「サイバーパンク エッジランナーズ」プロデューサーインタビュー。ぶつかり合いを重ね生まれた日本のアニメ会社とポーランドのゲーム会社による合作を結びつけたもの
『サイバーパンク2077』をベースにしたアニメーション作品「サイバーパンク エッジランナーズ」が2022年9月13日よりNetflixにて配信中だ。本作はCD PROJEKT REDと株式会社トリガーとの共同制作により実現したものであり、「自分で作って自分で売ってきた」CD PROJEKT REDにとっては初の試みである。今回配信を記念して、本作のプロデューサー二人、本間覚氏とエルダー爽氏に対しインタビューをおこなう運びとなった。なぜこの企画が実現したのか。ポーランドと日本。CD PROJEKT REDとトリガー。互いに遠く離れた場所でまぶしすぎる輝きを放つ2社をどのようにして結びつけたのか。制作過程を聞いた。
──本日はよろしくお願いします。最初に二人の簡単な自己紹介をお願いします。『サイバーパンク2077』の制作に関わっていれば、どのような形で関わっていたのかも教えて下さい。
本間覚氏:
私はCD PROJEKT REDでジャパン・カントリー・マネージャーを務めています、本間覚です。前職ではスパイク・チュンソフトにて『ウィッチャー3 ワイルドハント』の日本語ローカライズ業務などを担当していました。CD PROJEKT REDに移籍してからは『サイバーパンク2077』の日本語ローカライズならびに、PRやマーケティングなどを担当しています。
私が「サイバーパンク エッジランナーズ」のプロデューサーも務めることになったのは、2017年ごろ。丁度いまから5年前くらいですね。当時、私の上長であり、本社の事業開発部門マネージャーだったRafal Jakiが日本のカルチャーが大好きで、彼から「『サイバーパンク2077』のアニメを作りたい」という提案を受けました。Jakiはアニメを作るのであれば日本の制作スタジオに作ってもらいたいという想いが強く、実際にさまざまな国内の制作スタジオに打診させていただいた結果、株式会社トリガーさんに担当していただくことが決まり、同時に私は本作のプロデューサーを担当することになりました。Jakiはエグゼクティブ・プロデューサーであると同時に、本作の原案者でもあります。私は企画立ち上げ直後のスタジオ行脚から、トリガーさんに決まった後は二社間のコミュニケーションのクッション役、ゲーム側資料の取りまとめなど、いろんな仕事をしましたね。
2019年から2020年ごろは『サイバーパンク2077』のローカライズ業務であったり、ローンチ作業が非常に忙しい時期でした。そのため、エルダーに一旦仕事を預けることもありました。ゲームに関する作業が落ち着き、戻ってきてからは販促などさまざまな業務を担当しています。
エルダー爽氏:
「サイバーパンク エッジランナーズ」のプロデューサーを務めています、エルダー爽です。ゲームのローカライズの仕事をしたくてCD PROJEKT REDの求人に応募したのですが、面接の最中に「アニメを作らない?」と本間さんにお誘いをいただき、「サイバーパンク エッジランナーズ」のプロデューサーとして採用されました(笑)
本間覚氏:
裏話をすると、求人を出した時点でアニメを制作中であることは伏せていました。CD PROJEKT REDが日本でローカライズのプロジェクトマネージャーを求人すると、ゲームのローカライズであると思われがちですよね。エルダーの最初の面接で「アニメ制作に携わってほしいんですけど、それでも大丈夫ですか?」と質問したことを思い出しました。
──ではアニメに関する質問に移っていこうと思います。ゲーム中に主人公の名前を冠したカクテルが登場しますが、先程の話のとおり、ゲーム発売時点でアニメ化の企画は進行していたという認識で大丈夫でしょうか。
本間覚氏:
まず前提として、主人公である「デイビッド・マルティネス」の名前を冠したカクテルは、今年に入ってからゲーム発売後のアップデートを通して追加されたものです。発売直後のバージョンにおいて、アフターライフに行っても対象のカクテルはありません。
