『パルワールド』開発者インタビュー。「Steamウィッシュリスト180万」「事例研究したのに前例ない仕様に」異例だらけの新作オープンワールドゲームの破天荒すぎる船出事情

ポケットペアは1月19日、『パルワールド / Palworld』の早期アクセス配信を開始した。弊誌は同社の溝部社長に、同作の開発事情やPvPの展望なども含めて話を伺ってきた。本稿ではその内容をお届けする。

ポケットペアは1月19日、『パルワールド / Palworld』の早期アクセス配信を開始した。対応プラットフォームはXbox One/Xbox Series X|S/PC(Steam/Microsoft Store)。Xbox Game Pass(Xbox/PC/クラウド)にも対応している。

本作を開発しているポケットペアは、国内のゲーム開発会社だ。過去作としては、『クラフトピア』や『オーバーダンジョン』などを制作。既存のアセットやゲームの要素を組み合わせる型破りな手法で、注目作を生み出してきた。本作『パルワールド』はそんなポケットペアによる4作目となるが、これまでとは少し異なる輝きを秘めているように見える。2021年の発表から開発が続けられてきた本作では、どんな具合にゲームが形作られていったのか。本稿では、苦しい気持ちもあったという開発の事情やPvPの展望なども含めて話を伺ってきたので、その内容をお届けしよう。


『パルワールド』とは一体なんなのか?

──『パルワールド』早期アクセス配信日決定おめでとうございます。まずは改めて自己紹介をお願いします(本インタビューは1月15日収録)。

溝部拓郎氏(以下、溝部氏):

株式会社ポケットペアの代表取締役社長、溝部と申します。ゲーム自体は、ポケットペアを設立してから既に3本出していて、『パルワールド』は4作目になります。元々はWeb業界でエンジニアや、起業などいろいろな事をしてきたんですが、ゲームが大好きだったので最終的にゲーム作りの世界へ戻ってきました。いろんなゲームを作ってきて、ようやく『パルワールド』で比較的大きめなゲームを作れる体制になったところです。


──溝部さんは、『パルワールド』ではどういったポジションで関わられたのでしょうか。

溝部氏:

ちょうど今クレジットを作っているのですが、まずプロデューサーとして関わっています。ディレクションもそれなりに参加していて、開発終盤にはなぜか最適化エンジニアとしても働いていました。

──プロデューサーとして関わりつつ、ディレクションや最適化にも参加されたわけですね。本作の開発体制についても伺わせてください。

溝部氏:

『クラフトピア』の早期アクセス配信時は、社員数でいうと10人もいないぐらいでした。その後半年ぐらい経過して『パルワールド』の開発に着手し始めたんですけど、その時の『パルワールド』開発メンバーは3人とか4人ぐらいでしたね。ほぼ全員新規で採用したメンバーだったので、完全に『クラフトピア』とは別メンバーでスタートしました。

そこから1年たった段階で多分10人ぐらい。2年間経過したあとに一気に増えて20人から30人ほどで、3年目でさらにもう10から20人ぐらい増やしました。全然ゲームが完成しないので、開発中にチームの人数が増えていった形です。ちなみに内訳としては、アート関係者が一番多いです。モーションもそうですし、背景や3Dアーティストなどなど、それぞれ全部ですね。エンジニアも新規に5人以上採用しているので、結局結構な数のチームになっています。


──『パルワールド』のゲーム内容について、改めて溝部さんから紹介をお願いします。

溝部氏:

シンプルに説明すると、オープンワールドサバイバルクラフトゲームの中に、モンスター収集や育成要素を加えたゲームです。ただ本作では、もう一つ大きくインスパイアされたジャンルとして、RTSやオートメーション(自動化)があります。拠点を構築をするとパルが自律的に働き、協力してくれます。3Dゲームとしては、実はすごく珍しい要素だと思っています。

──少しプレイさせていただきましたが、パルを拠点に配置すると、作業台で作業を手伝ってくれたり、範囲内で資源を集めてくれたりしましたね。

溝部氏:

