『真・三國無双 ORIGINS』開発者インタビュー。原点回帰の理由は、前作や葛藤にあり。だから「りょふ」もふりがな付き

『真・三國無双 ORIGINS』開発者インタビュー。弊誌では本作のプロデューサーを務める庄 知彦氏へインタビューを実施した。その内容をお届けしよう。

先月開催された東京ゲームショウ2024(以下、TGS2024)。コーエーテクモゲームスのブースでは、2025年1月17日に発売を控えたシリーズ最新作『真・三國無双 ORIGINS』のプレイアブル出展が行われていた。そんな中、弊誌では本作のプロデューサーを務める庄 知彦氏へインタビューを実施した。その内容をお届けしよう。

『真・三國無双 ORIGINS』はコーエーテクモゲームスが送る『真・三國無双シリーズ』最新作。1月17日に発売を予定している。対応プラットフォームはPC(Steam)、PlayStation5、XboxSeries X|Sとなっている。本作は原点回帰をコンセプトとしつつ、オリジナル主人公の存在を通じ、「赤壁の戦い」までを描く内容となっている。


――本作のコンセプトとして、「原点回帰」が掲げられています。なぜ今のタイミングで原点回帰を行おうと思ったのでしょうか。

庄氏:
理由としては、長い時間をかけてシリーズを重ねていくなかで、「ファンが多様化してきた」ということが挙げられます。キャラクターの魅力を主に楽しんで頂いている方もいれば、爽快アクションとして楽しんでいる方もいる。もともとのシリーズコンセプトであるタクティカル・アクションとして遊んでくれている方もいます。ゆえに、作品のターゲット層を絞り込むことが難しくなっているという状況にあります。逆に、包括的な作風にするというのも、開発リソースやゲームボリュームの限度からして厳しい。『真・三國無双』とはどういったゲームなのか、今一度見つめ直す時期が来たと思っています。

前作の『真・三國無双8』ではオープンワールドに挑戦しましたが、賛否両論の結果となりました。そして、グローバル的な観点からして、ファン数が減少している状況にあることは否めません。そのため、シリーズの未来について開発部で議論を重ねた結果、『真・三國無双』の魅力とは「タクティカル・アクション」であると結論付けました。自由度の高い攻略と、三国志演義の舞台となる戦場をシミュレートする面白さの融合ですね。この要素はシリーズ初期作に顕著でした。そしてこの要素を現代的な技術で再構成し、あらためて皆様にお届けするべきなのではないかと思い、原点回帰に舵を切った次第です。

――私としては、若い人を中心に「三国志演義」という題材そのものの知名度が低下している印象にあります。本作は原点回帰をコンセプトにしていますが、どういったユーザー層に遊んでほしいですか。

庄氏:
本作はシリーズファンの方が遊んだときに『真・三國無双』の魅力を再発見できるような内容に仕上がっていると認識しています。その上で重要視しているのは、シリーズ作品や「三国志演義」をご存じない方に本作を遊んでもらうことです。

今回、物語として描かれる範囲が「赤壁の戦い」までに絞られていることや、「記憶喪失のオリジナル主人公」を登場させたのは、新規ユーザーの方がスムーズに『真・三國無双』の世界に没入できるよう体験をデザインするためです。『真・三國無双』シリーズのファンになっていただくには、遊び自体が優れた内容になっていることはもちろん、『真・三國無双』の魅力に浸っていただく必要があります。『真・三國無双 ORIGINS』はシリーズファンだけでなく、特に新規ユーザーに向けて、とにかく丁寧に作られた作品となっています。


――新規ユーザーの方に向けて、具体的にはどのような工夫が盛り込まれていますか。

庄氏:
まず挙げたいのは「物語」についてですね。「三国志演義」は膨大なボリュームのあるコンテンツですが、それに合わせて網羅的な物語を描くと、どうしても1つ1つの要素が薄くなってしまう。出来事の内容もそうですし、登場人物の深堀りも出来ません。今回「赤壁の戦い」まで絞られているのは、「三国志演義」をご存じない方に向けて、体験の濃度を保った上で、丁寧に魅力を伝えるためになります。