その上で、2018年ごろには主人公の名前は「デイビッド・マルティネス」にすると決まっていました。ただ、2018年当時はCD PROJEKT REDとトリガーさんの間を脚本が行ったり来たりしていたタイミングだったので、具体的なストーリーの内容などは固まっていませんでした。アフターライフに「デイビッド・マルティネス」のカクテルが追加されたのは、アニメの内容が決まったあと、つまり最近のアップデートによるものだったわけです。アニメ制作プロジェクトそのものについては2017年ごろからスタートしているという認識で間違いありません。
アニメ制作にあたって、なぜ日本のスタジオであるトリガーに打診をし、今石洋之氏を監督にしたチームづくりをしたのか教えてください。
エルダー爽氏:
本間が答えたように、プロジェクトの発端こそ社内に多くいるアニメファンの提案ではありましたが、今回制作した「サイバーパンク エッジランナーズ」は、作品の中にサイバーパンクというジャンル全体に対するオマージュという意味も込めています。そして、サイバーパンクというジャンルを語る上でジャパニメーションに触れないわけにはいきませんでした。たとえば「AKIRA」が海外のアニメ市場に及ぼした影響は多大なものがあります。ちなみに私が好きなアニメは「PSYCHO-PASS」です(笑)
サイバーパンクというジャンルにおいて、代表的と呼ばれるどの映像作品を観ても、ジャパニメーションの影響は確認できると思います。だからこそ、サイバーパンクにリスペクトを示すためには、日本のスタジオに制作していただくということは欠かせませんでした。
本間覚氏:
その上でなぜ、さまざまなスタジオに打診をした結果、最終的にトリガーさんに決まったのかについては私が答えますね。まずトリガーさんに、一番このプロジェクトに対して強い興味関心を抱いていただいたという背景があります。この理由としては、トリガーの関係者に『ウィッチャー3 ワイルドハント』のファンがいて、CD PROJEKT REDとの仕事を勧めてくれたからだと聞いています。加えて、プロジェクトに興味を持っていただいたスタジオさんたちの作品を比較検討した際、トリガーさんのユニークなスタイルに賭けてみたい! という思いに至りました。
私達がアニメを制作する上で懸念していたのは、既存作品の二番煎じになってしまうことでした。トリガーさんの作風にはそうしたイメージが湧く余地がなかったんです。トリガーさんが一番、今まで観たことのない作品ができあがる可能性が高いと感じられたんですね。
弊社スタジオのトップがプロジェクトを「Pull the trigger(引き金/トリガーを引こう)」しようと言ったことを覚えています。以上が今回制作スタジオにトリガーを選んだことに関する経緯になります。
──配信サービスにNetflixを選んだ経緯についても教えてください。
本間覚氏:
最初から「この配信サービスでいこう」ということは特に決まっていませんでした。そもそも本作を作り上げることを最優先にしていたからですね。極論を言ってしまえば、動画配信サービス各社に企画をプレゼンして快い返事をいただけなかった場合、本作はいわゆる製作委員会ではなく単独出資の形をとっていることもあり、GOG.com(※)で配信すれば良いと考えていました。
※GOG.com:CD PROJEKTの子会社が運営するPCゲーム・映画販売プラットフォーム。
ただグローバルに作品のマーケティング活動を行うとなると、それを自社で完結することは難しい。そんな中、かつてNetflixさんとはドラマ「ウィッチャー」を通じた縁がありました。CD PROJEKT REDは、ドラマの制作自体には直接関わっていないものの、関係性は既にあったんです。この繋がりがあったからこそ、Netflixさんとスムーズに交渉ができたと聞いています。
──本作の監督を今石洋之氏が務めることになったのはNetflixからの要望によるものなのでしょうか。
本間覚氏:
まず前提として、トリガーさんが持つ制作ラインは1ラインしかないんです。その都合上、何か作品を作る上で今石さんは必ずなにかのスタッフとして参加することになっていると聞いています。そして2018年ごろ、トリガーさんはすでに制作予定の作品を複数本抱えていました。つまり優先順位の問題や、今石さんの他作品のスタッフとしての業務がいつ終わるのか予測がつかなかったため、最終的に誰が監督を務めるか分からない状態に当時あったんです。