最近だと、『Sons Of The Forest』では作業を手伝ってくれるパートナーがいて結構話題になりました。要素としてはあれが少し近いですね。

──本作のストアページなどではブラックな要素が多く紹介されています。逆に、パルを優しく扱うこともできるのでしょうか。

溝部氏:

プレイヤーがサバイバルしていく中で、労働力をどう扱うかは人によると思うんです。パルがかわいいから優しく接したい人も、自分が労働をするのは面倒だからパルをこき使って楽をしたい人も、それぞれいると思います。本作では、そのどちらも楽しめます。

プレイヤーはパル用の食事やベッドを用意してもいいし、用意しなくてもいい。どちらでもゲームとしては成立するようになっています。また、もしパルに愛着を持ってくれるなら、パルを癒すために温泉を建てたり、撫でたりすることもできます。


──モンスターを題材にしたゲームなので、読者からは「発売できるのか」「怒られてないか」などといった反応もあります。溝部さんとしては、そういった反応をどのように捉えられていますか。

溝部氏:

モンスター収集/モンスター育成ゲームと呼ばれるジャンルにおける圧倒的なトップが『ポケットモンスター』シリーズだと認識しています。そして、個人的には『ポケモン』と『パルワールド』を比較するのは恐れ多いぐらい、『ポケモン』は素晴らしいと思っています。

『ポケモン』は私が小学生の頃に発売され、社会現象を巻き起こしたタイトルで、私も大好きです。『ポケモン』の最新作であるスカーレット・バイオレットや、同じオープンワールドの『アルセウス』ももちろん遊んでおり、その作り込みに感銘を受けました。約30年にわたり、世界中の人々から愛される作品を作り続けるという事がどれだけ大変なことか、私たちには想像もつきませんが、どの『ポケモン』を見ても、関わった方々の魂を感じる本当に素晴らしいゲームだと思います。

弊社の『パルワールド』は、「オープンワールドサバイバルクラフトというジャンルで、モンスター収集・育成という要素を加えられないか?」という発想からスタートしています。『ポケットモンスター』を偉大な先人として参考にはしているものの、『パルワールド』をプレイすれば、そのイメージが『ポケットモンスター』とはまったく異なることがわかると思います。むしろ仕組みとしては『ARK: Survival Evolved』の方が近いのかなと思っています。

「発売できるのか」というのは少し過激な質問ですが、弊社は真剣にゲーム作りに取り組んでおり、当然ですが、他社の知的財産権等を侵害する意図は全く御座いません。法務のレビューも受けており、現時点で他社様から何らかの具体的なアクションを頂いた事も御座いません。インターネットでは様々な噂が飛び交っておりますが、安心してご購入頂ければ幸いです。


自律行動によって起こるハプニング

──本作のジャンルであるオープンワールドサバイバルクラフトゲームについて、溝部さんはどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。また本作を制作する上で、研究した作品などはありますか

溝部氏:

まず私の認識では、オープンワールドサバイバルクラフトゲームは、もともと『マインクラフト』から派生したジャンルだと思っています。研究というか、もともと大好きなジャンルなので、多数のタイトルを遊んできました。『マインクラフト』はもちろん、大きいものだと2Dではありますが『テラリア』、『The Forest』や『Sons Of The Forest』、『Conan Exiles』や『ARK: Survival Evolved』などを遊んできました。近年の有名どころだと『Valheim』も遊んでいますし、インディーの『Raft』、PvPではありますが『Rust』も遊びましたね。『Astroneer』や『Scrap Mechanic』のようなサンドボックスや新作の『Sunkenland』など新しいメカニクスの物ももちろん遊んでいます。

『クラフトピア』もオープンワールドサバイバルクラフトゲームだったので、本作では同じジャンルの2作目として、知識はかなり溜まった状態でのスタートになったかなと思っています。開発チームもSteamユーザーが多いので、もともと今挙げたような定番どころのタイトルは遊んでいる人が多いですね。

──おっしゃられたようにサバイバルゲームはすでにかなり作品が出ていますが、『パルワールド』におけるサバイバルクラフトゲームとしてのチャレンジテーマを教えてください

