目が見えない恐怖、音が聞こえる恐怖。盲目の女性が主人公の一人称視点ホラーADV『Perception』開発者インタビュー
『Perception』は今年5月にThe Deep End Gamesより正式発表された一人称視点のホラーアドベンチャーゲーム。本作は盲目の女性が主人公であり、プレイヤーは視覚ではなく“聴覚”で得た情報を頼りにゲームを進めてゆく。ゲーム画面には音により形成された青白い空間がボンヤリと表示される。その独自の世界描写と特徴的なグラフィックが注目を浴び、同作はKickstarterキャンペーンにて4357人から16万8041ドルもの資金を獲得することに成功している。
物語の主人公である全盲の女性「キャシー(Cassie)」は、ここ数か月間、まったく知らない“謎の屋敷”が登場する悪夢に悩まされていた。彼女は悪夢の真相を確かめるため調査を続けてゆくうちに、マサチューセッツ州グロスターに「エコーブラフ(Echo Bluff)」と呼ばれる地があることを知る。キャシーは類まれな聴力と音を駆使して、エコーブラフの屋敷のなかに潜む「恐ろしき未知の存在」と戦い、物語の真相へとたどり着かなければならない。
The Deep End Gamesは、マサチューセッツ州ボストンに位置する新興のデベロッパーであり、『BioShock』や『Dead Space』などの開発に参加したスタッフたちが集結して設立された。その中心的人物であるのがBill Gardner氏であり、『BioShock Infinite』における「Welcome to Rapture」や「Fort Frolic」レベルを手がけた人物でもある。今回AUTOMATONでは、Gardner氏とのインタビューを通じて、盲目の女性が主人公のゲーム『Perception』の背景に迫った。
参考記事: 音で見て音で戦え、目が見えない女性が主役のホラーアドベンチャーゲーム『Perception』
――Irrational(『BioShock Infinite』の開発スタジオ)を抜け、開発スタジオThe Deep End Gamesを設立した経緯は?
Bill Gardner氏:
開発スタジオを設立したいとは常に考えていたんだが、去年の暮れまでは最後までやり通すような気力が無かったんだ。スタジオを設立しようとなると、恐ろしいほどやらなければならないことがたくさんあるからね。ただ最終的には、“会社設立に関する問題を考えすぎるのはやめて、とにかくやらなければならない”と自分自身に言い聞かせた。『Perception』を可能なかぎり良いゲームに仕上げるよう専念し、わからないことはやりながら覚えていこうと決めたんだ。いろいろと疑問や質問が浮かんだんだけど、トモダチや元同僚のネットワークがあって本当に助かったよ。今だからこそ言えるけど、今までの自分のキャリアのなかで一番いい判断を下せたと思っている。自分の作りたいゲームが作れるし、ゲーマーの人たちと直接つながってゲームを形にするのを手伝ってもらえる。
――もしよろしければ好きな日本のゲームやカルチャーがあれば教えてください。
Gardner氏:
ぜひとも。私は日本のゲームだけではなく、日本の文化も大好きなんだ。この10年間に2度も日本を訪ねる機会があって、また行きたくてしょうがないよ。ご想像通り、子どものころはハードコアゲーマーだった。昔から任天堂のゲームが特に好きだ。でも『ICO』や『零』みたいにほかの作品もとても好き。日本のゲームがどれだけ好きかと聞かれたら、何日もずっと語り続けられるよ。東京にいたとき、秋葉原に行ってまぶしいライトと無数の素晴らしいゲームに照らされながら何時間もぶらぶらしていた。自分はアニメも好きなので最高だった。だから『Perception』を日本に出させていただくことを物凄く楽しみにしている。自分がこうやってキャリアやゲームに対して情熱も持てているのは、日本という素晴らしい国のおかげだと思っている。
※『Perception』は日本語字幕でのローカライズも決定している。
――『Perception』をあらためて日本のゲーマーに紹介してください。
Gardner氏:
『Perception』とは、「キャシー」という盲目の少女が主人公のナラティブなホラーアドベンチャーゲームだ。キャシーは目が見えないため、「エコーロケーション(Echolocation)」という能力で音を利用して周りの状況を「見る」ことができる。キャシーがエコーロケーションを使い音をたてることで、周りの世界から情報を引き出すという仕組みになってるんだ。白い杖を何かにタップすると、音のプールのようなものを作りだして、“周りを見る”ことができる。あるいは、ロウソクか何かを拾って向こうへと投げ捨てることで、先に何かがないか確認することもできる。
