2016年の『リーグ・オブ・レジェンド』世界大会、波乱に満ちた第1週を振り返る

いよいよ今年も始まった『リーグ・オブ・レジェンド』世界大会「League of Legends World Championship」、通称「Worlds」。世界各地から集められた選りすぐりのチームがグループに分かれて激突するグループステージの前半が終了した。例年にもまして波乱に満ちた激闘と熱狂の第一週を振り返っていこう。

いよいよ今年も始まった『リーグ・オブ・レジェンド』世界大会「League of Legends World Championship」、通称「Worlds」。世界各地から集められた選りすぐりのチームがグループに分かれて激突するグループステージの前半が終了した。例年にもまして波乱に満ちた激闘と熱狂の第一週を振り返っていこう。

※記事後半に試合結果についてのネタバレを含みます

 

6.18パッチのメタゲーム

今年のWorldsで使用されているゲーム環境は「世界大会用」に調整されたものだが、昨年の「ジャガーノートパッチ」によるあまりにも極端な戦略の変化に対する反省からか、6.17パッチの時点からゲームそのものを大きく変えるような調整は行われていない。チャンピオンの能力調整と、6.15パッチ以降レーンスワップが少なくなったゲーム環境にいかに対応したかが問われる大会となっている。

現在の試合の試合は、トップレーン1体、ミッドレーン1体、ボットレーン2体、ジャングル1体のオーソドックスな配置でゲームを開始し、ミッドレーンを堅守しながらゲームを進めていく展開が中心。いずれかのレーンで差を作り、タワーや中立モンスター・ドラゴン・バロン等の獲得でさらに差を広げ、最終的に集団戦を経て決着という試合が大半となっている。戦闘においてはスピードアップ能力や足止め能力と行った、仕掛ける主導権を握るための「エンゲージ手段」が重視されているのも現在のメタゲームの特徴だ。どの時間帯においてチームの戦力が最大となるのか、相手に対して有利なタイミングはいつなのか、状況をいかにして作るのかに注意しながら、各チームは戦略やチャンピオンの構成を練り上げている。

 

トップレーン:強い集団戦志向

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LJL Finalsが行われた頃の環境である6.15パッチで強力な選択と見なされていたシェンは姿を消し、現在主に選択されるのはランブル・ケネン・ポッピー・ナー・ジェイスだ。いずれも単体での戦闘力もさることながら、集団戦において広範囲にダメージやスタンを与える能力、あるいは敵味方の位置や移動速度に影響を与える能力が重視された選択へとシフトしている。

 

ジャングル:序盤のプレッシャー重視

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ジャングルは、各レーンに介入することで有利な場面や状況を作ることが何よりも求められるポジションだ。特に最初にタワーを破壊したチームにボーナスが与えられる現環境では、ジャングル内のモンスターを効率よく倒すことが可能で、高速で移動することができ、さらに敵を強襲するためのスキル(瞬間的な打撃力、距離を一気に詰める機動性)が備わっていることが望ましい。これらの条件をほとんど完全に満たしているニダリーは全ての試合でピックないしバンされており、使用された場合の勝率も高い。次点で選ばれるのがリー・シンで、プレイヤーの技術に強く依存する扱いの難しいチャンピオンながらも、多くの試合で選択されている。小規模な戦闘に強いうえに、効率よくジャングルを回ることができるエリスも使用される回数は多いが、終盤の影響力が小さいためか勝率は良くない。ほかに注目するチャンピオンとしては、長らく競技シーンでは見られなかったスカーナーが3試合で使用されており、さらに3勝を収めている。ニダリー、リー・シンがバンにより使用できない場合に登場しているようだが、今後もその活躍が続くのかは予想が難しいところだ。

 

ミッドレーン:堅守&ゾーニング

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自陣側ジャングルの安全を確保する上で最重要となるミッドレーンは、現在もレーンを堅守する力が重要視されている。前線ラインを敵チームに押し込まれないようにするため、ミニオンを素早く処理する能力を持っていることがチャンピオン選択の前提だ。くわえてさらに、集団戦において有利を取るために、強力な火力や足止め能力を備えたチャンピオンが好まれる。中でも今回特にピックが多いのは、カシオペア・シンドラ・マルザハール・ブラッドミアとなっている。さらに、1日目に不具合が見つかり3日間使用不能だったオレリオン・ソルが、第2週以降これらのメンバーに加わるのは間違いないだろう。この強力なチャンピオンは4日目において大きな番狂わせを起こす活躍を見せているからだ。

