人気目玉焼き調理ゲーム『Arctic Eggs』開発者、プロトタイプから製品版までに変更した要素をみっちり解説。「イライラゲー」にするつもりはなかった
デペロッパーで個人開発者のThe Water Museum氏は12月17日、『Arctic Eggs』のゲームジャム(初期)版とSteam版の違いについて、本作Steamストアページを通じて解説をした。本作のリリースにあたって開発中に変更された点や、削除された要素がさまざま伺える内容となっている。
『Arctic Eggs』は5月16日、PC(Steam/itch.io)向けに配信されたアドベンチャーゲームだ。本作の舞台は2091年、南極に位置する謎めいた施設。主人公はその施設に囚われており、この世界で違法とされる卵料理を人に振る舞いながら脱出を目指す。
プレイヤーはマウスでフライパンを傾け、生卵やソーセージといった食材に火を通してゆく。ゲームプレイにおいては、食材をひっくり返して色んな面を焼くだけでなく、ときには銃弾やタバコといったものすらフライパン上で扱うこととなる。本作はシンプルながら歯ごたえのある難易度や退廃的な世界観が人気を呼び、発売間もなく人気が爆発。本稿執筆時点で、Steamユーザーレビューにて2369件中97%が好評とする「圧倒的に好評」のステータスを獲得している。(関連記事)
本作は2023年末におこなわれたゲームジャムにて、2週間弱で制作された作品が元となっている。このたび作者であるThe Water Museum氏は、本作のゲームジャム版の公開1周年を記念してSteamストアページを更新。製品版リリースにあたって加えた変更について語った。
製品版の開発で真っ先に変更した点は、フライパンのWASDキー操作の削除だったという。ゲームジャム版ではマウスでフライパンの角度を、キーボードのWASDキーでフライパンを前後左右に操作することができた。フライパンの位置を微調整することで、食材を返しやすくすることが狙いだ。
しかし、ゲームジャム版をプレイした人は、キーボードのWASD操作を中心に使用する傾向があったという。この理由についてThe Water Museum氏によれば、本作は操作体系が独特であるため、プレイヤーに馴染みのあるキーボード操作ばかりが用いられたとの見解を述べている。そしてその結果、フライパンを傾ける操作を無視して食材をひっくり返そうとするプレイヤーが続出し、それがプレイヤーのイライラに繋がってしまったと分析している。そこでThe Water Museum氏は、プレイヤーをマウス操作に誘導するよう、キーボードでのフライパン操作は削除したのだそうだ。
*例として挙げられていた、ゲームジャム主催者Dunkey氏のプレイの様子。フライパンを傾けず前後左右に動かし、無理矢理目玉焼きをひっくり返そうとしているのが分かる
ゲームバランス面では、食材の焼き上がりが数秒早くなり、フライパンの縁が長くなっている。フライパンの大きさは、開発途中に難易度の高さに疑問を持ったため、プレイテスト後にも関わらず発売2、3週間前に急遽大きくしたとのだそうだ。なおゲームジャム版で使われたフライパンは、製品版のハードモードで使うフライパンと同じ大きさとなっている。
ちなみに、イワシは当初「動きも見た目もつまらなく魚のように見えない」と削除される予定だったが、ラグドール物理を追加したところ、「ちょっとした跳ね方が食べ物っぽい印象を与える」と気に入って削除を思いとどまったそうだ。
製品版ではグラフィック面も向上。光の当たり方を突き詰め、主に料理パートの視認性を良くしたそうだ。なお、製品版ではディザリングフィルターが適用されているが、これは同パブリッシャーより発売された『Buckshot Roulette』を遊び、見た目が気に入ったから同じような視覚効果を採用したのだとか。
ストーリー面でも細かい変更が加えられ、製品版にはゲームジャム版で起きた出来事を示唆する演出が盛り込まれている。ゲームジャム版ではエベレストの頂上で目玉焼きを作るシーンがあったものの、こちらは製品版にて削除されたそうだ。ほかにもカメラの移動など、細かい調整点は多くあるとのこと。
The Water Museum氏は、多くの人は本作を「イライラゲー」に分類しているが、自身はそう思わないとコメント。『Getting Over It』などの例を挙げ、そうしたゲームは悪戦苦闘したり、自分の忍耐やイライラ、そして失敗を受容することがテーマだと述べた。それに対して、本作は作品世界を体験することが核とのこと。ゲームをクリアしてほしいため、料理パートをスキップ可能にするといった機能も実装したそうだ。
そのため、本作の絶妙な難易度については、あくまで意図せぬ結果だとのこと。とはいえそうした評価についてThe Water Museum氏は、多くのプレイヤーが料理の工程をスキップせずこの作品と真摯に向きあって、世界と繋がり意味を見出そうとした証拠だとして感謝している。
『Arctic Eggs』はPC(Steam/itch.io)にて配信中。また、ゲームジャム版もitch.ioにて無料で配信されている(こちらは英語のみ)。