ただ、弊社としては今石さんに監督を務めてほしいという要望があり、Netflixさんとしても今石さんに監督を務めてもらえるならば是非お願いしたいということで、今石洋之さんが監督を務めることになったと記憶しています。
──今回お二方はアニメプロデューサーとしてどのような業務を行いましたか。
エルダー爽氏:
プロデューサーの仕事内容は人によって違うと思いますが、私の場合、それを『サイバーパンク2077』風にいうと、「フィクサー」のようなものだと考えています。担当プロジェクト内の課題を見つけ、それを実行できる最良の人材を探しだすこと。これが私の仕事だと考えています。たとえば劇伴を作ろう、では山岡晃さんにコンタクトをとってみよう、翻訳リソースが足りなければ適した人材を探してこよう、といった内容の仕事を延々と続けていくことがプロデューサーとしての仕事における根本的な部分ではないかと考えています。
プロデューサーという役職は自分からは何もクリエイティブなものを生み出さないポジションだと思います。同時にプロジェクト内のあらゆるリソースに通じている必要があり、だからこそ他者からの信頼が一番重要になってくる仕事です。
加えて、私は本作のエグゼクティブ・プロデューサーであるRafal Jakiに頼んで、英語版のローカライズとダビング作業(映像に音声データや劇伴、効果音を合わせる作業のこと)を担当させてもらうことになりました。その仕事の中で、各キャラクターに適した演技ができる声優を探すことには、以前に公式放送で言及したように重きを置いていました。
──英語版のオーディションに直接関わったりもしたのでしょうか。
エルダー爽氏:
そうですね。数十あるボイスサンプルをすべて聞いて精査して、どの声がどのキャラクターに一番似合っているのか、社内のローカライズチームと相談を重ねていって、今のキャストになりました。
──日本語版のキャスト選びについては関わっていますか。
本間覚氏:
日本語版については今石さんが考える最良のキャスティングで進行するという方針でした。実際に我々がオーディションに立ち会ったり、トリガーさんからの提案を社内で検討することもありましたが、トリガーさんのやりたいようにやっていただくことを重視していました。つまり私達のプロデューサーとしての仕事の1つは、トリガーさんがやりたいことができるように社内で調整を行うことです。逆に英語版のキャスティングについては100% CD PROJEKT REDが担当しています。
エルダー爽氏:
日本語版のキャスティングについて記憶に残っているのは、本作のライブオーディションをした際に、KENNさんの演技を聞いて「この人がデイビッド役を務めてくれたらいいな」と感慨に耽ったことですね。私は最初からKENNさん推しでした(笑)
日本語版の1話の収録時に、本作を担当する声優さんが一同に介する機会があったんですが、当時の私にはどのような演技をもってキャラクターを表現するのかイメージできない声優さんもいました。ただ最終的には度重なるディレクションを通じてキャラクターにバチッとハマる演技を披露してくださって、そのとき改めてトリガーさんの見る目は凄いなと思いました。
──トリガーによるキャスティングは大抵の場合、お馴染みのメンバーで固める傾向があるので、新しいメンバーばかりである今回のキャスティングは意外でした。この方向性についてもトリガー主導によるものでしょうか。
本間覚氏:
我々CDPRメンバーがオーディションで推した役者さんとは違う方々がアサインされることも多く、アニメのキャスティングはゲームとは違うんだな、と強く感じました。今石監督と音響監督のご意向に沿った形として、今回のキャスト陣が最良であるという判断になったのだと思います。
──ゲームという媒体を活かしたじっくりとした語りを得意とするCD PROJEKT REDと、ダイナミズムが特徴のトリガーという、正反対のクリエイティブの性質をもった両会社をプロデューサーとしてどう折衝したのか、支障がない範囲で教えてください。
本間覚氏:
