「ゲームのモーションブラーや被写界深度、色収差、レンズフレアって本当に必要なの?」という問いかけに対して知見集まる。それぞれの演出がもたらす効果とは
昨今のゲームにおける、現実の撮影効果を利用したグラフィック設定が議論の的となっている。ドイツのPC周辺機器メーカーであるROCCATは、「実際にビデオゲームでこれが好きな人はいる?」と4つの撮影効果を利用したゲーム設定の画像を投稿。
その4つの映像効果とは、Depth of Field(被写界深度)、Motion Blur(モーションブラー)、Chromatic Aberration(色収差)、Lens Flare(レンズフレア)である。この4つはカメラを使用した際に起こる事象で、映像作品や写真では、この事象を利用する事で、対象物が見せる表現を更に高める効果をもつ。しかし、レンズを通すことのないゲームのグラフィックにおいて、はたしてこの撮影効果は必要あるのか?という議論が巻き起こっているのだ。
まずは、今回議題となっているそれぞれの撮影効果を、1つずつ解説していこう。
それぞれの演出がもたらす効果
被写界深度とは、カメラのピントに合う範囲の大きさのこと。浅ければピント以外の部分はボケて映り、深ければ撮影範囲全体が、ボケのない綺麗な状態に映る。映像においてはそれを利用することで、見せたいものを明確に表し、観客の焦点を向けるために使っている。
モーションブラーとは、被写体ぶれとも言い、動いている対象をカメラで撮影した時に起こるぶれのことを指す。映像の場合、フレーム数が高いほど1秒間に撮影されるコマ数が多くなるため、モーションブラーがかかることはなくなる。しかし、映画の撮影フレームは24fpsで作動していることがほとんどなため、被写体を動かす場合、モーションブラーがかかってしまう。それがかえって自然な動きに見える表現となっているのだ。
色収差とは、レンズと光に含まれる色の屈折の関係により、像の中心から離れたところの色がズレる現象。像の中心に視点が集まる効果を生み出している。加えて、全体の色味を淡くすることにより、エモーショナルさを表現する意味合いがある。
レンズフレアとは、レンズ越しに太陽のような極めて明るい光源がある場合、その強烈な光が反射して、全体が白く映ること。写真全体に暖かみを与え、美しい風景においては、その美しさを更に際立てる。
このような撮影効果は、写真や映像の世界で使われるのと同じように、ゲームグラフィックスの演出にも用いられている。今回の議論の論点は、写真や映像といった“カメラを使った”メディアで使われる効果を、果たしてゲームでやる必要があるのか?という所にあるのだろう。しかし、その撮影効果が作品の持ち味を引き立て、さらにゲームの没入度を上げるケースも存在するのだ。たとえば、ツイートに寄せられたリプライでは、撮影効果と特定の作品との相性を挙げるものが多数寄せられた。
演出を巧みに活かした実例
被写界深度は、その調整の度合いや、カットシーンなどの特定の場面に限れば、ゲームを映画のように表現する事ができるという声が主にあがっている。たとえば、『バイオハザード RE:4』や、『Bendy and the Dark Revival』のようなホラー作品では、対象物にピントが合った際にその恐怖感をさらに引き立てるものになっている。
モーションブラーに関しては、コマ数が少ない写真や映像の世界の技術を、わざわざ30fps以上のもので表現する必要がないという意見が多く挙げられていた。これは、ハードウェアの進化に従い、設定されるfpsが上がってきていることに所以しているだろう。しかし、『ソニックアドベンチャー』や『Forza Horizon』シリーズ、『Marvel’s Spider-Man』のウェブスイングなど、プレイヤーが高速で移動する際に、景観にブラーがかかった状態は非常に臨場感があるとの意見も。また、近年の『Call of Duty』シリーズでは、武器の反動にモーションブラーをかけることにより、挙動のリアルさを向上させているという指摘もある。
色収差は、『Cyberpunk 2077』や、『Returnal』のようなSF、サイバーパンクのような強い色味が使われがちな作品であれば、その世界観をさらに強烈に見せることができる。一方『Bloodborne』『ELDENRING』など、全体の色味が落ち着いた作品に使われれば、画面の落ち着きをさらに強める役目を果たしている。しかしあまりにも強い色ズレが起きたり、常に色収差設定がついていたりすると、画面全体がボヤけて見えるようになり、かえって視認性が悪くなるという声もあった。
また、ゲームクリエイターのPhil Strahl氏が運営するYouTubeチャンネル、Pixel Prophecyでは、ゲームに使われる色収差表現の解説と紹介動画が上げられている。動画でStrahl氏は、ゲームは映画原作をイメージしたような色収差表現をしても、映画には及ばないケースがあるとコメント。一方、個人的にうまく表現できている例として、映画とは違う使い方での色収差表現を挙げていた。たとえば、『Inside』における水中から見える地上の景色、『ファイナルファンタジーVII リメイク』の戦術モード、『Black Mesa』におけるダメージの表現など、置かれている状況を視覚的に表すツールとして、色収差表現が効果的に使われているケースを紹介した。
※ 動画5分55秒あたりから
レンズフレアは、太陽の光によって、画面が白みがかって見えなくなってしまうというのが一番の大きな問題だろう。しかし、『Red Dead Redemption 2』や、『Microsoft Flight Simulator』などといったグラフィックが美しく、景観が綺麗に映えるような作品では、その表現をさらに美しくする役目として、レンズフレアが効果的に使われているという意見もあった。
一方、色収差をステータス表現に使うなどの独自の利用をし、評価されたものもある。使い方によっては、撮影効果が、ゲームで独自の利用法によって写真や映像とまったく異なる意味合いをもたらし、そのゲームの表現力を上げたというところが興味深い。ゲームにおいて、フォトジェニックに見せるためだけに存在しがちな撮影効果が、知恵と工夫で面白い表現になったというのは、まさにゲームだからこそもたらされたものだろう。
でも時々邪魔
もうひとつ、興味深かった部分として、それぞれの設定に対する反応が人によってまったく異なるというところだ。議論を見ていると、前述のオプションのすべてをオフにする人もいれば、モーションブラーにだけ厳しい意見を寄せたり、色収差、レンズフレアと言ったレンズでしか発生しない効果をゲームに使用することに対して意義を唱えたりと、人によって何を是非とするかが違うようである。これはプレイヤーによって遊ぶジャンルが異なることも関連しているだろう。たとえば、FPSのマルチプレイヤータイトルを好むユーザーは、モーションブラーなどに対し反対意見を述べるものが多く見受けられた。これは、撮影表現によってその視認性が下がってしまうこと、またCPUの使用率が上がってしまうことなどが所以されるだろう。
そして、何よりも見受けられたのは、そのような効果を設定でオフにできないことへの意見だ。もちろん、場面によってその効果が使われているのであれば切る事ができないのは仕方がない。しかし、常にその効果がゲーム中に発生しているのであれば、ゲームを遊ぶユーザーの負担に成り得るだろう。その撮影表現の切替可能であるかが、ゲームの評価を左右することもある。
今回、議論になった4つの設定は実際のゲームプレイに、強烈な影響を及ぼすものは少ない。しかし、この議論によって、その4つの設定がどのような場面で効果的なのかという理解が深まった……ことを祈りたい。一見すると邪魔に思える演出オプションも、仕組みや効果を理解できれば、それらの採用されているゲームシーンで開発者たちが何を伝えたいのか、読み取る解像度が高まるかもしれない。