理想と現実の狭間に未来を目指す。ハイスピードメカアクション『プロジェクト・ニンバス』制作者Pawee Pakamekanon氏インタビュー [後編]

『プロジェクト・ニンバス』プログラマーPawee Pakamekanon氏へのインタビューをお届けする。後編では『プロジェクト・ニンバス』を制作しようと思ったきっけかけ、そして今後についてのお話をうかがった。

自身とタイのゲームシーンについて語っていただいた前編に引き続き、『プロジェクト・ニンバス』プログラマーPawee Pakamekanon氏へのインタビューをお届けする。後編では『プロジェクト・ニンバス』を制作しようと思ったきっけかけ、そして今後についてのお話をうかがった。

 

ゲーム開発チーム「GameCrafterTeam」

――『プロジェクト・ニンバス』を制作しているGameCrafterTeamとは、どんなチームなのでしょうか?

Pakamekanon氏:
フルタイムスタッフが4名で、そのうちリードゲームデベロッパーが私です。他2名が3Dアーティストで、主にデザイン関係を担当しています。残り1名がプロダクションアシスタントとコンセプトデザイン。パートタイムのスタッフのうち、1名がメカデザイナーのRattapoom。キャラクターデザイナーのLUZIもパートタイムです。作曲者が2名いて、内1名がタイ人、もうひとりがイギリス人で、それぞれが別の音楽スタイルを持っています。英語版の声優と、タイ版の声優も6人ずついます。

――フルタイムのスタッフが少ないようですが、体制については、スタッフをローテーションで回しているとか?

Pakamekanon氏:
何か課題があるとしたら、じゃあ忙しくない人でやろうということになりますね。

――GameCrafterTeamはもっと大きくなりますか?

Pakamekanon氏:
お金があればですね。厳しい業界なので……。

 

好きなものを詰め込むことから始まった『プロジェクト・ニンバス』

――『プロジェクト・ニンバス』制作のきっかけは何でしょうか? どうしてこの作品を作ろうと思ったのですか?

Pakamekanon氏:
そもそもは、シューティングゲームを作りたいというところから始まりましたが、チームのひとりが「どうせ動きまわるんだったらロボットゲームを作ろう」という提案をしてきました。同じ頃に漫画版の「エウレカセブン」に一夜で全巻読んだくらいハマりまして、すごく感銘を受けて「自分の今回のゲームは主人公は14歳くらいの女の子で、メインの主人公機は白にしよう」というところから始まりました。
そして、ゲーム開発が進むにつれ、キャラクターの個性などが生まれていきました。
なので、今では『プロジェクト・ニンバス』は独自のものになっています。既成のもののコピーではありません。
それ以外にもインスピレーションとしては「ガンダムUC」とか「マクロス」とかですね。

――どの「マクロス」ですか?

Pakamekanon氏:
「マクロスゼロ」です。

――「ゼロ」! 私も見ましたが、ロボットのCGモデリングとしては初期のもので、惜しいところはありましたが意欲的な作品でしたよね。

Pakamekanon氏:
ゲームパフォーマンスの低下を覚悟の上で、「マクロス」の魅力のひとつである「板野サーカス」を導入したいと思いました。特にミサイルの長い軌道を真似したかったんです。

――横道なんですが、富野監督のアニメとかお好きですか?

Pakamekanon氏:
昔の作品はけっこう難解なので、最近のガンダムの方が好きですね。
本当に行き詰まった時とか、ガンダムの漫画を、宗教的な感じで読んでいます。

――そういった作品が好きだから作った、というのも理由のひとつなんですね。

Pakamekanon氏:
それもそうなんですが、私たちの心を自分の作品に込めることによって、自分たちのものを作りたかったんです。ゲームとして表現したかった。

――プレイヤーに対して自分たちが楽しいと思う体験を提供することを目指していらっしゃる?

Pakamekanon氏:
「楽しさを提供したい」というのも確かにありますが、「特定の楽しさを提供したい」と思っています。具体的には「心臓がバクバクするような緊迫感」ですね。もうひとつは、このゲームを通して歴史に自分の跡を残したいということです。

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パブリッシャーとの出会いから全世界配信へ

――イギリスのパブリッシャー「KISS ltd」、ひいてはGameTomoが『プロジェクト・ニンバス』をピックしたきっかけなどありますか?

Pakamekanon氏:
ある日メールが届きまして、「ぜひ日本で『プロジェクト・ニンバス』を出したい」という内容でした。それがKISSとGameTomoからのオファーだったんです。

――GameTomoとKISSが合同で『プロジェクト・ニンバス』を世界に配信するオファーをしたということですか?

