『Tokyo Stories』開発者インタビュー。「誰もいなくなった東京」舞台のゲーム開発者が、“前向きな発売延期”を決断した理由とは
2023年7月14日から16日にかけて、京都市勧業館 みやこめっせにて「BitSummit Let’ Go!!」が開催された。今年で8回目をむかえる同イベント、80作品以上が出展され、大いに盛り上がりを見せていた。
今回は出展作品の中から、ドリコムが開発中の『Tokyo Stories』のインタビューについてお届けする。ドリコムといえば『アイドルマスター シャイニーカラーズ』『魔界戦記ディスガイアRPG ~最凶魔王決定戦!~』など、モバイル向けゲームの開発でその名を見かけることが多い。一方で本作『Tokyo Stories』はSteamおよびコンソール向けにシングルプレイの3Dアドベンチャーゲームとして開発が進められており、同社にとっても新たな挑戦となる作品だ。
その開発の中核を担う同作プロデューサーの池田 佑基氏、デザイナーの寺島 誠一氏にインタビューを行い、同作が目指すところや、発売延期となった背景について訊いた。
──ご自身の経歴について、自己紹介をお願いします。
池田 佑基(以下、池田)氏:
株式会社ドリコムの池田です。経歴としては、2010年に『100万トンのバラバラ』というPSPのゲームを作りました。その次に『rain』というPS3のダウンロード型のゲームを2013年に作っています。その後、ドリコムに転職して、いくつかのスマートフォン向けのIPタイトル開発に携わりました。今回ドリコムの方でもオリジナルタイトルを作ることになりまして、『Tokyo Stories』のプロデューサー兼ディレクターとして参加しています。
寺島 誠一(以下、寺島)氏:
株式会社ドリコムの寺島です。デザイナーをやっています。経歴としては……今池田さんが言ったのと一緒なんですよ(笑)さっきの話の中に含まれちゃってます。
池田氏:
もう20年ぐらい一緒に、ディレクターとデザイナーコンビで仕事してます(笑)
──ありがとうございます。あらためまして『Tokyo Stories』についてどのようなゲームかご説明ください。
池田氏:
消えゆく東京を舞台にした3Dアドベンチャーゲームとして制作を進めています。主人公が自分の前からいなくなってしまった親友を探しに、舞台となる東京を冒険する物語になっています。3Dとピクセルアートが融合したビジュアルを目指していて、ビジュアル面も特徴になっているかと思っています。
──勝手に超短編ゲームかなとイメージしていたのですが、そうではないんですね。ボリュームとしてはどれくらいのものを予定されているのでしょうか。
池田氏:
去年のBitSummitでは、想定プレイ時間2時間ぐらいになるかなと話していたんですけど、自分たちも小規模ゲームを遊んでいく中で、これぐらいのボリュームは欲しい、あるいは自分たちが今やろうとしてることを並べていったらこれぐらいの尺がいる、というのが見えてきました。結果的に、全体のボリュームが最初から比べると大きくなったかなとは思います。20時間30時間遊ぶものではないですけど、それほど短くもならない予定です。
──現在はどれぐらいのチーム規模で開発されているのでしょうか。
池田氏:
まだ本当に小さいチームでやっていまして、今はメインで開発しているのは5人ぐらいです。
──しっかり時間をかけてじっくりと開発されているのですね。
池田氏:
かなりじっくりです。
──プロジェクトが立ち上がったのはいつ頃だったのですか。
池田氏:
2年ぐらい前だと思います。その頃にいろいろなオリジナル作品を考える試みを我々のチームでやっていて、『Tokyo Stories』もそのアイディアの中のひとつでした。いろいろと試行錯誤して、なかでも『Tokyo Stories』が成功する確度が高いんじゃないかと思い、現在開発を進めている状況です。
──ありがとうございます。『Tokyo Stories』はSNSなどで大いに話題になっていますよね。この現状は予想していましたか。
池田氏:
いやあ……予想してなかったですね。
寺島氏:
自分もそうです。こんなに取り上げられるとは思っていなかったです。そうなったらいいなとは思っていたんですけど。
池田氏:
話題になってほしいと思っていても、なかなかならないですから。
寺島氏:
いざなってみると「おおう」みたいな(笑)ビビリました。
──(笑)やはりそういう反応は開発のモチベーションに影響がでますか?
