「今のゲーム業界はゲームが多すぎる」と著名ジャーナリストが問題提起。特に9月は“豊作”すぎる、良いゲームも多すぎる
BloombergのジャーナリストJason Schreier氏は、「ゲームが多すぎる」と語る。

海外メディアBloombergのジャーナリストJason Schreier氏は9月27日、今月多くの新作タイトルがリリースされたことを交え、現在のゲーム業界に対する問題提起をおこなった。
Schreier氏は9月27日に公開されたBloombergの記事にて、ゲーム業界が供給過多に陥っていると主張。同氏は例として、ヒット作の待望の続編『Hollow Knight: Silksong』や、ついに正式リリースを迎えた『Hades II』のほか、『空の軌跡 the 1st』『ボーダーランズ4』『ダイイングライト:ザ・ビースト』『サイレントヒルf』と人気タイトルを列挙。これらはすべて9月にリリースされた作品であることを示した。

名作すら埋もれる供給過多状態
Schreier氏によれば、ゲーム業界は現在収縮期にあり、成長が横ばいになっているために大手ゲーム会社によるレイオフなども相次いでいるという。こうした傾向の原因には、コロナ禍における巨額の投資が報われなかったという側面もあるとしつつ、ゲームが多すぎることが何よりも大きな問題であると位置づけているようだ。
Steamの非公式データベースSteamDBのデータを参照すると、2024年には18626本のゲームがリリースされており、これは新型コロナウイルスによるパンデミックの直後である2020年の9656本からは実に約2倍となっている。ゲームへの関心が高まったことに加えて、安価で扱いやすい開発ツールの台頭、参入障壁の低下などさまざまな要因があるそうだ。また、ここ10年間でゲーマーたちが一斉にデジタルへと移行したこともあり、「小売店の棚の最前列を確保できる」ような大手パブリッシャーとの取引をもたずとも、作品をたくさん売ることができるようになったと同氏は説明している。
そのうえ大量の新作は、『Counter-Strike 2』や『Dota 2』『PUBG: BATTLEGROUNDS』といった、長年にわたってプレイし続けられているタイトルとも競合しているとSchreier氏は見ているようだ。そうした状況を背景に、ゲーム市場では新作が飽和状態であるだけでなく、ほぼ新規参入ができない状態に陥っているとのこと。数百人のスタッフからなるチームが何年もかけて開発した作品すら、新作の海に埋もれてしまう運命にあるという。

Schreier氏はゲーム開発が民主化したことによって、よりクリエイティブで面白い作品が生まれる可能性があり、どのゲームを遊ぶかという多くの選択肢を得られるという点でユーザー側にとってもメリットにも言及。一方で、数百億円単位の出資をおこなう企業にとっては決して小さな課題ではないとSchreier氏は語っている。また同氏は現在の状況を、1980年代に起こった低品質なゲームソフトの粗製乱造を発端とする市場崩壊、いわゆる「アタリショック」と比較。「今はゲームが多すぎる、しかもその多くが面白い」と現状を表現している。
時代遅れの販売戦略
ゲームの供給過多とも呼べる状況については、業界における解決策も模索されている。市場調査会社Newzooのレポート「The Global Games Market Report 2025」では、特に8月から11月のいわゆるホリデーシーズンにリリースが集中しているため、セールスの“共食い”が起きてしまっているとの見解が述べられている。2021年1月から2024年12月までの4年間のデータによれば、すべてのシングルプレイ作品の実に半数がこの期間にリリースされたという。
Newzooはこうしたホリデーシーズンのリリースにこだわる姿勢を時代遅れかつ非生産的だと捉えている。その根拠として、8月から11月のリリースでは、2月から5月の期間にリリースするのと比べると、プレイヤー数などの観点で平均して34%もパフォーマンスが落ちるとのこと。市場での露出や、長い目で見た際のメリットを考えると、混雑の少ない時期にリリースするほうが良いことも示された。しかし、たとえそうした期間であっても、突然発表された注目作と発売日が被ってしまう悲劇は避けられない(関連記事)。今日ではそうしたサプライズ的なマーケティングがおこなわれる可能性についても考慮する必要があるだろう。

近年では、たとえ小規模スタジオのインディー作品であっても、AAAタイトルと肩を並べる例が珍しくなくなった。ヒット作品に同じジャンルで追従したり、ゲームの品質をひたすら高めたりするだけで成功する可能性はさらに乏しくなり、より耳目を集めるマーケティング戦略が重要性を増しているだろう。ゲームが供給過多となっているなかでは、リリース時期の戦略もヒットへの鍵なのかもしれない。面白いゲームが多いのはゲーマーにとっては喜ばしいことながら、市場の飽和は開発・販売側にとって今まさに直面している危機となっているようだ。