高谷氏:
そうですね。

Pakamekanon氏:
KISSを通して欧米向けへの提供を行い、同時に日本のマーケットに対してはGameTomoが行うという形にしようと。GameTomoとはゲームの提供だけではなく、いっしょに『プロジェクト・ニンバス』を改良していこう、というつながりになりました。

――GameTomoの方から日本でのローカライズ・配信を働きかけたということですね。

Pakamekanon氏:
ええ、ローカライズのほうはGameTomoにお任せして、自分たちは開発に専念しています。日本語版について、声優の選択といったものもお任せしています。

 

共に歩むパートナー「GameTomo」

――GameTomoが公開している日本語版トレイラーがありますが、完全に日本オリジナルなんですか?

Pakamekanon氏:
GameTomoの渋谷さん(GameTomoプログラマーの渋谷啓太氏)にほとんど任せています。

――声優さんの選定も。

高谷氏:
ちょっと裏話になるんですが、(選定は)僕なんです。

――(笑)渋い選択ですよね。メイン3人とか。

高谷氏:
そうですね、それこそ……「エウレカセブン」のファンなので。

Pakamekanon氏:
とてもいい仕事をしてくれましたよ。大好きです。

高谷氏:
と、いうことです(笑)。

――日本語のローカライズはどうでしょうか?

Pakamekanon氏:
ローカライズについてはGameTomoは素晴らしい仕事をしてくれています。未完成のゲームを開発中なので、私たちのほうで改善しなければいけないことの方が多くあります。ローカライズについては本当に素晴らしいです。

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――Steamを見ると、タイ語・英語・日本語で配信中ですが、各ローカライズの反響などはどうでしょうか?

Pakamekanon氏:
確かにいろいろなバージョンがあるんですが、最終的には同じゲームですので、共通するコメントが多いです。主にゲームメカニクスについてのコメントが多いですね。
ユーザーの中にもいろいろな人たちがいて、タイ語版を一度プレイして終わりにする人もいれば、タイ語版の次に日本語版を遊ぼうという人もいます。どうしてかというと、日本語版はアニメ風のゲームなのでまた遊びたいと。

――タイでも日本の声優というのは人気があるんですか?

Pakamekanon氏:
ニッチな市場ですが、日本のアニメが好きな人には、日本の声優のファンもいます。

――ローカライズといえばGameTomoの日本語版トレイラーの出来がすごくいいんですが、逆輸入みたいな展開は考えてらっしゃいますか? 日本語版のオリジナル展開を逆に、英語やタイ語に輸入するという。

Pakamekanon氏:
日本語版のトレイラーはタイでも好評ですね。

――GameTomoのYouTube動画トレイラーに英語字幕がついていてびっくりしました。

高谷氏:
これも裏話なんですが、僕が入れました(笑)

Pakamekanon氏:
そうそう、GameTomoがやってくれました。

 

キャラクターと世界に込めた思い

――キャラクターが意外と日本アニメっぽいというか、イラストがけっこう「萌え絵」っぽくてかわいいのですが、こういうのは最初から目指していたところなんですか?

Pakamekanon氏:
こういうキャラクターデザインにしてくださいという原案をキャラクターデザイナーのLUZIに渡して、彼が作るという形です。「萌え」ではないのですが、大人向けすぎるというわけでもなく、中間を目指しています。青年とか、ティーンエイジャー向けのものを作りたかったんです。大人っぽいところも残しつつ、無邪気さのような、「成長」という要素を表現したかった。

――主人公の「ミライ」ちゃんとか、服装が「エヴァンゲリオン」のプラグスーツみたいなのですが、意識されていましたか?

Pakamekanon氏:
外見やパイロットスーツといったものは、LUZIに任せていました。彼の考え方としては、『プロジェクト・ニンバス』のロボットは動きが速いので、速さに耐えられるような服装ということで、ああいうパイロットスーツを考案してくれました。とても気に入っています。

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――本当に日本のアニメっぽいな、とキャラクターを見てびっくりするんですけども。

Pakamekanon氏:
ありがとうございます。意図的にアニメスタイルを導入しています。

――主人公の「ミライ」という名前ですが、日本語で意味のある単語ですが、理由はありますか?

Pakamekanon氏:
そもそも「ミライ」や『プロジェクト・ニンバス』もそうなんですが、人類の将来や未来を表したいということで、人類が互いの壁をなくしてひとつになるというのを表したかったというのがひとつ。それを具現化したものがミライです。主人公機もそうですし、主人公のミライそのものもです。「future」というのは日本語でなんだろうかと自分で調べたら、「未来」と。かわいい名前なのでミライにしようと決めました。

――ミライちゃんというのは日本でも普通に女の子の名前として使われていますね。

Pakamekanon氏:
ええ、よかったです。

――現時点の『プロジェクト・ニンバス』の中で、Paweeさんのお気に入りのキャラクターやバトルフレームはありますか?

