ゲーム開発者から「itch.ioでの売上が全然支払われない」と批判続出、“100日以上ずっと支払い待ち”報告も。運営元がサポート緊急強化する事態に
ゲーム配信プラットフォームitch.ioにて、ゲームの売り上げが支払われないとする開発者の報告が相次いでいる。

ゲーム配信プラットフォームitch.ioにて、ゲームの売上支払いが遅滞しているとの報告がゲーム開発者より相次いでいる。中には100日以上も報酬の支払いが滞っているという事例も存在しているようだ。海外メディアRascalが報じたことを皮切りに、各メディアが取り上げている。
itch.ioは、主にPC向けのゲーム配信プラットフォームだ。同サイトの特徴としては、ほかのPCゲーム配信プラットフォームと比較して高い自由度があるだろう。同サイトでは開発者が登録料などを支払うことなく作品を投稿可能。作品リリースまでに比較的厳密な審査が必要なSteamなどに比して、より尖った作品や小粒な作品も数多く登場する場となっている。また、無料もしくはName your own price(好きな値段を入力)形式での配信ゲームが多いのも特徴だ。玉石混交ともいえるものの、itch.ioは幅広い開発者による多彩な作品が手軽に楽しめる、よりインディー開発者に寄り添ったPCゲーム配信プラットフォームとなっている。
そのitch.ioより売上の支払いが滞っているとする報告が相次いでいる。たとえば海外掲示板Redditのインディー開発者コミュニティr/IndieDevにて9月22日、ユーザーのseanutsfrox氏はitch.ioから100日以上も支払いがなく、現時点で1ドルも受け取れていないと報告。同氏によれば当初itch.ioは10日から14日で報酬を支払うと謳っていたものの、一向に支払いがないという。この間に何度もseanutsfrox氏はitch.ioのサポートへの連絡をおこなっているものの、返信が一切ないそうだ。なお同氏は報酬を受け取るにあたって、税務署で発行した公式の書類も提出したというが、その書類の審査ですら数か月後にようやく確認されたとのこと。売上によって6000ドル(約90万円)以上もの収益が支払われるべきところが実質的に“差し押さえられている”として、itch.io側の対応を強く批判している。
またRascalがインタビューしたゲームデザイナーのAmanda Franck氏やPerplexing Ruins氏なども、itch.ioによる支払いが遅れていると報告。itch.ioコミュニティのスレッドでもJimmy Vegas Game Studiosを中心として、各方面から支払いの遅滞が報告されており、全体的にクリエイターに対する報酬支払いが滞った状態のようだ。
これは「itch.io Payouts」と呼ばれる支払い方式を利用している開発者に起きている現象とみられる。同システムでは開発者の納税者情報をitch.ioに提供。itch.ioが開発者の代わりに販売責任者となり、売上を一時itch.io側でプールし、後日開発者が引き出せるようになる、という仕組みだ。
一方で「Direct to you」という、開発者が販売責任者となる報酬受け取り方式もあるものの、こちらは開発者が決済サービスのプロバイダに納税者情報を直接提供する必要がある。そのほか、VAT(付加価値税)の徴収と納付は開発者自身がおこなわなければならない。VATの納付に関する煩雑な手続きや、個人情報の開示の回避、あるいは詐欺のリスク回避という観点で「itch.io Payouts」を選択する開発者は多いようだ。そして今回は「itch.io Payouts」にてitch.ioがプールしている売上報酬を受け取れない開発者が続出しているとみられる。

こうした遅延について、itch.ioの担当者は公式Discord上にて、「Collective Shoutの“働きかけ”に端を発するメールが数百件ほど殺到している」として、その対応のために人員が割かれ、支払い対応が遅れていると説明。Collective Shoutといえば、女性や子供の性的搾取に反対するとの理念を標榜し、ポルノ表現の規制を求めるオーストラリアの団体だ。同団体は今年7月11日、特定のテーマのアダルトゲームについての懸念を、VISAをはじめとした決済事業者に対する公開書簡として表明。itch.ioではそうした働きかけを受けて、コンテンツの分類見直しと年齢制限の厳格化などの対応に迫られていた(関連記事)。つまりそうした諸々の対応や、今後のゲームの扱いを不安視した開発者からの問い合わせなどで、窓口対応がパンクしている可能性が考えられる。
一方で、itch.ioの支払いの遅滞は数か月前からちらほらと話題に上っていたようだ。『マインクラフト』風のサンドボックスゲーム『Vintage Story』を手がけるTyron氏は、複数回の要請にも関わらず、3か月以上も支払いが滞っていると主張。この発言は今年8月に『Vintage Story』公式Xアカウントから報告された。『Vintage Story』への支払い遅滞は5月頃から始まっていたようだ。先述のseanutsfrox氏の報告も見るに、Collective Shoutに関する騒動以前から、支払い自体や支払いに関する手続きが滞るケースがあったこともうかがえる。
なおitch.ioの創設者Leaf Corcoran氏は2018年時点のThe Vergeのインタビューにて、同プラットフォームを小規模な会社で運営していることを明かしていた。そんな同年にはプラットフォーム内のゲーム・アセット数が10万本に到達したことが伝えられていた一方で、現在はゲーム・アセット数が100万本を超えているとされる。利用者やプロジェクト数が急増するなかで、世界各地の開発者それぞれの支払い手続きを進める人員が足りていない可能性はある。そうしたなかで先述した7月の騒動が重なり、人員不足という課題が浮き彫りになっているのかもしれない。
いずれにせよ、この騒動を受けitch.io側も対策を講じている。Leaf Corcoran氏は9月23日に公式フォーラム上で支払いや税金の問題に関する案内を投稿。支払いについての問い合わせの窓口を専用で設けたため、スタッフが効率的にリクエストを確認できるようになったと伝えている。またこれまでにあったような、税務調査がコミュニケーションもなく保留になるケースを減らすように努めるとした。さらに認証された税務情報が古くなっている場合には開発者が把握しやすいようにバナーを表示。またサードパーティーの税務確認プラットフォームから税務状況を積極的に同期させるためにバックエンドに変更を施したという。非難も相次ぐ今回の未払い問題については、itch.ioも問題の解消に取り組んでいるようで、素早い解決が期待されるところだ。