でもことは単純じゃない。ゲーム中にはプレイヤーを追跡する「プレゼンス(The Presence)」という凶悪な存在が登場するから、彼らに察知されないよう、音を鳴らす際には注意しなければならない。『Perception』の緊張感を高めてくれるステルス要素がさまざまな方法で用意されている。だからプレイヤーは注意深く屋敷を探索して、キャシーの夢につきまとうものとはいったいなんなのか、答えを探し出さなければならない。
――「エコーロケーション」は本作のメインメカニックになると思います。とてもユニークです。
Gardner氏:
「エコーロケーション」は潜水艦のようなものだ。すべての音があなたの周りになにがあるかを教えてくれる。私たちは「レッド・オクトーバーを追え!」という映画を見てインスピレーションを受けた。自分の周りにある物や敵などを探りだすのに音を利用するという行為には、生来の怖さがあるよ。
――Kickstarterでは『Perception』に影響を与えた作品が多数紹介されていましたが、あらためてその点について教えていただけますか。
Gardner氏:
ゲーム作品でなら、そこら中からインスピレーションを得ているよ。私はちょっとした全方位ゲーマーで、手に入るならなんでもプレイするタイプだからね。さまざまな面で、ジャンルも年代も超えた多数のゲームから影響を受けた。さかのぼるなら、『スーパーメトロイド』のようなゲームには衝撃を受けたよ。トーンの設定や雰囲気作りに関しては膨大なことを同作から学んでいる。もう25年近くも前のゲームなんだが、ストーリーテリングの基本原則を守り抜いているから、いまだにその素晴らしさは色あせていない。ホラーゲームなら、もちろん『バイオハザード』も衝撃的だった。エコーブラフの屋敷への侵入方法は、『バイオハザード』のスペンサーの屋敷におけるそれとちょっと似ているんだ。『サイレント・ヒル2』からも多大な影響を受けたよ。ゲームには素晴らしいストーリーがあって、その真相をにおわせるヒントの見せ方が非常に印象的だった。今でもあのゲームのシンボリズムについて熱く語ることがある。
最近の作品なら、『Alien Isolation』は目をつけた作品だ。『Perception』におけるプレイヤーとプレゼンスの関係は、『Alien Isolation』におけるエイリアンとの関係と似ているかもしれない。『Alien Isolation』では、プレイヤー主導で生み出される恐怖の瞬間がとても素晴らしいんだ。私は『バイオハザード』序盤に犬が窓を突き破って登場してくるような「ジャンプスケア(びっくり系の恐怖演出)」の愛好家ではある。けどどちらかといえば、プレイヤーがゲームのシステムを調べているあいだに恐怖の瞬間を感じて、みずから“悪戦苦闘の物語”を創りだすような方が好きなんだよ。単純にカットシーンを用意するよりは、ベッドの下で隠れながらプレゼンスがどこかへ行くのを祈っている方が、私にとってはより力強い表現だ。
――『Alien Isolation』におけるエイリアンは強敵でした。『Perception』のプレゼンスをキャシーは物理的に倒すことができるのでしょうか。
Gardner氏:
それについては今のところはまだ話せないね(笑)しかし、『Perception』にもし武器が登場したとしても、プレゼンスのような止めることのできない凶悪な存在にはあまり有効的ではないだろう。
――プレゼンス以外では、『Perception』には幽霊のようなキャラクターたちが登場しますが、彼らについて教えてください。
Gardner氏:
ゲームでは遺品を通じてさまざまな時代を探索することが可能なんだ。そこではいろいろなキャラクターが登場するんだが、キャシーは直接彼らと対面しているわけではない。手記や残されたものを通して各キャラクターと出会うと、彼らは幽霊のような幻影となって昔起きた重要なシーンを再現する。『Perception』のテーマの1つは“孤独”だ、エコーブラフの屋敷ですら豊かな歴史を持つ1人のキャラクターなんが、それでもプレイヤーは強い孤独感を感じることになるだろう。
――ほかにもトレイラーを見ると、キャシーと携帯電話か無線機で会話している人物がいますね。彼女は誰と話しているんですか?
Gardner氏:
そうだ、電話の向こうから話している男は「サージ(Serge)」という人物で、キャシーのボーイフレンドなんだ。サージはフェニックス出身のプロ野球選手だ。キャシーはサージのことを愛しているが、彼のことをちょっと過保護すぎると感じてもいる。サージが旅行から帰ってくると、キャシーはたった1人で遠くのエコーブラフへと調査に向かっていて、彼もすぐに飛行機に乗ってキャシーを追うことになる。
――物語の核心に迫りますが、キャシーはなぜ悪夢にとらわれているのでしょうか?