先ほどエルダーが言及したプロデューサーの業務に関する内容の続きになりますが、本作の脚本の内容に関して、CD PROJEKT REDとトリガーさん両者の意識のすり合わせをしていく必要がありました。そのなかでまず障壁となったのが言語の違いです。トリガーさんは基本的に日本語をベースにした作品作りを行います。アメリカにもプロデューサーはいらっしゃいますが、今回は完全に日本語をベースにした作りです。そのため、二社の間に通訳を挟んでコミュニケーションを行う必要がありました。
また、本作はCD PROJEKT REDが書いた脚本をベースに、トリガーさんがアニメという表現媒体に適した形へと落とし込んでいく方法を採用しています。ただトリガーさんとの共同制作がはじまった当初は、かたやゲーム業界の第一線で活躍する企業、かたやアニメ業界の第一線で活躍する企業ということで、互いの作品にかけるこだわりが強かったんです。
例をあげると、日本のスタジオさんたちに企画の打診を行う段階において、CD PROJEKT REDはすでに自分たちで1話のアニマティック(映画制作の準備段階において、従来の絵コンテに相当する各カットの画面構成などを、簡単なコンピューターグラフィックスで映像化したもの)を「CD PROJEKT REDの方向性」のサンプルとして作っていたんです。セリフも社内のスタッフを使って当てています。ただその内容は「日本のアニメーション」ではなかった。実写のライブアクションをアニメに落とし込んだような物語であり、作品のディティールの詰め方もそうでした。さらに言えば、全10話の作品であることや、1話ずつの内容に関しても大まかに決めていました。
そしてトリガーさんとの共同制作が決まった後、2018年ごろ。このサンプルが持つ方向性に則った脚本でアニメを作るのでは「日本のアニメーション」、ひいてはアニメ作品として成立しないのではないか、というトリガーさん側の意見と、サンプル通りに作りたいCD PROJEKT RED側の意見をすり合わせることになりました。アニメ制作のミーティングってたぶんどの会社でも数時間かかるものと思いますが 、時差の関係や通訳を挟む必要もあったりしてさらに伸びたりもしました。それを2018年から2019年ごろまでひたすらやっていましたね。
最終的にはCD PROJEKT REDが書いた脚本を、トリガーさんが日本のアニメに適した形へ1からリライトして、そこから絵コンテを作って制作していくことになりました。おそらくそれが最良な形で、プロデューサーとしてそこまで持っていけたと、思っています。CD PROJEKT REDはナラティブを作品の売りにしている、ストーリーがなんぼという作品作りを行っている会社です。そのため、だいぶ脚本制作の時点で譲れなくなってしまっていたという感覚はあります。
こうした経緯もあって、作画だけでなく脚本についてもトリガーさんにおまかせしています。ただ、「サイバーサイコシス」に焦点を当てるという要素、「ナイトシティ」という舞台そのものが敵であるというテーマ性についてはCD PROJEKT REDの影響が色濃く表れています。最初は喧嘩もしましたが、最後にはお互いの会社が納得ゆくものを作れたのではないかと思います。
──全10話観終えて、たしかに2つの会社が互いに激突した形跡を感じましたね。
本間覚氏:
ちなみにとあるサイバーウェアのデザインもめちゃくちゃ揉めたりしたんですよ。
エルダー爽氏:
ずっと揉めてましたね。
本間覚氏:
CD PROJEKT RED側の方向性としては流線型をイメージしたフォルムで行きたかったんですね。スマートなスタイルがいいと。対してトリガーさんはパワフルでゴツゴツとしたイメージで行きたかった。ある人物との対比を表現するためとかだったりします。最終的にはトリガーさんのデザインになっていますね。
我々、とくに私とエルダーの仕事はトリガーさん、ひいては今石監督がやりたいことを本社に納得させることが役割として大きかった。あらゆる交渉術を駆使して「今石監督を信じましょう」というところに持っていくのは大変でした。
エルダー爽氏:
トリガーさんが制作終盤に突入してからよく我々に向けておっしゃっていたのが、「これをこうしたら絶対面白くなるから。信用してください!」という言葉でした。そんな力押しのもと作中の最終盤の演出が決まったりもしたんですが、凄く良い形に仕上がったので、トリガーさんを制作スタジオに指名して良かったなと改めて思いました。トリガーさんは初めて一緒に仕事をする相手であり、実績を抜いて信頼関係ができていないところからスタートしているので、弊社を説得するのは大変でしたね。
