サメオープンワールド『Maneater(マンイーター)』の“ヤバい日本語”はどのように改善されたのか。検証すると共にその事情を販売元に訊いた
パブリッシャーのKoch Media/Deep Silverは12月17日、Tripwire Interactiveが手がけたオープンワールド・アクションRPG『Maneater』の、PlayStation 5/PlayStation 4版を国内発売した。また、日本ではPC/Xbox Series X|S/Xbox One版が先行して配信されており、これですべてのバージョンが楽しめるかたちとなった。購入はこちら(PSパッケージ版/PSダウンロード版)。
本作にてプレイヤーはサメとなり、オープンワールドの水中世界を生き抜く。水面下には餌となる生物だけでなく、凶暴なワニやほかのサメなども存在。また、人間を襲えばサメハンターにも追い回される。そうした脅威に立ち向かいながら、クエストをこなし捕食と進化を繰り返して、子ザメからメガシャークへと成長していくのだ。その過程では、因縁のあるサメハンターの目線から描かれる物語も、ドキュメンタリー番組スタイルで展開する。
『Maneater』は、PC/Xbox One版が今年5月に先行して国内発売され、当初から日本語表示に対応していた。物言わぬサメが主人公ではあるが、上述したストーリー要素ではセリフのあるカットシーンがいくつも存在し、またアクションRPGとしてのシステム周りや、豊富に用意されたクエストの説明など、比較的文字量が多い作品である。そのため、日本語対応はありがたい仕様ではあったが、肝心のローカライズ(翻訳)の品質が良くなかった。
しかし、今回のPS5/PS4版の発売に合わせて日本語ローカライズが刷新。PC/Xbox Series X|S/Xbox One版にもアップデートによって適用され、より自然な日本語で本作を楽しめるようになった。では、本作のローカライズにはかつてどのような問題があって、今回どのように修正されたのだろうか。いくつかの事例をかいつまんで、前後のバージョンを比較しながら見ていこう。
突然変わる口調
まずは、主人公のオオメジロザメの宿敵サメハンターである、スケイリー・ピートのカットシーンでのセリフだ。それぞれ画像上が修正前、下が修正後である。ここに掲載したのはごく一部だが、大きく分けて2パターンの問題が存在した。ひとつ目のパターンは、見た目どおり性格も言葉遣いも荒々しいピートのはずが、妙に丁寧な口調になるというものである。場面によっては粗暴にも表現されるため違和感が激しかった。
翻訳者はピートの人物像は理解していたと思われるが、丁寧な口調の部分は誰のセリフか把握できていなかった可能性がありそうだ。この問題については、荒々しい言葉遣いに統一するかたちで修正。もちろん、穏やかに喋る場面は状況に合わせて表現されている。
なお上の画像で見られるように、スケイリー・ピートの名前については、場面によって「スケイリー・ペート」や「スカリー・ピート」といったように表記揺れが存在したが、修正後はスケイリー・ピートに統一された。
そもそも何を言っているのかわからない
ふたつ目のパターンは、原文のセリフをそのまま直訳したが故に、何を言っているのかわけが分からなくなったパターンだ。丁寧口調との合わせ技であることも特徴として挙げられる。また一語一句直訳したことで、日本語の会話として場違いな単語が唐突に出てくる場面も。ちなみに、上の画像にある「トウモロコシ!」は原文では「mais」となっており、おそらくフランス語だろう。ピートは時折フランス語を織り交ぜて喋ることがある。
ただ、maisは確かにトウモロコシを意味することもあるが、このシーンでは「しかし」のような否定の言葉として受け取るべきだった。ひとつ目のパターンにも共通することだが、どういった場面なのかや前後の文脈を翻訳者が理解できていたのか疑問符がつくミスである。修正されたバージョンでは、多くのシーンで大きく翻訳が見直され、より自然な日本語になった。
翻訳そのものの間違い
次の問題は、シンプルに翻訳が間違っているというもの。ただ、その間違え方がトリッキー過ぎて思わず笑ってしまう。「アザラシ」を「密閉」と翻訳していたのは、おそらく「Seal」の意味を取り違えたのだろう。「閉じる(Dismiss)」を「はねつける」と訳していたのも同様の理由だと思われる。「ヨット」とすべきところを「世っと」としていたのは、変換ミスに気づかなかったのかもしれない。
本作の誤訳でもっとも有名なのは「オクラ」だろう。原文は「Orca」であるため、修正後の「シャチ」あるいは「オルカ」と翻訳すべきだが、なぜか野菜になってしまっていた。オクラは英語で「Okra」と書くため、読み間違えたまま翻訳したのだろうか。
こうした問題は、ゲーム内のどのような表記を翻訳しているのかを確認できていれば、すぐに気付いたミスだっただろう。もっとも、実際のところは翻訳作業時に十分なサポートを得られるとは限らず、やむを得ない部分はある。
