PICO–8って何? – PICO–8ゲーム開発入門(1)

レトロ・スタイルのクリエイティブ・ツール『PICO–8』のさらなる普及のために、このAUTOMATONで、PICO–8を使った開発を解説する連載をすることになりました。連載初回の今回は、まずPICO–8というものについてご説明したいと思います。

自己紹介

はじめまして、三原亮介と申します。非ゲームのプログラマーをしながら、iOSのローグライクゲーム『Gesuido』を開発しています。また、レトロ・スタイルのクリエイティブ・ツール『PICO–8』の大ファンであり、日々小さなゲームなどを作って遊んでいます。

このたび、PICO–8のさらなる普及のために、このAUTOMATONで、PICO–8を使った開発を解説する連載をすることになりました。連載初回の今回は、まずPICO–8というものについてご説明したいと思います。

PICO–8とは

PICO–8は、1980年代のホーム・コンピューターを模したようなソフトウェアで、Windows、 macOS、Linuxで動きます(さらには、Raspberry Pi、PocketCHIPでも)。昔のコンピューターを再現したエミュレーターかと思う方もいるかもしれませんが、れっきとした2010年代の新作ソフトウェアです。PICO–8の作者zepことJoseph Whiteさん(Lexaloffle Games)は、PICO–8のことを「ファンタシー・コンソール」と呼んでいます。そのまま訳せば「空想上のゲーム機」です。実在はしないけれど、ありえたかもしれないゲーム・マシン、というわけです。

PICO–8は「作ること」と「共有すること」に主眼が置かれたツールで、レトロな見た目に加えて、作品作りのしやすさ、作品の共有のしやすさも特徴です。プログラミング用のエディター、ドット絵を描くツール、効果音や音楽を作るツール(トラッカー)がひとつになっていて、あれこれアプリを切り替える苦痛もなく楽しく創作に没頭できます。また、作った作品はPNG画像ファイル形式(※)にして配ることができ、公式掲示板にアップロードすれば誰でもWeb上で遊べるようになります。
(※ 画像ファイルでもありカートリッジ(PICO–8での制作物)でもある、不思議なPNGファイルを書き出せます。)

コード・エディター
コード・エディター
ドット絵を描くスプライト・エディター
ドット絵を描くスプライト・エディター
効果音/音楽エディター
効果音/音楽エディター

画面解像度は128×128ピクセル、色は16色だけ、音もピコピコなチップ音しか出せません。ひとつのプログラムで使えるキーワードの数にまで上限があります。これらのきつい制約の数々は、レトロな雰囲気作りのためだけではなく、ユーザーの創作活動を刺激するために設けられています。できることが多すぎず少なすぎない、楽しく作品作りができるようなちょうどいい塩梅になるように、注意深く吟味して設定されています。

世界中にいるPICO–8ユーザーたちの作品を見てみてください。PICO–8の公式掲示板を開くと、ユーザーの作った作品で遊ぶことができます。また、Twitterのハッシュタグ#pico8を覗いてみるのも楽しいです。そこで見られるのは、ファミコン時代の商用製品みたいな完成度のゲーム、幾何学模様のアニメーション、プログラミング初心者が作ってみたデモ、すてきなピクセルアート、などさまざまです。

完成度・人気度・激ムズ度、すべて最強の『Celeste』
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「二匹の猫がハイキングしながら人生や宇宙やすべてを深く語り合う」というタイトルのアニメーション作品『Two Hiking Cats Have An In Depth Discussion About Life The Universe And Everythi』(原題ママ)
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筆者一推しの一作。かわいい巨大モンスターが郵便配達するゲーム『mail-monster』
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PICO–8初心者だという作者が、まだ完成していないけれどPICO–8ゲームジャムに参加したいから投稿してみた、という『Croc-O-Chain』。その精神大事!
PICO–8初心者だという作者が、まだ完成していないけれどPICO–8ゲームジャムに参加したいから投稿してみた、という『Croc-O-Chain』。その精神大事!

