心理ホラー『The Medium』レビュー。「見える」と「見えない」を同時に体験する“二重現実”の世界
現実世界と精神世界、2つの世界を舞台に霊媒師として謎を解くホラーゲーム『The Medium』。『Layers of Fear』や『Blair Witch』などを手がけたデベロッパーBloober Teamによる新作だ。本作は日本時間の1月29日、Xbox Series X|SとPC(Windows 10/Steam/Epic Gamesストア)向けに発売され、Xbox Game Passにも対応する。
霊がいるのが「見えない」と同時に「見える」。現実世界と精神世界を同時に見る“二重現実”のゲーム体験とは、一体どのようなものだろうか。本稿では、レビュー用に提供された『The Medium』のゲームコードにより、Xbox Series Xにて一足先にプレイしてわかったことをお届けする。
はじめに、ゲーム内容を紹介する。『The Medium』は、三人称視点の心理ホラーゲームだ。ゲームタイトルにもある「medium」という単語には、「霊媒(師)」という意味もある。プレイヤーは、medium(霊媒師)の能力をもつ主人公マリアンとして、廃墟となったホテルの謎を解いていく。
物語の舞台は、90年代後半のポーランド。葬儀屋を営む養父の手伝いをしているマリアンは、ある日突然、謎の男から連絡を受ける。謎の男はマリアンを知っているだけでなく、彼女の“知りたいこと”を知っているようだ。マリアンは謎の男に会うため、ある事件で廃墟となったホテル「ニワ保養所」へ向かうこととなる。
ゲームシステムとしては、ステージを探索し、霊能力を使ってパズルを解くことでゲームが進んでいく。ストーリーの進行に応じて、現実/精神世界の2つの世界を同時に、または行き来しながら、ニワ保養所で起きた事件の真相に迫ることが、本作の目的だ。
不気味さと同時に、引き込まれるような美しさも併せ持つグラフィックは、終焉や退廃をテーマとする作品を遺したアーティストのズジスワフ・ベクシンスキー氏の作品から着想を得て制作されたという。また、本作の音楽を手がけるのは『Layers of Fear』などのArkadiusz Reikowski氏と、『サイレントヒル』シリーズの山岡晃氏だ。こだわりのアートスタイルとサウンドによる、恐ろしくも美しい世界に浸ることができる。
テーマとしての「二面性」と「デュアルリアリティ」
本作には、現実世界と精神世界を同時に体験できる「デュアルリアリティ」というシステムがある。ゲーム画面を2つに分割し、“二重現実”を探索することができるシステムだ。また、ストーリー上でも、「二面性」がテーマのひとつとなっているようで、個々のエピソードには隠された一面が存在する。それらは詳しく語られないこともあるため、どのように捉えるかはプレイヤーに委ねられている。このように、ストーリーとゲームプレイの両方で、「物事の二面性」を意識させられるのだ。
現実世界と精神世界は似たような構造だが、同じ場所でも存在するものが異なる。たとえば、霊は精神世界で見ることができるが、現実世界では見えない。また、どちらかの世界では通れない場所が、もう一方の世界では通れるという場合もある。2つの世界の違いを読み取ることが、先へ進むヒントとなる。
また、デュアルリアリティは、ムービーシーンでも活かされる。ゲームプレイでは、常に同じ場所を同じアングルから映す。しかしムービーでは、それに加えて、見えるものと見えないものを効果的に見せるような異なるアングルを使うことで、「2つの世界の同じ場所で起きているできごとがまったく違って見える」ということが強調される。そして、そういった内容が説明的になることなく、美しく見応えのある画面構成で描かれるのだ。
なお、デュアルリアリティは場面に応じて自動的に発動するため、プレイヤーによる切り替えはできない。ゲームプレイでは、2つの世界のどちらかに存在する(行き来する)探索パートと、2つの世界を同時に見る“二重現実”パートが、ストーリーの進行に沿って切り替わる。
想像をかきたてる「見えない」もの
物語で起きるできごとには、常に「隠された一面」が存在する。それらの中には、マリアンの霊能力によって見つけることができるものもあれば、はっきりしない場合もある。こういった、「はっきりと描写されないこと」が、ゲームを通して多く感じられた。見えない、わからないまま想像の余地が残されることで、語られなかった物語に思いを巡らせる楽しみがあった。
あえて「見せない」ものとして、視覚的に印象に残ったのは、本作に登場する霊がみな仮面を被っていることだ。声の調子から表情や感情を想像することはできるが、実際の表情はわからない。また、仮面が隠しているのは表情だけではなく、顔そのものでもある。正体がはっきりしている霊だとしても、顔を見ることができないのだ。
