あるゲーム開発者が「仕事を辞めて作った」協力型ホラー、15万本売上のヒットを掴み取る。無一文寸前、トラブル続出を越えた“逆転劇”の裏話明かされる

個人開発者のRone Vine氏は、『Emissary Zero』が15万本を売り上げるまでの紆余曲折を語った。

個人開発者のRone Vine氏は10月6日、『Emissary Zero』が15万本売り上げたことを報告。協力型ホラーゲームとして開発された本作はトラブル続きだったとのことだが、紆余曲折を経て大きな売上を出した経緯をReddit上で語っている。

『Emissary Zero』は今年3月にPC(Steam)向けにリリースされた協力型ホラーゲームだ。ソロプレイまたは最大4人でのオンラインプレイ、そして画面分割での2人プレイに対応している。本作では宇宙服を着たキャラクターを操作し、真っ暗になった夜間に廃墟を探索。さまざまなタスクを達成し、月を見つけて脱出することを目指す。ステージには不気味なモンスターがうろついており、それらから逃げる必要がある。今年7月にはメジャーアップデートを実施し、VRでのプレイにも対応した。

Vine氏がひとりで手がけたという本作は、本稿執筆時点のSteamユーザーレビューにて、約1700件中82%の好評レビューを得て「非常に好評」ステータスを獲得。同氏は海外掲示板Redditのゲーム開発コミュニティr/gamedevにて、本作が“偶然にも”15万本の売上を出したと報告した。Vine氏はそんな本作について、発売から約6か月が経過した現在に至るまでの経緯を詳細に語っている。

本作の開発は、2024年6月に最初のアイデアが浮かんだところからスタート。最終的にはほとんどの要素が採用されなかったものの、大ヒットホラーゲーム『Five Nights at Freddy’s』を参考にしていたとのこと。Vine氏は過去作品の開発に非常に長い時間をかけてしまったという経験から、本作は1年未満の短い期間で制作することを決めていたそうだ。同年9月にはそれまで携わっていたフリーランスの仕事を辞め、ゲーム開発に専念。2025年春までのわずかな貯金しか残っていなかったため、「Steam Nextフェス」の直後の2025年3月をリリースの目標に据えたという。

2024年8月末にSteamストアページを公開。はじめの2か月間では約50件のウィッシュリストを得ることができ、10月末にデモ版をリリース。しかしタイトなスケジュールの中での開発だったため、最初はあまり良い出来ではなかったと語る。しかし、その後アップデートでコンテンツの追加を重ねデモを改良。そして12月初旬にブラジルのとあるストリーマーがプレイし、その動画のひとつはTikTokにて7万件ものいいねを獲得したとのこと。こうしたバズが呼び水となり、フィードバックをくれるプレイヤーの獲得に繋がったという。デモ版が製品版の中心となるメカニクスをほぼ全て含んだものであったことから、そうして得られたフィードバックが製品版に向けた改善に大いに役立ったそうだ。その後も遊びやすさの改善を進め、今年2月の「Steam Nextフェス」時点では、ウィッシュリスト登録数が1万件にまで到達。そしてSteam Nextフェスではウィッシュリスト登録数をさらに1万件増やした。

なおリリースの3週間前には、キャラクターの著作権に関する懸念から、Steamに作品をリジェクトされてしまうという緊急事態も起きたという。サポートとやり取りを重ねて問題を解決し、無事リリース日の2日前に承認を得ることができたとのこと。また、ストーリーイベントは発売の2週間前に、ストーリーテキストは発売の3日前に完成。ローカライズに至っては2日前に完成したそうだ。ギリギリのスケジュールの中、予定していたリリース日である3月28日に間に合い、貯金が底をつく春を迎える前に、ついにリリースを迎えたわけだ。

ただリリース直後は最適化不足との意見が寄せられ、ユーザーレビューは「賛否両論」ステータスに。しかし、Vine氏はゲームエンジンのアップデートなどを通して問題を1週間以内に迅速に修正。その後は評価も上向き、順調な売り上げを見せ、4月中旬には売り上げが数倍へと跳ね上がったという。最大同時接続プレイヤー数は800人を突破し、TikTokでは本作のプレイ動画が数百万回再生を叩き出すなど、一躍話題作へと成り上がった。

はじめはわずか50件だったウィッシュリスト登録数も約20万件まで増加。現在は本作のシステムをベースにして新たなアイデアを盛り込んだ続編に着手しているとのこと。今度の作品では、コンソール版のリリースも目標にしているそうだ。本作の成功の裏側には、仕事を辞めて身銭を切り、動かすことのできないリリース日に向けてひたむきに努力するという、まさに“背水の陣”の姿勢があった。

『Emissary Zero』PC(Steam)向けに発売中。

Shion Kaneko
Shion Kaneko

夢中になりやすいのはオープンワールドゲーム。主に雪山に生息しています。

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