この連載の目的と対象読者

いかがですか?PICO–8に興味が湧いてきましたか?
PICO–8には、コンピューターに触れたばかりの子供から、一流のプロゲーム開発者まで、たくさんのユーザーがいて、日々思い思いの作品を作っています。公式掲示板はとても活気があり、自作を見せ合ったり、プログラミングの疑問を質問したり教え合ったり、和やかなムードが保たれています。しかしながら、その中に、日本の人の姿がちょっと少ないかな、と筆者は感じています。東京に住んでいるJosephさんが作った、日本語の擬音「ピコ」を名前に冠したPICO–8ですので、ぜひもっと日本のみなさんにも触れてほしいところです。

ただ、いまのところ、PICO–8についての日本語の情報源がほとんどありません。付属マニュアルや掲示板などはすべて英語です。また、その付属マニュアルも、筆者はシンプルでとても読みやすいと思いましたが、プログラミング経験の無いまったくの初心者には、前提とされる知識が多くて難しいかもしれません。

多少の英語が読めてプログラミングできる人は、ここまでの説明だけで十分でしょう。PICO–8を購入し、マニュアルと掲示板をさっと眺めて、あとはどんどん好きなものを作っていってください!MSXなどに親しんでいた「かつてのパソコン少年」の方々が、PICO–8で楽しそうにゲームを作っている様子はネット上にちらほら見受けられますね(笑)。

この連載は、そういった人たち以外の人たちに向けてお送りします。PICO–8に興味があるけれど、プログラミングをやったことがない、あるいは、数学っぽくて自分には難しいと思っている人。英語のマニュアルや掲示板は読めない、という人。そんな人たちのために、PICO–8での作品作りを一から、日本語で解説していきます。

ドット絵を描くツールの使い方や、プログラミングの「プ」の字からはじめて、最終的には1本のシンプルなゲームを作りあげるまで解説していきます。その過程で、音楽の作り方やアニメーションの作り方も説明しますので、ゲーム以外の何かを作りたい方にも、きっと役に立つはずです。

PICO–8入手方法

pico-8-for-beginners-vol1-purchase次回より実際の使い方を解説していきますので、それまでにぜひPICO–8をお求めください。PICO–8は公式サイトから、$14.99でダウンロード購入できます。「Get PICO–8」の欄の「Enter your email address here to check out」に自分のメールアドレスを入れて、クレジットカードの場合は「Pay with Card」、PayPalの場合は「PayPal」をクリックし、購入手続きに進んでください。

なお、一度購入すると、WindosやmacOSなどすべてのOS向けの版が入手でき、また今後のアップデート版も随時ダウンロードできます。

また、Lexaloffle Gamesの『Voxatron』を$19.99で購入すると、そのおまけとしてPICO–8が付いてきます。こちらは、もうひとつの「ファンタシー・コンソール」であり、ボクセル(立体のピクセル)でできたゲームで遊んだり、キャラクターやステージを作ったりできます。興味のある方は、5ドルだけ追加してこちらも手に入れてみてはいかがでしょうか。

そのほかのPICO–8関連情報

PICO–8 Fanzine

イギリスのゲーム開発スタジオOutOfTheBitのグラフィックデザイナーArnaud De Bock氏編纂による、「PICO–8 Fanzine」が今までに4号まで刊行されています。第1号のみ、筆者翻訳による日本語版があります。第1号は、初心者に向けたチュートリアルやPICO–8カートリッジガイドなどに加えて、作者Josephさん自らがPICO–8開発までの経緯とその設計思想を語った記事があり、大変興味深い内容です。

こちらより“Name your own price”方式(いわば投げ銭制)で、PDFで入手できます。

PICO–8 ワークショップ

この7月、プログラミング未経験の方に向けたPICO–8のワークショップを、筆者が講師となり行います。会場は、Josephさんのオフィスでもある東京・吉祥寺『Pico Pico Cafe』です。

『プログラミングをはじめよう。-PICO–8でゲームを作ろう-(懇親会つき)』
日時: 2016年7月16日 14:00開場、14:30開始 (19:00 終了予定)
場所: Pico Pico Cafe (東京都武蔵野市吉祥寺南町1–11–2 もみじビル8階)
定員: 10名
料金: 3,500円 (PICO–8ダウンロードキー、軽食付。PICO–8をお持ちの方は500円割引き)
持ち物: ノートパソコンをご持参ください。
参加申し込みは、Peatix特設ページよりどうぞ。

「PICO–8 Fanzine #1」を教材に、参加者各自で一からゲーム作りをやってみよう、という会です。井の頭公園が眼下に広がる眺めのいいPico Pico Cafeで、PICO–8をはじめてみませんか?

楽しいスタッフがお待ちしております。(左から筆者、Josephさんの長男トムくんと奥様ナツコさん、すてきなサポートメンバー)
楽しいスタッフがお待ちしております。(左から筆者、Josephさんの長男トムくんと奥様ナツコさん、すてきなサポートメンバー)
Ryosuke Mihara
Ryosuke Mihara

なかなか完成しないローグライクゲーム『Gesuido』を開発し続けている30代後半。また、レトロでモダンなファンタジー・コンソール『PICO-8』に魅了され、勝手に普及活動に励んでいる。

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