人々の日常を見守るSteam“画面下”生活シム『My Little Life』は、「現代たまごっち」なゲームとして商業的にすでに成功収める。開発者に話を訊いた

本作は、最近増えつつある、PCのデスクトップ画面の下部分にだけゲーム画面が表示されるスタイルが採用され、ほかの作業をしながら楽しめる放置型ゲームだ。

デベロッパーの9FingerGamesは今年1月31日、ライフシミュレーションゲーム『My Little Life』をPC(Steam)向けに配信した。本作はこれまでに高い評価を獲得し、売れ行きも好調な模様。今回弊誌では、同スタジオの開発者Stevie Andrea氏に本作の開発背景などについて話を伺った。

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本作は、最近増えつつある、PCのデスクトップ画面の下部分にだけゲーム画面が表示されるスタイルが採用され、ほかの作業をしながら楽しめる放置型ゲームだ。なお、ゲーム内は日本語表示に対応している。

『My Little Life』は、現代の一般的な世界観を持つ放置型ライフシミュレーションゲームだ。登場するキャラクターはリトルと呼ばれており、ゲーム開始時にいるリトルは、質素で小さな家に暮らす無職の人物。そこでプレイヤーは、リトルを職に就かせてその生活を見守りつつ、家を拡張・カスタマイズしていく。

リトルの職業は、画家や配信者、作家、陶芸家などから選択でき、仕事をすることでクレジット(お金)を稼ぐ。たとえば、画家ならイーゼル、配信者ならPCを購入し家に配置すると、リトルはそれに向かって仕事をする。放置してお金を貯めて、カスタマイズアイテムを購入し家を拡張させていくのが、基本的なゲームプレイの流れである。

カスタマイズアイテムは、家具や小物、壁、階段、壁に配置できるアイテムといった項目に分けて多数収録。上述したような必須アイテムだけでなく、好みの内装に整えたり、家を拡張したり追加したりするためのものも豊富に用意されている。そしてクレジットで購入し、配置した際には充足ポイントを獲得。充足ポイントは、新たなアイテムをアンロックするために必要となる資源だ。

また、リトルには空腹・喉の渇き・睡眠・衛生・トイレ・楽しみ・快適さといったステータスがあり、仕事の効率を維持するにはこれらを適切に管理しなければならない。たとえば、食料の入った冷蔵庫を設置したり、眠くなった際に使うベッドを配置したり、もよおした時に駆け込むトイレを用意したり。リトルは仕事をしてお金を稼ぐだけの存在ではなく、ごく普通の生活を送る人間なのだ。そうしてゲームを進めるなかでは、新たなリトルの住民がやってきて、徐々に賑やかになっていく暮らしをお世話することになる。

本作は、PC(Steam)向けに今年1月31日に配信開始され、2月27日時点で3万7000本以上を売り上げているという。また本稿執筆時点で、ユーザーレビューは約540件のうち91%が好評とする「非常に好評」ステータスを獲得。ライフシミュレーションを放置ゲームとしてシンプルにまとめたゲームプレイや、自由度の高いシステムなどが好評。また、リトルたちが日々を過ごす様子を眺めるのが楽しいという声も多く聞かれる。

デスクトップ画面の下部分だけでなく、左右の端に表示させるスタイルにも対応

『My Little Life』の開発元9FingerGamesは、Stevie Andrea氏の個人スタジオだ。今回弊誌は同氏へのインタビューを実施し、本作の開発背景や今後などについて話を訊いた。

──『My Little Life』の開発のきっかけをお聞かせください。いわゆる“画面下ゲーム”というと、その火付け役として『Rusty’s Retirement』が知られますが、同作からの影響はありますか。

Stevie Andrea氏(以下、Andrea氏):
『Rusty’s Retirement』を手がけたJordan(Jordan Morris氏)は仲の良い友人で、彼のことはデビュー作『Haiku, the Robot』をリリースする前から注目していました。ですので、『Rusty’s Retirement』から大きな影響を受けたことは間違いありません。

最近はリモートワークをする人が増えていますが、長時間にわたりモチベーションを保つことに苦労している人も多いようですね。そこで、一緒に寄り添ってちょっとした息抜きを与えてくれるような作品を作りたいと思い、『My Little Life』を開発することにしたのです。

──画面下ゲームには、農業、牧場、アクアリウム、釣りなどさまざまなジャンルの作品が存在します。本作ではなぜライフシムを選んだのでしょうか。

Andrea氏:
本作には、買い物や釣りをしたり、農業をしたりといったことよりもっとプレイヤーの感情に訴えかける、本当の意味での“デスクトップ上の友”が必要だと考えました。小さな人間が自身の生活を送るというのはそれにピッタリだし、心地良い雰囲気もある。また、『ザ・シムズ』風ながら、人々の生活の細部まですべて管理する必要のないゲームを作ることに挑戦したいという思いもありました。

そのうえで、自分がライフシムをプレイしていて楽しいと感じる部分に、よりフォーカスしたいと考えたのです。それは、キャラクターの家をデコレーションしたりアップグレードしたりといった要素で、これが画面上に常時表示させるシステムとの相性が非常に良かった。常に目にするわけですから、自然と自分好みの家にしたくなるでしょう。

