「ヤクザ×マスコット×経営」「田舎×おバカ×超現実」。奇想天外なかけ算あふれるヤクザゲーム誕生のきっかけは……女子向けアパレル経営ゲーム!?『プロミス・マスコットエージェンシー』開発者に聞く!
この奇妙だが惹きつけられる斬新なゲームは、いったいどうやって生まれ、どのような想いが込められているのだろうか。

Kaizen Game Worksが2025年4月10日(日本時間)にリリースしたゲーム、『プロミス・マスコットエージェンシー』。
Steamストアページ:
https://store.steampowered.com/app/2585830/_/?l=japanese
マイニンテンドーストア:
https://store-jp.nintendo.com/item/software/D70010000078643
PS Storeページ:
https://store.playstation.com/ja-jp/concept/10008195
マイクロソフトストアページ:
https://www.xbox.com/ja-jp/games/store/promisemascotagency/9p6gcj303k9b
福岡のヤクザ『ナカムラ連合』が、九州進出を狙う広島の『フジワラ會』と抗争を繰り広げるバトル物……かと思いきや、その実態はなんと……

昭和の雰囲気残る田舎町を舞台にした探索&経営ゲーム!
大きな取引に失敗して組を追放されたナカムラ連合シマズ一家の若頭『ミチ』が、「祟りの町」とも称される田舎町『過疎町(かそまち)』に送り込まれ、シマズ一家への償いのためにお金を稼ぐ。
その方法は、『マスコット事務所』の経営。この世界にあたりまえに存在し、人間と同じように暮らす個性豊かな『マスコット』たちを雇い入れ、さまざまな場所に派遣する、人材派遣業ならぬマスコット派遣業だ。
ミチはオープンワールドの広い過疎町を軽トラックで走り回り、マスコットをスカウトしたり、派遣先を見つけたり、事務所経営に役立つ情報やアイテムを入手したりする。
マスコットたちは個性豊かで、まるで「ゆるキャラ」のようにかわいらしく……

小指!?
ミチの相棒となるマスコット『ピンキー☆』は、切り落とされた人間の小指のような姿をしたマスコットだ。なんのマスコットなんだ。ケジメのマスコットか?ただ、個性的なのは間違いないし、ずっと見ていると表情豊かでぷにぷにしていて、不思議とかわいく思えてくる。

日本のリアルな田舎町で、ヤクザがマスコット事務所を経営する。
この奇妙だが惹きつけられる斬新なゲームは、いったいどうやって生まれ、どのような想いが込められているのだろうか。開発者であるKaizen Game Worksのアートディレクター Rachel Noy氏、クリエイティブディレクターのOli Clarke Smith氏、テクニカルディレクターのPhil Crabtree氏に話を聞いてみた。
驚きのきっかけから生まれた異質のかけ算。このゲームは「日本のポップカルチャーへの変わったラブレター」

――なぜ、「昭和風の日本の田舎町」を舞台に「ヤクザ」の物語を描こうと思われたのでしょうか?
Rachel:
昭和風の日本の田舎町を舞台にしたのは、「誰もがノスタルジーを感じられる世界を作りたい」というのが一番の動機でした。Kaizen Game Worksの前作『パラダイスキラー』では、「どこか懐かしいが、実際には訪れたことがない場所」を作ることを目指しましたが、今作『プロミス・マスコットエージェンシー』では、より現実世界に根差した形を目指そうと思ったんです。「昭和」という時代は、日本で実際にその当時暮らしていなかった人であっても、不思議と懐かしさを覚えることがありますよね。それを本当に面白いと感じました。
――たしかに、私は田舎の出身ですが、「自分の地元にそっくりだな」と思ったほどです。私の地元にはヤクザはいませんでしたが……
Rachel:
ヤクザに関しては、私たちは過去のさまざまなヤクザや犯罪に関する書籍をたくさん読んできましたし、懐かしい雰囲気のあるヤクザ映画やゲームにも惹かれていて、そうした私たちの“好き”を自らのゲームに取り入れられたら面白いんじゃないかな、と思ったんです。特に、史村翔さんと池上遼一さんの漫画『サンクチュアリ』が大好きで、それをゲームとして「田舎×おバカ×超現実」な世界観に落とし込んだらどうなるんだろう?とも想像することもしていました。そうした結果、日本のポップカルチャーへの変わったラブレターのようなゲームになりましたね。
――「田舎×おバカ×超現実」とは、なるほどまさに!緻密に描き込まれたリアルな田舎に、当然のようにヤクザとマスコットが溶け込んでいますもんね。ヤクザが主人公でありながら、戦闘要素がなく探索・経営中心のゲームにした理由はなんでしょうか?