Pakamekanon氏:
一番好きなキャラクターはユリアーナです。バトルフレームならミライ機ですね。

――ミライ機のカラーリングは白と赤ですが、やはりガンダムユニコーンからなんですか?

Pakamekanon氏:
いえ、そもそも主人公機のデザインはメカデザイナーのRattapoomによるもので、当初の考案ではミライ機は5~8mくらいの設定だったんです。しかし、よくあるロボットアニメだと身長が20mくらいなので、こちらに近づけました。主人公機はけっこうゴツゴツしているんですけれど、後期世代になるにつれて人型に近づくという設定があります。

――最初の世代は作業機械や重機といったものに近いと。

Pakamekanon氏:
第一世代のバトルフレームは戦闘ヘリや装甲車なんです。だんだん世代が上がるにつれて人型に近づきます。

――そういう『プロジェクト・ニンバス』世界設定についてもっと知りたいという声も聞くのですが、発表する予定などはありますか?

Pakamekanon氏:
設定の話の一例を挙げると、ユリアーナとミライというのは対照的で、ミライは無垢な理想の具現化です。一方でユリアーナは現実を具現化したもので、憎悪などの感情をそのまま表してしまう人間です。そこでちょっとずつ大人になる。そこで現実的な部分というのは共感できるから、私はユリアーナが好きというわけです。

――ミライのカウンターウェイトとしてのユリアーナがいると。

Pakamekanon氏:
そうかもしれませんね。
『プロジェクト・ニンバス』で描かれている戦争は、人類最後の戦争です。

――最終戦争であると。

Pakamekanon氏:
『プロジェクト・ニンバス』の設定とかストーリーとかを通して、今後また派生のゲームをどんどん作り続けたいですね。30年間作り続けたいくらいです。

――『プロジェクト・ニンバス』クロニクル、みたいな。

Pakamekanon氏:
できれば。

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独自のスタイルを模索して

――さきほど作曲担当スタッフが2人いらっしゃるという話がありましたが、役割は分担されているんですか?

Pakamekanon氏:
まずは音楽を作ってほしいステージの説明をします。そして、そのステージにふさわしい音楽を作れる人のスタイルで選んでいます。

――2人のスタイルはどう違うんでしょうか?

Pakamekanon氏:
タイ人のNarupaiはオーケストラやヘヴィメタルで、特徴的なのは本物のギター演奏を使っているということです。彼の友人がギター演奏をしているので、曲にそれを取り入れています。もうひとりはイギリス人のEthanで、オーケストラでとてもパワフルな音楽を作ってくれます。

――GameTomo作のトレイラーを見ていると、『エースコンバット』的なテイストを感じるし、音楽などもそんな感じがするんですが、けっこうリスペクトしてらっしゃったり?

Pakamekanon氏:
中高生の頃から、私は2種類のゲームしか作っていません。ひとつはロボットゲーム、もうひとつは戦闘機ゲームです。高校~大学時代、『エースコンバット』のYouTube動画を見ていたのが自分の青春です。大学時代に『エースコンバット』のようなゲームを作りたいと考えていて、最終的に『プロジェクト・ニンバス』はロボットゲームと戦闘機ゲームのハイブリッドになりました。

『プロジェクト・ニンバス』の制作当初は、こういった自分の趣味を全面的に反映していたんですが、今後のゲームにはもっと独自性を入れてみたいですね。

――既存のゲームに対して「ここがこうだったらいいのに」と思うのが原動力のひとつであると。

Pakamekanon氏:
ご理解ありがとうございます。

――ロボットアクションゲームというと、対戦ゲームの潮流もあると思います。『電脳戦機バーチャロン』や『アーマード・コア』シリーズのネット対戦、最近だと日本のゲーセンの『ボーダーブレイク』、10対10のMMO的な対戦ですね、スクウェア・エニックスの『フィギュアヘッズ』などもオンラインサービスをしていますが、対人戦ゲームという体験についてはどう思われますか?

