『宇宙最大の地底最大の作戦』 ドットの神様が新たに吹き込んだ息吹とは?

30年以上の時を経て新作としてよみがえった『宇宙最大の地底最大の作戦』。前回は有限会社マインドウェアにて行われた先行プレイ会からの内容紹介と、本作のプランナーとプログラムを担当した代表取締役・市川幹人氏へのインタビューを掲載したが、今回はメインモードといっても過言ではないスペシャルモードのグラフィックを務められたMr.Dotmanこと小野浩氏へのインタビューをお届けしよう。

30年以上の時を経て新作としてよみがえった『宇宙最大の地底最大の作戦』。前回は有限会社マインドウェアにて行われた先行プレイ会からの内容紹介と、本作のプランナーとプログラムを担当した代表取締役・市川幹人氏へのインタビューを掲載したが、今回はメインモードといっても過言ではないスペシャルモードのグラフィックを務められたMr.Dotmanこと小野浩氏へのインタビューをお届けしよう。

なお、前回の紹介時にはSteamGreenlightにて審査中と報じたが、6月29日に申請が通り、7月14日からSteamで配信されることが発表されている。ダウンロード販売だけではなく、秋葉原のゲームショップ「家電のケンちゃん」と「秋葉原@BEEP」の2店でそれぞれ異なるパッケージ版の販売も予定している。

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小野浩(Mr.Dotman)氏 1979年、ナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)に入社。『ゼビウス』『ディグダグ』『マッピー』といった代表作のグラフィックドットを担当し、タイトルロゴやエレメカ筐体といったデザインも数多く手がけている。現在はフリーランスでコンスタントに活躍の場を広げている。

 

かつての敵を味方にするという大胆なアレンジ

――スペシャルバージョンの完成版をご覧になっていかがでしたか?

小野氏:
思ったとおりにうまく出来たなと思ってます。

市川氏:
ありがとうございます!(笑)。

――原作となったMZ-80版はご存知でしたか?

小野氏:
前に初めて見せてもらったんだけど、あれはあれですごく味があったんだよね。プレイヤーのキャラクターがヘビにパクッと食べられたグラフィックを見て、これは面白いなって。

市川氏:
乏しい表現力のなかでどうしようかと一生懸命考えた結果としてあのコマになるんですよね。そういう意味ではスペシャルバージョンの新規グラフィックが反映されてるところはありますね。

――地底が舞台ということで特に気をつけられたポイントなどはございますか?

小野氏:
やっぱり『ディグダグ』に似ちゃうとマズいなと思いましたね(笑)。

市川氏:
特に小野さんご自身が手がけられるということで、言い方はあれですが「言い逃れできない」ものがあるじゃないですか(笑)。「ほかの人が手がけてこうなった」というものとは意味がぜんぜん違うので。

――それらを踏まえたうえで明確に違うポイントとして挙げられるのは、ヘビがプレイヤーの味方(ペット)として存在していることだと思いますが、敵から味方に変えられたきっかけはなんだったのでしょうか?

市川氏:
始めは原作のMZ-80版と同じく敵にする予定で、「コイツは人を食いそうだ」みたいな感じがあったんですよ。そこから小野さんに直していただいたのを何度も見ているうちにいろいろとネタが思い浮かんだんですが、ヘビの顔があまりにも善良すぎるので「倒したいな」とか「やっつけよう」ってモチベーションが湧かなくなっちゃって(笑)。その時点で“ヘビちゃん”という愛称が僕らのなかで付いていて、ちゃん付けで呼んでいるものをやっつける気はしないわけですよ(笑)。

――グラフィックを何度もご覧になってから試行錯誤しているうちに愛着が湧いてしまったわけですね(笑)。

市川氏:
『ディグダグ』を遊んだことでゲームを作るという人生に変わった僕だってファイガーを“ファイガーちゃん”って呼んだことはないですからね(笑)。

 

――ヘビちゃんはプレイヤーが意図せぬ動きを縦横無尽にするわけですよね?

市川氏:
プレイヤーのことが大好きなので食べたりするという危害は与えないのですが、後を付いてきたり寄ってきたがるんですよ。なんか嬉しそうな顔してるますからね(笑)。

――もともと敵だったヘビがプレイヤーの味方、ペットになるというアイディアをお聞きしたときは小野さんはどう思われましたか?