探索中は、ニワ保養所で過去に起きた事件に関わる「物」を調べることが多くなる。時には、物に残された残留思念を読み取る霊能力で、当時の断片的な会話を聞くこともできる。しかし音声だけではできごとの詳細はわからないため、書類や写真などの他のヒントと照らし合わせて考える必要がある。また、そのできごとの内容について、明確な答えが用意されていない場合もある。
答えのない謎について考え、ストーリーへの理解を深めるためには、収集アイテムが鍵となる。収集アイテムには、さまざまな人物が残したメモやイラスト、写真などがあり、現実/精神世界のどちらにも隠されている。筆者としては、隅々まで探索して集めたくなるほど、それぞれに重要な情報が含まれているように感じられた。
没入感を高める画面デザイン
本作では、おそらくプレイヤーが作品の世界に集中しやすくするための工夫として、あえて「わかりやすさ」を抑えた感覚的な画面デザインがなされている。ゲームプレイ中の文字情報やボタン表示などが、なるべく目立たないようなかたちで表示されるようになっているのだ。
たとえば、精神世界のマリアンはエナジーをチャージすることができるが、そのチャージ量が左腕の状態によってわかるようになっている。光っている部分が肩まで広がっている状態がマックスで、光っている範囲が手首に向かって少なくなるほどチャージ量が減っていることを示す。
インタラクト可能なオブジェクトは、デフォルト設定の状態でも近づくまでボタン表示が出ない。そして、設定画面からこれらをより目立たない表示方法に変更したり、まったくなくしたりすることも可能だ。HUD表示オンにすることも可能だが、オンにした場合でも基本的には画面に表示されず、必要な時にだけ表示される。
また、マリアンに「見えない」危険が迫っている場面では、懐中電灯の点滅や、危険現象が発する音、コントローラーの振動の強さなどによって危険度が示される。これらにより、「危険が迫っていることはわかるものの、どの程度まで耐えられるかわからない」という緊張感が生まれ、恐怖が増して感じられた。
不自由さは必ずしも欠点ではない
本作のカメラアングルは、レトロなホラーゲームを彷彿とさせるような、場所によって固定カメラアングルが次々と切り替わるタイプだ。しかし、移動はラジコン操作ではないため、歩いている途中にアングルが切り替わるとスティックの入力方向も変わる(画面が切り替わる間に入力し続けている場合は、切り替わる前に向いていた方向に歩き続ける)。移動モーションにも少々クセがあり、歩き始めの1歩目と、入力をやめた後に左右の足を均等な位置に揃えるための1歩が入る。つまり、急に走ったり止まったりすることができない。
「操作しづらい」とも取れるかもしれないが、筆者としては、この不自由さが本作の世界観とマッチしていると感じられた。固定カメラアングルは常に「見えない部分」が残されるが、「見えないこと」は想像をかきたてたり、恐怖を生んだりする。マリアンが動いたり止まったりするたびに僅かな準備動作を必要とすることは、人間らしい自然な動きに感じられた。また、そういった動きの対比として、「人間ではないもの」の奇抜な動きがより恐ろしく感じられた。
不満点をあげるとすると、ゲームプレイにやや単調な部分があった。探索は楽しいのだが、入れる部屋や場所が多くない。建物内はともかく、屋外の開けたエリアでも決められた部分しか歩けないため、少し窮屈だった。また、謎解きの難易度が低めで、迷うことがほぼなかったことも気になった。
システム面で惜しかった点としては、ストーリーを振り返る機能が不足していた。まず、セーブがオートセーブのみで、スロットは7つ。もう一度見たいムービーや収集アイテムを振り返ろうとすると、「最初からプレイし直す」もしくは「見たい部分の直前のデータを、7つのオートセーブに上書きされないように定期的にロードする」ことになる。せっかく考えさせられるストーリーなので、ムービーや収集アイテムが振り返りやすいような機能がほしかった。
総評としては、退廃的な世界観と考えさせられるストーリー、じわじわ迫る「見えない」恐怖の表現は良いが、難易度やセーブなどの機能周りは惜しい。探索や、謎の多いストーリーの考察を楽しむことができれば、欠点に勝る魅力がある作品だ。また、メインストーリー自体が想像の余地を残して作られているため、見方によって印象が変わる。その点においても、プレイヤーによって大きく印象が異なる作品となりそうだ。
『The Medium』はXbox Series X|Sと、PC(Windows 10/Steam/Epic Gamesストア)向けに配信中。価格は、Xbox Series X|S版とWindows 10版が5850円、Steam版が6380円、Epic Gamesストア版が5180円だ。また、Xbox Game Pass(Xbox Series X|S & PC)に対応するため、メンバーシップを持っていればプレイすることができる。