Oli:
アートディレクターのRachelから、カイロソフトが手がけているような2Dの経営ゲームや、『わがままファッション GIRLS MODE よくばり宣言!』のような3D経営ゲームについて提案されたことがきっかけです。
――ガ、ガールズモード!?女の子のアパレル経営ゲームからヤクザのマスコット事務所経営ゲームが!?
Oli:
そのうえで、私たちとしてはオープンワールドを探索するゲームを作りたいという思いがあって、さらに私は日本のミステリー小説が大好きなのでミステリー要素も盛り込みたくて。さらに、Kaizen Game Worksのチーム全員が『ペルソナ』や『龍が如く』シリーズが大好きなのですが、プレイしながら「戦闘要素がなく、この探索要素だけ楽しめるゲームがあってもいいよね」とよく話していて。たとえば、私はアイレムがPS2向けに発売した『絶体絶命都市』の大ファンなのですが、あれは街を探索しながら人々と出会い、クエストをこなして人助けすることで物語が進んでいく……そんな体験が魅力的でした。
――次々に「好き」が出てきますね。想いが詰まっている……!
Oli:
それらをふまえたときに、「ヤクザ×マスコット」という設定がピッタリでした。マスコットの世界をまったく知らないよそ者のヤクザが、マスコットと一緒に人助けして物腰柔らかく接する態度を学びながら、問題を解決していくわけです。また、私たちは日本の漫才も大好きなので、ツッコミ役のヤクザとボケ担当のマスコットによるバディものを書いてみたかった、というのもあります。
――まさか、日本の漫才からも影響を受けていたとは……特に影響を受けた漫才師などはいますか?
Rachel:
英語で見られる漫才はあまり多くないのですが、イギリスでは『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』が人気があり、そのおかげでダウンタウンやココリコの漫才は英語に翻訳されたものが結構あるんです。最近は千鳥も見て、彼らの掛け合いが大好きになりました。おすすめがあれば、ぜひ教えてほしいです!
世界をかわいく奇妙に彩るマスコットたちの誕生秘話と生活

――個性豊かで愛らしく、でもちょっと奇妙なマスコットたちは、どうやって生まれたのでしょうか?
Oli:
いくつかのマスコットは、中村育美さんと真鳥舞さんと密にやり取りしながら制作しました。いずれも、彼女らが日本人だからこそ生み出せたマスコットだと思います。
中村育美さん……ゲームクリエイター。UNSEENのCEOを務めるほか、さまざまな会社とコラボレーションをしている
真鳥舞さん……ゲームクリエイター。UNSEENに所属し、コンセプトアーティストとして活動する
ふたりには、私たちの知らない日本語のスラングやジョークまで教えていただいて、本当にありがたかったです。一方で、開発の初期段階では「かわいいマスコットを期待しているファンもいるだろう」とのフィードバックがあり、アートディレクターのRachelがほかのアーティストとも協力しながら、よりキュート寄りのマスコットをいくつかデザインしました。また、彼女が各マスコットの性格や夢、抱えている不安などの設定を綿密に調べて考えてくれたため、私はそれぞれの個性をしっかり掴んだうえでセリフを書くことができました。
Rachel:
マスコットのデザインや性格を考えるのは、本当に楽しい作業でした。中村育美さんと真鳥舞さんが、たくさんの素晴らしいアイデアを出してくれて、それがすごく刺激になったのです。ただ、そのアイデアの中には本作には合わなかったり、文化的に理解しきれなくてうまく物語にできなかったり、あるいはゲーム内で物理的にドアにハマってしまうような体型であったりして、泣く泣く見送ったものもあります。
――か、かわいい……!ドアにハマっちゃった子がいるんだ……!それはそれで見てみたかったです。
Rachel:
また、物語の都合で新しいマスコットが必要になった時に、逆算してキャラクターを作ることもありました。ほかにも、アーティストのAmyがデザインしたカキゴリーは言葉遊びやダジャレから生まれましたし、カソコウモリは私がビールで酔っ払いながら5分で描いた落書きが元になっています。その落書きをみんなが気に入ってしまったので、ちゃんと設定を考える羽目になったのです。
――デザインだけじゃなく、誕生経緯まで個性豊かだったとは。
Rachel:
そうしてアーティストたちから上がってきたすべてのコンセプトは、私たちの頼れる2Dアーティストでありイギリスで漫画家としても活動しているインコ・アイ・タキタが、それぞれのアイデアを解釈しポテンシャルを引き出すようにレンダリングしてくれました。
――本作の世界では、マスコットたちは人間と同じ社会であたりまえに暮らしていますが、マスコットたちの法的な扱いは人間と同じなのでしょうか?