 

ADC:比較的安全な序盤を織り込んだ選択

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レーンスワップが行われなくなり、ボットレーンでの2対2からゲームが始まる現在の環境では、ジャングルの介入がまずトップやミッドへ向けられることが増加した。これは3対2よりも2対1の状況の方が戦力差が大きく、成果を得る可能性が高いという判断にもとづいている。また、最初のタワー破壊のボーナスを相手に与えるリスクが生じたことやテレポートの弱体化により、トップレーナーが序盤にレーンを空けることを避ける傾向も相まって、序盤のボットレーンは以前に比べると低リスクな場所となってもいる。その結果として、中盤以降の集団戦に爆発的な攻撃力を発揮する代わりに、序盤の戦いに難があるとされるエズリアルが好んでピックされているようだ。ほかに好まれているのは射程に優れるジンやケイトリン、欠点が少ないシヴィアといったチャンピオンたちだ。腕に自信のあるプレイヤーはルシアンで結果を残してもいる。いずれも、集団戦ないしタワーを巡る攻防で中盤以降に特に強力な選択が好まれている。

 

サポート:チームの戦略を左右する重要な選択

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ゲーム全体が集団戦を重視する傾向にある場合、サポートのチャンピオン選択は特に重要なものとなる。その役割上、ダメージよりも敵の足止めや味方スピードの増加、回復あるいはタンクといった役割を担うことが求められる。適切なサポートを得られなければ、集団戦で主導権を握ることは難しい。今大会ではナミ・カルマ・アリスター・ブラウムが頻繁にピックされている。特にアリスターは、傑出した技量のプレイヤーによって使用された時の恐ろしさを存分に発揮しており、使用された8試合中7試合で勝利という驚異的な結果を出している。

 

筆者オススメの試合

以上を踏まえて第1週の試合の中からオススメの試合動画を以下に挙げておく(時系列順)。リンク先は全てYouTubeのLoL Esports公式チャンネル。現時点のメタを強く反映しており、なによりも見て楽しめる試合を厳選した。

1日目
G2 Esportss vs Counter Logic Gaming
INTZ e-Sports vs EDward Gaming

2日目
SK Telecom T1 vs Cloud9
H2K vs INTZ e-Sports

3日目
Counter Logic Gaming vs Albus NoX Luna
Flash Wolves vs Cloud9

4日目
Albus NoX Luna vs G2 Esports
SK Telecom T1 vs Flash Wolves

 

グループステージ前半の結果総括

グループステージ前半である第1週終了時の各グループ順位は以下のようになっている。グループごとの趨勢を見ていこう。

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画像出典:@lolesports

GroupA
・2勝1敗 – Albus Nox Luna(IWCQ – CIS)
・2勝1敗 – Counter Logic Gaming(北米)
・2勝1敗 – ROX Tigers(韓国)
・0勝3敗 – G2 Esports(ヨーロッパ)

G2 Esportsの失速と、Albus NoX Lunaの奮闘により2勝1敗のチームが3つ並んでいるのが現在のGroup Aだ。この状況を誰が予想できただろうか。第2週もANXの勢いが止まらなければ、ワイルドカード地域からノックアウトステージ進出という初の快挙もあり得るだろう。

 

グループステージ4日目のANX vs G2で、得意チャンピオン「ブランド」が見事にハマり快哉を叫ぶLikkrit選手(ANX・サポート)。画像出典:Riot eSports Flickr
グループステージ4日目のANX vs G2で、得意チャンピオン「ブランド」が見事にハマり快哉を叫ぶLikkrit選手(ANX・サポート)。画像出典:Riot eSports Flickr

GroupB
・2勝1敗 – SK Telecom T1(韓国)
・2勝1敗 – Cloud9(北米)
・1勝2敗 – I May(中国)
・1勝2敗 – Flash Wolves(台湾・香港・マカオ)

