Valve開発者、 “ChatGPTに相談”して新作シューターのマッチメイキングシステムを作っていた。AIが対戦待ちの時間を減らす方法を教えてくれた


大手ゲーム会社Valveの開発者であるFletcher Dunn氏。同氏によると開発中の新作のマッチメイキングシステムには「ハンガリアン法(Hungarian algorithm)」が使われており、それを生成AIの一種である“ChatGPT”に相談して見つけたことを明かしている。PCGamerが報じている。

Fletcher Dunn氏はValveの開発者だ。2011年からValveに在籍している。ベンチャー企業などの情報データベースサイトCrunchDatabaseによると、同氏は『Dota 2』『Team Fortress 2』『CS:GO』といったValveのゲームやSteamの開発に携わってきたという。実績としては同社のタイトルにおける大規模なDDoS防御システムを構築したとのことで、ネットワーク関連にも明るい開発者のようだ。またゲーム開発者向けの3D数学の入門書として、3D Math bookもWeb上で無料公開している。

そんな同氏いわく、現在Valveによって開発されている新作、『Deadlock』のマッチメイキングシステムを数日前に「ハンガリアン法」を利用したものに切り替えたという。そして同氏は「ハンガリアン法」を生成AIの一種であるChatGPTに相談して見つけたとも明かしている。

同氏は「my ChatGPT wins(ChatGPTの勝利)」としながらそのやりとりをポストしている。公開されている内容によると、同氏はChatGPTに対してとある条件のマッチングを実現するアルゴリズムについて質問。その条件としては、一方が選択肢に重みを持っており、それがスコアとして表現され、そのスコアの総量が最小限となるマッチメイキングとなるアルゴリズムであるとしている。

それに対しChatGPTは、同氏の質問が「最小重みマッチング(minimum weight matching)」の問題であることを認識、それを効率よく解くためのアルゴリズムとして同氏にハンガリアン法(Hungarian algorithm)を勧めている。つまり複雑な質問の趣旨を理解した上で、ChatGPTがそれに合った答えを即座に提案したかたちのようだ。

ハンガリアン法とは、個々人によってコストなど重みづけの違うタスクを効率よく割り当てるための「割り当て問題」を解決するためのアルゴリズムのひとつ。その活用例として実際にDeadlockで実装されているマッチメイキングシステムを上げてみたい。本作ではオンラインマッチに参加する際、プレイヤーは最低3人のヒーローをピックすることができる。またヒーローごとに優先順位をつけることが可能。この“優先順位”で各選択への重みづけが行われているわけだ。

『Deadlock』 スクリーンショットは非公式日本語化Modを適用した状態

なお試合は6vs6、計12名のプレイヤーによって行われる。そして通常のオンラインマッチングではヒーローは敵味方含め重複することがないため、試合には異なる12体のヒーローが毎回登場する。それぞれのプレイヤーの希望を最大限に満たす割り当てを導き出すために、同氏曰く「ハンガリアン法」が使われているということのようだ。これによりプレイヤーは「やりたい枠が空かなくてマッチメイキングに時間がかかる」「全くやりたくないヒーローをやらされる」といった問題が最小限に抑えられ、スムーズなマッチメイキングが実現することになる。

またFletcher Dunn氏は現在のChatGPTを高く評価している模様。X上で、現代は“ChatGPTの黄金時代となるだろう”と予言している。同氏は現在のGoogle検索がSEOやクリックベイトに汚染された状況と比較し、いまはChatGPTのほうがより素早く、質の高い情報へのアクセスができるという見方を示している。とはいえ、ChatGPTでも今後質の低いコンテンツが氾濫し、良質なコンテンツへのアクセスが難しくなるというGoogle検索と同様の課題を抱えることになるだろうとしており、“法的に問題のある”コンテンツが引用される懸念も示している。

ゲーム開発における生成AIの利用については、大手ゲーム会社を例にとっても各社さまざまなスタンスを取っている状況である。たとえばElectronic Arts 社のCEOを務めるAndrew Wilson氏は「開発プロセスの 50% 以上が、生成 AI の進歩によってプラスの影響を受ける」として生成AI技術の利用について歓迎の方針を示している(Game World Observer)。そういった意見もある一方、任天堂の社長、古川俊太郎氏は投資家向けの説明で生成AI技術は「知的財産権に関する問題なども有していると認識している」とし、「単純に技術だけでは生み出すことのできない当社ならではの価値を、これからも届けていきたい」とその活用に慎重な姿勢を示している(IT Media)。

なおSteamにおいては、以前は生成AIを含むゲームの配信を原則として許可しない方針を示していた。しかし2024年1月以降は一定の制限付きで公開が認められている(関連記事)。開発者は作品をSteamに提出する際に、AIツールを使用して作成されたあらゆる種類のコンテンツ(アートやサウンド、コードを含む)について事前に開示する義務があり、その開示情報の多くはストアページで掲載される。しかし本ルールは「必要に応じて今回の決定を再検討する予定」ともされており、生成AIを利用したゲームについては引き続き慎重な姿勢を見せている。

今回のDunn氏のケースは、あくまでChatGPTを“AIの相談相手”として利用した例であり、生成AIによって生成されたソースコードを新作にそのまま利用しているということではないようだ。また『Deadlock』は開発中のタイトルで、現在もSteam上でリリースされていないことも注意が必要だろう。とはいえ同氏のような実績ある開発者が、問題解決のためにChatGPTを活用することを明言しているのは興味深い。ゲーム開発、およびその商業利用についてはさまざまな問題を抱える生成AIでありながらも、良い側面を利用することでゲーム開発に役立つこともあるということが同氏によって示されたかたちだ。