崖の町探索ADV『断崖のカルム』開発者インタビュー。手書きテイストのグラフィックで、どこかにありそうな世界を表現したい

『断崖のカルム』という作品を、国内のクリエイター埜々原氏が制作中である。同作は、小さな崖の町カルムを舞台にしたアドベンチャーゲームだ。どこか暖かみのあるグラフィックと、ややハードな世界設定が興味を惹く本作について、開発者に話を伺った。

断崖のカルム』という作品を、国内のクリエイター埜々原氏が制作中である。同作は、小さな崖の町カルムを舞台にしたアドベンチャーゲームだ。町は険しい崖の上にあり、崖の下には雲海がどこまでも広がる。しかし雲海は有害であり、人間が入ると10分と持たずに気を失ってしまう。本作では、そんな謎めいた雲海と町に隠された真実、崖の町で暮らす人々の物語が描かれていくのだという。どこか暖かみのあるグラフィックと、ややハードな世界設定が興味を惹くが、本作はどんなゲームなのだろうか。またどのような体制で作られているのだろうか。2022年8月6日と7日の2日間開催された「BitSummit X-Roads」で、気になるところを伺ってきたので、本稿ではその内容をお届けしよう。



──自己紹介をお願いします。

埜々原氏:
DOUKUTSU PENGUIN CLUB(旧NONOHARA WORKS)の埜々原です。経歴としては、これまでコンセプトアーティストとして、8年ぐらいゲーム業界で活動してきました。昨年独立してフリーランスになりまして、その頃から本作の開発を進めています。僕のペンネームが埜々原なので、NONOHARA WORKSというチーム名を名乗っていました。

ゲームは3人で開発しています。メンバーは僕と、妻とプログラマーの3人で、僕がプロデューサーとディレクターとアートディレクターを兼任している形です。ストーリーやゲームデザインは、僕と妻の2人でああでもないこうでもないと言いながら作っていて、キャラクターのモデリングはほとんど妻、背景は全部僕が作っています。もう1人プログラマーの仲間にプログラムを担当してもらっていて、3人でゲームを作っています。

──どういったきっかけから、『断崖のカルム』の開発を始められたのでしょうか。

埜々原氏:
ゲーム業界ではコンセプトアーティストをしていたんですが、僕はずっと絵を書いていたいタイプではなくて、アーティストを志した時から絵で物語や世界観を表現したい人間でした。その表現の方法として、ゲームには音やストーリーや動きがすべて入っていて、世界や物語を一番いい形で届けられるんじゃないかと思っていて、だからずっとゲームを作りたかったんです。僕自身が幼い頃からずっとゲームが好きだったこともありますね。

しかし、ゲーム業界で普通に働いていると、ゲームを作る時間が全然ありませんでした。個人でゲームを作るほどの技術もゲーム業界に入った頃はなかったので、これまでは自分でゲーム開発をできなかったんです。しかし時が経ち、昨年独立してフリーランスになりました。ゲーム開発に対するノウハウも溜まってきましたし、ゲーム業界に在籍していた8年間で一緒にゲームを作れそうな仲間とも知り合えたので、本作の開発を始めたわけです。企画の発端としては、冒険してみたいワクワクするような世界をまず考えて、その世界観に合いそうな遊びを後から考えていきました。


──『断崖のカルム』について紹介をお願いします。

埜々原氏:
『断崖のカルム』は、一言で言えば崖の町探索アドベンチャーゲームです。舞台はカルムという崖の町です。崖の下はマスク無しで入ってしまうと10分ぐらいで気を失ってしまうような、人体に有害な雲海で覆われています。しかし崖の町は食料が豊富だったりするわけではないので、雲海猟師たちが仕方なく雲海に入ることで、何とか生活を成り立たせているのです。本作ではそうした町や世界を描こうとしています。要素としては崖の町で住人とコミュニケーションしたり、町の中にしかけられたギミックを解いたり、ストーリーが進むと行動範囲が広がっていったりします。アドベンチャー要素が特に強いですね。

主人公は雲海の中へ入っていきます。雲海にはモンスターが生息しているのですが、モンスターを殺すと死に至る謎の病にかかってしまうため「雲海の中では殺生をしてはならない」というルールがあります。なので、主人公は草むらに隠れて敵をやり過ごすとか、餌を投げて敵をおびき寄せてその隙にすり抜けるとか、餌にワイヤーを繋げておいて電気を流すとか、ステルスアクションのような形で敵と対峙します。それと本作では、生物に生きている感じをもたせたくて、敵が聴覚と視覚と嗅覚という別々のセンサーをもっています。たとえばこの敵はすごく耳がいいとか、敵ごとに感覚の違いがあり、それによって攻略方法も異なってきます。

──説明の中に電気が出てきましたが、本作の世界はテクノロジーが発達しているのでしょうか。

埜々原氏:
テクノロジーが発達しているわけではないです。雲海の中には、過去の高度な文明の遺産やロストテクノロジー的なものが残されています。電気ショックの場合には、誰かが蓄電器のようなものを見つけてきて、使い方を偶然発見したのでしょう。


──PS1風のある町の風景が印象的です。本作のグラフィックのテイストはどういったところから決められたのでしょうか。

埜々原氏:
ゲームを作り始める前から自分が元々描いていた「萌え建築(MOE-KENCHIKU)」という水彩タッチのイラストシリーズが起点にあります。「萌え建築」のテイストをできるだけ3Dグラフィックでも表現したいと思っていて、手書き感が浮かないちょうどいい感じのグラフィックが、PS1ぐらいのローポリ感だったのです。バリバリの物理ベースレンダリングだとどうしても3D感が出て、生っぽい絵面になっちゃうところがあるので。『FF9』など僕の大好きなタイトルから影響を受けている部分もありますね。

──『断崖のカルム』で特にこだわって表現しているポイントを教えてください。

埜々原氏:
親近感の湧く世界なんだけれど、しっかりファンタジーな世界というか、そういうバランス感覚を大事にしています。崖の町で実際にキャラクターたちが生活しているんじゃないかなと思える生活感、ファンタジーなんだけど身近な感じとか、この世界のどこかにありそう思えるような。特に、世界観を楽しんでいただけるように重視して、制作しています。あと本作では、個性豊かなキャラクターたちも登場します。主人公は人間っぽい見た目をしていますが、獣が2本の足で立ったような獣人や、足の生えたきのこのような人物もキャラクターとして登場します。あまり縛りのない種族が暮らす世界を描く予定です。物語にも力を入れているので、個性豊かなキャラクターたちの織りなすストーリーも楽しみにしていただけると嬉しいです。


──読者に向けたメッセージをお願いします。

埜々原氏:
まだ開発の進捗は5%ぐらいなのですが、世界観と物語、あとビジュアルを大事にしていて、それらを引き立てるアクションを入れていこうとしています。今のところプラットフォームは、PC(Steam)とNintendo Switch向けに出したいと思っていて、ずれる可能性は大いにあるものの、2024年末ぐらいを目標に開発を進めてます。先は長いですが、今後を是非楽しみにしていてください。

──ありがとうございました。

『断崖のカルム』はDOUKUTSU PENGUIN CLUBにより開発中。公式サイトおよびSteamのストアページが公開中となっている。




※ The English version of this article is available here

Keiichi Yokoyama
Keiichi Yokoyama

なんでもやる雑食ゲーマー。作家性のある作品が好き。AUTOMATONでは国内インディーなどを担当します。

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