『League of Legends』公式リーグ規定とアップデート周期についての議論が大炎上。プロチームはe-Sportsで何を失ってきたのか
北米およびヨーロッパの『リーグ・オブ・レジェンド(League of Legends、LoL)』プロシーンが10月に開催される世界大会へと収束し始めた先週、ネット上のコミュニティでは北米プロシーンの生態系をめぐる大きな騒動が持ち上がった。開発運営元であるRiot Gamesとトップリーグ参加チームの不公平な関係をはじめとした、現在の『LoL』シーンのさまざまな問題点が噴出したのだ。
開発運営元とプロチームのすれちがい
発端は8月22日にtheScore eSportsにて公開された1本のビデオインタビューである。この映像では、元LCSプロ選手Scarra氏がNA LCSトップチームであるTeam SoloMidオーナーのAndy “Reginald” Dinh氏に取材、Reginald氏は現在の『LoL』プロシーンの問題点を指摘している。
たとえば問題の1つが、トーナメント直前に配信されるアップデートについてだ。『LoL』では昨年8月に「ジャガーノート」と呼ばれる重戦車のようなチャンピオン群に対して大きな変更を加える「ジャガーノート・アップデート」が行われ、世界大会のメタゲームに大きな影響を及ぼした。また今年7月末に実装された6.15パッチでは、それ以前の競技シーンで定石となっていた「レーンスワップ戦術」を抑制し、試合序盤を見応えのあるものにするための大きな変更が加えられ、6.15パッチ以後のプロ試合ではゲームの様相がガラリと変わる結果になっている。
このように大きなトーナメントの前に戦略の大きな練り直しが必要となる変更がパッチで加えられることや、バーンアウトしてしまう選手のキャリア問題、スポンサードの制限によってチームの収入が少なく抑えられていることなど、Reginald氏はインタビュー中で現在のプロシーンに発生している問題を指摘した。
インタビュー中のReginald氏の発言を受け、Riot Games創立者のひとりであるMarc “Tryndamere” Merill氏がRedditにて反応(現在は投稿は編集済であり、当初の投稿のスクリーンショットはこちら)。Reginald氏を「『LoL』で得た利益を他のe-Sportsに投資して、選手に十分な給料を払っていない」と非難した。「昨年のジャガーノート・アップデートのタイミングがいわば次善の策だったことは認める」「大型パッチのタイミングが難しいことについては同意するが、プロチームやコーチが難しいテクニックを競い合うプロ試合よりも、健全なゲームバランスで視聴者が楽しく見られるプロ試合を作ることが第一」と立場を説明し、「ゲームの変更についてはチームの選手・コーチ・アナリストが一丸となって適応していくべき」と主張した。
Tryndamere氏のこの対応は、Reginald氏以外のLCS・CSチームオーナー経験者や選手にくわえ、e-Sports記者やキャスターなど、e-Sportsビジネス関係者の間にさまざまな反応を巻き起こした。Reginald氏がオーナーを務める北米のゲーミング組織「Team SoloMid」は、LCS設立前の『LoL』プロシーン黎明期から華々しい活躍を続け、その裏でシーンに多大な投資を行ってきた、いわば老舗の『LoL』プロ組織だ。
翌日、Reginald氏はTryndamere氏の投稿に対し、現在のシーンが抱える問題をチーム側から明確に指摘する声明をTwitterにて発表。公式プロリーグであるLCS設立前はチームにも大きな利益が出ていたが、『LoL』から得られる収益は年々減少しているという現状を明らかにした。その理由のひとつとして、LCSは規定によりスポンサードを制限しており、LCS試合でのユニフォームプリント以外でのスポンサーのロゴ・製品露出を禁止していることが挙げられている。LCSでは従来のスポーツリーグのように、組織が自前のスタジアムで行われる公式試合にスポンサーの広告を出して収益を上げる、といったことができないのだ。さらには、NA LCSのレギュラーシーズンがBo3(最大3試合、2本先取制)になったことにより選手のスケジュールが圧迫され、選手を起用したコマーシャルの撮影等プロモーションに割ける時間が極端に少なくなってしまったことも、スポンサードを受ける上での障害になってしまっていると書かれている。スポンサー収入が得られない一方で、シーンの競技性が上がったことにより多くのスタッフを雇用する必要に迫られ、人件費がかさむ結果にもなっているという。
