EAにて「社内AIツールのせいで開発現場が混乱中」との従業員証言。“役立たず”でも困るし、便利すぎても困る現場のジレンマ

Electronic Artsでは昨今、社内でのAI活用が進んでいるとされるが、実際の開発現場では混乱も生じているようだ。

【UPDATE 2025/10/25 13:05】
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Electronic Arts(エレクトロニック・アーツ)では昨今、社内でのAI活用が進んでいるとされるが、実際の開発現場では混乱も生じているようだ。海外メディアBusiness Insiderが複数人の同社従業員の証言として伝えている。

Electronic Artsは米国を拠点とするゲーム会社。『Battlefield(バトルフィールド)』シリーズを手がけるDICEや、 『Apex Legends(エーペックスレジェンズ)』を手がけるRespawn Entertainmentなどを傘下におさめ、多数の人気作品を送り出してきた。

先月9月には、サウジアラビアの政府系ファンドおよび米国の複数のプライベートエクイティ企業からなるコンソーシアムによって買収されることが発表。買収額は総額約550億ドル(約8兆2000億円)にものぼり、現金による非公開化投資としては史上最大規模となる(関連記事)。

Business Insiderによれば、Electronic Artsの経営陣は過去1年間にわたり、1万5000人近い従業員に対して、あらゆる業務へのAIの使用を推進してきたという。利用場面としては、コードを書いたりコンセプトアートを作ったりといったクリエイティブなプロジェクトから、給与や昇進といったデリケートな話題に関する部下との会話の書き起こしなど、経営管理業務にまで利用されるそうだ。

そしてElectronic Artsの社内でのAI活用について、同社従業員たちが匿名を条件に同誌に証言を寄せた。証言によると、社内チャットボット「ReefGPT」を含め利用が推奨されているAIツールは、修正が必要となる欠陥のあるコードやハルシネーション(生成AIによるもっともらしい噓)を生み出しており、現場は混乱しているようだ。

また、クリエイティブ担当のスタッフは自身の作品がAIプログラムの訓練に用いられる可能性から、それらの技術によってキャラクターアーティストやレベルデザイナーなどの人材への需要が激減する可能性も懸念しているとのこと。ほかには今年4月にRespawn Entertainmentでおこなわれたレイオフの対象者も証言を寄せており、QA(Quality Assurance・品質保証)部門ではAIツールが活用されて効率化に繋がったと述べる一方で、レイオフの一因になったのではないかと推察している。AIツールの導入により、むしろ非効率になったという不満もある一方で、部門によっては職を奪われるのではないかといった懸念にも繋がっているわけだろう。

なおElectronic Artsは本日、画像生成AI「Stable Diffusion」の開発元として知られる英国企業Stability AIと提携することを発表している。同社によれば、想像したり共感したり夢をみたりといったことはAIにはできず専門のクリエイターの仕事であると説いており、あくまでもクリエイターのツールとしてAIを導入するという方針を明かしている。最初の取り組みとしては、物理ベースレンダリング(PBR)マテリアルの作成が実践されるとのこと。報じられたような“現場の混乱”も、専門企業との技術提携や上述した方針説明の背景にあるのかもしれない。

ところで、今月14日には、アドベンチャーゲーム『Broken Sword – Shadow of the Templars』のリマスター作品の制作を手がけたRevolution Softwareの責任者が、4KグラフィックスへのアップスケーリングにAIを活用したものの満足のいく結果が得られず、余計に修正の手間や費用が高くついてしまったと吐露して話題となっていた(GamesIndustry.biz)。ゲーム業界でも各社がAI技術の導入を推進している様子ながら、むしろ現場が混乱しているといった内情からは、必ずしもAI技術の導入が短期的な効率化に寄与するわけではないという状況も見受けられる。とはいえ、各社が模索を進めるなかで、AI時代の開発体制がどのように確立されていくかは注目されるところだろう。

Shion Kaneko
Shion Kaneko

夢中になりやすいのはオープンワールドゲーム。主に雪山に生息しています。

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