初代『Fallout』のソースコードは“消失していたかもしれなかった”。ある開発者のファインプレーで奇跡的に回避

人気RPGシリーズ『Fallout』の1作目となる『Fallout: A Post Nuclear Role Playing Game』。実は同作のソースコードはある開発者がいなければ消失していたかもしれないという。

ゲーム開発者のTimothy Cain氏は4月23日、同氏がリードデベロッパーを務めた初代『Fallout』などの開発資料が退職時に失われてしまったことをYouTubeにて明かした。しかし、開発元のInterplay Entertainment創設者の1人によると、『Fallout』シリーズの2作を含む多数のゲームのソースコードが独自に保存されているようだ。海外メディアVideoGamerによる取材で明らかとなった。

『Fallout: A Post Nuclear Role Playing Game』(以下、Fallout)は人気RPGシリーズ『Fallout』の第1作。1997年にPC向けにリリースされた。核戦争によって文明が崩壊したポストアポカリプスかつレトロフューチャーな世界を舞台とする作品。Interplay Entertainmentの前身にあたるInterplay Productions(以下、Interplay)によって開発・販売され、大ヒットを記録した。シリーズとしては多数の歴代作品が高評価を獲得しており、昨年にはテレビドラマ化された。

『Fallout: A Post Nuclear Role Playing Game』

当時Interplayにてリードデベロッパーとして『Fallout』に携わっていたTimothy Cain氏は4月23日、自身のYouTubeチャンネルにて「Game Preservation(ゲームの保存)」と題した動画を公開。業界におけるゲームのアーカイブに関してさまざまな課題を指摘した。同氏によると、そもそも会社の誰もが初期の開発資料を残そうと考えていなかったり、アーカイブすると名乗り出た団体が杜撰な管理をおこなったりといった状況があったそうだ。さらには、オリジナルのコードを自分だけの秘密にしておきたいと考える開発者もいるとして、業界に属する個人や組織が保存に積極的に反対しているとの見解も示している。

Cain氏はInterplayの退職時に、ソースコードやプロトタイプなどを含むすべての開発資料を破棄するように命じられたとのこと。これは『Fallout』のデータも例外ではないようだ。過去50年間で多くのものが失われたとして悲しみに暮れている様子を見せた。

しかし実際のところ、『Fallout』のソースコードはまだ残されている模様。Interplayの創設者の1人であるRebecca Heineman氏は5月2日、海外メディアVideoGamerの取材に対し、『Fallout』を含む同社の作品のソースコードを独自に保管していることを明かした。同氏によると、Cain氏がYouTubeで話したように、退職時に開発資料を処分するよう経営陣が命じたことは事実であるという。一方、同氏は創業者としての権限で、1995年にInterplayを退職した際にもデータのすべてを手元に残すことができたそうだ。

Heineman氏が作品の保存を始めたのは、同社が1993年までに手がけた作品を収録した『Interplay’s 10 Year Anthology: Classic Collection』を制作した際の経験がきっかけとのこと。当時同氏は『Interplay’s 10 Year Anthology』制作のため『Wasteland』を含む過去作品のソースコードを必要としていた。『Wasteland』は1988年に同社からリリースされた作品で、似通った設定などから『Fallout』シリーズの土台とも呼ばれる。

しかしその際、同氏はトラックに轢かれたかのようにぐちゃぐちゃの段ボールで、『Wasteland』のソースコードの入ったフロッピーディスクを渡されたとのこと。結局そのデータを用いることはせず、『Wasteland』の販売を担当したElectronic Artsの友人からデータを入手したそうだ。少なくとも当時のInterplayにおいて、ゲームのソースコード管理がなおざりになっていたことを示すエピソードといえる。粗雑なデータの保存を目の当たりにした同氏はそれ以降、自身が携わるすべてのゲームについて独自に保存を始めたという。

『Fallout 2』

Heineman氏は、同氏がかかわった作品のすべてをスナップショットとしてCD-ROMにアーカイブすることを目標にしていたと話す。こうして保存されたデータの中には『Fallout』および『Fallout 2』も含まれており、長期保存を見越して、100年以上の寿命をもつとされるM-Discにまで保管されているという。なお同氏は、Mac向けに同社のゲーム作品を販売するブランド「MacPlay」を通じて、過去に同2作を移植している。そうしたMacPlayの取り組みを現代に復活させるべく、同氏は現在Mac向けのネイティブ移植を目指している。しかし、『Fallout』シリーズについての権利はBethesda Softworksに帰属しており、いまだ交渉にも至っていないようだ。

一人の開発者の判断により、名作『Fallout』の貴重なソースコードが失われずに済んだ模様。しかしCain氏が警鐘を鳴らすように、ゲーム業界における開発資料の保存は死活問題となっているようだ。時代とともにプラットフォームは衰退し、古いゲームはいずれ遊びにくくなってしまう。元のデータが存在しなければ、リメイクやリマスターなどによって現代に蘇ることも叶わなくなるだろう。またそうしたリメイク・リマスターの実現可能性にかかわらず、ゲーム業界の先人たちが生みだしたものを後世に残していくこと自体も重要だ。開発資料の適切な保存が求められている状況といえる。

Shion Kaneko
Shion Kaneko

夢中になりやすいのはオープンワールドゲーム。主に雪山に生息しています。

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