物語と言えば記憶喪失のオリジナル主人公もそうですね。主人公が記憶喪失であることは物語の設定に先立って決めました。本シリーズは既にグローバル展開しており、私達が想定している新規ユーザーの中には、もちろん「三国志演義」に馴染みが薄いであろう国々の方も含まれています。そうしたユーザーが登場人物や歴史的背景をまったく知らない状態からでも楽しめるように、オリジナル主人公による物語を描きました。

さらに言うと、オリジナル主人公という部外者のような立場の人間が主人公になっていることで、武将たちが主人公にしか見せない顔を見せてくれたり、既存シリーズとは異なる視点から歴史的出来事を描けるようになってもいます。たとえば周瑜が立場上言えないことを、主人公にこぼしたりだとか。『真・三國無双』シリーズは何度も同じ歴史を繰り返していますが(笑)、シリーズファンの方も楽しめる物語になっていると思います。

「ゲームの部分」に関しては、従来より、チュートリアルの充実や操作のし易さに重きを置いた内容に仕上がっています。本作は主人公が固定化されている都合上、ゲームを進めていくと、採用できるアクションなどの要素が増え、仕組みが複雑化していく傾向にあります。そのため、新規ユーザーの方、とくにゲームに対してあまり馴染みの無い方がパニックにならないよう、段階的に要素の解放を行うなどしています。本作は歴代作品の中でもいちばん遊びやすく、丁寧なフォローが入っている作品であると自負しております。ちなみに、今回TGSに用意した試遊版は真逆のコンセプトで(笑)。とにかく制限時間15分内に要素を濃縮し、限界を攻めました。なので、プレイしてくださった方は色々なことが出来たと思います。

これは個人的な話でもあるんですが、本作は私がこれまでに手がけてきた、他IPとのコラボレーション作品で培った経験もフル活用している作品になります。たとえば、本作には「一騎打ち」のシステムがありますが、これを本作に導入しようと決めた際、私の経験であったり、ω-Forceというチームが積み重ねた経験だったり、さらにいうと他社様のゲームを研究した成果を吟味し、盛り込んでいます。「一騎打ち」というシステム自体は『真・三國無双3』『真・三國無双5』でも登場しています。ですが、それを単に移植するのではなく、『真・三國無双 ORIGINS』という作品の1要素として構成する。そのためにあらゆる手を尽くしている。こういったことを全面的に行ったゲームになっています。


――原点回帰するにあたって、戦場のデザインは旧作からどのように変化しましたか。

庄氏:
戦場のデザインについては、『真・三國無双5』に近いです。水場に入れたり、利用可能な高低差が導入されています。それでいて、プレイヤーが行こうと思った場所へ素直に向かうことができるような、オープンワールド風のデザインになっています。物語の都合で侵入できない場所はありません、マップを眺めて、直感的に自分の攻略法を考えることができるようにしています。

本作の戦場は実質的な一本道ではなく、プレイヤーの選択を尊重できるようレベルデザインを行っています。「タクティカル・アクション」に原点回帰を行うにあたって、自由度、戦略性を重視した内容になっています。かつてのように、最初から敵の本陣に突撃することも可能です。ただ、士気のシステムがある都合上、すぐにやられてしまうでしょうけどね(笑)。

――個人的には、ゲームを進めるうちに、「拠点を潰して本陣を落とすことを繰り返す体験」の繰り返しになりがちという印象がありますが、本作はいかがでしょう。

庄氏:
レベルデザインに工夫をしました。どの戦場にもいわゆる王道の攻め方がありますが、プレイヤーの立ち回りによって、戦場の状況が逐一変化するようになっています。攻略中に、さまざまな事象が、さまざまな場所で、さまざまなタイミングで起きるようになっているんです。そこで、どこに向かい何をするのか、プレイヤーごとに異なる体験ができるようになっています。

また、本作の新要素として、自分の護衛兵に指示を出すことができます。高台から矢の雨を降らせたり、突撃して道を切り拓いたりと、局所的な場面にアプローチする、さまざまなアクションがとれます。このように攻略手段を増やすことでも、体験のマンネリ化を防いでいます。

――攻略法を広げるという点で、主人公のカスタマイズに関してはいかがでしょう。

庄氏:
武器に関してはいわゆるハクスラの仕様を導入しています。ランダムでステータスが変動する形式ですね。戦闘中にドロップ品を拾ったり、大陸地図(マップ)上にある武器屋で購入できます。主人公が指示を出せる護衛兵に関しては明確に2つのやりこみ要素があります。一つは人数を増やすこと。もう一つは、採用できる戦術を増やすことです。TGSの試遊版は約20人程度でしたが、ゲームを進めると人数が増えていきます。人数が増えると新たな戦術が可能になります。

