『サイバーパンク2077』Steam版にてレビュー荒らしが発生中。ロシア・中国方面からの攻撃
CD PROJECT REDの『サイバーパンク2077』が、Steamにて低評価レビューの荒らし投稿、いわゆる“レビュー爆撃”を受けた。同社は先ごろ、ウクライナを支援しロシアとベラルーシ向けの作品販売停止を表明していた。そのため、同国ユーザーなどの政治的な批判が集中したようだ。
『サイバーパンク2077』は、CD PROJECT REDが開発したオープンワールドゲームだ。巨大な未来都市ナイトシティを舞台の中心として、主人公であるVが陰謀に巻き込まれ奔走する様が描かれる。本作はリリース後に極めて好調なセールスを記録したものの、コンソール版を中心とした最適化不足や大量のバグが指摘され返金にまで発展したほか、Steamユーザーレビューでの評価などにも影響が見られた。しかし、継続的なアップデートにより評価面も持ち直しつつある。昨年11月26日には、直近30日間のSteamユーザーレビュー集計ステータスが「非常に好評」になったとして、開発者が喜びを示す一幕もあった(関連記事)。また今年2月には大型アップデートも実施され、ゲーム内のさまざまな要素が見直され、次世代機対応もはたされている。
しかし先日、『サイバーパンク2077』はSteamにて大量の不評ユーザーレビューを投じられることとなった。原因と見られるのは、CD PROJEKTグループが3月3日に発表したウクライナとロシア情勢に関する方針だ。同社は発表のなかで、ウクライナを支援する姿勢を表明。ロシアおよびベラルーシにおける同社ゲームタイトルの販売停止を伝えていた。
現在、同社が運営するGOG.comおよびSteamではロシアからの『サイバーパンク2077』購入は不可能な状態となっている。そうした対応を受けて、ロシアおよびベラルーシのユーザーたちが、同作Steamユーザーレビューに大量の否定的なレビューを投じたようなのだ。同作のSteamストアページを見ると、CD PROJEKTグループの販売停止発表と時を同じくする3月3日より、突如として不評レビューの数が急増。毎日多くて200件程度で推移していた不評レビューが、同日には567件寄せられ、翌日には2000件を超えている。なお、こうした不評レビューについては、すでに「レビュー荒らし」としてSteam側から対策がなされている。
投じられた不評レビューの内容を見てみると、CD PROJEKTグループの対応を批判する声がほとんどだ。「ゲームに政治を持ち込むな」「ロシア人に対する差別である」とした意見が多数投じられているほか、中傷といえるようなコメントもロシア語で多数投稿されている。いずれにせよ、ゲームの内容と関係する主張は少なく、大部分が政治的なメッセージに終始している。また、ロシア語による投稿と傾向を同じくする、中国語による批判レビューも散見される。必ずしも中国国内からのレビューとは限らないものの、中国とロシアの関係の深さがユーザー感情にも影響を及ぼしているとも考えられる。
ロシア語による批判レビューはGOG.comの『サイバーパンク2077』ストアページにも寄せられており、Steamにおけるレビュー爆撃とほぼ同様の内容だ。また、CD PROJEKT REDによる過去の人気作『ウィッチャー3 ワイルドハント』についても同じく、Steamにて低評価レビュー爆撃を受けている。
CD PROJEKT REDに対するロシアユーザーからの批判は、ほかのゲーム企業に比べても苛烈な傾向がある。ロシアでのゲーム販売停止については、EAやマイクロソフトなどの大手企業も実施している。Xbox Game Studiosが販売する『Halo Infinite』や、EAの『FIFA 22』などのSteamユーザーレビューにも、ロシア語・中国語による政治的批判は寄せられている。しかし、その規模はCD PROJEKT REDへのレビュー爆撃には及ばない。EAやマイクロソフトが比較的手広く展開していることを加味しても、ロシアユーザーの怒りはCD PROJEKT REDに集中している様子がわかる。
その原因のひとつと考えられるのが、CD PROJEKTグループがポーランドを拠点としていることだ。ポーランドとロシアは、歴史上幾度も衝突を繰り返している。その影響は国家間摩擦として現代にまで及んでいるのだ。ポーランドは今回のロシアによるウクライナへの侵攻にあたっても、まっさきにウクライナへの支援や避難民の受け入れを表明しており、ロシアへの制裁にも積極的だ。そうしたスタンスはゲームスタジオも同様で、CD PROJEKTグループのほか、Bloober Teamや11 bit Studiosなど、複数のポーランドのゲーム企業が早期にウクライナへの支援や、ロシアへの販売停止などの措置を表明している。ロシアのユーザーたちが、因縁あるポーランドの企業に反感をいだきやすい土壌はあるだろう。
そしてCD PROJEKTグループは、ゲーム企業による対ロシア措置の旗手ともいえる動きをしていた。同社による3月3日のロシア向け措置発表は、ほかの大規模ゲーム企業と比較しても早かった。そして、翌日の3月4日にはマイクロソフトが、さらに続いてEA、Activison Blizzard、Epic Gamesがロシア向けの作品販売停止を発表するなど、欧米のゲーム企業が立て続けにロシアへの販路を断っている。ロシアと因縁浅からぬポーランドの企業が、対ロシア制裁ラッシュの急先鋒に立ったかたちだ。そのため、CD PROJEKT REDに同国ユーザーから強い反感が寄せられ、レビュー爆撃に繋がったと考えられる。
また、今回のレビュー爆撃の背景には、“販売停止”なる措置を受けたゲーマーとしての感情もあるだろう。欲しいゲームが自国から買えない、またゲーム開発元から国ぐるみで締め出された現状に、ゲーマーが怒りや無念を感じるのも理解できなくはない。しかし、ユーザーレビューはあくまでも、作品についての評価を寄せる場である。政治的意見を論ずる場は、別にあるはずだ。