人気ゲーム『HoI4』DLC開発者がコード内にひっそり残した“苦しみと悲しみのコメント”が発見される。「コードが汚すぎるので読まないで」

Paradox Interactiveの人気ストラテジーゲーム『Hearts of Iron IV』DLCのゲームファイル内に、プログラマーが残したおかしな記述が見つかったとして話題になっている。

Paradox Interactiveの人気ストラテジーゲーム『Hearts of Iron IV』DLCのゲームファイル内に、プログラマーが残したおかしな記述が見つかったとして話題になっている。この出来事を伝えるユーザー報告には当該記述を残したという開発者本人からの反応もあり、製品に残されるジョークコメントの是非について波紋を広げている。

『Hearts of Iron IV』は、第二次世界大戦をモチーフにしたストラテジーゲームだ。開発はParadox Interactive傘下のParadox Development Studioが手がけている。本作にてプレイヤーは、大国から小国まで登場するあらゆる国から選択し、自らの国を導く。陸・海・空を舞台にしたリアルタイム戦争シミュレーションを楽しめるほか、政治や外交、貿易などもおこないながら、史実を再現したり、if(もしも)の歴史を形作ったりすることができる。また、本作は最大32人での対戦・協力マルチプレイにも対応している。

本作は発売から10年目に突入する現在においても、Steamでは連日ピーク時5万人前後の同時接続プレイヤー数を記録するなど高い人気を誇る(SteamDB)。しかしながら、今年3月5日に発売されたばかりの最新DLC「Graveyard of Empires」はユーザーから「コンテンツの質や量に問題がある」とする声が投じられる状況。執筆現在において同DLCはSteamユーザーレビューにて、1832件中わずか17%の好評率とするに留まる「圧倒的に不評」ステータスの苦境にある。

そんな「Graveyard of Empires」に関して、ゲームファイル内に見つかったある記載が話題を呼んでいる。ファイルの中には開発者が記述したと見られる、自分が手がけたコードを卑下するかのようなコメントが残されていたとのこと。なおプログラミングにおけるコメントとは、プログラムの動作そのものには影響しないメモ書きのことだ。大半のプログラミング言語に備わっている機能で、主にコードの役割などを記述し明確にしておく用途で用いられる。この記述を報告するユーザーによるReddit投稿および、筆者による和訳を以下に紹介する。

この文章に出くわしたコンテンツデザイナーやMod製作者の方へ
これは私の人生における最も酷いコードです
読まないでね
理解しようとしないでね
直そうとしないでね
さもなければ動脈瘤になりますよ
Lilyより

このLilyなるプログラマーは、コメントの後に書かれているコードの汚さを自虐。読めば過大なストレスを受けるとの比喩か「動脈瘤になるぞ」とまで表現している。また、わざわざ自分の名前まで残しておいている。なんらかのネガティブな感情をもって残された“呪いのコメント”とも受け取れる内容だ。

ちなみに、この記述は「Graveyard of Empires」で追加されたイラクの「国家方針(National Focus)」に関するスクリプトファイル中に存在しているようだ。「国家方針」は『Hearts of Iron IV』から登場した新しいシステム。各種ツリーから方針を選び取得していくことで、国の方向性を示すさまざまな戦略をとることができる。ベースゲームだけでは汎用の「国家方針」ツリーを持つ国が大半だが、DLCの配信を通じて多くの国に独自の「国家方針」ツリーが実装されてきた。本作はコミュニティーによるMod開発も盛り上がっており、オリジナルの「国家方針」を作るModも数多く存在する。

前述のコメント発見報告に注目が集まる中、同Redditスレッドにpdx_lilyなるユーザーからのコメントが寄せられた。この人物こそがこのコードを書いた張本人、開発者のLily氏とみられる。Lily氏によると、一連のコメントは「極端に誇張したジョーク」だったという。DLC間における相互作用が複雑であり、該当部分の実装がいかに面倒だったかを強調したかったとのこと。

またLily氏はこの記述について、Valve開発作品のソースコード流出騒動で話題となった“精神的に追い詰められた開発者コメント”を参考にしたとしている。Valveの手がける『Counter-Strike: Global Offensive』および『Team Fortress 2』については、2020年にソースコードが流出(関連記事)。その際これらの作品のソースコード内に残された、開発者による半ばやけくそ気味に開発の苦しみを伝えるコメントがユーザーに知れ渡ることとなった。

今回のLily氏による“呪いのコメント”も、そうした息抜きの一環だったのだろう。前述のスレッドでは、同氏の思いに理解を示すユーザーの声も散見される。そうして開発者の悲哀やユーモアも感じるコメントの発見を楽しむユーザーがいる一方、ゲームファイル内に“不必要なコメント”の記載があることに否定的な意見を示すユーザーも見られる。可能性は低いながら、コメントの記述が秘匿情報の漏洩や、メンテナンスする際の煩雑化、潜在的な不具合などに繋がるリスクも存在するのは確かだ。

しかし、コメントの残し方についてはプログラマーや開発チームごとに習慣やルールが定められていることも多く、コードがこれまで動かなかった原因やコードの保守に関するメッセージをさまざまな範囲で残しておくことなども、コメントの役割として広く用いられているというのが実際のところだ。コメントにまつわるルールやコンプライアンスについては、開発チームの判断に委ねられるところだろう。

また、今回のケースでは、一般のユーザーやMod制作者も閲覧しやすいスクリプトファイルにコメント記述があった様子である。本作ではコミュニティーによるMod開発も盛んゆえに、隠れた部分が注目され、話題と議論を呼んだかたちだろう。「無関係コメント」の是非については賛否両論あるものの、ゲームの裏には、多くの開発者の心労があることを忘れずにいたいものだ。

『Hearts of Iron IV』はPC(Steam)向けに発売中。

Shion Kaneko
Shion Kaneko

夢中になりやすいのはオープンワールドゲーム。主に雪山に生息しています。

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