池田氏:
そうですね。Web媒体で取り上げてもらったときにバズる時もありますし、日々のSNS投稿でも、本当に良い反応の投稿とかもいっぱいあって。それは嬉しいですし、やっていて楽しいモチベーションになります。
寺島氏:
自分も、そうした反応はモチベーションになります。逆に、ユーザーの反応を気にしすぎちゃわないか、自分自身で心配になったりします。基本的にはすごく肯定的に捉えてもらっているのですけど、期待されている分、自分に変なプレッシャーをかけすぎるのも良くないだろうなと思います。こんなにリリース前から反応があるのは初めてなので、モチベーションにもなるし、ちょっとそわそわしちゃっているところもあります。
──弊誌でお伝えした発売延期のニュースも、6500件を超えるリツイートがありました。
池田氏:
応援のコメントもすごくたくさんいただいて、申し訳ないと思いつつ、ありがたいなと。だからこそ、変に裏切ったものは作れないな、というプレッシャーは日々増えていっています。そういう面と、でもやっぱり自分たちが“これを作りたい”というビジョンはあるので、変に期待を裏切るのはいやだけど、そこに縛られて、「みんなこういうゲームが欲しいんだろうな」みたいなものを作っちゃうのも違うと思うので、そこは日々せめぎ合いながらやっています。
──そういった反響の良さは、Steamのウィッシュリスト登録者数などにも数字で現れていたりするのでしょうか。
池田氏:
ドリコムはこれまでSteamでゲームをリリースしたことがなかったですし、自分たちが家庭用の開発をしていたときも、肌感覚はわからなかったんです。なので、どういう感じになるのかなと思っていたんですけど、ウィッシュリストに登録してくれるユーザーさんも相当増えていて、発売前のゲームではおそらく多い方かなと思います。
──ありがとうございます。ではゲームのテーマや伝えたいことについてお聞かせください。お二人はこのゲームで、プレイヤーに何を伝えたいですか。
池田氏:
『Tokyo Stories』を作り始めたときはコロナ禍の最中だったんです。そのときに会いたい人に会えないとか、いつの間にか連絡を取らなくなっちゃうことがすごい多くなって。自分の性格上、あんまりそこでガンガン連絡をとりに行くとかはないんですけど、でも「こうやって繋がりって切れてくんだな」っていう感覚があったんです。
それが自分はうまくできてなかったけど、みんなにうまくできるようになってほしい気持ちがありまして。そこから「いなくなっちゃった人のことを想う」物語を作りたいと思い、『Tokyo Stories』のストーリーが生まれました。
──なるほど。寺島さんはアーティストとしてどういうところに気持ちを込めていますか。
寺島氏:
今回『Tokyo Stories』では3Dとピクセルアートが融合したようなアート表現を採用しています。もともとピクセルアートのイラストは、一部の界隈で流行っている感じがあったんです。有名な作家さんが何人かいて、ピクセルアートのゲームを作るとなったときに、その人たちの絵の良さが何なのかを研究しました。ピクセルアート作品は、ノスタルジックで、いい夢とかいい記憶みたいな雰囲気があるんです。『Tokyo Stories』は会えない人の話とか、記憶とかがテーマなので、合うかなと思いました。
記憶というものがもつ、独特な雰囲気ってあると思うんです。グラフィックではそういう“記憶の美しさ”を感じられるものというのもテーマにはしています。
──寂しさだったり美しさだったりというのは、すごく表現するのが難しいテイストですよね。
寺島氏:
そうですね。でもピクセルアートはそういう表現が得意だろうなというのは、作りながら思っています。バキバキの綺麗なグラフィックよりも、ピクセルアートだから感じられるみたいな。そういうところはやりようによっては結構できるんじゃないかなと、作りながら思っています。
