『バルダーズ・ゲート3』には、「ダイスへの妙なこだわり」が仕込まれている。いつも目にするけど気づきにくい“実物さながら”表現


デベロッパーのLarian Studiosは2023年8月4日、『バルダーズ・ゲート3(Baldur’s Gate 3)』を正式リリースした。発売から約1年がたつ本作には、スキル説明画面においてとある「こだわり」があるという。ユーザーより報告され、“長時間プレイしたはずなのに知らなかった”との驚きの声が多く寄せられている。

本作は、RPG『Baldur’s Gate』シリーズのナンバリング最新作だ。本作の舞台となるのはファンタジー世界「フォーゴトン・レルム」。プレイヤーはこの地を、仲間と共に自由度高く冒険することになる。ファンタジー・テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の第5版ルールをベースとしており、TRPGのメカニクスをゲームに落とし込んだいわゆるCRPGとして展開されるゲームプレイが特徴だ。

正式リリースから約1年経った本作。今回ツールチップのとある細かすぎるグラフィックのこだわりが海外掲示板Redditで取り上げられ、プレイヤーの間で話題となっている。

今回報告されたのは、ツールチップにおける「ダイス」のディテールについてだ。“ある条件”に基づき、ダイスのグラフィックは都度変化しているという。この投稿は多くのUpvoteを集め、「485時間プレイしていて初めて知った」「そこまでは気づかなかった」という驚きの反応で盛り上がりを見せている。かくいう筆者も長時間本作をプレイしてきたが、この投稿を見るまでその仕様に気が付かなかった。大きな特徴もないように見えるこのスキルのツールチップ画面が、なぜ多くのプレイヤーに驚きを与えているのか。この「サンダラス・スマイト」という名前のスキルを例にとって説明してみたい。

ツールチップには、まずスキルの出すダメージ数値、およびそれに含まれる属性などの説明が書かれている。この画面自体は多くのプレイヤーが見たことがあるものだろう。

なおダメージの詳細として「1d6+8」の殴打ダメージといった数値が載っているが、その表記にあまりなじみがない読者もいるかもしれない。本作はTRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の第5版ルールをベースとして、その処理をゲーム上でできるだけ忠実に再現している。そのためダメージの数値計算などもTRPGと同様に、さまざまな種類の多面ダイスで行われるわけである。『ダンジョンズ&ドラゴンズ』第5版ではおなじみの6面ダイスのほか、4面体、8面体、10面体、12面体、20面体の計6種類のダイスが用いられる。

ここで「1d6+8」の数字を説明すると、6面ダイスを計1個振り、出た数値に+8するということになる。ちなみにたとえばもし2d8+8という表記であれば、8面ダイスを2個振り、出た数値を合計した値に+8することになる。

そうした点を踏まえて読むと、「サンダラス・スマイト」は、最低値が8より大きい殴打ダメージに加えて、光輝ダメージおよび雷鳴ダメージを、それぞれダイスの出目に応じたランダムな範囲内で相手に与えるスキルであるということがツールチップからはわかるわけだ。総ダメージの予測としては12~34ダメージとなっており、このばらつきを生み出しているのが、各判定で振られたダイスの目の結果ということになる。

ただ、本作のプレイにおいてはそこまでダイスについて理解している必要はない。先述のとおり総ダメージ予測の表記も用意されているため、数値の意味をプレイしているユーザーであっても、あまり意識しないだろう。なぜなら各スキルの判定はゲームで内部的に自動で行われるため、実際にプレイヤーが“ダイスを振る”ことはないからである。


しかし先述のRedditユーザーは、ツールチップに描かれているダイスをよく見ると、実際にゲーム内で行われる判定に対応した多面ダイスがわざわざ忠実に描かれていることを報告。しかも本作のツールチップのダイスは面の数だけでなく、実は属性ごとに色分けまでされているこだわりっぷりだ。 先述のとおり本作では実際にダイスを振りながらプレイするわけではなく、そもそもツールチップをじっくり読まなくてもよい仕様といえる。そのため、ダイスの種類のこだわりに気づかないプレイヤーが多かったのだろう。細やかな作り込みに対して、今になって驚きの反応が多く寄せられている格好だ。


ちなみに本作においては、たとえばストーリーの選択肢にて20面ダイスで一定以上の数値を出さないと進めない場面が多数存在。能力値による選択肢の成功判定が行われるわけだ。そういった大事な場面では、実際に画面上でダイスが振られる演出も盛り込まれている。これも、本作が『ダンジョンズ&ドラゴンズ』をベースとしていることを意識させる演出だろう。

本来であればダイスの処理やゲームマスターによるシナリオ進行といったことはゲームで内部的に処理される部分。一方本作はあえてダイスの存在やダイスロール演出が細やかに盛り込まれており、デジタルゲームながらも「TRPG」をプレイしている気分にさせる狙いがあるのかもしれない。

Image Credit: “Let’s Play Baldur’s Gate 3: Early Access – Ep 1” on YouTube

なお、ダイスの絵の細かな違いは本作の早期アクセス配信開始当時、2020年ごろのバージョンからすでに実装されていたことが確認できる。振るダイスの個数も忠実に描かれているなど、もっと細かくこだわっていたようだ。正式リリースに至るまでに個数の表現が撤廃されたとみられる理由は不明ながら、本作は終盤では多くのダイスやダメージタイプが合わさり、ダイスロール判定もより賑やかになっていく。中にはダイスを10個振るといった処理もあるため、グラフィックが煩雑になりすぎるとして見送られた可能性はあるだろう。とはいえ簡略化されつつ正式リリース版でも残されているところを見ると、細かなダイス表現への開発者の執念も感じるところかもしれない。

本作ではダイスロールをすべてゲーム側に処理してもらえることもあり、実際のTRPGのようにダイスの種類や個数に気を配る必要はない。プレイにあたって楽ではあるものの、たまには実際にダイスを振る行為に思いをはせながら、見慣れたツールチップを見返してみるのもよいかもしれない。

『バルダーズ・ゲート3』はPC(Steam)/PS5向けに発売中。