「個人ゲーム開発者は、野心作じゃなく流行りの小規模ゲームを作れ」というアドバイスに議論白熱。売れるゲームか、作りたいゲームか
あるゲーム開発者が投じた「個人開発者はAAA級オープンワールドゲームを作るのをやめろ」というアドバイスが、議論を呼んでいる。

ある開発者が投じた「個人開発者はAAA級オープンワールドゲームを作るのをやめろ」というアドバイスが波紋を広げている。大規模作品を無理に開発するのではなく小規模な作品で個性や流行を意識すべき、という王道的な助言ではあるものの、業界からは反論が集まっているようだ。
今回個人開発者に向けてアドバイスを投じたのは、Gorka Aranzabal氏によるインディーデベロッパーGorka Gamesだ。UnityとUnreal Engineで合計7年以上のゲーム開発を続けてきたそうで、過去にはSteamでクマ人間・孤島サバイバルゲーム『Bromeliad』や、サッカーボールをドリブルしていく空登りゲーム『You Suck At Football』を開発。このほかYouTubeチャンネルにてUnreal Engine 5などのチュートリアル動画をさまざま投稿している人物だ。
ちなみにGorka氏は、itch.io向けにネットミーム系ゲーム『Survive The KSI Song』をリリースしており、同作が過激な芸風で人気を博すストリーマーIShowSpeed氏などのインフルエンサーにプレイされたことを各所でアピール。SNSを活用したセルフプロモーションにも積極的な様子だ。
身の丈にあった売れるゲームを作るべき?
そんなGorka氏が今回投じたのは、「AAA級オープンワールドゲームを作るのはやめておけ」という個人開発者向けのアドバイス。個人でAAA級オープンワールドゲームを作ることは「ハードモード」を選ぶようなものであり、自らのチャンスを潰しているとの見解が伝えられた。
またGorka氏は、たとえば“ミニ『アサシン クリード』”や“ミニ『エルデンリング』”を初めての商用作品として個人開発しようとするのはよくある間違いだと主張。巨大なマップや大規模なシステム、シネマティックな演出などを手がけるプロジェクトは何百万ドルもの予算を持つチームによって作られているのだと説明している。つまり、個人開発でそうした作品を実現することは困難という考えだろう。
一方でGorka氏は個人開発者に向けて、代わりに今売れているトレンドを突くことをおすすめしている。2025年現在では、仲間とのカオスな協力プレイとボイスチャットを楽しめる、「Friendslop」とも呼ばれるジャンルのゲームを作るべきだという(Know Your Meme)。

というのもGorka氏は、Friendslopがショート動画やストリーミング配信向けに“最適化された”ジャンルであるとの持論を述べている。ユーザーが即座に魅力を理解し、友達を誘ってみようと思えるという性質がメリットとして挙げられた。また同氏は『RV There Yet?』『Content Warning』『PEAK』『R.E.P.O.』といった近年の同ジャンルのヒット作には、小規模チームで開発されているといった共通点があると説明。多くはゲームジャムのような数日~数週間のプロトタイプ開発からスタートし、短期間のブラッシュアップで発売可能であったとしている。低予算かつ短期間で開発できる点からもFriendslopと呼ばれるようなゲームを個人開発者におすすめしているようだ。
このほかにもGorka氏は個人開発者がFriendslopを開発するメリットと、AAA級オープンワールドゲームを開発するデメリットを列挙。ヒットした実績のあるジャンル選び、分かりやすいひねり(twist)を作ることやターゲット層の絞り込み、宣伝をSteamとコンテンツクリエイター任せにすることなどを取るべき戦略として挙げており、最終的に同氏がおこなっているというマンツーマンの戦略コーチングを宣伝して締めくくっている。一連の投稿は近年のトレンドを踏まえたアドバイスではあるものの、具体的なデータなどは示されておらず、あくまで大まかな提言といえるだろう。
作りたいゲームを作る
そんな「個人開発者がAAA級オープンワールドゲームを作るのをやめておけ」というアドバイスに向けては、業界からの批判も集まっている。批判の多くは「作りたいものを作る」という意思を否定するかのような考えに向けられているようだ。