小野氏:
もうすでに決まってたというか、わりと事後報告的な感じだったんだよね。でも気に入ったんだったらいいんじゃねってことで(笑)。

市川氏:
ヘビちゃんがプレイヤーに危害を与えるイメージがないということを素直にお伝えしたうえで「こうなりました」と(笑)。じつはヘビちゃんのグラフィックを最初にお送りいただいたときに「このままでは使えない」ということが判明したんですが、そのまま立体的に動かせるという小野マジックをかけていただきました。電話とメールだけで意思疎通するのは大変でしたねえ(笑)。

小野氏:
そうそう。途中で混乱するんだよ、なにがなんだかわけがわからなくなって(笑)。

――たしかに固定画面のなかでヘビちゃんという存在感は圧倒的に大きいですよね。

市川氏:
すべてのキャラクターが16×16のドットで収まっているので、なにかアイキャッチになる大きなものがひとつあるだけでもインパクトがぜんぜん違うんですよね。発想の転換やアイディアを表すものなので、画面を一目見たときに「おっ、なんだろう?」と思わせるのは絵の綺麗さとは別に、構造が持っている「惹きつける能力」にプレイヤーの想像力を働かせたいなと思って。

ヘビちゃんだけじゃない! 小野ワールド全開な愛らしいキャラクターたち

――プレイヤーキャラクターのグラフィックについてもお聞きしたいのですが、地底を掘るということで、さすたまのようなスコップのようなものを持たせたわけですね?

小野氏:
『ディグダグ』にしても『ミスタードリラー』にしても掘るものは当然なにか持ってるでしょ? だからいろいろ考えたんだけど、やっぱりそこが似ちゃうのはどうしても嫌だな、悔しいなと思いましたよ(笑)。

市川氏:
ドットのすごさというを改めて感じたんですが、地底基地から出てくる隊員的でありながら子供っぽくもある。直接は描かれてない分、想像力が湧くんですよね。

 

――敵キャラクターを描かれるにあたってなにかイメージにされていたものはあるのでしょうか?

小野氏:
原作の敵がヘビだから生き物であることに間違いはないっていうことでわりとぶっつけでしたね。「こんなんどうかな?」ぐらいで(笑)。

市川氏:
ドットの表現はすべて出尽くしているという話をされる方もいるんですが「これがデザイン力です」という感じのものが出ましたね。でも流れとしてはプログラムを組める中学生の男の子がやってるようなレベルで、小野さんから絵が届くと「わーい!」みたいな(笑)。

小野氏:
だいたい昔っぽいゲームのキャラクターって目が付いてて体があって、それがどういう動きをするかっていうだけなんだよね。敵でもプレイヤーでもキャラを普通に歩かせるだけじゃつまらないからちょっと大きく動かしたりとかね。

――四六時中プニプニと動き回るキャラクターや、その場で眠ってしまうキャラクターといった敵キャラの性格付けは先に小野さんのデザインがあって決められたものなんですか?

小野氏:
絵が先なんだけど、性格付けと動きは完全に市川くん任せでやってくれたね(笑)。「落ちてくる」っていうのがテーマだから、たまに上(地上)に戻したほうがいいのかなと思ったりもしたんだけど、原作がどんどん下に下がっていくゲームということでそれを基本にして作ってたね。

市川氏:
小野さんがどんどん描いて送ってきてくれるので、その心を受け継いで「こうだ! こうかな?」みたいな感じで。止まって休んでいる敵キャラの絵もあったので「だったら寝かせちゃいませんか?」みたいな感じで、寝ている絵をさらに描いていただくという感じでしたね。こういうのを描いていただけるからこそのライブのような作業感でした。決まりきった流れ作業だとできないんですよ。

 

速度と熱量を持ったライブ感あふれる作業状況だったからこその一作

――最初に依頼を請けてからキャラクターを描き上げるまでの時間や期間はどれぐらいなのでしょうか?

小野氏:
1か月もかかってないよね?