Gardner氏:
キャシーもそれを知りたがっている。それでエコーブラフの屋敷を必死に探してきた。何か月も前から彼女の夢に出てきた屋敷が現実世界にも存在していることを、キャシーはわかったんだ。キャシーは彫刻家で、あの屋敷を夢に見始めてから、どこにあるかを調査し始めた。そしてマサチューセッツ州グロスター市の豪邸の近くにある廃墟の屋敷であることが分かった。キャシーは頑固で直情的な性格だ、自分の住むフェニックス市から飛行機に乗って、まっすぐグロスターへと向かう。屋敷にたどり着くと、自分が何をどうすればいいのかはわからないけど、キャシーはとにかく答えが中にあることだけを理解している。
――もちろんネタバレ抜きですが、エンディングに関してお聞かせください。具体的なエンディングはもう決まっていますか?マルチエンディングなのか、続編に続くような形となるのか、気になります。
Gardner氏:
ストーリーはもう完成しているんだ。完璧なストーリーを作り出すために、もういくらかの調整が絶対に必要だとは考えている。ただ、このゲームは特定の物語を伝えることにフォーカスしていて、自分はゲーマーにそれを体験してもらうのが待ち遠しくてしょうがない。だから、マルチエンディングはないね。とはいえ、映画「GTFO」やスーパーファミコンからインスピレーションを受けた「Mode 7」みたいに、リプレイ性を出せたらとは考えている。
――『Perception』ではグラフィックも非常に特徴的です。どのように表現されているんでしょうか。
Gardner氏:
そう言ってくれてありがとう。視覚効果スタジオの「FXVille」の面々と素晴らしい仕事ができて光栄だ。ビジュアルはさまざまなもので構成されている。たとえば「シュリーレン現象」について理解を深めることができた、これは光を屈折させることによって熱と音を見るという手法だ。ゲーム中に音の発生源を見れば、その音の影響が視覚化されて見ることができる。シュリーレン現象だけではなくて、現在のビジュアルが完成するまでにはいろいろなものを調整しなければならなかった。一時期は、FXが現在よりもディテールに富んでいなくて、多くのプレイヤーから方向感覚を失ってイライラするという意見を頂いてた。
それから、ゲームがビジュアル面でもゲームプレイ面でもよくなるように調整し続けて、さらにはエコーロケーションが実際にどのように感じるのかをどうにか知ろうとした。盲目に関する習熟には多大な時間をかけたんだ。このあいだは、NPO「World Access for the Blind(WAFTB)」を設立したダニエル・キッシュさんという方と食事をする機会があった。ダニエルさんはこの団体を通じて、盲目の人にエコーロケーションの使い方を教えているんだ。ダニエルさん自身、実際にエコーロケーションを使ってマウンテンバイクに乗っている。
――そういえばKickstarterのページでは点字が散見されましたが、開発チームには点字が使用できる人物がいるのでしょうか。
Gardner氏:
残念ながら、うちのチームには点字の読める人はいない。ゲームで使用していた点字にいくつか間違いがあったので、いろいろと学ぶことができたよ。ゲームを発表してから多くのコネが出来て、そのおかげで点字をできるだけ正確に使えるように助けてくれる方とも何人か出会った。
――ビルさん自身、もしくは開発スタッフの誰かの親友や親戚などに盲目の方はいるのでしょうか。もしいるのであれば、『Perception』になんらかの影響やインスピレーションを与えたのでしょうか。
Gardner氏:
自分の周りには盲目の知り合いや親戚などはいないね。ただ大学院での最後の半年は、盲目とアクセシビリティを研究していた。いろいろなことを学べたんだけど、いまだに毎日学び続けているよ。私にとって、先ほど話してたダニエル・キッシュ氏のような人物はとても偉大で、心が揺さぶられる。
――ではなぜ盲目をテーマにしたのでしょうか?盲目はけっして安易なモチーフではないですし、むしろ挑戦的ではないかと思います。
Gardner氏:
テーマとしては確かに難しい。ただ私達が心から受け入れたチャレンジでもある。The Deep End Gamesを立ち上げる前に、特別なものでなければプロジェクトに着手しないと自分自身に約束したんだ。今までのゲームでは見たことのないような視点に挑んでみたかった。ゲームというのは、世界や思想に人を完全に没頭させることができる数少ないメディアの一つで、それをできるだけ活かしたいと思っている。エコーロケーションによって、プレイヤーは普段とまったく違う視点から世界を見ることができる。ストーリーから、一瞬一瞬のゲームプレイまで、このゲーム体験を結成する全部のパーツをまったく別の視点から見ることができるようになる。だからそのアイディアを一度思いついたら、そこからはそのアイデアをどう現実化させるかという課題になったんだ。
――最後に、『Perception』の発売時期と、対応するプラットフォームを教えてください。また、現在の完成度はどれぐらいでしょうか。
Gardner氏:
一応来年を目指してはいるんだけど、おそらく夏ごろになるだろう。でもまだはっきり決定していない。私は守れない約束をしたくないからね。今のところはPC向けとしているが、ストレッチゴールとしてはPS4とXbox Oneもあった。できればぜひ『Perception』をコンソールにも持っていけたらなあと思ってるので、なんとかそのストレッチゴールを達成する方法を考えている。
――ありがとうございました。発売楽しみにしています。
[聞き手 Shuji Ishimoto]
[翻訳サポート James R. Mountain]