最終的には十数種類の戦術が採用できますが、その中から好きな3つを選んで使うという形です。ずっと同じ戦術を採用してもいいですし、ステージによって切り替えるのもアリです。戦術の中には特定の状況下で特攻となるものがあります。たとえば、矢の雨を降らす斉射は、高低差のある地形から放つと、敵の戦意を大きく低下させます。戦意は高いほど敵味方が強くなり、低いほど弱体化します。アクションが苦手だと思う方は防御陣形を使うことで、強敵相手の生存率を上げる立ち回りをすると良いでしょう。

ちなみに、主人公と共にいてサポートしてくれる随行武将については、圧倒的な強さを体感していただけるようにしています。というのも、主人公はゲーム開始時点からするとまだ「無双の武将」ではありません。私が担当した過去作で言うと、『Fate/Samurai Remnant』の宮本伊織とセイバーのような関係性ですよね。武将たちは操作をすると一気に1000人くらいの敵を倒すことができます。最終的に主人公も彼らと肩を並べるような存在になってくれるといいですね(笑)


――物語に関する質問に移ります。本作はデフォルメを抑えた作風になっているほか、物語におけるオリジナル主人公の立ち位置が不明です。物語がどのような構造になっているのか教えて下さい。

庄氏:
まず「デフォルメを抑えている」という点については、表現力が大きく向上したことで、従来の分かりやすいキャラクター表現が、物語を作るうえで合わなくなっていることが理由として挙げられます。

そのうえで、主人公の立ち位置についてですが、物語を進めていくと必ず自分が所属する陣営を決めることになります。三國のどれかに就くことになるというわけです。この選択については、「どれだけ対象の陣営に貢献したか」など、それまでのプレイ内容に左右されることにはなります。本作は先ほど述べたように、武将たちが主人公だけに見せる側面があるなど、歴史的出来事のみならず、武将とのコミュニケーションも濃く描いています。そのため、この「三國のどれかに就く」という体験は単に所属を選ぶという行為を超えた体験になると思いますし、オリジナル主人公だからこその表現だとも思います。どこに行くのか、直前まで悩んでくれると嬉しいです(笑)

――「三国志演義」を知らないユーザーに向けてのフォローはどうされていますか。

庄氏:
もちろん、用語辞典のような機能は用意しています。この他には、いろんな文字にふりがなが入っています。たとえば、「呂布」「汜水関の戦い」を「りょふ」「しすいかんのたたかい」と読める人はなかなかいませんよね。魅力を味わってもらう前にテキストの時点で躓かないようにしました。また、本作は大陸地図(MAP)を歩くことで戦場を移動します。これによって、歴史的出来事の相関や位置関係が視覚的にわかりやすくなっていると思います。

これまでのシリーズでは、プレイヤーの知識を前提とする雰囲気が作中にありましたが、本作は展開を匂わせるような描写を徹底的に避けています。そのため、私個人としてはメディアのみなさんに「三国志演義」のネタバレを止めてほしいと思っています(笑)プレイヤーの方に驚いてもらったり、それを楽しんでほしいからですね。改めて言いますが、『真・三國無双 ORIGINS』は『真・三國無双』シリーズに初めて触れる方を相当意識して作られています。

――最後に読者の方へメッセージをお願いします。

庄氏:
まず、シリーズファンの方に向けて。本作はさまざまな点が旧作から変更されており、オリジナル主人公の存在をはじめ、さまざまなご意見があることは認知しております。しかし、『真・三國無双 ORIGINS』は歴代作品の中でいちばんシリーズらしい体験に仕上がっております。ぜひ手を取って遊んでいただければと思います。

『真・三國無双』シリーズをまだプレイしたことがない方や、「三国志演義」をご存じない方に向けて。本作は三國志のバイブルと言っても過言ではないゲームになっています。ぜひプレイしてください。

――ありがとうございました。

『真・三國無双 ORIGINS』はPC、PlayStation 5、Xbox Series X|S向けに、2025年1月17日発売予定だ。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

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