──本作を開発するにあたって、参考にしたライフシムゲームはありますか。あなたは以前、本作を「現代のたまごっち」と表現されていましたが。

Andrea氏:
私はゲームの制作中は、同ジャンルのほかのゲームはプレイしないようにしています。馬鹿げていると思われるかもしれませんが、自分の作品をほかとは違うものにしたいですし、リサーチしすぎるとクローンゲームが出来上がってしまうのではないかと不安なのです。でもだからこそ私のゲームは、他作品が抱えていたであろう課題を別の方法で克服した、独自性のあるものに仕上がっているのだと考えています。

『My Little Life』にもっとも近いゲームを挙げるとすれば、『Little Computer People(アップルタウン物語)』でしょうか。精神的続編のようにも感じられます。

「現代のたまごっち」に関しては、デジタルペットともいえる小さなキャラクターたちが登場することと、ユーザーが仕事や勉強、あるいはほかのゲームをプレイする際のほとんどの時間に目にする画面上に、そうしたキャラクターが登場する共通点から出た言葉でした。

──開発者目線では、画面下ゲームと通常のゲームでは制作するうえで何か違いはありましたか。

Andrea氏:
実はこれが大きなチャレンジでして。通常のゲームでは、プレイヤーを常に夢中にさせ、気を散らす隙のないようにデザインしますが、画面下ゲームではその真逆をおこなう必要があるのです。

本作では、プレイヤーに何かをしてもらいつつ、手を離した間にもゲームが“自律的にプレイ”し、それがプレイヤーにとって有益になることを目指しました。そのためには、プレイヤーがほかのことをしている間にも、キャラクターが常におこなうべきことを用意しなければなりません。たとえば、注文したアイテムが配達されてくる時間を調整したり、キャラクターが食事や睡眠、排便を自動的におこなったり、といったことですね。

もうひとつ挙げるとすれば、プレイヤーが関与していないと見逃してしまうような、時間制限のあるイベントを導入することは避ける必要がありました。

──本作は、Steamのユーザーレビューにてかなり高い好評率を得ています。そうした反響にはどういった感想をお持ちですか。

Andrea氏:
皆さんが『My Little Life』を楽しんでプレイしてくれていることには本当に感謝していますし、嬉しく思っています。一緒に寄り添ってくれる小さな友の存在がどれだけ幸せなことであるかについて世界中のプレイヤーから反響が寄せられていますし、この作品のおかげで長い時間集中でき、仕事や勉強の効率アップにつながったとの声も頂いています。

本作は、成功したと断言できます。私は、より良いゲームを作ることに常に取り組んでおり、皆さんのサポートのおかげで、個人開発者としてゲームを作り続けることができて本当に幸せです。

──では、本作は今後もアップデートを続けるのでしょうか。計画している追加要素は何かありますか。

Andrea氏:
もちろんです!もうすぐ農業アップデートを配信する予定となっており、これには60種類以上の新アイテムと、野菜や果物を育てて販売する農家の職業の追加が含まれます。

──もし、また別の画面下ゲームを作るとしたら、どのような作品にしたいですか。このジャンルにはまだ可能性があると感じていますか。

Andrea氏:
ゲームプレイを拡張する方法はたくさんあるので、『My Little Life』のサポートをしばらく続けるなかで考えます。次回作については、画面下ゲームにはならないと思います。私は、まったく異なるゲームを作るのが好きで、それがより優れたゲームデザイナーになることにつながると信じているので。

これまでには、メトロイドヴァニアやデッキ構築型ローグライクタワーディフェンスを手がけ、今は小さなライフシムに携わっています。次はまたゲームジャンルを大きく飛び越えることになるでしょうね。新しいものを作ることが本当に好きで、それにワクワクさせられるのです。

──では最後に、日本のユーザーにメッセージをお願いします。

Andrea氏:
皆さんのサポートには本当に感謝しています。デスクトップ下に『My Little Life』が映る日本中の画面を見たい気持ちです。そして、皆さんが日々の生活を送るなかで、この作品が癒しになることを願っています。

──ありがとうございました。

なお、インタビューにて言及された農業アップデートは、3月1日に配信された。リトルの新たな初期職業として農夫が導入され、農業関連の作物や道具など60種類以上のアイテムも追加。農夫は、家の外での活動の幅が広がることにつながる職業となり、育てた作物を収穫した際にクレジットを得ることができる。また作物は、種類によりさまざまな特性が存在する。

同アップデートではこのほか、CaveLiquidが手がけた放置系小動物飼育シミュレーションゲーム『デスクトップ小動物牧場』とのコラボも実施。ペットとして飼えるキャラクターとして、同作に登場する動物が追加されている。

『My Little Life』は、PC(Steam)向けに現在配信中だ。

Taijiro Yamanaka
Taijiro Yamanaka

国内外のゲームニュースを好物としています。購入するゲームとプレイできる時間のバランス感覚が悪く、積みゲーを崩しつつさらに積んでいく日々。

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