
あるゲーム開発者の「超低予算サウンドデザイン」が一躍話題に。“家にありそうなもの”が奏でるリロード音
とあるゲーム開発者が身の回りにあるような日用品を用い、低予算でゲーム内サウンドを作ったとして注目を集めている。

ゲームのプレイにおいてはさまざまな効果音が流れる。たとえばFPSであれば射撃や銃のリロード音、アクションであれば剣がぶつかり合うサウンドも存在する。こうした効果音は有料/無料として配信されている素材が用いられることもあるが、より作品に適した臨場感を演出し、世界観を表現するには、フォーリーサウンド、つまり個別にサウンドを収録することも必要になるだろう。今回、限られた予算で効果音を収録したというインディーゲーム開発者が話題となっている。海外メディア80 Levelが報じている。
今回投稿が話題となったのはゲーム開発者のLonely Orca氏。同氏は2020年にコロナ禍で職を失ったことを契機に、ベトナム戦争を題材としたボクセル世界マルチプレイヤーFPS『Born to Build』の開発を手がけている。『Born to Build』は独自のカスタムボクセルエンジン「SALT」を用いて作られており、シャベルを片手に塹壕を掘ったりバンカーを作り上げたりするなど、クラフト要素が押し出されている。
加えて同氏は1990年代に育ち、「オンラインマルチプレイヤーゲームの黄金時代」を楽しんだ立場として、昔ながらの体験を再現することを目指しているという。そのためバトルパスも、いわゆる“ガチャ”にあたるルートボックスもないゲームプレイを楽しむだけのゲームを送りだすため、基本プレイ無料でのリリースを予定している。

Lonely Orca氏は9月3日、Redditに動画を投稿。「Sound design quarterly budget: potato(四半期のサウンドデザイン費用:ポテト)」とのキャプションが添えられており、予算が極めて少ないことが伝えられている。開発元の規模次第では、フォーリースタジオなどといったスタジオでの収録もおこなわれるものの、今回Lonely Orca氏は工夫によって安価に収録したということなのだろう。
映像では、空の弾倉を排出し、代わりの弾倉を挿入する、リロードの一連の流れにおいて、アニメーションに効果音を合わせる様子が収められている。Lonely Orca氏は小道具としてジッポライター、メジャー、スマートフォン用三脚、そして家の鍵束を用いている。すべて日用品の範疇であり、家にあったもので効果音を収録しているのかもしれない。
それぞれは何の変哲もない音であり、銃のリロード音とは程遠い。しかし組み合わせて映像に当てはめることでリロードのような音に様変わり。まずはじめに弾倉を排出する工程では、メジャーが数センチ飛び出し、しまわれる際の音と、ジッポライターを開けるときの音が用いられている。金属製の弾倉が飛び出るような音となっており、臨場感あるサウンドになっていることがわかる。続いて新たな弾倉を装着する際の音は、先述の4つの小道具を巧みに使い分けている。金属が触れ合う音やガチャガチャと機構が動く音などが、実銃などを用いずとも再現されているわけだ。
なおLonely Orca氏が80 Levelに語るところでは、同氏はSFXを扱う映像編集者として、再利用されたり使い古されたりした効果音に敏感なのだという。そのため、映画やゲームで聞き覚えのある効果音を聞くと、Lonely Orca氏自身が取り扱ったサウンドライブラリを思い出してしまうそうだ。そうした事情もあり、たとえスタジオ品質の録音ではなくとも、自分で一から効果音を作りたいと考えているとのこと。

ゲームに限らず、サウンドデザインにおいては意外な日用品が用いられることもしばしば見られる。とはいえ楽器や工具なども交えながら、あくまで近い音やイメージ通りの音を目当てに用いられることが一般的だろう。Lonely Orca氏の“超低予算サウンドデザイン”は、すべて身の回りで揃えられそうな点で注目されている様子だ。
ちなみにRedditの投稿では、安価に目的の音を収録する手法に感嘆する反応のほか、ユーザーから録音におけるコツや改善点などがLonely Orca氏に伝えられており、知見の共有もおこなわれている。自然な音を目指すサウンドデザインでは、“失敗したときだけバレがち”といった意見も見られ、特に小規模・個人開発においてはとっつきにくい分野かもしれない(関連記事)。一方で挑戦の結果、趣味となったり、開発における楽しみになったという報告もあり、今回のLonely Orca氏のようにあえてこだわりを見せる開発者もいるようだ。『Born to Build』においては、サウンド面のこだわりにも注目したい。
『Born to Build』は開発中だ。