多くの海外ゲームにおいては、こうしたおかしな日本語ローカライズはある意味つきものであり、また改善されることは珍しい。しかし本作のローカライズについては、修正・改善が多岐にわたっておこなわれた。その中には、誤訳ではなかったが訳語を変更したり、より自然な文章に直したり、またレイアウトが崩れていた箇所を調整したりといった細かい変更点も数多くもある。海外ゲームに不慣れな方であっても、サメライフを存分に楽しめる日本語版に仕上がったといえるだろう。
誤訳が起こる理由
今回弊誌では、『Maneater』のパブリッシャーKoch Media/Deep Silverと、開発元Tripwire Interactiveの担当者にインタビューを実施。上に紹介したローカライズの改善について、さらに本作の開発背景などについてうかがった。
────Tripwire Interactiveの作品はかねてより多言語対応していましたが、『Maneater』はとりわけ多くの言語に対応しています。その判断に至った背景をお教えいただけますか。
私たちのほかのタイトルと比較すると、『Maneater』はセリフや物語によりフォーカスした作品だといえます。そのため、スケイリー・ピートやナレーターの滑稽なやり取りすべてについて、ほかの国のプレイヤーにも楽しんでもらいたかったのです。
────当初から日本語にも対応して発売されましたね。
『Maneater』のコンセプトは世界中の誰もが楽しめるものだと感じていたため、可能な限りあらゆる国で発売すべきだと考えました。日本ではゲームは非常にポピュラーですよね。であるならば、日本のゲーマーに本作を自国語で体験してもらえるよう手を尽くすことは当然の流れでしょう!
────以前の日本語ローカライズにおいては、たとえばオルカがオクラになるなど、不自然な翻訳が散見されました。ある意味微笑ましい誤訳ですが、それが日本で話題になっていたことはご存知でしたか。
面白いですね!そんなことになっていたとは知りませんでしたが、そうした誤訳によってちょっとした笑いを提供できていたなら、良かったというべきなのかもしれません。
────本作の誤訳の多くは初歩的なミスだったように感じられるのですが、なぜあのようなローカライズがおこなわれてしまったのでしょうか。
本作のローカライズについて、Deep Silverは今回日本語翻訳をやり直すまで関わっていなかったため何ともいえませんが、私が思うに、複数の要因が重なった結果だったのかもしれません。たとえば、ローカライズ用テキストファイルのフォーマットの使い勝手が悪く、構造を壊さないよう非常に慎重に扱う必要があったり、テキストの文脈がバラバラで、ゲーム内のある目標の名前の500行下にその説明文が記述されていた、なんて状況もあり得ます。もちろん、これが誤訳の原因として挙げられるすべてではありませんが、誤訳のいくつかは、こうした事情が引き起こしたものである可能性はあるでしょう。
以前のローカライズをおこなったチームは、本作の文脈やゲーム内容そのものを理解していなかったようにも感じます。また、発売前にそうした問題を発見・修正するはずのLQA(言語品質保証)が、十分におこなわれていなかったことも考えられますね。
────今回新たに日本語ローカライズをやり直すにあたって、こだわったところや気をつけた部分はありますか。
報告を受けたのは、主に誤訳・文脈・敬称・漢字変換の問題で、また原文のダジャレを可能な限り日本人に伝わるよう翻訳することも新たな目標として挙がりました。今回、これらを正すことに主に焦点を置いていました。
サメ熱が込められたゲーム
────開発陣には『Depth』に関わっていたメンバーも多いと聞いています。サメのどういった点に魅力を感じているのか、サメを題材としたゲームを作る情熱について教えてください。
そのとおり、『Maneater』のもともとのコンセプトは、『Depth』を開発したBlindisde InteractiveのAlex Quick氏が手がけました。サメをテーマにしたゲームを制作する上では、サメやほかの海洋生物にまつわる生理学を理解する必要があり、これがもっとも楽しい部分でもありました。私たちはそうした生物のキャラクターモデルを、誇張しつつもリアルに表現したかったからです。Tripwire Interactiveのチームメンバーの多くは熱狂的なサメファンですし、結果的に彼らの熱意が上手く反映されるかたちになりました。
────その後、『Maneater』はどのような経緯で生まれたのでしょうか。
当初は、そのコンセプトが何を意図していたのかはっきりとは分かりませんでした。ただ、Alex Quick氏がサメのメカニクスを紹介する技術デモを見せてくれた際に、私たちのスタジオのスタッフは真のオープンワールドRPGになる可能性を感じました。そしていくつかのビジネス上の契約を結び、何か月もの開発期間を経て、世界初のオープンワールド“ShaRkPG”として『Maneater』がショップの棚に並ぶこととなったのです!