Rachel:
はい。マスコットは社会のルールに従う必要がありますし、社会に参加するなら納税の義務もあります。また、たとえばピンキー☆がマスコット事務所を開業する際には、きちんと営業許可を取らないといけません。家を借りるなら家賃を払わないといけないし、社会のルールを守らないと罰せられることになる。彼らは、法的に平等に扱われています。
――じゃあ、本当に人間と変わらない、ふつうの存在なんですね。
Rachel:
ただ、法的には平等でも、社会の中では偏見にさらされることはあります。そのため、社会に適応して生きるマスコットもいれば、そうでないマスコットもいる。それは人間も同じでしょう。どこの誰にとっても、社会ってやっぱり複雑ですよね。
――たしかに。マスコットたちは、日常生活はどうなのでしょうか?体質などの関係で日常生活が大変そうなマスコットもいますが……。
Rachel:
マスコットは、人間と比べて遺伝的な多様性がとても高いため、日常生活もマスコットごとに異なります。そもそも世界は彼ら一人ひとりに合わせて作られているわけではないので、生きづらさを感じるマスコットも多いです。たとえば、ピンキー☆は、身体がぷにぷにで大きすぎるため、普通の車を運転できません。いつもミチの軽トラの荷台に乗っているのはそのためです。
――軽トラの荷台に乗っているピンキー、かわいいですよね。ぷにぷにで、表情豊かで。
Rachel:
また、カキゴリーは体のほとんどが氷なので、暖かい福岡で暮らすことにはとても苦労しています。ほかにも、サラリーニャンのように人間らしい生活に適応しようとがんばっているマスコットもいて、彼らは人間と同じように痛みも喜びも感じています。ピンキー☆やトーフのように食事をしたり学校へ行ったりするマスコットもいれば、コケ丸のように食べる必要がないマスコットもいます。コケ丸は、口はあるので食べようと思えば食べられますが、半分植物なので日光と水さえあれば生きていけるのです。なかには人間と同じ次元に存在していないようなマスコットもおり、彼らは学校に通うことには向いていないでしょう。
――ミチの相棒であるピンキー☆は、かわいいのですが、後ろ姿が人間の小指そのもので……最初は、その……衝撃を受けました。過疎町の人々は驚かないのでしょうか?
Rachel:
驚く人もいますよ!若いチンピラに「モグラネズミみたいだな」と言われる場面もあって、つい笑っちゃいました。ピンキー☆自身も、自分はほかのマスコットみたいにかわいくないし、スーパースターマスコットにはなれないと思っていて、その分を“暴力的なパワー”で補っています。彼女は攻撃的な性格なので、私は彼女に面と向かって「ちょっと怖いかも」と正直には言えないだろうし、おそらく過疎町の人たちもそうでしょう。でも、過疎町の田舎で生まれ育ったピンキー☆は住民にとっては顔なじみですので、もうみんな見慣れていると思います。
Phil:
本作でイベントに出展すると、ピンキー☆を見て「かわいい〜」と最初言っていたのに、「え、なにこれ……?」へと変わる人がいて面白いです。でも、みんないつも笑顔なんです。そうした、いきなり驚きをもたらすようなキャラクターを作ることは私たちの目指すところで、そんなマスコットたちがそれぞれの自分らしさを受け入れてもらえるように手助けする、本作のゲームプレイを私はすごく気に入っています。ピンキー☆には最初ビックリするかもしれませんが、最終的にはプレイヤーに愛されることになるでしょう。
――序盤で雇えるトーフもかわいいですよね。トーフは頭部の左側が欠けていますが、過去にケガをしたのでしょうか?痛くはないのですか?