開幕後の2戦が振るわなかったFlash Wolvesは、4日目の対SKT戦での勝利によって1勝2敗とギリギリのところで全敗を回避し、グループステージ突破の可能性を残すことに成功した。またこの結果によってSKTも2勝1敗となっており、Group Bは下馬評ほどには差が開いていない。第2週の結果によっては、なにが起こるかわからない状態が続いている。

 

「Fakerの泣きどころ」と書かれたプラカードを掲げるファン。昨年はグループステージ無敗だったSKTの敗北に誰もが驚いた。画像出典:Riot eSports Flickr
「Fakerの泣きどころ」と書かれたプラカードを掲げるファン。昨年はグループステージ無敗だったSKTの敗北に誰もが驚いた。画像出典:Riot eSports Flickr

GroupC
・2勝1敗 – EDward Gaming(中国)
・2勝1敗 – ahq e-Sports Club(台湾・香港・マカオ)
・1勝2敗 – H2k-Gaming(ヨーロッパ)
・1勝2敗 – INTZ e-Sports(IWCQ – ブラジル)

INTZのジャイアントキリングにより、2勝1敗の2チームと1勝2敗の2チームに分かれたのが現在のGroup Cだ。第2週の展開によっては、ノックアウトステージへ抜けられる2位を巡ってタイブレークとなる可能性も十分にあるだろう。

 

EDGの弱点を正確に突いた戦略を、冷静に実行してみせたINTZのメンバーたち。年々規模が増し、競技レベルも向上するブラジル競技シーンの成長ぶりを見せつけた。画像出典:Riot Games - Brasil Flickr
EDGの弱点を正確に突いた戦略を、冷静に実行してみせたINTZのメンバーたち。年々規模が増し、競技レベルも向上するブラジル競技シーンの成長ぶりを見せつけた。画像出典:Riot Games – Brasil Flickr

GroupD
・2勝1敗 – Samsung Galaxy(韓国)
・2勝1敗 – Team Solomid(北米)
・2勝1敗 – Royal Never Give Up(中国)
・0勝3敗 – Splyce(ヨーロッパ)

組み合わせ発表時から予想が困難といわれていたGroup Dは、その予想通りに混戦となっている。Splyce以外の3チームが2勝1敗で横並びとなっており、来週の結果で全てが決まる状態だ。初出場のSplyceにとっては厳しい結果ではあるが、全体的に今年はヨーロッパ勢にとって苦難の年ということなのかもしれない。

 

かつての「最弱地域北米」の汚名をそそぐかのような奮闘ぶりを見せている北米勢。グループAのCLGとともに、TSMもまた韓国チームを下している。 画像出典:Riot eSports Flickr
かつての「最弱地域北米」の汚名を返上するかのような奮闘ぶりを見せている北米勢。グループAのCLGとともに、TSMもまた韓国チームを下している。
画像出典:Riot eSports Flickr

Worldsのグループステージは番狂わせや大きな逆転劇などが見られるため、「見ていて一番楽しいのはグループステージ」と発言するファンも少なくない。今年のグループステージ前半は以上の通り、非常に波乱に満ちた展開になった。全てのチームが最低1回は敗北しているため、全勝でノックアウトステージへ抜けるチームは既にない。また、シーンの小ささから「侮られている」ワイルドカード地域のチームが、自分たちの戦いを貫いた結果として大金星を上げているのも印象的だ。全体的に競技レベルは大きく向上しており、力強い戦術を取ることのできるチームが勝利を手にしているといえるだろう。グループステージ第2週は日本時間で今週金曜朝8時よりLoL eSportsにて配信開始(英語解説のみ)。この週末は、1日ごとに各グループの決着がついていくこととなる。

 

[執筆協力: ユラガワ@Wired-Lynx]

Sawako Yamaguchi
Sawako Yamaguchi

雑食性のライトゲーマー。幼少の頃からテレビゲームに親しむが、プレイの腕前は下の下。一時期国内外のTRPGに親しんでいたこともあり、あらゆるゲームは人を楽しませるだけでなく、そのものが出発点となって人と人を結びつけ、新しい物語を作る力を持っていると信じている。2012年から始めた『League of Legends』について、個人ブログやTwitterにて日本語で情報発信を続けている。

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