『ポケモン赤』を「最新AI」がプレイする生放送に、熱い声援巻き起こる。純粋で頭でっかち、ほっとけないAI
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スタートアップ企業Anthropicは2月25日、同社が開発するAIチャットモデル「Claude 3.7 Sonnet」を発表した。また同社は“ハイブリット推論モデル”である「Claude 3.7 Sonnet」の高い性能をアピールするため、Claudeに『ポケットモンスター 赤』(以下、ポケモン赤)をプレイさせる生配信「Claude Plays Pokemon」をTwitchにて放送中。1000人を超える視聴者に見守られながら、ゆっくりとクリアを目指している。
今回の配信では画面左側にClaudeが出力するチャット画面、右側に操作するゲーム画面が映し出されている。チャット画面をよく見ると「<thinking> ~ </thinking>」とタグで囲われた部分があるのがわかる。これこそが「推論モデル」の特徴であり、自分の思考の過程をしっかりと出力し、それをもとにより正確な回答を導くような仕組み。たとえば今回の『ポケモン赤』のプレイでは、まず現在見える建物の特徴などを報告し、自分がこれからどう移動するべきか・どのボタンを押すべきかなどを分析し、その後実際に行動するような流れを繰り返しているようだ。
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そんな「推論」は、近年高精度だと謳われている各社のAIの中心になっているアルゴリズムだ。米OpenAIが作ったモデル「o1」に始まり、米Googleや中国DeepSeekなどが追従する形で推論モデルを開発してきた。
そして今回発表された「Claude 3.7 Sonnet」は、「通常モード」と「拡張思考モード」を自由に切り替えて使えるという。簡単なタスクには素早く正確に答えつつ、難しい問題にはじっくり時間を使ってより精度の高い回答を導き出す、というような高い柔軟性が長所のようだ。Anthropicはこの新モデルの性能進化のアピールとして、『ポケモン赤』の“プレイスキル”を紹介。従来のモデルではマサラタウンを出ることはできても、その後結局進行が途絶えてしまうような状態だったそうだ。一方で新モデルではテストにて『ポケモン赤』のジムリーダー3人の撃破に成功したとのこと。従来のモデルからの目覚ましい進歩だそうで、同社はTwitchの生放送でも実際にClaudeのプレイングを紹介しているかたちだ。
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そんなClaudeながら、クリアまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。というのも、Claudeの攻略はとても遅い。少し移動しては現在のゲーム画面を分析し、じっくり考えてから歩き出すことの繰り返し。仕組み上、行動の前に、いちいちやたらと熟考するためだ。本稿執筆時点ではニビシティを訪れていたが、配信開始から約17時間が経過してもなかなか抜け出せていない。とてもマイペースなプレイだ。
たとえばClaudeは、ポケモンセンターを探そうと歩き回るも、なかなか発見することができない。困ったClaudeは立ち寄ったフレンドリィショップで「目の前のNPCに話しかけて、ポケモンセンターの場所を聞いてみよう」と思考。NPCに声をかけることを思いつく。まるで本当にゲーム内世界に入り込んだかのような、AIならではの純粋な思考もうかがえる。ただ悲しいことに、NPCはポケモンセンターの場所を教えてくれなかったようだ。
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その後、数分かけて無事ポケモンセンターを発見し入ることに成功すると、視聴者らは「AGI(人間を超えた人工知能だ)」と一斉にコメントし大盛り上がり。何気ない動作をべた褒めするコメント欄には連帯感が見られ、今回の配信はAIの性能アピールというよりClaudeのあどけないプレイを皆でやさしく見守るという不思議な楽しまれ方をしている。魚が『ポケモン』シリーズをプレイする「むてきまるチャンネル」を彷彿とさせる盛り上がりだ(関連記事)。
なおそんなClaudeも、ポケモンバトルにおいては流石の分析力をみせていた。タイプ相性や覚えているわざなどを考察して、ダメージを丁寧に計算。思った通りのプレイが出ると「Perfect!(完璧だ!)」と自画自賛。推論モデルにとっては“上手くいった”ということをしっかり理解するための意味のある出力ながら、なんだかとても微笑ましい。
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ちなみに、Anthropicは2021年に設立されたAI開発企業。「ChatGPT」でもおなじみのOpenAIの元メンバーらによって立ち上げられたという経緯がある。同社の開発するAIチャットモデル「Claude 3.5 Sonnet」は、特にプログラミング用途などで優秀な性能を発揮しており、ソフトウェア開発では積極的に採用されてきた。ライバル関係にあるOpenAIとは、今後も技術力を張り合いながら切磋琢磨していくものとみられる。
今回遊ばれている『ポケモン赤』は(通信対戦を除けば)1人用のゆったりとしたプレイのゲームだが、今後研究が進めばアクションゲームなどをこなせるAIモデルも出てくるかもしれない。筆者としてはあどけないAIのプレイングも好きなので、対人ゲームでAIが無双する未来は、見たいようで見たくない。
「Claude 3.7 Sonnet」が『ポケットモンスター 赤』をプレイする「Claude Plays Pokemon」はTwitchにてライブ配信中だ。チャンピオンにたどり着くことはできるのか、そこまでにあと何時間かかるのか、注目したい。