溝部氏:

『パルワールド』では、主軸となるモンスター「パル」を彼らが感情的に自分から動くことで、『クラフトピア』とはまったく違う体験になるんじゃないか」という仮説を立てて作っています。

『クラフトピア』で掲げた一つのテーマ「オートメーション」のおかげでいろんなユーザーがめちゃくちゃなことをして、それが物理演算の挙動と掛け合わさり、開発者も想定していないようなとんでもない挙動をする事が注目を浴びたと思っています。

『パルワールド』では、さらにそれを発展させ「感情を伴うオートメーション」の実現を目指しています。「パル」はエサを上げたり撫でたりすると思いっきり喜びますし、粗末に扱うと泣き出して働かなくなります。私たちは小規模のインディーゲーム会社なのですが、そこは今回は頑張ろうということで少し無理をして、感情表現に多くのコストを割きました。100体以上のパルの撫でる演出を作成する手間を想像してみてください(笑)

それにあたってイメージしたのが『RimWorld』ですね。『RimWorld』では各住民が自律的に動き、いろんなイベントが起きます。たまたまやってきた人物が放火魔で、建物が全焼したりとか、住民同士がストレスが溜まりケンカして、右目を失うなど、想像も出来ないようなハプニングが起きます。
そのような面白さをパルの個性とセットでなんとかして表現したくて、オープンワールドサバイバルクラフトゲームの中へ、パルを用いたオートメーションを導入しています。

──オートメーション関連の挙動として、テストプレイなどでどんなイベントに遭遇しましたか?

溝部氏:

パルが一定以上さぼったりすると、バッドイベントが発生します。実際に遭遇したものだと、ストレスをためた炎属性パルが八つ当たりで暴れだして火災になり、拠点に帰ってきたら2時間かけて作ったマイハウスが大炎上していたことがありましたね(笑)つまり本作では、パルを酷使するのもいいのですが、ほどよく飴と鞭というか、ストレスが溜まりすぎない環境づくりも大切です。

──ちなみに、パルの個性としてはどんなものがあるんでしょうか。

溝部氏:

パル自体はそれぞれ違う外見をしていて、得意な作業内容も違っています。パルには作業適性というステータスを設定しているんですが、それによってパルごとに木を切るのが得意だったり、石を掘るのが得意だったり、それぞれ得意な作業が違うのです。さらにパルには個体ごとにパッシブスキルが設定されています。詳しく言うと、エンチャントがランダムに付与されるような形なのですが、パッシブスキルによって働き者のパルだったり、逆にさぼりやすかったり、個体ごとのパッシブスキルによって拠点構築が有利になったり不利になったりするという形です。

──溝部さんの考える、サバイバルクラフトゲームの重要な要素や設計を教えてください

溝部氏:

議論の本筋からは外れてしまうのですが、サバイバルクラフトゲームは、マルチプレイが出来る事がほぼ必須条件となっています。その際、PvEならシングルプレイとさほど大きくゲームシステムを変えずに開発出来るのですが、PvPを「プレイヤー同士が殴りあえるだけだよね」と軽い気持ちで実装しようとすると、大変なことになります。

結果として、当たり前なんですが、PvPを開発するかしないかが一番大きな分岐になってくると思います。PvPの有無で、大事にしないといけないことが全て変わってくるからです。たとえばPvPのあるゲームだと、通常ファストトラベルは厳しく制限されます。一方で、今どきのオープンワールドゲームでファストトラベルがないと一般ユーザーは耐えられないと思います。PvPとPvEを同じマップ内で両立させることも本当はすごく難しくて、作ってみて初めて「ああ、だから他のゲームはやっていないのか」と気付きました。
PvPとPvEの両立は、ゲームデザイン上、著しい制約を持ちながら開発を行う事になるので、大変困難な道です。

ただ『パルワールド』は「PvPは後から軽く入れればいいよね」ぐらいのテンションで作り始めてしまいました。途中で真剣に考え出してから大変なことに気が付いたので、そこからゲームデザインの前提とかを覆さないようにギリギリの中で調整していきました。今でもゲームデザイン上の矛盾が残っており、PvPのリリースに向けて解消していかなければなりません。


