「ゲームの“プレイ時間”は、幸福度とは関連薄」との研究結果。大事なのは“プレイ体験”か

Nature Portfolioは8月26日、「COVID-19パンデミック中のビデオゲームプレイと幸福度(Video game play and well-being during the COVID-19 pandemic)」と題する論文を公開。分析結果によれば、ゲームのプレイ時間の増加は、メンタルヘルスへの影響について、正負どちらにも関連があるとは認められなかったようだ。

Nature Portfolioは8月26日、「COVID-19パンデミック中のビデオゲームプレイと幸福度(Video game play and well-being during the COVID-19 pandemic)」という論文を公開した。同論文はポーランドのアダム・ミツキェヴィチ大学に在籍するŁukasz D. Kaczmarek氏らによって著されたもので、ゲームのプレイ時間とメンタルの状態についての関連が分析されている。

論文では、2020年頃より流行を見せたCOVID-19、いわゆる新型コロナウイルスによるパンデミックにより、世界的に不要不急の外出を控える方針が打ち出されたことで、ゲームが“ステイホーム”を乗り切るコンテンツとして注目を浴びたという経緯が述べられている。ところが、ゲームに費やす時間の増加がメンタルヘルスに悪影響を与える懸念も浮上していた。そのため、Łukasz D. Kaczmarek氏たちの研究チームは、パンデミック期間中のゲームのプレイ時間の変化と、メンタルヘルス指標の関連を検証する既存の研究を統合し分析することで、パンデミック前後でプレイ時間がどう変化したか、そしてプレイ時間と、メンタルヘルスへのプラスまたはマイナスの影響との関係をメタ分析したという。

研究チームは2020年3月から2021年12月までに発表された論文のうち、「ゲーム」「プレイ時間」といったワードと、「COVID」や「生活の質(QoL)」などのワードが含まれる文献を収集。またヒットした研究の参考文献も照合したという。そしてそこから、COVID-19のロックダウン中に研究されているか、またゲームのプレイ時間と幸福度や健康度についての測定されているかなどの基準で絞り込み、分析対象としてリストアップしたようだ。なお複数論文をまとめて評価するにあたっては、ランダム効果モデルを用いて研究ごとにデータの地域差やぶれなどを考慮した結果にしているという。

COVID-19パンデミック前後におけるゲーム時間の変化を論文ごとに記したフォレストプロット
Image Credit: Nature Portfolio on Web

分析にあたってはCOVID-19によるロックダウン前後のゲームプレイ時間の差を算出。そしてゲーム時間と幸福度の相関関係をコード化し、データとしてまとめている。各論文のデータをプロットしたグラフを確認すると、COVID-19パンデミック前後のゲーム時間の変化のグラフでは、全体としてわずかながら正の値を示した。つまり、コロナ禍に入ることで、ゲームのプレイ時間が微増したことが判明したわけだ。

ゲームのプレイ時間と幸福度の相関を論文ごとに記したフォレストプロット
Image Credit: Nature Portfolio on Web

続いて、ゲームのプレイ時間と幸福度の関連性については、論文によって負の値、つまり不幸せになったとする結果もあれば、正の値、つまり幸福になったと報告する研究も見られる。全体としてはほぼ0に近く、関連の正/負についてどちらの可能性も否定できないことが示唆された。

こうした分析結果を通じ、研究チームは「ゲームのプレイ時間」は微増したものの、「微増によるメンタルヘルスの改善」については明確な変化が見られず関係がなかったと結論付けた。従来のアンケート調査などでは、ゲームプレイ時間がパンデミックで“劇的に増加した”と示唆されていたものの、そうした調査結果と実態が異なる可能性が示されたかたちだ。さらにゲームのプレイ時間の多寡によって幸福度に有意な差が生まれるわけではないことも示されている。このことについてチームは、プレイ時間よりもむしろ「ゲームプレイの質」が重要である可能性があるのではないか、と推察している。

なお研究チームはこうした結果を受けて、余暇の趣味としてのゲームが悪影響を及ぼさないと考えられることから、ゲームが“健康的な余暇活動”として受け入れられていく可能性もあるとしている。とはいえ、COVID-19が世界的な流行であったために、コロナ禍の影響を受けていない地域の個人を対象とした研究が欠如していることも指摘。また調査地域、調査対象者の年代のブレなどもあり、ゲームプレイ時間と幸福度の因果関係の解明には限界があるとのこと。研究チームは、異なる視点からの研究や、より多様な集団を対象とした研究が必要との見解を示した。

ちなみに一部のゲームジャンルに絞った、ゲームプレイとメンタルヘルスとの関係については、たとえば『パワーウォッシュシミュレーター』のプレイにより気分が改善する、とする論文などが過去には発表されていた(関連記事)。ただこの論文では、約15分プレイするだけで気分の改善が認められた一方、15分以降のプレイ時間では、長さによって大きく気分が改善/悪化したというデータは報告されていなかった。そうした先行研究も見るに、今回の論文において示唆されていたように、メンタルヘルスにはゲームのプレイ時間ではなく「プレイ体験」が影響するのかもしれない。今後こうした研究が進めば、ゲームとメンタルヘルスの関係は一層クリアになっていくことだろう。後続の研究も注目されるところだ。

Kosuke Takenaka
Kosuke Takenaka

ジャンルを問わず遊びますが、ホラーは苦手で、毎度飛び上がっています。プレイだけでなく観戦も大好きで、モニターにかじりつく日々です。

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