Rachel:
トーフを気に入ってくれて嬉しいです!トーフは、私たちの中でもお気に入りのマスコットのひとりなんですよ。彼は絹ごし豆腐でできている部分があるので、とても崩れやすいのです。トーフは自身のプライベートについて話してくれないため、なぜ頭が欠けているのかはっきりしませんが、何か痛い出来事があったのだとは思います。
――人間にも、マスコットにも、過去がいろいろあるんですね。
Rachel:
私たちは、人生の中でケガをしたり、年齢を重ねることで体が変化したりしますよね。きっとトーフも、「人生ってときどき痛いことがあるけど、その痛みは一時的なもの。受け入れて前に進むしかないんだよ」と言ってくれている気がします。
――ピンキー☆やトーフなど、マスコットたちのぬいぐるみがあったら買いたいのですが、グッズ化の予定はありますか?
Phil:
私たちもぜひ作りたいと思ってます!チームがとても小さいので、ゲーム制作と並行してたくさんのグッズを作るのは難しいんですが、ファンのみなさんの反応を見て、いろいろ検討し始めているところです。特にピンキー☆のグッズを求める声はすごく嬉しいです。チーム全員が彼女をとても気に入っているので!
Rachel:
Philが言ったように、ゲームがどのくらい人気が出るか読めなかったので、まだあまりリリースできていません。でも、ゲーム用のサウンドトラックは2種類を予約受付中です!2種類をまとめて買うと、ピンキー☆のキーチェーンも付いてきます。とっても可愛いですよ。
――えっ、それはほしい!
Rachel:
ゲームが成功して、需要が高まれば、もっとグッズを出していきたいと思ってます!
イギリスと日本の共創で生まれた、空気感までリアルな「過疎町」

――作中では福岡のナカムラ連合や広島のフジワラ會などが登場しますが、キャラの博多弁や広島弁がとても自然で驚きました。方言について、映画の参考や専門家の協力などはありましたか?
Oli:
本作のローカライズでは、ゲーム翻訳家の鶴見六百さんと一緒に仕事ができ、それが本当に幸運でした。彼は、私たちのユーモア感覚や、“変で意外性のあるもの”を作ろうとしている意図をすぐに理解してくれて、本作のローカライズにはピッタリの人物だったと言えます。方言に関しては、彼が博多弁の専門家である野原さんに参加してもらうことを提案してくれて、翻訳を手伝ってもらっています。そのほか、収録スタジオのStudio XENOREXにも、台本の準備や声優の方言指導で助けてもらいました。その結果、本作に関わった九州出身の日本人アーティストの方には、自然な方言だと褒めていただけました。
――過疎町は、昭和後期から平成中期ごろの日本の田舎町をとてもリアルに再現していますが、どうやってここまでの再現度を実現されたのでしょうか?
Rachel:
そう言っていただけて、本当に嬉しいです!描きたい世界のために、リサーチには力を入れました。すべてが完璧ではないかもしれませんが、ベストを尽くしたと言えます。また、チームにはイギリスの田舎の村で育ったスタッフがおり、田舎のコミュニティの考え方という点では、あまり大きな違いはありません。私自身、イギリスの高齢化が進む漁村で生まれ育ったこともあって、国は違えど、本作に登場するスミレやシオリ、あるいはほかの住民たちに共感する部分は多いです。
――そういうスタッフの方々の経験も活きているんですね。
Rachel:
とはいえ、自分たちだけで日本特有の雰囲気を作り出すことは無理だと分かっていたため、日本で育って生活するということはどういうことなのかを理解している、日本在住の方々の協力を得ることは非常に重要でした。今回、中村育美さんと仕事を一緒にできたことは本当に幸運で、彼女は見るべきメディアや、読むべき漫画、リサーチすべき場所などを教えてくれたほか、開発初期に難航していた際にもアドバイスしてくれて助かりました。また、Kaizen Game Worksの中心メンバーも日本を訪れたことがあり、チーム内には多くの経験と知識が蓄積されています。
――具体的に参考にした日本の場所や地域はありますか?
Rachel:
中村育美さんはたくさんの資料や各地の旅先で撮った動画を送ってくれましたし、福岡旅行が好きなPhilも写真や動画をたくさん撮っていました。また、Oliと私は岐阜を訪れたことがあり、当時撮影した田舎の写真からインスピレーションを得ています。個人的には、本や写真で見た福岡の土地をいつか訪れて、博多ではもつ鍋とラーメンを食べてみたいです!
