任天堂の米国特許が、異例の「特許庁長官命令」で再審査へ。“範囲が広い”と懸念を呼んだサブキャラ召喚バトル特許

任天堂が今年9月に米国にて取得した特許について、米国特許商標庁(USPTO)の長官職権で再審査開始が命じられたことが明らかとなった。

任天堂が今年9月に米国にて取得した特許US 12,403,397 B2号について、米国特許商標庁(USPTO)の長官職権で再審査開始が命じられたことが明らかとなった。

今回再審査される特許は、2022年の日本出願に基づく優先権で、2023年に米国で出願。今年9月に特許US 12,403,397 B2号として取得された。日本においては2024年に特許第7482585号として取得されている。

ちなみにこの間には任天堂および株式会社ポケモンが2024年9月、ポケットペアが手がける『パルワールド』が「特許第7545191号・特許第7493117号・特許第7528390号」を侵害しているとして、東京地方裁判所でポケットペアを相手取る訴訟を提起(関連記事)。ただしあくまで日本国内での訴訟であり、現時点で米国では提訴されていない。また先述した特許第7482585号は、日本の訴訟において侵害されたと主張される特許に含まれていない点にも留意したい。

今回は特許US 12,403,397 B2号(以下、本特許)が、USPTOにより「再審査(reexamination)」されることが明らかになった。現地時間11月3日に発行されたUSPTO長官職権による再審査開始命令書によると、「Ex Parte」としてUSPTOが単独で再審査をおこなう見込み。任天堂は今後2か月以内に陳述書を提出する権利を有するようだ。海外メディアgames frayによればUSPTOの長官主導の再審査開始命令は非常に珍しい事例だという。

本特許については今年9月の登録時、games frayPC Gamerなどさまざまな海外メディアが請求範囲が広すぎる、つまり多数の作品のシステムが本特許に抵触しうるのではないかといった懸念を示し、波紋を広げていた。本特許はフィールド上のメインキャラを操作しつつ、サブキャラをフィールド上に出現させ、戦闘をおこなわせるといったシステムに関する特許だ。2種類の操作モードが定義されており、第1のモードではサブキャラの出現位置に敵がいる場合は手動操作でサブキャラと敵との戦闘を制御し、敵がいない場合はサブキャラは自動で移動。第2のモードではサブキャラを所定の方向に移動させる制御をおこない、指定の位置に敵がいれば、戦闘が自動的に進行するといった内容であった。権利者が任天堂と株式会社ポケモン、かつ発明者(Inventor)として『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』のディレクター大森滋氏の名前も記載されており、おそらく同作における、「レッツゴー」を用いた「おまかせバトル」に関連する特許だと思われる。

今回の再審査開始命令においては、本特許の請求項1・13・25・26について、新たに特許性に関する重大な疑義(substantial new questions of patentability)が生じたと説明。2002年にコナミデジタルエンタテインメントが公開した特許US 2002/0119811 A1号、および2020年に任天堂が公開した特許US 2020/0254335 A1号に基づく判断だという。今回の再審査開始命令では両特許を先行技術とみなしたうえで、本特許の新規性・進歩性に疑義を呈しているかたち。

なおgames frayによると、異例ともいえるUSPTOの長官直々の再審査開始命令の背景には、長官であるJohn Squires氏の方針もあるようだ。米国においてはいちど付与された特許がその後の手続きで高い割合で無効になる状況があり、そうした点への批判を受けて同氏は特許を“生まれながらに強い(born strong)”ものにしていくといった方針を繰り返し強調してきた。そうした問題意識もあり、9月に成立したばかりの今回の特許についても、特許庁が長官主導で再審査にあたることになったのかもしれない。

本特許についてUSPTOが再審査の結果どのような判断を下すかは気になるところ。また仮に本特許が訴訟に用いられるとすれば、訴訟において再審査中の特許の侵害を主張することにはさまざまなリスクも考えられるようだ。ただ先述したとおり、任天堂は米国においては『パルワールド』に関する訴訟は提起していない。本特許についても、同作とは無関係に出願・取得された特許という可能性がある点には留意したい。いずれにせよ、米国での特許US 12,403,397 B2号の再審査の行方は注目されるところだろう。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

記事本文: 3409