────本作は“サメ版『GTA』”などと呼ばれることもありますが、影響を受けた作品はありますか。
もちろんです!ポップカルチャーにおいて、映画「ジョーズ」がサメ人気に火をつけるきっかけとなったことは間違いないでしょう。ただゲームデザイン的な観点からいうと、私たちの開発陣は初代『メトロイド』からインスピレーションを受けました。またバトル要素については、『デモンズソウル』『ダークソウル』シリーズの影響も少しあります。
────本作の魅力は、海を自由に泳いだりほかの生物を襲ったりということを含め、簡単な操作で「サメになれる」という点に集約されているように感じます。サメらしさを表現するには、かなり試行錯誤があったのでしょうか。
そうですね。開発スタッフには非常に才能豊かなキャラクターアニメーターがおり、サメやほかの海洋生物がそれらしく感じられるよう熱心に取り組んでくれました。私たちがこだわったのは、リアルさとコミカルさの程よいバランスです。真実性を高く保ちながら、ばかげた要素も少しは取り入れられる余地を残したかったのです。
────ゲームを進める中で、さまざまな種類のサメになるような方向性も考えられたと思いますが、オオメジロザメを主人公に選んだのはなぜですか。
オオメジロザメを選んだ大きな理由は、海水と淡水どちらでも生きられるという特徴にあります。これによって、主人公のサメが出会うことになるかもしれない捕食者や、水中の環境のバリエーションについて、可能性を大きく広げる結果となりました。もちろん、ほかの種類のサメについても検討はしましたが、オオメジロザメはベストな選択だったといえるでしょう。
────主人公のサメではなく宿敵の人間の目線から、ドキュメンタリー番組風に物語を描く手法がユニークです。これはどういった発想から生まれたアイデアだったのでしょうか。
本作については、『GTA』のように少し風刺的な側面を持たせたかったという背景があります。その上で、『Maneater』のゲームプレイのコア部分がやや陰気すぎると気づいたこともあり、テレビクルーがサメの一挙手一投足を追い、コメントをするというスタイルを思いつきました。このアイデアによってちょっとしたコメディ要素をもたらす結果となり、本作のトーンを少し明るくするには最適だったと思います。
────今回、PS5版も日本で発売されます。前世代機版からアップグレードされた要素について、プレイヤーには特にどのようなところに注目してほしいですか。
『Maneater』がPS5向けに最初にリリースされたタイトルのひとつとなったことには非常に興奮していますし、多くの改善要素を追加しました。HDRを適用した上でネイティブ4K解像度かつ60fpsで動作することは、本作のビジュアルを信じられないレベルに引き上げています。また、将来配信予定のパッチにてレイトレーシングへの対応も計画していますので、そのビジュアルを初披露できる時を楽しみにしています。
────本作の今後について、またDLCや来年発売予定のNintendo Switch版について、現時点で何か話せることはありますか。
いま言える確実なことは、週を追うごとに『Maneater』の将来はどんどんエキサイティングになっているということだけです。Nintendo Switch版では、まったく新しい方法で本作を体験できることでしょう。DLCについては……DLCって何のことですかね?
『Maneater』は、PC/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One向けに発売中だ。PS4版についてはパッケージ版も販売中(日本語字幕で遊ぶには要アップデート)。2021年前半には、Nintendo Switch版のリリースも予定されている。