『バーチャファイター5 レヴォ』は『バーチャファイター5』の「最終形態」。13年ぶりのバランス調整実施の経緯や意図、実装までの道のりを青木Pに訊いた
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2025年1月28日、遂にSteamにて発売された『Virtua Fighter 5 R.E.V.O.(バーチャファイター5 レヴォ)』。シリーズファンの関心を集める今作は、長年にわたって語り続けられてきた『Virtua Fighter 5』の最終形態ともいえる一作。この期待作の開発の背景や挑戦について、「Legacy VIRTUA FIGHTER Project」のプロデューサーを務める青木盛治氏に話を訊いた。
――自己紹介をお願いします。
青木盛治(以下、青木)氏:
これまでの「バーチャファイター」……いわゆる「Legacy VIRTUA FIGHTER Project」のプロデューサーを務めています青木です。今回の『バーチャファイター5 レヴォ』およびPS4版『バーチャファイター eスポーツ』の開発も担当しています。
――『バーチャファイター5 レヴォ』の製品紹介をお願いします。
青木氏:
2021年6月にPS4向けに『バーチャファイター eスポーツ』を発売しました。そこから数年経ち、今回Steam版として新たに『バーチャファイター5 レヴォ』を発売することになりました。
『バーチャファイター5 レヴォ』は主にはPS4版の移植としつつも、大きく違う点としては「ロールバックネットコード」の実装になります。また、PS4版でも対応している13年ぶりのゲームバランス調整も『バーチャファイター5 レヴォ』に対応しています。
ちなみに現在20%セール中(2月3日まで)ですのでぜひお買い求めください(笑)リリース時からセールするというのは、たぶん弊社的にも珍しくて。それぐらい皆さんの手にお届けしたいという強い思いがありますので、ぜひ「通常版」のほか、よろしければ「30thアニバーサリーエディション」のご購入もご検討いただければと思います!
『バーチャファイター5 レヴォ』がSteam向けになった理由
――「バーチャファイター」シリーズは今までアーケード展開、あるいはコンソール展開がメインでした。今回なぜSteam向けに展開することになったのでしょうか。
青木氏:
先月のTGA(The Game Awards 2024)では新しい展開として「New VIRTUA FIGHTER Project」を発表しましたが、ここでもう一度「バーチャファイター」フランチャイズを再燃させていこうというプロジェクトを進めています。その中でのひとつの取り組みとして、Steam版をリリースさせていただく感じです。
そもそもとして、前作をPS4で出したときに、PCで遊びたいという声をたくさんいただきました。また、「ロールバックに対応してほしい」「バランスを調整してほしい」「アイテムも追加してほしい」というご意見も多くて、いつか実現したいなと考えていたところです。今回、「バーチャファイター」30周年記念というタイミングが後押しとなり、昨年の初頭ぐらいから具体的に検討を進め始めた、という経緯になります。
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―― 『バーチャファイター5 レヴォ』発表にあたってコミュニティの反応はいかがでしたか。
青木氏:
発表前は、正直どうなるかなと身構えていました。前回の『バーチャファイター eスポーツ』が移植だったということもあって、「また移植かな」という声が出るかもしれないと。でも一方で、「やっとPCで遊べる」という期待もあるだろうし、どっちになるのかなと不安がありましたね。
結果ふたを開けてみると、好意的なご意見やご感想を持ってくださる方が多くて、本当にありがたかったです。それに加えて、TGAでの「New VIRTUA FIGHTER Project」の発表も影響して、「バーチャファイター」コミュニティがすごく活性化しているなと感じています。さらに言えば、コミュニティの期待感が強く高まっているのを感じるので、プレッシャーも感じています。それをしっかり乗り越えていけるように、開発チーム一同頑張っています。
――SNSでも海外ユーザーの発信が増えたように感じました。
青木氏:
そうですね。12月13日に配信した「VF Direct 2024」の中でもお伝えしましたが、これまでイベントや施策、SNSの発信などは国内中心という形が多かったんです。でも、今後は国内だけでなく、海外、特に欧米の方々にも「バーチャファイター」ファンがたくさんいらっしゃるので、そこにしっかりリーチしていこうという話をしています。
