突如閉鎖されたMonolith Productionsの特許「ネメシスシステム」、2036年まで親会社ワーナーが保有予定との報道。ただしスタジオ閉鎖・新作開発中止で宙ぶらりんに

WB Games傘下のMonolith Productionsは、2月26日に閉鎖が報じられた。同社の手がけるタイトルに用いられていた「ネメシスシステム」の特許については、WB Gamesが最長2036年まで保有できると報じられ、話題となっている。

先日、Warner Bros. Games(以下、WB Games)傘下のスタジオMonolith Productions(以下、Monolith)の閉鎖が発表された。同スタジオの手がけた『シャドウ・オブ・モルドール』『シャドウ・オブ・ウォー』の特徴的な要素「ネメシスシステム」の特許を、WB Gamesの親会社であるワーナー・ブラザース・エンターテインメント(以下、WB)が2036年まで保持できることが報じられた。Eurogamerなどが伝えている。

『シャドウ・オブ・モルドール(Middle-earth: Shadow of Mordor)』『シャドウ・オブ・ウォー(Middle-earth: Shadow of War)』は、J・R・R・トールキンの小説「ホビットの冒険」「指輪物語」で知られる中つ国(ミドル・アース)を舞台にした、ファンタジーオープンワールドRPGだ。

『中つ国(Middle-earth)』シリーズの特徴は、プレイヤーそれぞれに異なる物語が生み出される「ネメシスシステム」だ。このシステムはひとことで言うと、それぞれの敵が個性を持ち、プレイヤーとの関係性を記憶しているというもの。

たとえば敵勢力には多数のオーク軍団があるが、それを束ねる軍団長はランダム生成される。このバリエーションが多岐にわたり、名前や二つ名だけでなく、冥王の狂信者ダーク族や、戦争好きのウォーモンガー族といった、多彩な特色を持つ「部族」や、重装甲のタンクやステルスが得意なアサシンといった「クラス」が複数登場する。その上ほかのオークとの兄弟関係やライバル関係も設定されており、NPCながらユニークなキャラクター設定が付与されているのだ。

そしてプレイヤーは、作中で個性豊かなオークたちを相手取るだけでなく、友好を結んだり、支配し命令したりすることもできる。この行動をオークたちは覚えており、プレイヤーの行動次第で、プレイヤーを恐れて逃げ出したり、はたまたあざ笑ったりと反応を示す。それだけでなくプレイヤーを打倒したオークが軍団内で昇進していたり、信頼していたオークが裏切ったりと、ストーリーや展開、勢力図にも影響を及ぼす。大規模で野心的なシステムとなったネメシスシステムは、独自性ゆえか、2016年にはWBにより特許申請もされている。

ネメシスシステムはプレイヤーの行動によって物語の体験を大きく変えることから、没入感が増すとしてユーザーからの好評も集めていた。Steamユーザーレビューでは記事執筆時点で『シャドウ・オブ・モルドール』が約5万8000件中92%の好評率、続編の『シャドウ・オブ・ウォー』は約7約9000件中88%の好評率でどちらも「非常に好評」ステータスを獲得している。またMonolithは2021年にDCコミックスの「ワンダーウーマン」をテーマにしたゲーム『Wonder Woman』を発表。同作にもネメシスシステムが搭載される予定であった(関連記事)。

しかしMonolithは2月26日、WBのゲーム部門の方針転換によって突然閉鎖され、『Wonder Woman』もそれに伴い開発中止となった(関連記事)。それでは特許まで取得したネメシスシステムはどうなったのだろうか。Googleが運営している特許データベースに登録されている情報によると、ネメシスシステムは2016年にWBが特許を申請。その有効期限は2036年の8月となっている。

つまりWBは特許を維持するための特許料を納めれば、今後最大でおよそ11年半はネメシスシステムの特許を保持できる。しかしネメシスシステムのノウハウを持っていたであろうMonolithは閉鎖され、同システムを活用したタイトルの開発も報じられていない。つまりこの特許は現在発表されているタイトルに活用されておらず、宙に浮いた状態と見られるわけだ。

『シャドウ・オブ・モルドール』

過去弊誌では『シャドウ・オブ・ウォー』について、選択によって物語が平坦になってしまう可能性を指摘し、改善の余地もあるとしつつ、野心的なネメシスシステムを評価するレビューをお届けした(弊誌レビュー)。またWBがネメシスシステムの特許を2036年まで保有できると伝えた報道について、海外掲示板Redditでは、ネメシスシステムを搭載したゲームが開発されないことへの悲しみやスタジオ閉鎖を悼む声が寄せられている。そのほかNPCの一生すら左右するといった、大規模で没入感を生んでいたネメシスシステムの行方を気にする声もあり、ユーザーもその動向を見守っているようだ。

Monolithはそんな高い評価を受けていたネメシスシステムのさらなるアップグレード、そしてシステムが十全に活かされたタイトル制作を目指し『Wonder Woman』を開発していたと思われる。ただ同システムは、WBのタイトル状況もあわせ、Monolith閉鎖によって“宙ぶらりん”になってしまったのではないかと考えられるわけだ。今後WBが同システムを活用したタイトルを新たに送りだすのか、特許をこのまま保有するのかどうかといった点にも注目が寄せられるところだろう。

Yusuke Sonta
Yusuke Sonta

『Fallout 3』で海外ゲームに出会いました。自由度高めで世界観にどっぷり浸れるゲームを探して日々ウェイストランドをさまよっています。

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