大型パッチのタイミングについても「シーズン半ばで大きな変更を行うことは、変更後に試合で活躍できなかった選手のキャリアを断ってしまう」とReginald氏は声を上げている。大型パッチ後の練習期間が短くなることで、プロという立場に見合った結果を出せなければ、チームはそういった成績不振の選手を放出し、新しい選手を入れることになってしまう。Reginald氏は「開発元もプロシーンのために完璧なバランス調整を行うのは不可能だ」とバランス調整の難しさに理解を示しつつも、選手やコミュニティは大きな変更が競技シーンに適用されるタイミングを知らされるべきだと自身の考えを述べた。
LCSよ永遠なれ
Tryndamere氏はReginald氏の声明に対してさらなる反応を発表した。Tryndamere氏は「感情的な反応をしてしまった」とReginald氏へ当初の書き込み内容を謝罪。Riot Gamesが定める公式リーグのシステムが現在の実情に合っておらず、LCSチームが一方的かつ大きなリスクを負ってシーンに参加していることを認め、e-Sportsの持続可能性についてチーム側と手を取り合って解決を目指す必要があると表明した。また2017シーズンには、チームの収益となるゲーム内販売アイテムを増やし、現在はLCS会場のみで行っているチームグッズの販売を公認オンラインストアでも行う計画であり、公式トーナメントへのスポンサーの関わり方や配信権などについても良い方法を模索していくと語られている。昨年の「ジャガーノート・アップデート」実装時期についても、世界大会との間隔が十分でなかったことを認めており、今後の改善を約束している。
このTryndamere氏からの返信に対するReginald氏の反応は、さらに衝撃的かつ短い声明だった。
この声明の最後には「#LCSForever」というTwitterハッシュタグが添えられていた。Reginald氏のツイート後、このハッシュタグで『LoL』プロシーン関係者が続々とReginald氏の提案に賛同したことを表明している。Reginald氏からTryndamere氏へなされた提案の具体的な内容は、まだおおやけになっていない。
自転車操業すら成り立たないLCSチームの懐事情
『LoL』韓国リーグの英語キャスターを務め、NA LCS参加チーム「LA Renegades」の元オーナーでもあり、春夏間のオフシーズンでLCSチームへの関与を禁止されたMonteCristo氏も、最初のTryndamere氏の反応に対して動画で自身の経験と意見を表明している。
MonteCristo氏は、LCS参加チームはLCSを通じて大きな収益を上げられておらず、それによって大きな収益を上げているのはRiot Gamesのみであると発言。公式トーナメント参加チームは、ゲーム内で一般プレイヤーが使用できる「チームロゴ・サモナーアイコン」の収益の一部を受け取ることができるが、同様に収益の一部を受け取れる『Counter Strike: Global Offensive』内販売のチームステッカーよりもずっと少ない額しか受け取れなかったともこぼしている。
選手の給料額についても、MonteCristo氏の知る限り、LCS規定に定められる最低額を支払っているチームはなく、相当量の給料を支払っているとのこと。ここ1年ほどでベンチャー投資家が参入してきたLCS界隈では、選手の給料額が2倍3倍と膨れ上がっているという。こうした投資家の支援を受ける新興のチームが『LoL』シーンの収益ではなく、他分野からの莫大な収益をチームへの投資に使っていることは明らかだ。Team SoloMidのような黎明期からのチームにすればたまらない話であるし、事実Reginald氏も『LoL』チーム以外からの収益をLCSチームに投資している旨を声明で語っている。MonteCristo氏によれば、LCS規定に定められる最低給料額は2013年のLCS創立時からほとんど変わっていないそうで、「もしRiotが選手の給料額を上げたいと思うのであれば、規定の最低給料額を増やすべきだ」と、きわめて正当な主張を述べている。
プレイヤー最優先という姿勢が生み出す矛盾