Oli:
私は前回の日本旅行で、福岡ではなく相模湖(神奈川)と檜原村(東京)を訪れました。相模湖周辺には、昭和・平成の雰囲気が漂うリゾート地があり、散策するのが楽しかったです。閑静で落ち着いた空間の中に色褪せた看板があちこちにあり、また近くにはダムもあります。そういった田園地帯と産業地帯に隣接する陽に焼けた田舎町の雰囲気は、本作の過疎町に取り入れたいと感じましたね。檜原村は美しい山間の村で、静かな通りや川岸を散策しました。日本の山村では、外の世界から切り離された土地に迷い込んだようにも感じられ、本作ではその感覚も再現したいと思いました。
Phil: リアルに感じられたと言ってもらえるのが、本当にうれしいです。私は、東京や福岡のような大都市を訪れることも好きですが、田舎での思い出はより深く心に残っていて、RachelとOliがその思い出を本作に取り入れてくれたことには感謝しています。本作の開発中盤頃には竹野(兵庫)を訪れたことがあって、そこの港の側や野原を歩いている際には、『プロミス・マスコットエージェンシー』で散策している時に似た感覚に陥ったことを覚えています。とても特別な感覚でしたね。
――過疎町の港や野原の風景は本当に美しくて、丘の上から見える夕焼けの海には感動しました。スタッフのみなさんが過疎町で気に入っている風景はありますか?
Rachel:
私は、学校の隣にある田んぼでのんびり過ごすのが好きですね。あの場所は最初に作った環境のプロトタイプだったので。丁寧に植えられた田んぼを車で走り抜けるのは罪悪感があるけど、ついやってしまいます!また、美しい場所と言えば、マップの中央にある橋でしょうか。そこからは朝日や夕日がよく見えるので、たくさんスクリーンショットを撮っています。あの風景がすごく好きなんですよ。
Phil:
私のお気に入りは、過疎町に入る最初の道路に架かっている橋ですね。車で渡りながら夕焼けの海を見下ろすと、自然と笑顔になります。煌めく街の灯りとオレンジ色の空が美しくて、それを自分たちが作り上げたのだと思うと誇らしい気持ちになります。また、霧と不思議なエフェクトに包まれた旧市街エリアも気に入っています。散策したくなるような場所ではないのですが、それがむしろほかのエリアとのコントラストが際立って魅力的ですよ。
――田舎町の役場の雰囲気も、非常にリアルですよね。市長の政治はあまりよくないが、それを真正面から批判できる人はいない。しかし、サトウさんのように誠実で優秀な職員もいて、彼ら一人ひとりは市民のために懸命に働いている。そのような姿を描けたのも、リサーチの賜物でしょうか?
Oli:
はい。それはリサーチの成果であるとともに、私たちを取り巻く世界からもインスピレーションを得ています。今は非常に大変な時代で、あらゆる政府機関が富裕層の富と自らの権力拡大のために動いているように感じられます。一方で、一般市民は世代を重ねるごとに苦しい状況に陥っていて、ほとんどの人がより多くの労働を強いられるが、給料は減っていく。苦しみは増すばかりなのに、富と権力を持つ者たちはさらに増長しています。こうしたテーマは、私たちが読んでインスピレーションを受けた漫画にも描かれていました。たとえば、『サンクチュアリ』にはヤクザが政治の腐敗と絡む様子が描かれており、『アクメツ』では汚職官僚を暴いて制裁する人たちが登場します。『プロミス・マスコットエージェンシー』は、『アクメツ』ほどではありませんが、労働者階級の人々が腐敗に立ち向かうスカッとする気分になれる物語になっていますよ!
――個人的に一番「リアルだ……!」と感心したのが、ラブホテルをマスコット事務所にするというアイデアです。実際、日本の田舎のああいう場所には寂れたラブホテルがありますし、ヤクザが身を隠すのにも向いていそうです。あの発想はどうやって出たのでしょうか?
Oli:
マスコット事務所にラブホテルを使うというのは、中村育美さんのアイデアです。私たちはラブホテルのことは知っていましたが、それを事務所にするなんて思いつきもしませんでしたよ。舞台を九州の過疎地域にすることも、彼女のアイデアです。中村育美さんと真鳥舞さんは、本作のテーマやキャラクター、ロケーションについて、多大な尽力をしてくれました。
――やはり、日本人ならではのアイデアだったんですね。あの建物のデザインはどうやって決まったのですか?日本のラブホテルは普通の建物以外にも、お城のような建物や旅館のような建物など、いろいろありますが……
Rachel:
中村育美さんが、高知の山間にあるノスタルジックなホテルの写真を送ってくれて、それをベースにしました。
――モデルがあるんだ!聖地巡礼しようかな……
Rachel:
また、X(旧Twitter)で日本人のラブホテルファンのアカウントをチェックしたり、田舎のラブホテルをGoogleで調べたりと、実在するいろんなホテルをリサーチしました。
――ラブホテルファンのアカウントをチェック!?