前作『クラフトピア』からの反省

──大枠のジャンルとしては『パルワールド』と『クラフトピア』は同じジャンル(サバイバルクラフトゲーム)です。『クラフトピア』は拡張性も高いタイトルに見えるので、『パルワールド』のアイデアを『クラフトピア』へ実装できたんじゃないかと考えるユーザーもいると思うのですが、本作が単体のゲームとして制作された理由を教えてください

溝部氏:

『クラフトピア』は、たしかに拡張性が高いように見えますし、現在もアップデートを続けているのですが、製品版に向けて機能を絞るタイミングに来ていました。「なんでもあり」が『クラフトピア』の良いところで、私も気に入っていますが、一方で最終製品として仕上げる以上、処理負荷などの観点からトレードオフを現実的に受け入れる必要がありました。

また、『クラフトピア』はすでに十分複雑なゲームになっていたので、新機能を足していくと一般にどんどん開発のスピードは遅くなっていくんですよ。だからゲームのコンセプト自体が一定以上違うものであるなら、新規で作り直した方が早い。『クラフトピア』に100体以上のパルを新規に追加していくのは、流石に難しい状況でした。

──『パルワールド』を、早期アクセス配信することにした理由を教えてください

溝部氏:

決めたのはもう2年か3年ほど前なので、特にどうという理由はなかったと思うのですが(笑)とはいっても、クオリティがフルリリースに値する内容にはならないだろうという予測はありました。開発期間とゲーム自体の規模を踏まえても、完璧な完成度で出すよりユーザーのフィードバックを受けながら作っていきたい。『クラフトピア』の経験を踏まえても、早期アクセス配信の方が『ポケットペア』らしい作り方ができる点も一つの大きい理由です。

───Steamでゲームを発売する際には、まず早期アクセス配信がいいか、最初からフルリリースがいいかという論争がよくあります。ポケットペアには早期アクセスが合っているという認識なんでしょうか。

溝部氏:

タイトルごとに使い分けるほうがいいと思っています。結果論としては、ポケットペアのタイトルはほとんどが早期アクセス配信を選ぶだろうと思ってはいるんです。一方で、仮にストーリーのしっかりしたタイトルやRPGのような1本道のゲームを作るなら、よりクリエイターの個性を強めに出していくことになります。そういうタイトルなら、ユーザーのフィードバックを受け入れて開発していくスタイルよりも、完成した状態で遊んでもらうフルリリースのほうが合うのではないかと考えます。ただポケットペアで現状作っているゲームは、ユーザーがどう楽しむかを自分たちで決めるようなタイトルが多いので、それならユーザーの声を聞きながら開発出来る早期アクセスが合っているのかなと思っています。

──ゲームを触らせていただいた感じ、『パルワールド』は同じ早期アクセス配信であっても、『クラフトピア』の早期アクセス配信時のクオリティとは段違いに感じました。ここはアピールしなくてもいいんでしょうか?

溝部氏:

いやいや、是非アピールさせてください!『クラフトピア』の時は、正直さじ加減がわかっていなかったんです。『クラフトピア』の早期アクセス配信時には多くのバグがあり、バグがあることの面白さもありました。しかし、いろんなことがそれぞれ起きるのは面白かったけれど、面白くないバグも多くあって、ユーザーに不満を感じさせてしまうケースもあったと思っています。その点は反省しています。まだあの頃は、早期アクセスは少し珍しく、私達も手探りで早期アクセス配信を始めたので、どういう状態ならユーザーに受け入れられるかをよくわかっていませんでした。

今はもう2024年になり、早期アクセス配信という仕組みが十分成熟した時期です。私達としては、ユーザーに不利益なバグはなるべく直してから早期アクセス配信をしたい。ユーザーのフィードバックを受けて、より良いゲームを作るところにフォーカスしたいので、今回はゲームとして一定以上の品質を担保することを重要視していました。『クラフトピア』よりずっと安定してるけれど、一般のAAAフルプライスのゲームよりは安定してない状態です。


