『ぷよぷよ』でプロプレイヤーが円周率を描き出す。大連鎖の果てに突如出現する理解外の「ぷよぷよアート」

 

『ぷよぷよ』シリーズは、国産パズルゲームとして長きにわたって愛されているタイトルだ。シンプルなルールながら奥深い戦略性は多くのプレイヤーの心をつかみ続けており、色とりどりの「ぷよ」がくっついて消える様子を見ているだけでも目に楽しい。そうしたぷよの挙動に、キャンバスとしての価値を見出したプレイヤーが存在するようだ。


『ぷよぷよ』シリーズは、コンパイル(現在は解散)が開発したパズルゲームだ。いわゆる「落ち物パズルゲーム」と呼ばれるジャンルの代表格として90年代に一斉を風靡し、現在もセガおよび関連会社によって新作が開発され、リリースされている。同作は「同色ブロックを4つ以上つなげると消える」というシンプルなルールが基本だ。ブロックとして登場する「ぷよぷよ(通称ぷよ)」は、緑・赤・青・黄・紫の5種類が存在するほか、隣接したぷよの消去でしか消えない「おじゃまぷよ」などのバリエーションが登場する。

前述の通り、ぷよは同色を4つ以上つなげると消える。同作の魅力のひとつが、「いかに消さずに連鎖を繋げるか」という点だ。連鎖は、回数を重ねれば重ねるほどスコアが高まり、対戦時にも敵へ送るおじゃまぷよの数が増えるなど有利になる。同作のプロプレイヤーともなれば、多色入り交じる重厚な大連鎖を瞬く間に組み上げていく。


この連鎖を利用して、ぷよで“絵”を描き続けるプロプレイヤーが存在する。JeSU公認『ぷよぷよ』プロゲーマーのやなせ氏だ。同氏は7月23日、『ぷよぷよ』ゲーム内画面をキャンバスにして、「円周率を求める」動画をTwitterに投稿。同ツイートは約1.9万件のリツイートを集めている。動画では、一見乱雑に並んだ多数のぷよが連鎖を重ねるうちに、あっという間に意味のある模様を描き出す様子がうかがえる。


動画で描き出されたのは、円周率である。8連鎖後に「π=」の文字、そしてもうひと連鎖して「3.1415926535897…」の文字が、ダイナミックに映し出されている。πは円周率をあらわすギリシア文字、3からの一連の数字は円周率の小数点以下13桁となっている。ランダムに落ちてくるぷよを巧みに扱い、なんと文字にしてしまったのだ。円周率のような長い文字列を表現したというのだから驚きだ。720個のぷよの配列で表現されているこの「ぷよぷよアート」は、一体いかにして作られたのだろうか。

やなせ氏の過去の動画で、その制作風景と努力の一端を知ることができる。まず、ぷよぷよアートはピクセルアートの一種と考えることができる。やなせ氏はまず完成形となる絵を用意し、マス単位で分割、そこに向かって連鎖を組んでいくという手法を取っているようだ。同氏のYouTube上で公開されている、『ぷよぷよ』シリーズを代表するキャラクター「アルルとカーバンクル」を描き出す動画では、横30マス・縦28マス、計840マスをキャンバスとして使用している。こちらはシリーズ作品『ぷよぷよテトリス』で制作されたもののようだ。

当然、同作にはそのような広大なマスをカバーするゲームモードは存在しない。やなせ氏は、840マスの完成予想図を横10マス、縦2マスの42セクションに分割。それぞれの完成図に対応する連鎖を組んで録画を合成し、ぷよぷよアートを描き出しているのだ。動画によれば、「アルルとカーバンクル」の場合は1セクション完成にかかった制作時間は平均6分ほどとのこと。始めた頃に比べれば高速化したそうだが、それでも単純計算で4時間以上かかるほどの重作業だ。動画編集も含めると制作期間はさらに膨らみ、上記のぷよぷよアートは完成に2週間ほどかかっているそうだ。

同氏はほかにも、Nintendo Switch版『ぷよぷよテトリス』のゲーム起動画面を描くぷよぷよアートなど、多数の作品を投稿している。クリスマスメッセージを表示するぷよぷよアートについては、3回にわたって画面が切り替わる、見ごたえのある大作だ。いずれも、注意深く観察してみると横10マス・縦2マスに細分化されて描かれていることがわかる。


また、やなせ氏は制作の様子がよくわかる動画も作成している。1画面にルービックキューブを再現するという作品だ。こちらはまずピクセルアートで下絵を描き、そこに向けて連鎖を組んでいる。『ぷよぷよ』には「階段積み」「鍵積み」「GTR」といった多数の連鎖土台の型が存在する。またそうした型にとらわれない組み方も可能。やなせ氏は卓越した組み上げスキルによって最終形を逆算し、複雑な連鎖を構築しているのだろう。ルービックキューブぷよぷよアートは1画面で展開しているため、大作よりは比較的把握しやすい。しかし、正直なところ筆者のようなアマチュアには雲の上に見えるほどの境地だ。

やなせ氏は恐るべきペースでこうしたぷよぷよアートを投稿し続けており、その技術についても進歩しつづけているようだ。投稿作品は同氏のTwitterアカウントおよびYouTubeで閲覧できる。『ぷよぷよ』への愛と技術の結晶とも言えるぷよぷよアートで、同氏が今後、何を描き出していくのか楽しみにしたい。