具体的には、公式Discordの立ち上げや、X(旧Twitter)や公式YouTubeのグローバルアカウントを開設するなど、新しい施策を進めています。これらの取り組みを通じて、海外の方々にもプレイしていただいたり、配信してもらったりと、少しずつ効果が出てきているのではないかなと感じています。
――ところで、国内向けには『バーチャファイター eスポーツ』は”5″ではなく”eスポーツ”と銘打ってリリースされました。今回また”5″のナンバリングを戻したのには何か意味があるのでしょうか。
青木氏:
もともとは『ぷよぷよeスポーツ』を発売したことをきっかけに、eスポーツ事業をもっと広げていこうという流れがありました。その流れに加えて、セガ60周年記念作品として開発した背景がありつつ、eスポーツをもっと盛り上げていくために、『バーチャファイター eスポーツ』という名前にしようということになったんですよね。
でも、今回はグローバルに向けての展開も考えた上で、もっと分かりやすく、統一感のある名称にしようと決めました。そして、『バーチャファイター5 レヴォ』は、私たちとしては『バーチャファイター5』シリーズの「終形態、最終章」として位置づけているので、やっぱり”5″のナンバリングを使った方がいいだろうということで、この名称に決めました。
ロールバックネットコード導入は国内外の対戦を考慮して
――なるほど。理解できました。今回目玉となるのは『バーチャファイター5 レヴォ』のネットワーク対戦に「ロールバック方式」を採用したことだとお話されていました。導入経緯を教えてください。
青木氏:
元々「バーチャファイター」含む格闘ゲームは、アーケードから始まっている文化ですので、オフラインの場で対戦するのが主流だったと思うんです。そこから数十年の時を経て、コンソールやPCが主戦場になってくるとオフラインで戦う頻度が下がってきて、オンラインで対戦することがメインになりました。格闘ゲームでオンライン対戦することにおいては、やっぱりロールバックネットコードみたいなものは必須かなと常々考えていました。
ただ、PS4においては、ロールバックを実装するのは技術的に難しかったんです。13年も前のタイトルですので、レガシーな状態のものに手を加えてロールバックを実装するのが結構ハードルが高くて、実現が難しいなって諦めた部分もありました。けれども、PC展開をするならスペック的な問題は解消されるでしょうし、我々も開発しやすいなと思って、やるならロールバックネットコードを入れるしかないなと。それができなければこのタイトルは作らないぐらいの気持ちでした。
とはいえ、前述したようレガシーなソースに新たにロールバックを入れるというのは結構難しかったです。ただ、検証を重ねていく中で実装できそうであることがわかってきたのでプロジェクトを正式にスタートしました。
やっぱり3D格闘ゲームにロールバックにいれるとなると結構難しいんです。おそらく他社さんのタイトルも、できる部分とできない部分をすみ分けていると思うんですよね。最近はそういうところも解消が見られますが。性質上グラフィックがずれる問題もあるんですけど、その辺もユーザーさんには少しは理解していただけるようになってきているのかなと思います。時期的にも実装してすごく良かったかなと思いますね。
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――先日行われた『バーチャファイター5 レヴォ』のオープンベータテストにて実際にロールバック方式が実装されていました。ユーザーの反応はいかがでしたか。
青木氏:
すごく温かく受け入れられたと思いますし、評価も高かった印象です。特にありがたかったのは、オープンベータという非常に短い期間の中で、ユーザーの方々から、私たちが気づかなかったような指摘をたくさんいただけたことです。そういったフィードバックの受け皿となっていたのが、先ほど言った公式DiscordやSNSですね。ユーザーの皆さんの反応や意見があったからこそ、今回のテストは非常に有意義でした。これらの意見をいただけたことで、実際にやってよかったと感じています。
そのため、いただいた意見を検討して、修正できるものはすぐに修正を加え、先日(1月14日)に変更点一覧という形でお伝えしました。正式にサービスが始まる際には、改善点を反映させた状態で楽しんでもらえるように準備しています。参加していただいた皆さんには本当に感謝しています。
――自分もオープンベータを体験させていただきました。気になった点として、ゲーム的にヒット確認が重要な場面が多く、ロールバック方式を採用すると、ヒットエフェクトが表示されているのに次の瞬間には実際には相手がガードしているなど、相性が悪い部分もあるなと。そこに対する対策はありますか。