市川氏:
かかってないですね。基本的に「ここを修正してください」とか「このパーツが欲しいです」ってご依頼すると「ちょっと待ってね」って言われてから翌日にはシュシュッとすぐに上げていただける速度感で動いていただきました。小野さん的に見ても相当早いものだったと思うんです。

小野氏:
うん、そうね(笑)。会社でやってるとなんだかんだで遅くなるんだよね。あんまり言いたくないけど、なかには楽しんでやってない奴とかいるじゃん?(笑)。

――どうしても「お仕事」と思ってしまうとなかなか(笑)。そういえば以前、市川さんから「ゲームを作っていた頃を思い出した」とお聞きしましたが。

小野氏:
やっぱり昔のゲームってこういう質感のキャラクターで16×16のドットなので、俺はその時代のノリで作りたかったんだよね。昔のナムコって企画よりもアイディア優先だったから、俺がグラフィックを送るとすぐに連絡が返ってくるところにそれを感じたのかもしれないね。

――「作りたい」という意欲の熱量と早さですよね。

小野氏:
そうそう。作ってる場の雰囲気は昔のまま(笑)。

市川氏:
これをやるためには小野さんや僕の速度でやれる人同士じゃないと成立しないというのもあるんですよ。小野さんがせっかくモチベーション高くやってくださる方なのにこっちが3日かかる人だったらその間に冷めてしまうんです。普通だったら3日でもそんなに悪くない話なんですよ(笑)。なんだけど、ひと晩でやっていただけるのは本当にありがたかったですね。次はどうなるんだろうって続きを見たくてしょうがなかった。

――グラフィックがドット絵に切り替わったことで、魅力はかなり増していますよね。

小野氏:
原作とは別物って考えなのかもしれないね。バージョンを変えてグレードアップしていくということで、原作はヘビが丸まって@マークになったりとかいろんなところで感動したので好きだし、スペシャルバージョンもこれはこれで驚かされるしね。

――ドットならではの魅力というのもあると思いますが、小野さんにとってその魅力とはなんでしょうか?

小野氏:
小さければ小さいほど難しいってことに尽きると思うんだけど、いかに省略するか、いかに残すかってあるじゃない? たとえば赤い丸に白い点をポンと打てばそれで球に見えるじゃないですか。ドットごとに色を変えるなんて意味ないよねって思うから「いかに引くか」っていう持論を持ってる。いまだったら16×16のなかの一マスごとに別の色を使えるけど、「それってどうなのよ?」って話だと思うんだよね。昔はそうじゃなくて、一番はじめはベタ一色で3色が使えるようになって、それから透明1色が増えたことで「背景は黒いから透明で抜けば黒いところ使えるじゃん」って工夫しながら作ってた。だから大きいキャラや多い色数ってそれが発展してから出てくることでやろうと思えばいくらでもできるんだけど、それじゃやっぱりつまらないなってことかな。

――システムは踏襲しつつも小野マジック、小野ワールドが広がっているまったくの別物ですもんね。

市川氏:
もともとMZ-80版を遊んで「こうしたらいいのにな」ってところからそのまま突き進んでしまったので、そういう意味では本当に別物になってる感じですね。僕はもう小野さんからお送りいただいたグラフィックを面白く反映させていくっていうことだけなので(笑)。なので、オリジナルの『地底最大の作戦』だけで突き詰めてしまうとヘビちゃんとかも出ない、いわゆる普通の範疇に収まってしまってつまらないと思うんですよ。

――最後に小野さんからプレイヤーの方々に向けて一言いただけますでしょうか?

小野氏:
『ディグダグ』に似てるって思うかもしれないけどまったく違うゲームだし、スペシャルバージョンにはヘビちゃんが出てきたりするのは「奥深さをもった原作があってこそ」なので、それを踏まえたうえでじっくり遊んでほしいかな。

 

『地底最大の作戦』が持っている本来の面白さと小野さんが描く愛らしいキャラクターがマッチしたことで、単なるリメイクではなく別物として生まれ変わった本作のスペシャルバージョン。オリジナルに囚われない市川さんのアイディアとライブのような一体感、そして両者の勢いを冷まさない速度で作られたからこその一作になったのではないだろうか? Steamだけではなくスマホやアーケードにも目を向けているとのことで、まだまだ意欲あふれる本作のこれからにもぜひ注目していただきたい。

有限会社マインドウェア
http://pinball.co.jp/

『宇宙最大の地底最大の作戦』公式ページ
http://www.pinball.co.jp/games/CosmicCavern/

『Cosmic Cavern 3671 宇宙最大の地底最大の作戦』Steamページ
http://steamcommunity.com/sharedfiles/filedetails/?id=699794047

Takuya Kudo
Takuya Kudo

1989年生まれ。UNDERSELL ltd.所属。ビデオゲームとピンボールをこよなく愛するゲームライター。新旧問わない温故知新のゲーム精神をモットーに、時代によって変化していくゲームセンターの「いま」を見つめています。

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