また経験則からGorka氏のアドバイスを否定する意見も存在する。たとえばスチームパンクFPS『INDUSTRIA』を手がけるデベロッパーのBleakmillは、個人ではないものの同スタジオが現在7人の小規模チームであり、AAA級作品にインスパイアされたという同作および続編『INDUSTRIA 2』を約10年前から開発し続けていると言及。チームの規模を超えた作品の開発では金銭面を含めさまざまな苦悩があったという。しかし情熱だけに突き動かされてそうした開発を続けてきたとしており、もしも過去にGorka氏がしたようなアドバイスに従っていたらチームは今存在しなかったと述べている。つまり、トレンドを追いかけたゲーム開発を続けていたらチームは存続できなかったという考えだろう。
このほかオールドスクールFPS『Darkenstein 3D』を個人開発するRowye氏も、Gorka氏の提言を「酷いアドバイス(Terrible advice)」だと一蹴。作りたくもないゲームを作れば燃え尽き症候群になるだけで、おそらく失敗するだろうと述べている。経験も踏まえて、流行りを追いかけるのではなく、遊びたいゲームを作るという原動力がなければ個人開発あるいは小規模開発は立ちいかないと考える開発者もいるわけだ。
開発者の“2つのタイプ”
一連の投稿では「売れるゲームを作るか、作りたいゲームを作るか」で真っ向から開発者の意見が対立しているといえる。なおGorka氏のアドバイスには、元Epic GamesでUnreal Engineの主任エバンジェリストを務めていたChristian Allen氏も反応。同氏のEpic Gamesの在籍時には、Unreal Engineやクリエイターツール「UEFN」に関連して、同様の議論が盛んにおこなわれていたと述懐した。
そしてAllen氏はそうした議論を通して、開発者が“2つのタイプ”に分かれると結論付けたそうだ。一方は「たくさんの人々にゲームを購入・プレイしてもらいたいタイプ」、そしてもう一方は「作りたいゲームのビジョンを明確にもっているタイプ」だという。
Allen氏は「たくさんの人々にゲームを購入・プレイしてもらいたいタイプ」は、ストリーマーやYouTuberに似ていると分析。さまざまなテーマや形式を試しながら自分に合うものを見つけてそれを作り続け、“コンテンツクリエイター”になることを目的としているとの考えを説いている。同氏いわくこれはこれで良いことであり、UEFNやGorka氏の提言するようなビジネスモデルは、まさにそうしたタイプの開発者に向いているとのこと。
そしてもう一方の「作りたいゲームのビジョンを明確にもっているタイプ」はゲーム開発を通して情熱の対象そのものを形にすることを目的にしているという。同氏いわく、このタイプの開発者にも成功してお金を稼ぎたいという望みはあるものの、そうした“成功”でさえあくまで自分の作りたいものを実現するための手段としてとらえている傾向があるようだ。
またこうしたタイプは自分の情熱を発信できる場を求めており、Unreal Engineやほかのゲームエンジンはまさにこうしたタイプの開発者のためにあるツールだとAllen氏は綴っている。あくまで同氏個人の考えではあるものの、「売れるゲームを作るべきか、作りたいゲームを作るべきか」という意見の対立が存在することは、そうした2つのタイプの開発者が存在する可能性を想定すれば合点がいく話かもしれない。
なお今回のGorka氏のアドバイスに関連して、「個人開発でいきなりオープンワールドゲームを作るのは避けるべき」といったアドバイスは、かねてから開発初心者に向けた定番の助言としても知られている。開発規模の大きなゲームを個人開発するのは完成までに困難を伴うため、一般的には避けるべき選択ということかもしれない。しかし先日、あえてそうした助言に背いたという個人開発オープンワールドゲームも発表され、注目を浴びていた(関連記事)。
ゲーム開発、特に個人開発・小規模開発においては“売れる・売れない”以前に完成のためのモチベーションも必要不可欠だろう。また個人開発・少数チームから始まった、AAA級作品に引けをとらない野心的なプロジェクトであっても、パブリッシャーとの契約を結んで開発規模を拡大し大成する例はある。結局のところ「売れる作品と作りたい作品のどちらを作るか」に絶対的な正解はなく、自分に合うアプローチを探すことが肝要なのだろう。