──本作は固定視点の3Dのゲームですが、固定視点だけどユーザーが迷わないように工夫しているとお聞きしました。そのあたりも含めて、ゲームデザインとして心がけている点について教えてください。
池田氏:
やっぱりユーザーとしては、街の中で迷いたいわけで、ゲームシステムとして迷いたいわけじゃないんです。だから行く方向がわからず迷ってほしくなくて。どっちかというと、分岐の道を右に行ったけど、左も気になるから戻るといったところで迷ってほしくて。固定カメラによって位置がわかりにくいがゆえに、ミスリードしてしまうケースは避けたい。冷めるところはどんどん減らしていきたいなと思ってチューニングしています。
──雰囲気が特徴のゲームだけど、ストレスが生まれないようにいろいろ配慮されていると。
池田氏:
「普通にカメラ動かさせてよ」という感想になるのが一番悲しいですからね。
──先日、本作の延期が発表されました。延期理由として「やりたいこと、伝えたいことが膨らんできた」と説明されていましたが、これはプロジェクトが大きくなっているということでしょうか。
池田氏:
そうです。プロジェクトは大きくはなります。ただ正直なところ、最初にちょっと小さく見積もりすぎたところはあると思います。
寺島氏:
それはあると思います(笑)
池田氏:
もうちょっと簡単に作れるかなと思っていたら、全然そうでもなかったんです。今回はPCでも出すし、家庭用ゲーム機でのリリースも計画をしているので、その辺のノウハウのなさから、時間が結構かかっちゃっています。
──しっかりしたものを出すために時間かけたいという、ポジティブな延期ということでしょうか。
池田氏:
そうです。すごくポジティブに考えています。
──告知ツイートではリリース時期が「未定」とされていて、無期延期のような印象を受けるのですが、お二人のイメージとして、開発進捗は何%ぐらいなのでしょうか。
池田氏:
進捗についてはノーコメントで(笑)ただ安心してほしいのは、今は一旦未定という形にしていますが、決してこれが5年先になるわけではないので!軽々しく、来年発売しますとか言わない方がいいかと思い、未定という形にしています。
寺島氏:
今何%というのは難しいけど、完成する気がしないとか、そういうわけではないので、そこは安心してください。
──ゲームの全体像は見えてきたという感じでしょうか。
寺島氏:
そうです。やろうとしていることは見えてきてはいるけど、どれぐらいでそこにたどり着くかはまだ明確ではない状態です。あと何が揃えば完成だという、具体的なところまではまだ見えてないところはあります。
池田氏:
開発にかかわる人を増やしたいなと思いつつ、やっぱり言語化しづらい、センスというか、感覚が重要なところもあるので、しばらくはコアメンバー5人でじわじわ作ろうかなと思っています。
──ありがとうございます。最後にお二人から読者の方に伝えたいことあれば、お願いします。
寺島氏:
個人的な話ですけど、このプロジェクトを始めてから、本作と立ち位置が似たようなゲーム、小規模でシナリオ重視で、5時間から10時間ぐらいで終われるようなゲームをいくつか遊んで、すごく「環境が整っているな」というのは感じました。自分が知らなかっただけかもしれないですけど、それぐらいの規模、そういう立ち位置で品質の高いゲームがいっぱいあるんです。
自分たちが想定していたよりも反響が大きいのは、そういうのを楽しみにしている人がもう既に結構いるからなのかなと。ここ1年ぐらいでそういうことなのかなと感じています。だからその期待に応えたい。
池田氏:
僕からは、しっかり作っているので、ぜひお待ちいただけますと幸いです、と言わせてください。
──ありがとうございました。
『Tokyo Stories』はPC(Steam)およびコンソール向けに開発中だ。公式X(旧Twitter)やInstragramアカウントもチェックしておくといいだろう。
[執筆・編集: Junichi Matsui]
[聞き手・編集: Ayuo Kawase]