――両社ともに、すごく濃い色のアイデンティティを持っていらっしゃいますからね。
本間覚氏:
そうなんですよね。なので基本、我々とトリガーさんはめちゃくちゃ喧嘩しているんです。ただそれが化学反応を起こしたときに、すごい面白いものが出来上がるのではないかという期待はもちろんあって。実際にそれが破綻せず実現してよかったなと思います。
エルダー爽氏:
喧嘩と言っても楽しい喧嘩ですよ(笑)クリエイティブな喧嘩ですから。CD PROJEKT REDはこうした妥協しない人たちが集まって出来上がっていて、だからこそ今もなお、インディペンデントなゲーム開発スタジオであり続けているんです。
──本作では歌詞入りの劇伴が多数使われていましたが、これについては2社のうちどちらがセレクトしたものになっているのでしょうか。
エルダー爽氏:
劇伴に関しては今石監督にお任せしておりました。もともとゲーム中の劇伴をアニメにも何曲か使おうという方針を今石監督から相談いただいていたのですが、ゲームの曲そのままではキャラクターの心理描写を表現する上で適切な効果を生み出せないという問題が発生しまして。そのため新曲を何曲か制作する必要が生まれ、山岡晃さんに劇伴を担当していただきました。そして、今石監督が劇伴制作に関するディレクションを行ったという経緯があります。
本間覚氏:
ちなみに、オープニングテーマを演奏しているFranz Ferdinandとエンディングテーマ(完全新曲)を歌っているDawid Podsiadłoに関してはCD PROJEKT REDが提案しています。
──ゲーム制作時の業務との違いはありますか。
本間覚氏:
私個人の業務内において、ゲーム制作時と比較して明確に違うのは、作品のターゲット層ですね。日本でCD PROJEKT REDの作品を日本人向けに展開するとなると、当然日本人のゲームプレイヤーが最初のターゲットになってきます。しかし「サイバーパンク エッジランナーズ」は最初から全世界にいるサイバーパンクのアニメファンやNetflixユーザーに向けて制作しています。それは凄く自分の中での思い入れにつながっています。
ゲーム制作時の業務についても、日本人に向けて作品を日本語化し、素晴らしいクオリティで世に出すことは自分の仕事に対するモチベーションに繋がっています。ただ今回は作品の性質上、「日本の文化を世界に届ける」仕事です。ポーランドの文化を日本に届けるゲームの仕事とは逆ですね。自分の中ではかねてより日本のサブカルチャーを世界に発信したいという思いこそありましたが、業務の都合上、これまでそうした機会に恵まれませんでした。ですが今回こうしたチャンスに巡り合うことができ、CD PROJEKT REDのスタイルを通じて実際に世に伝えることができたのはかなり嬉しいです。海外のカルチャーを日本に持ってくることだけではなくて、コンテンツを通して日本のカルチャーを世界に発信することも同じように継続してやっていきたいと考えています。
極端な話、いままで作品のクレジットに名前が載ることは自分にとって重要なことではなかったんです。ありがたい話ではあるんですけどね。ですが今回はこうした経緯もあって、クレジットに自分の名前が載ることに対し、嬉しさというか。自分の名前が書かれたスクリーンショットを撮ってSNSにアップロードしたいなと思える仕事内容になったと思います。
エルダー爽氏:
私はオープニングクレジットに自分の名前が載ることがこの仕事を受ける決め手になったんですけどね(笑)
──(エルダー爽氏に向けて)今回の業務において大変だった点は何でしょうか。
エルダー爽氏:
日本とポーランドという、所属する国の異なる2つの会社の間に立って翻訳をしたことですね。めちゃめちゃ大変であり、貴重な経験でした。多くの場合、専門の翻訳者を用意したり、複数人で行うことが一般的ではあると思うのですが、クリエイティブな面でのプロデュースを行う上で、情報伝達に齟齬を生んではならないという思いが強く、であれば全部自分でやろうと思いたち、業務にあたりました。日本とポーランドを行き来するアイディアや取り決めをすべて翻訳するのは大変でした。
── 脚本のローカライズについてもご自身が行ったんですか?