──独特の表現ですね(笑)

溝部氏:

余談ですが、本当にバグを作りたくないなら、バグが生まれにくい仕様にするべきなんですよ。例えば、拠点が構築できる場所を絞る。ほかのサバイバルクラフトゲームだったら、どこに拠点の場所においてもいいんですが、『パルワールド』の場合はどこでも拠点が置けてしまうと、その中でパルが自由に動き回り、ランダムに襲撃も発生するので、バグが起こらないことを担保するのはめちゃくちゃ難しいんです。たとえばリリース前のゲームですが『Enshrouded~霧の王国~』のデモ版では、拠点構築の場所は結構限られていました。場所を絞ったほうが遥かに作りやすいなと思いつつ、やっぱり自由に選べた方が面白いので、こだわりを持ってバグを許容しながら『パルワールド』を作ってきました。

──現在の『パルワールド』の完成度や開発状況はどのぐらいなんでしょうか

溝部氏:

基本機能は固まってきているので、60%ぐらいでしょうか。あとはどう完成度を高めていくかというフェーズですね。『クラフトピア』の早期アクセス配信開始時は本当に何もわからなくて、自分たちでも一体このゲームは何なんだろうなって感じでした。

一方で『パルワールド』はどんなゲームかはわかっています。パルを集めるゲームであり、ボスを倒すゲームであり、サバイバルクラフトゲームです。あとはそこにPvPをどう取り入れていくか、どの程度新規コンテンツを出すかといった点が重要になってきます。新機能も取り入れていく準備は出来ているので、ユーザーの反応を見てみんなが欲しがっている機能を優先的に実装していこうと思っています。


作っていくうちに、すごく大変なことがわかった

──本作は段階的に情報が出されていきました。最終的に2024年1月の早期アクセス配信が決まりましたが、正直スケジュールどおりでしたか?

溝部氏:

いや、全然違いましたね。そもそも、本作の最初の露出は2021年6月のINDIE Live EXPOでしたが、発表したデモは当時3か月で作りました。その後、当初の予定としては1年ぐらいで完成させるつもりでした。『クラフトピア』のことを考えて、だいたいそのぐらいだろうと思っていたんです。

しかし、実際に1年ほど作ってみても全然完成しなかった。それで「このゲーム、ちゃんと作るなら全然完成しないんだな」と気づいて、しょうがないので人を増やして、あと2年ぐらい開発を頑張ろうと考えて、一応予定としては2023年の8月ぐらいには1回出したいなと思っていましたね。

でも2023年8月まで作ってみても、まだまだユーザーに怒られそうな状態でした。プレイしていて楽しいバグはいいんですが、楽しくないバグもそれなりにあり、Dedicated Server(Peer to Peerではない専用サーバー)もできていない状態でした。このゲームは大人数で遊べた方が面白いゲームなので、マルチプレイも遊べる状態で出したい。さらに完成度を高めることも考えると、2024年1月でギリギリという感じでしたね。

ゲームの開発は結構難しくて、もちろん締め切りは切るんです。今回も8月に一応締め切りを設けたんですが、やっぱりみんな真の締め切りじゃないとやる気を出さないんですよ(笑)8月が締め切りだからと進めていても、みんななかなかやらなかったのです。でも、11月頃にネットワークテストを実施したんですね。そうするとネットワークテストはユーザーが実際に触るので、結構締め切り感が出てきました。ネットワークテストでこれぐらいなら、ギリギリ1月はいけるかもしれないと考えて、1月はもうリリース日の告知とかマーケティング都合もあったので、最終防衛ラインということで1月で進めてましたね。

──『クラフトピア』といえば、アセットを使いまくるというのがひとつ特徴でした。で、『パルワールド』は『クラフトピア』と比較すると、オリジナルの素材が多いですよね。心境の変化があった?