今回の騒動で表立ってさまざまな意見を述べているのは、チームオーナーや選手など、ほとんどが「業界関係者」である。確かにプロチームの経営問題は、ファンにとって直接の関係はまったくない。究極的には、お気に入りのプロチームが解散してもファンが食うに困るわけではないのだ。しかし生活の一部として『LoL』プロシーンを楽しむファンたちが、ファンコミュニティから開発運営元への訴えという形で立ち上がっている。「プロチームが安定して存続する環境を作ってほしい」という訴えだ。
Political movements live at the #NALCS finals. pic.twitter.com/Yfu8lh5r6V
— Travis Gafford (@TravisGafford) August 27, 2016
大型パッチによるゲームの大きな変更もまた、開発運営元からすれば「ゲームに変化をつけ、プレイヤーを飽きさせない」ための仕掛けである。今年の世界大会でメタに大きな影響を及ぼすと予想される「レーンスワップ抑制のための大変更」は、プロ試合を観戦する一般プレイヤーにとってわかりやすく、面白い試合を作り出すという意図もある。MonteCristo氏はこれについて「レーンスワップは選手が持つ技術であり、レーンスワップが得意だという点を買われてプロチームに入った選手もいる。もうチームメンバーの変更は認められないので、そういったチームはとても困っている」と、今年も昨年同様、ゲームの大きな変更がプロシーンを狂わせ、選手のキャリアに影響する懸念を表明している。観戦者への配慮として行った変更が、一プレイヤーでもあるプロ選手のキャリアを壊す──この矛盾を解決するには、Riot Games側がリスクを負ってチームやコミュニティと話し合っていくほかないだろう。
ゆりかごを脱した『LoL』北米シーン
公認トップリーグであるLCSが設立された2013年以来、『LoL』の競技シーンは順調に成長してきた。開発運営元であるRiot Gamesがプロチームおよびファンとも手を取り合って互いに利益を循環させ、継続的なe-Sportsシーンを目指して大事に育ててきた。その「生態系」では、今や多くの人間が生計を立てている。
今回の騒動に際し、Team SoloMidをはじめとした複数のLCSチームのスポンサーとして知られるHTC社のe-Sports部門「HTC eSports」は、FacebookにてLCSチームをスポンサー製品の宣伝に起用するリスクを吐露した。Reginald氏の声明でも言及されているが、自社のVR機器「HTC Vive」のプロモーションを行うべく、Team SoloMidのLCSチーム所属選手がHTC ViveでFPSゲームを遊んでいる動画をYouTubeで公開したところ、「LCSを利用して他社製ゲームの宣伝を行ってはならない」LCS規定に触れるとして、LCS運営から罰則適用を宣告されそうになったという出来事があったとのこと。過去にはRiot Gamesが同様の罰則適用を広げようとした事件もあった。具体的には2013年12月、LCS選手の『LoL』配信において、Blizzard社製ゲームをはじめとする複数のタイトルを、マッチング中の暇な時間に遊んでいる様子の配信を禁止する通告を行ったというものだ。この通告はその後すみやかに撤回されたものの、Riot Gamesによるスポンサー制限の厳しさは当時から変わっておらず、スポンサーを通じてプロチームが収益を上げることの難しさにつながっている。スポンサーもシーンを通じて収益を上げられている確証に乏しいため、HTC eSportsは本社にLCSチームのスポンサーとなる利点を説明できず、撤退も検討しているという。
『LoL』シーンは開発運営元であるRiot Gamesの手によって慎重に守られ、育まれてきた。だがしかし、シーンに関わる人間の数が純粋に増え、チームやフランチャイズが投資筋から垂涎の目で見つめられるようになった今、親鳥の手厚い庇護がかえってシーンを締め付ける結果になっているのは明らかだ。ゲームの大きな変更について開発とプロチームの情報共有・フィードバックや、スポンサー制限の緩和、選手のキャリアの保護などを進めれば、最終的には「楽しいプロシーンの存続」という形で生態系の参加者全員が利益を受け取れるようになるだろう。今回の騒動はe-Sports業界全体にとっても大きな転換点となるはずであり、今後の動向を注視していきたい。