青木氏:
そうした問題は認識しています。最初からロールバックを実装するということを設計した上でゲームを作っていれば、こういう問題が起こりづらかったかなと。やはり後から十何年ぶりに追加しているという点が、ハードルが高かった原因だと思っています。
対策としては、設定で「グラフィック優先」か「インプット優先」を選べるようにしているので、ご自宅の環境と好みに合わせて調整していただくことがひとつの改善策だと思います。それでも、なかなか難しい部分はあると思いますので、引き続き検討を続けていきます。
特にグローバル展開を考えると、インフラが整っていない国も多いです。日本国内でのマッチングに関しては、ロールバックは必ずしも必要ではないかもしれません。しかし、海外、特にアメリカなど広いエリアを持つ地域でプレイする場合、やはりロールバックは必須になります。対戦の距離が遠くなるほど、どうしてもラグが発生しやすいので、グローバル展開には非常に重要な要素だと考えています。
――『バーチャファイター eスポーツ』では衣装の追加などが行われました。『バーチャファイター5 レヴォ』でも同様にコスチュームの追加など行われますか。
青木氏:
今のところ予定はないです。が、お客さんのご要望次第では前向きに検討できるかなと。末永く遊んでいただきたいタイトルですし、我々としても、『バーチャファイター5 レヴォ』を使った大会など開催していく中では、それぞれがユニークなコスチュームで個性をアピールしたいというご要望もあると思いますので、そのあたりは公式Discordなどでご意見をいただくのが良いのかなと思います。
――今まで『バーチャファイター eスポーツ』を使用して「VIRTUA FIGHTER esports PRO CHAMPIONSHIP」のプロ大会が行われていました。今後また公式大会が行われるとしたら『バーチャファイター5 レヴォ』へ移行されたりされるのでしょうか。
青木氏:
ゲームの内容が違うので、まったく同じような展開に移行することはちょっと考えてはいません。ただ公式大会をやっていく中で、プロライセンスを持っている8名の方にとって何かしらアドバンテージがあるようなことは考えたいなとは思っています。
13年ぶりのバランス調整は茨の道だったが……
――『バーチャファイター5 レヴォ』に先んじて『バーチャファイター eスポーツ』にてVer.2.0として調整が行われました。『バーチャファイター5 ファイナルショーダウン』の「VERSION A REVISION 1」から数えて実に13年ぶりに調整されたわけですが反響はいかがだったでしょうか。バランス調整をできた経緯も含めて教えてください。
青木氏:
時間がかかった理由としては、当時調整をしていたスタッフがもういなかったこと、そしてそのための開発環境もすでになかったという点が大きな課題でした。まずその環境を作り直し、当時担当していたスタッフを再度アサインすることから始まりました。開発環境をなんとか再構築できたので、更新できるところまでは進んだのですが、そこをいじれる開発スタッフが少なくて。担当できる人が見つかったので、その人を中心にチームを組んで試しにやってみたところ、無事に変更を加えることができました。
ゲームバランス調整に関しては、当時『バーチャファイター5』のバランスを担当していたメンバーがジョインして、彼らがもっていた当時の思いを反映させつつ進めていきました。彼らも、13年間ずっとその思いを抱えていたので、変更したい点が山ほどあったんですね。一旦はその思いをすべて吐き出してもらいましたが、さすがにあまりにも尖りすぎていた部分もあったので……(笑)最終的には少しマイルドな調整を行って、オープンベータに臨むことができました。
――バランス調整の意図を教えてください。
青木氏:
バランス調整における基本的な考え方としては、すべてをナーフ(弱体化)するのではなく、むしろ底上げを目指すことにしました。つまり、強いキャラクターを弱くするのではなく、弱いキャラクターを強化していくことで、全体的にみんなが均等に戦えるような環境を作ることがコンセプトでした。
――鷹嵐だけは例外でしたが……(笑)
青木氏:
(笑)鷹嵐が強いというのは周知の事実でしたし、ほかのキャラクターもしっかり目立つようにしたかったので、少し押さえました。もちろん、キャラクターごとに特性や特徴があるので、その個性を活かしながら調整を進めました。
――そうした意図は、ユーザーにうまく伝わったと感じていますか。
青木氏:
そうですね。昔から遊ばれていた方は、非常に理解が早かったかなと思います。