溝部氏:

『パルワールド』では、オリジナルのアセットをすごく作りました。本当は、出来る限り既製のアセットで済ませたかったんですよ。というか当然初めはアセットで作っていたんですが、結局多くのアセットをオリジナルで作るしかありませんでした。例えばパルワールドに登場するパルはすべてユニークな形をして、現実の動物とはどこまでも違います。仮に現実の鹿と似ていても、角の形状が違うからモーションを使い回せない。そもそも、元の動物を聞かれても「さあ?」みたいな、世の中にいない形状のモンスターもたくさんいるので、3Dモデルも作るしかない。『クラフトピア』で確立した「アセットドリブン」という考え方を、かなり苦しい気持ちで捨てて、モデルもモーションも自作となりました。


──特に『パルワールド』の開発において技術的に大変だった箇所はありますか?

溝部氏:

とにかくたくさんありました。オープンワールドゲームは世の中に当たり前にあって、だから当然に見えるんですが、落ち着いて考えるとほとんどのオープンワールドゲームはシングルプレイなんです。最近はオープンワールドのサバイバルクラフトゲームが増えているので、本作に限った話ではないものの、まず前提として広大なワールドできちんとマルチプレイを成立させようとすると、結構難しいんです。

さらに本作では、野生のパルが数百体ぐらい生息していて、それぞれ同期しながら動きます。同ジャンルの『ARK: Survival Evolved』もマルチプレイで恐竜がたくさんいますが、すごく綺麗に同期しているわけはありません。でも『パルワールド』では、オープンフィールド上に各プレイヤーが拠点を配置して、拠点の中をパルがいい感じに自律的に動きます。『ARK: Survival Evolved』にも拠点周りの仕様はないので、実はすごくユニークなゲームになっていて、こんなゲームがほかにないから技術的にもめちゃくちゃ大変なことが作っていくうちにわかりました。

──みっちりケーススタディをしていたのに、前例のない仕様になっていったのは面白いですね。ちなみに前作『クラフトピア』のゲームエンジンはUnityでしたが、本作はUnreal Engineです。

溝部氏:

UnityにはUnityの良さがあって、UEにはUEの良さがある。今回『パルワールド』を作るにおいては、やっぱりUnreal Engineの方が適していたのかなと。Unreal Engineにはオープンワールドの仕組みが基本的に全部揃ってるので、そのあたりで考えると、オープンワールドで、比較的処理が重めのゲームを作るんだったら、Unreal Engineは選択しやすかったです。一方で、例えば世界で最もヒットしたオープンワールドゲームの1つである『原神』はUnityを利用して開発されています。エンジン選定はゲームの特性やその国でのチームの作りやすさ、マルチプラットフォームかどうかなど、総合して判断するものなので、あくまでそのゲームにとって最も適切なものを選ぶのが肝要です。


とにかく海外でバズった『パルワールド』

──本作は国内外からかなり注目されているように思いますが、実際のところはどうなのでしょうか。1月15日時点でのSteamのウィッシュリスト数を教えてください

溝部氏:

大体今140万ぐらいです。(1/19時点で180万)『クラフトピア』の時はだいたい10万から20万ほどだったので、すごい数になっていますね。国別比率としては、日本はたぶん10%未満です。基本的には本当にグローバルタイトルになっていて、一番は圧倒的にUS。比率としてはたぶんSteamのユーザー分布と同じですね。

──グローバルで注目された要因はなんだったと思われますか。手応えのあったマーケティング施策などはありますか。Summer Game Festに登場されたり、欧米向けにはTikTokアカウントなどもバズっていたり、いろんな仕掛けがありましたか。

溝部氏:

個別の施策は関係ないかなと。このタイトルが、グローバルで受けるタイトルだったという以上の意味はないと思ってます。そもそもマーケティングで個別の施策が当たった話って、規模が小さいとあり得ると思うんですが、ウィッシュリスト数140万はかなり大きい結果です。そうなってくると、マーケティング施策がうまくいったからグローバル展開成功したというよりは、単純にゲームのポテンシャルとしてグローバルで展開できる素質があったと見なしています。


──なるほど。ゲームポテンシャルと。では締めに入らせていただきます。『パルワールド』の早期アクセス配信が目前に迫っています。そんな中、今後『パルワールド』をどういう方向へ育てていきたいと考えていますか。

