ゲーム業界のベテランが、「ゲームはデジタル化でコスト削減されたはずが、安くなってない」と問題提起。浮いたお金は果たしてどこに

ゲーム開発者のTimothy Cain氏は、ゲームのデジタル化によるコストの削減が価格に反映されていないと指摘した。

ゲーム開発者のTimothy Cain氏は、ゲームのデジタル化による長所と短所について、自身の見解を交えながら分析。その中では、コストの削減が価格に反映されていないとの指摘もおこなっている。

Timothy Cain氏は『Fallout』シリーズの生みの親として知られ、第1作の『Fallout: A Post Nuclear Role Playing Game』にてプロデューサー兼リードプログラマーを担当した人物。さまざまなゲーム会社を渡り歩き、近年ではObsidian EntertainmentでRPG『The Outer Worlds』の共同ディレクターを務め、先月発売された続編『The Outer Worlds 2』の開発にも携わっている。

Cain氏は10月27日、自身のYouTubeチャンネルに「Physical vs. Digital Game Media」と題した動画を投稿。その動画では、かつては一般的だった特典付きのパッケージ版が減りつつあることについて問うユーザーの質問を皮切りに、ゲーム業界が物理メディアからデジタルへシフトすることのメリットとデメリットを詳細に考察している。

そしてデメリットのひとつとして、デジタル化によるコストの削減が価格に反映されていないという点を挙げた。デジタルのゲームは販売する際に物理メディアを必要としないがゆえに全体的にコストが小さくなり、そのため理論的には価格が下がるべきであるのにもかかわらず、実際には下がっていないと指摘した。また、Cain氏はよく耳にする主張として「開発コストの上昇との釣り合いを取るためだ」という説を挙げ、それを否定。削減されたコストが開発費上昇に相殺されているわけではないとの見解を示した。

一方でCain氏は、「なぜ削減されたコストが消費者に還元されなかったのか」という点について考えを示している。同氏はSuper Nintendo Entertainment System(海外版スーパーファミコン)の標準的なソフトを90年代に59ドル(当時のレートで7000円前後)で購入していたといい、インフレが進み物価が上がった現在でも値段の水準は大きくは変わっていないと言える。そしてCain氏は、ゲームの価格がインフレによる物価上昇の傾向に追従しなかったのは、デジタル化による大幅なコスト削減で埋め合わせされてきたからだと考えているそうだ。結果として、売上原価(COG)は劇的に下がったものの、そのコスト削減分は消費者には還元されなかったとの考えのようだ。

Image Credit: Evan-amos on Wikipedia

なおCain氏の主張は、いわゆるパッケージ版とダウンロード版の価格差について述べられたものではない点には留意されたい。市場における価格設定にはさまざまな要素が影響するとみられ、まず物理メディアやプラスチックのパッケージを持たないダウンロード版ソフトであっても、ゲーム配信プラットフォームにおける手数料やインフラコストなどは当然発生するだろう。また、消費者への流通を支える小売店や中古市場との関係を考慮した際には、パッケージ版との価格を大きく離すことができないという可能性もある。

Cain氏はあくまでも業界全体の傾向として、デジタルへの移行が進んでコストが大幅に削減されているはずであるにも関わらず、ゲームの価格水準が低下していないという点に言及しているわけだろう。ただし、Cain氏も示しているように、コストが削減されたからこそインフレと拮抗した価格水準が保たれている可能性もあり、「単純に企業側がちょろまかしている」という構図ではないのだろう。世界経済がインフレ傾向にある中、今後ゲーム価格はどのような動きを見せるだろうか。また、比較的コスト高とされるパッケージ版はいかなる運命を辿るだろうか。

Shion Kaneko
Shion Kaneko

夢中になりやすいのはオープンワールドゲーム。主に雪山に生息しています。

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