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――13年前のゲームに手をいれる際に、アセットを変えるだけでなく、根幹のパラメーターの変更や、そのために人を集めるという点では、かなり大変だったのでは。やりきるモチベーションはなんでしたか。
青木氏:
この作品を『バーチャファイター5』シリーズの「最終章」にしたい想いが強かったです。もうこれで本当のおしまい、これで完成と言えるような形に持っていきたかった。コストはかかりましたけど……(笑)キャラ調整は作るだけではなくて、調整した後のバランスを見ないといけないので、チェックのコストも結構高いんですよね。
ただ、リソースを割くところが主にロールバックとバランス調整の2点に集中できたのは大きかったです。そこをしっかりやろうと決めていたので、頑張れたうえに、コスト的にも現実的な範囲に収まりました。うまく進められたからこそ結果になったんですけど、それもやっぱり慣れた人をアサインできたからというところが大きかったと思います。
――それでいうと、つい先日1月14日にバトルバランス調整の発表が行われました。いちユーザーとしても嬉しい試みでしたが、今後もアップデートは行われていきますか。
青木氏:
基本的には、コミュニティの反応を見ながら判断していくことになると思います。多くのユーザーさんが不満に思っている点や、改善してほしいと感じている部分があれば、それを見逃すわけにはいきません。そういうところにはしっかりと対応していくべきだと考えています。
私たちとしては、13年ぶりの調整を経て、これで一旦やり切ったと思っていますので、これからはダイナミックに大きく変えるということはないかもしれません。しかし、細かいバランス調整が必要になってくる部分はあると思いますので、そのあたりは都度行っていきたいと考えています。
特にSteamはアップデートが比較的簡単にできるので、調整が必要と感じたタイミングでアップデートしやすいです。また、不具合が出る可能性もあると思いますので、その際は不具合の修正とともにバランス調整も行うという考え方で進めていきたいと思います。
――改めてお聞きしたいのですが、いま格闘ゲームは大盛りあがりしており、あるいは戦国時代ともいえると思います。その中で、「バーチャファイター」だからこそできる体験というのは何だと青木さんは思いますか。
青木氏:
初代「バーチャファイター」は、格闘ゲームとして作ったわけではないんですよね。あくまでも人間的な人体シミュレーションの一環として作られた。そこからもわかるように、今の格闘ゲーム業界、ジャンルとは一線を画しているところが「バーチャファイター」シリーズの強みだと思うんです。そのため、他タイトルに追いつこうとか追い抜こうとか、そういうことじゃなくて、別ジャンルみたいな形で堂々としているのが「バーチャファイター」かな、と思っています(笑)
3つボタン操作という簡単なところからゲームがスタートしていて、派手なエフェクトがなくてシンプルで遊びやすい。「格闘ゲームとはちょっと違うかもしれないけど、格闘ゲームっぽい」ところが「バーチャファイター」の特徴なので、そこはいいところだと思っていて、伸ばしていきたいなと思いますね。一方で、他の格闘ゲームとは異なる面をしっかり見せていかないといけないとも思っています。
――最後に、ユーザーにメッセージをお願いします。
青木氏:
繰り返しになりますが、今回の『バーチャファイター5 レヴォ』は、次の新しい「バーチャファイター」に繋がるための一つの施策だと捉えています。まずは、このタイトルでしっかりと「バーチャファイター」の世界に慣れ親しんでいただき、そこから新しい「バーチャファイター」を期待していただければ嬉しいです。
――ちなみに青木さんは今後「バーチャファイター」にどう関わっていきますか。
青木氏:
今までのレガシーを大切にしつつ、新しい方々に楽しんでもらうためには、少し違うアプローチも必要だと感じています。そのバランスを取るのが私の役割だと思っています。「New VIRTUA FIGHTER Project」は山田プロデューサーが進めていますが、お互い新旧の力を合わせていければと考えています。私は「Legacy VIRTUA FIGHTER Project」のプロデューサーとして、全体を俯瞰しながら今後もこのバランスを取りつつ、「バーチャファイター」フランチャイズの発展に尽力していきたいと思います。
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――ありがとうございました。
[聞き手・執筆:Hiroshi Hirose]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]