溝部氏:

発売前にどこまで言うかは悩ましいのですが、『クラフトピア』の時も最終的に良いものができたなと思っていました。自分たちが思う最高のゲームだという思いはありましたが、今回『パルワールド』では、とんでもないモノができたと思っているんです。いろんなゲームを組み合わせて作ったものだけど、実際にはまったく新しいものができるのはすごいことで、かつ自分たちの中では新規性が十分があると思っています。多くの人に楽しんでもらえそうなタイトルに仕上がったので、まずこのようなタイトルを作れたこと自体がすごく嬉しいと感じています。

もしこれがヒットしないなら、今後会社として何を作っていけばいいのかわからないぐらいです。というか会社として立ち行かなくなります。そこまでのリスクを取ってでも、絶対に出すべきだと思えるタイトルに仕上がりました。もちろん、オープンワールドサバイバルクラフトゲームの先駆者たちって、滅茶苦茶ヒットしているすごい作品ばかりなので、そこに並べるかはまだわかりません。ただタイミング次第では、すごいヒット作になれるようなものがちゃんとできたなと思っています。

──ちなみに早期アクセスローンチQ&Aでは、PvP要素について模索中とされていました。今のところ、どういった内容が検討されているのでしょうか

溝部氏:

PvPは本当に難しいんです。まず導入にあたって、なぜ『パルワールド』でPvPをやるか考える必要があります。そもそも世の中には、ほかにもPvPで楽しいゲームがたくさんあります。その中で『パルワールド』でPvPをやる理由みたいのをしっかり作る必要があるからです。もちろんモンスターを捕まえて戦うゲームプレイはユニークなポイントです。でもPvPタイトルは本当に完成度勝負で、完成度が高くなければ人がすぐにいなくなってしまう。本当にユーザーがプレイする理由のあるタイトルだけが生き残っているので、めちゃくちゃシビアな領域だと思っています。だから、弊社はPvPに関してはまったく楽観視していません。先程はすごいゲームができたと言いましたが、PvPだけは成否が最後までまったくわからない。成功率は10%も行かないレベルなんじゃないでしょうか。それだけPvPを成功させるハードルは高いと思っています。

その前提の上で、『パルワールド』でPvPをやる理由を考えた時、まず挙げられるのがパル同士を戦わせる対戦形式ですね。まずパルだけで戦うパターンと、パルと人間がセットで戦うパターンがそれぞれ考えられます。もっと大きな仕組みとしては、闘技場のような場所で競技としておこなう方式と、マップ全体でリアルタイムに自由に争う形式などもいろいろ考えられると思っています。闘技場形式の場合だと『パルワールド』はアクションゲームなので、アクションでリアルタイムに戦う形式を、ユーザーが第一に想像するものだろうと考えています。一方で、実はパル同士を自動戦闘させる、非同期の対戦パターンも構想しています。技術的な話はいろいろあるのですが、闘技場にパルを登録しておいて、ユーザーが自由に選んで戦える形式だと敷居も下がって気軽にPvPできるので、そういうパターンについても検討しています。

──まだまだ検討中ということですね。今後のアップデートに期待しています。

溝部氏:
はい。何とかして『パルワールド』ならではのユニークなPvPを実装して、このゲームが長生きしたらいいなと思っています。先程は『パルワールド』をどのように育てていきたいかといった質問でしたが、まずは「パル」を捕まえることがとにかく楽しいゲーム。そしてその後の展望として、PvPを成功させることが私の至上命題の一つですね。


──本日はありがとうございました。

パルワールド』はXbox One/Xbox Series X|S/PC(Steam/Microsoft Store)向けに早期アクセス配信開始中だ。また本作は、Xbox Game Pass(Xbox/PC/クラウド)に対応している。なお溝部氏は自身のnoteでも本誌インタビューとは別の開発の裏側事情を語っている。そちらも面白いので、あわせて読むといいだろう。

[執筆・編集:Keiichi Yokoyama]
[聞き手・編集:Ayuo Kawase]

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