Pakamekanon氏:
『プロジェクト・ニンバス』のようなゲームは世界観とストーリーを中心にしたゲームです。対して、対戦ゲームはキャラ先行のゲームなので、エンターテイメントとしてとてもいい媒体ですし、特にリプレイに適していますね。どちらが良い悪いという話よりは、クリエイターのデザインのチョイスの問題だと思います。

 

『プロジェクト・ニンバス』の「未来」

――これまで『プロジェクト・ニンバス』の現状についていろいろおうかがいしていたんですが、今後の展開についてお聞きしたいと思います。

Pakamekanon氏:
第一の目標としては、ゲームの改良です。予定どおりに『プロジェクト・ニンバス』を完成させたいと思っています。

その後は、『プロジェクト・ニンバス』を出した後に、フランチャイズとして30年間いろいろなものを出していきたいです。漫画や小説などもどんどん出していきたい。

――派生展開もローカライズを考えているんですか?

Pakamekanon氏:
もちろん、今後の派生作品を海外のマーケットに出すのであれば、ローカライズも考えます。

――楽しみですね。ゲームの内容なんですが、バトルフレームのカスタマイズ、パーツ交換や武器交換、たとえば『アーマード・コア』のようなゲームだと楽しみの一つだと思うんですが、そういったものを取り入れて発展していく予定はありますか?

Pakamekanon氏:
現状のシステムだと、ストライクパックをつけるなどといったことしかできません。戦闘機ゲームのようなゲームしかできないんです。次回作では、カスタマイズシステムも導入していきたいですね。

――次回作というのはもちろん『プロジェクト・ニンバス』シリーズ?

Pakamekanon氏:
もちろん。

――PCゲームはファンによるMOD制作が盛んですが、『プロジェクト・ニンバス』では今後MOD制作が可能になりますか?

Pakamekanon氏:
現行のゲームシステムだと難しいですね。これは技術的な制限です。

――なるほど。いわゆる同人誌やイラストなど、ファンメイドのものについてガイドラインを作って許可されていますが、楽しみにされていますか?

Pakamekanon氏:
同人とかファンフィクションに関しては、一言で言えば「大歓迎」です。皆さんの想像力を働かせて、ファンフィクションや同人誌をぜひ作っていただきたいです。
アニメ風の作画などを保ちつつも、リアルなものも混ぜて作ってほしいと思います。

 

Pawee Pakamekanonというゲームクリエイター

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――最後に、Paweeさんがゲームを作る理由、ゲーム制作とは何かを聞かせていただけますか。

Pakamekanon氏:
一言で言うと、ゲームというのは21世紀において最も強力な芸術の表現方法だと思います。ゲームには二つの面があって、ひとつは物語を伝えることですね。もうひとつはファンタジー、毎日の現実から逃避できる媒体のひとつであるということです。ゲーム制作者というのは、自分たちが作った世界の神であるということを感じています。

――200年ほど前にはオペラが総合芸術と言われていましたが、今はゲームだと個人的にも思います。

Pakamekanon氏:
ええ、ええ。
技術の進歩につれて、私たちゲーム制作者というのも、いろいろな可能性が膨れ上がっています。

――Paweeさんはゲームを作っていて幸せですか? 充実していますか?

Pakamekanon氏:
ええ、幸せです。自分がこの世の中に生まれた意味を与えてくれたと思います。今後もゲームを作っていきたいです。

――いい言葉が聞けました。日本でしか遊べないゲームもあると思いますので、ぜひ滞在中に楽しんでいってください。本日はありがとうございました。

[聞き手: Sawako Yamaguchi]
[写真: Shigehiro Okano]

大好きな国にやってきたということもあり、終始笑顔が絶えなかったPawee Pakamekanon氏。日本のロボットゲームやアニメを愛し、インスパイアされ、チームメンバーがゲームという形で表現したものが『プロジェクト・ニンバス』であり、その熱い気持ちは完成へと着実に進んでいる。

前編でタイのインディーゲームシーンについてうかがったときの「まだ成長する段階に至っていない」という一言はとても印象的だった。1年後、もしくは数年後、『プロジェクト・ニンバス』が未来を変えているかもしれない。

『プロジェクト・ニンバス』はSteam早期アクセスとして配信中。現在は第2章まで実装されており、日本語吹き替えにも対応している。

参考:
『プロジェクト・ニンバス』プレビュー。タイからやってきた、日本のアニメ・ゲームの影響を受けたメカアクション
『プロジェクト・ニンバス』国内パブリッシャーGameTomo。日本に惚れたアメリカ人CEO、世界のインディーゲームを日本へ運ぶ

Sawako Yamaguchi
Sawako Yamaguchi

雑食性のライトゲーマー。幼少の頃からテレビゲームに親しむが、プレイの腕前は下の下。一時期国内外のTRPGに親しんでいたこともあり、あらゆるゲームは人を楽しませるだけでなく、そのものが出発点となって人と人を結びつけ、新しい物語を作る力を持っていると信じている。2012年から始めた『League of Legends』について、個人ブログやTwitterにて日本語で情報発信を続けている。

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