戦も大好きで、モニターにかじりつく日々です。

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