エルダー爽氏:
そうですね。大半はやってます。脚本は(決定稿になる前に)何パターンか存在していて、それがさらに複数バージョン存在します。合計して何十本もありますね。それをまず英語から日本語に訳して、トリガーさんがそれをリライトしたものを英語に翻訳する作業を行いました。途中からは流石に1人では無理だと判断し、担当者を増やしました。ただ訂正箇所の細かい補足説明は口頭で行う必要があり、数時間に及ぶ会議の中、ずっと喋っていました。毎回声が潰れていましたね。
本間覚氏:
最初それを自分がやっていたんですが、ゲームローカライズ業務などの都合もあって、途中でエルダーに託したという感じですね。
── 「サイバーパンク エッジランナーズ」はかなり国産アニメの作風に寄っていますが、日本風の演出をもった脚本を英語に翻訳してCD PROJEKT RED側に伝える際に意識したことはありますか。
本間覚氏:
意識するというか、CD PROJEKT REDには日本風の演出に対して納得してもらいました。前提としてトリガーさんは本作を制作するにあたり「日本らしいアニメしか作りません」という明確なスタンスをとっていました。それは配信プラットフォームがグローバルに展開しているNetflixに決定していると言えど、揺らぐことはありません。たとえば本作は音声を日本語で先に収録しているんですよね。これがほかのグローバル向けアニメになってくると、作画制作は国内のスタジオだけど英語音声を先に収録し、英語音声をもとに日本語を収録するという形もあるわけです。ですが今回トリガーさんは「日本人向けの芝居を演じてもらうには日本語をもとにしなければならない。だから絶対に日本語を先に収録させてほしい」ということをプロジェクト進行当初からおっしゃっていました。
制作していくなかで、本社から「これはCD PROJEKT REDのスタイルにそぐわない」と演出について指摘を受けることもありましたが、その都度「これが日本らしいアニメーションなんです!」と納得させていきました。
エルダー爽氏:
最終的には形になりましたが、CD PROJEKT REDがトリガー側の意見に対してなかなか折れないんですよね(笑)だから折り合いをつけるのに2年もかかった(笑)私が印象に残っているのは「レベッカ」という少女の見た目をしたキャラクターについてです。レベッカはトリガーさんが考えてくださったキャラクターなんですね。この娘だけは最初デザインが出来上がった際に、CD PROJEKT REDのクリエイティブチームが「ロリっ子は原作の雰囲気に合わない」という意見を出していて、一方トリガーさんは「出してほしい」と曲げなかった。結果、CD PROJEKT REDが折れることになりました。同様のことが何回かあったことを覚えています。
結局レベッカについては全キャストの中でも指折りの魅力をもったキャラクターに仕上がりました。今やクリエイティブチームはみんなレベッカにめろめろです。このほかに関してもすべていい方向に働いたのではないかと思います。
── 今後『サイバーパンク2077』の派生作品に関する予定や展望はありますか。
エルダー爽氏:
私個人としては作りたいとは思いますし、作りたいと思っているCD PROJEKT REDのスタッフは多いです。ただ今のところ何かを制作中ですという話は何もできません。
本間覚氏:
これまでにも『サイバーパンク2077』のコミカライズなどはおこなってきましたが、それら以外で外部のパートナーと組んで弊社のIP作品を作るという試みは今回が初めてなんですよね。CD PROJEKT REDはこれまで自分たちでゲームを作り、自分たちでゲームを売る。いわば大規模なインディーデベロッパーのようなスタンスを取っていたんですが、今回外部の会社と組んで作品を制作しお届けすることになったんです。本社としては今後『サイバーパンク2077』の世界観を拡張したい意向はあるようですが、とりあえず「サイバーパンク エッジランナーズ」をこの意向における1つのマイルストーンとしていただければと思います。その上で、コミュニティのみなさんが視聴して気に入ってくだされば、我々としても本社に提案がしやすくなります。視聴者の反応を注視していきたいですね。
──では最後に、お二方から読者に向けてメッセージをお願いします。
エルダー爽氏:
本作はエロありグロありな大人向けの作品になっています。私は祖母にPC画面の資料を見られてすごく気まずい想いをした経験があるので、視聴者のみなさんは、本作を鑑賞する際、周りに気をつけて楽しんでください。
本間覚氏:
足掛け5年でようやくここまで作ってきたプロジェクトが世に出るということで、本当に感慨深いとしか言いようがないですね。AUTOMATONさんはじめ、ゲームメディアをご覧になっている読者層というと、当然ゲーマーの方になってくると思います。なかでも『サイバーパンク2077』をプレイ済みの方は、本作の中にはゲームを意識した演出が多いことに気づくと思います。そして先日配信された『サイバーパンク2077』のパッチ1.6にはアニメを意識したコンテンツが入っています。「サイバーパンク エッジランナーズ」を観終えたらぜひゲームに戻っていただいて、主人公デイビッド・マルティネスの軌跡を辿ってみるなど、両者のつながりを楽しんでいただければ幸いです。
──ありがとうございました。
「サイバーパンク エッジランナーズ」はNetflixにて配信中。
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