PlayStation Studios責任者、新チェック体制構築で「万一失敗しても早く・安くすむ」と自信示す。『コンコード』を経た“学び”
SIEはファーストパーティースタジオに対し、独立性を損なうことなく、失敗しても早期かつ低コストですむような新体制を構築しているという。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)のゲーム部門のCEO、デザイナー、スタジオ創設者10人以上へのインタビューによると、同社は20のファーストパーティースタジオに対し、独立性を損なうことなく、失敗しても早期かつ低コストですむような新体制を構築しているという。イギリスの経済紙Financial Timesが伝えている。
まずSIEのスタジオビジネスグループCEOを務めるHermen Hulst氏によれば、各スタジオに安全策を取ってほしくはないものの、「失敗する場合は、より早くより安く失敗したい( I would like for us, when we fail, to fail early and cheaply)」と語っている。そのための新体制の構築には、『CONCORD(コンコード)』の失敗から多大な影響を受けているようだ。

『コンコード』は、PS Studios傘下スタジオだったFirewalk Studiosが手がけたライブサービス型の対戦FPSだ。同作は昨年8月24日にPC(Steam/Epic Gamesストア)/PS5向けにリリース。発売直後からプレイヤー人口が不振となり、発売後わずか10日にして販売が停止。後に開発元Firewalk Studiosは閉鎖されることとなった。本作の開発期間は約8年とされ、開発費は2億5000万ドル(約368億円)と推定するアナリストも存在。そうした経緯もあり、本作はSIE発のライブサービスゲームとして、コミュニティなどから“大失敗作品”の烙印を押されることとなった。
Hulst氏はインタビューにおいて、ライブサービスゲームについて言及。同氏によると、現状の同社の方針ではライブサービスゲームのリリース本数自体はそれほど重要ではなく、「多様なプレイヤー体験とコミュニティを確保することが重要だ」と語っている。というのもSIEは2022年、2026年までに10本以上のライブサービスゲームを展開予定であることを発表していた。しかしながら、2023年9月にはCEOであったJim Ryan氏の退任が決定。同年末には『The Last of Us』のマルチプレイゲームが開発中止された。今回Hulst氏の発言も見るに、かつてとられていた方針が変容を見せていることも改めてうかがえる。
Hulst氏は続けて、新たなテスト体制についても言及し、より多様な方法で、より厳格かつ頻繁なテスト体制を構築したと説明。「あらゆる失敗の利点は、人々が今やそうした”チェック体制“の必要性を理解していることだ(The advantage of every failure is that people now understand how necessary that ”oversight“ is)」と述べている。同氏は具体的に『コンコード』を名指しにしたわけではないものの、“失敗”の経験が社内にテスト体制の見直しをもたらしたことがうかがえる。
またファーストパーティースタジオの責任者によると、新たなテスト体制では、グループテストの強化、SIEグループ内の他スタジオの取り組みからの学習促進がおこなわれるという。さらに、タイトルの公開前には数百時間ものゲームプレイをおこなうトップ幹部たちの間で、より緊密な連携がおこなわれるそうだ。これらが実施されることで『コンコード』のように長い開発を経て発売後に“失敗”するのではなく、より早くよりかかった予算が少ないうちから作品の成否を判断できるようになるということだろう。

なおインタビューでは新たなテスト体制について、ファーストパーティースタジオの関係者のコメントもさまざま寄せられている。たとえば『ゴースト・オブ・ヨウテイ』の開発元であるSucker Punch ProductionsのアートディレクターJason Connell氏は、SIEがこれまで開発方法について制限を設けたことはないとしつつ、大失敗が懸念される作品開発を進めてしまう例として「ほかのスタジオが同じようなゲームを開発している」場合を説明。そうした市場リスクを事前に知ることができるチェック体制には大きな意味があるとしている。たとえば『コンコード』では開発が発足した当初に比べ、リリース時にはヒーローシューターの競争が激化していたといえる。新たな体制ではそうしたリスクを軽減できることも期待されているのだろう。
とはいえHulst氏は先述したとおり、スタジオに安全策ばかりをとってほしいわけではないとも伝えている。あくまで失敗時のコストを抑える方向で、新たな体制が確立されているわけだろう。ちなみに『アストロボット』の開発元であるTeam ASOBIのスタジオディレクターNicolas Doucet氏は、チェック体制によってもしクリエイティブ面での自由が損なわれていると感じたら、(SIEと)“話し合い”をせざるを得ないだろうとコメント。作品作りの自由を守るためには対立も辞さない姿勢を見せており、そうした傘下スタジオの方針も尊重されることが期待される。

なお、現在SIE傘下スタジオのBungieはライブサービスゲームとなる『Marathon』を開発中。6月に公開された投資家向けのプレゼンテーションにおいては、『コンコード』の失敗の分析、開発プロセスの見直し、『Marathon』については入念な分析をおこなうような体制が構築されていることが伝えられていた(関連記事)。今回のインタビューでは、ライブサービスゲームのみならず、シングルプレイゲームを開発するファーストパーティースタジオすべてが連携するような新たなテスト体制が判明した格好だ。
『コンコード』が発売された年には、SIEからは『ヘルダイバー2』や『アストロボット』といった高く評価されたタイトルも発売。また、これまでにも『The Last of Us』シリーズ、『アンチャーテッド』シリーズ、『Marvel’s Spider-Man』シリーズといったアワードを受賞するようなシングルプレイゲームも複数発売されている。スタジオ間の連携により、新たな独自性の高いゲームの登場にも期待されるところだろう。