Rachel:
さらに、変わったラブホテルを特集した大判の写真集まで買ったんですよ!そして、気に入った要素をいくつかピックアップし組み合わせて、あのピンク色をした巨大なラブホテルが出来上がりました。
――こんなに熱量のこもったラブホテルエピソードを聞けるとは思わなかったです。
あふれんばかりの日本愛を込めて

――ゲームからも、インタビューからも、スタッフの方々の日本への熱い想いがたくさん感じられました。ぜひ、「日本への愛」について語っていただきたいです。
Oli:
私は、主にメガドライブやPlayStationの日本のゲームをプレイして育ったこともあって、のちにお気に入りのゲームについて振り返ると、どれも日本のゲームにしかない特別な感覚があることに気づきました。日本のゲームのゲームデザインやストーリーには独特な雰囲気やスタイルがあり、それが私の心に響いたのでしょう。それが自然とアニメや漫画を楽しむことにつながり、今から10年以上前に実際に日本を訪れるきっかけにもなりました。日本の文化や人々、そして何より食べ物に魅了されています。日本のスタイルは私にはとても心地よく感じられて、よく日本のテレビ番組やドキュメンタリー番組を見たり、旅行のガイドブックを読んだり、小説を読んだりしています。
――それらがすべて、『プロミス・マスコットエージェンシー』に活きている感じがありますね。
Oli:
しかしそれゆえに、私たちは何かを決めたり追加したりする時には、「私たちは何を知っていて、何を知らないか?何を活用できるのか?」ということを必ず考えています。知らないことであれば丁寧にリサーチをおこない、それが正しいものであるかや、より相応しいものがあるかどうかを、日本人のスタッフに確認してもらっています。アートディレクターのRachelは優れたリサーチャーで、日本人スタッフと協力してゲーム内のテーマや歴史を深掘りしてくれたおかげで、開発中にはいくつかの修正を行うことにもなりました。
――最後に、日本のプレイヤーに向けて、「ここを楽しんでほしい」「注目してほしい」というポイントがあれば教えてください!
Oli:
日本のみなさんが過疎町の探索を楽しんで、それぞれの「推しマスコット」を見つけてくれたら嬉しいです!本作をプレイしてくださるすべての方、特にSNSなどで応援してくださった日本のファンのみなさんには、本当に感謝しています。西洋のスタジオが日本を舞台にゲームを作るというのは正直とても緊張することでしたが、たくさんの日本人のアーティスト、ディレクター、音楽家、翻訳者の方たちと深く協力して、みなさんに楽しんでもらえるゲームを完成させることができました。また、ゲーム内には日本の都市伝説に関するちょっとしたネタも入っているので、ぜひ探してみてください!それと、開発中に亡くなった私たちの愛犬である柴犬のベアちゃんも登場します。彼女は、いつもオフィスで仕事中に寄り添ってくれたので、ゲームの中にも登場させました。
Rachel:
このゲームでは、イギリスのダークなユーモアと、私たちが自らの体験やコラボ相手、プレイヤーから学んだ日本のことを融合させており、その文化の交流を楽しんでもらえたら嬉しいです。体験版を遊んでくださった方、そしてこれから本編をプレイしてくださる方、本当にありがとうございます。気に入っていただけたら何よりです!
――ありがとうございました。私もこの原稿を仕上げたら、またすぐに過疎町に行って事務所経営に励みます!
『プロミス・マスコットエージェンシー』は、PC(Steam/ Epic Games Store)、Nintendo Switch、PS5、Xbox Series X|Sで発売中。
Steamストアページ:
https://store.steampowered.com/app/2585830/_/?l=japanese
マイニンテンドーストア:
https://store-jp.nintendo.com/item/software/D70010000078643
PS Storeページ:
https://store.playstation.com/ja-jp/concept/10008195
マイクロソフトストアページ:
https://www.xbox.com/ja-jp/games/store/promisemascotagency/9p6gcj303k9b