LoL国内リーグがいよいよ開幕 日本唯一の専属キャスターeyesインタビュー(後編)

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去る1月24日に2015年シーズンの開幕を果たしたLeague of Legends(以下LoL)の国内プロリーグ「LJL」、開幕当日は入場制限がかかるほどの大盛況となり、LoLとLJLに対する期待と関心の高まりをはっきりと示した。そのLJLの開幕に焦点を当てた前編に続き、今回の後編では日本初のLoLキャスターであるeyes氏に、これまでの経緯やキャスターならではの苦労などを聞いていく。ゲームのプロキャスターという日本ではまだ希少なポジションに立つeyes氏。彼が選手たちの試合を見届けるなかで感じたものとは一体何なのか。

 

LJL所属のeyes氏。ホームのesports-SQUAREで後輩の面倒を見ることも。「年上なんで怖がられてると思いますよ(笑)」
LJL所属のeyes氏。ホームのesports-SQUAREで後輩の面倒を見ることも。「年上なんで怖がられてると思いますよ(笑)」

 


――まず確認なんですが、eyesさんの肩書きは「LJL専属キャスター」でよろしいですか?「プロゲーム実況者」だとニコニコ動画の有名人のようですし「アナウンサー」ともあまり呼ばれないようなので。

そうですね。LoLだと海外ですでに「キャスター」という呼び方をされているので、それにならって自分も肩書きはキャスターにしています。やっていることは確かにアナウンサーに近いんですが、なぜかアナウンサーとは呼ばれていないですね。

――ゲームのプロキャスターとしては日本初?

実況するゲームの会社に所属していなくて、プロリーグのキャスターを仕事にしているという意味では初めてになるんじゃないかと思います。

――わかりました。ではeyesさんがそもそもLoLを知ったきっかけは?

僕はもともと『Counter-Strike1.6』のプレイヤーで、知り合いとチームを組んでいたんですが、しばらく前にそのチームが解散しちゃったんですね。それでチームメイトに「なんか面白いゲームない?」って聞いたら、LoLを教えてくれたんです。当時はまだシーズン1の途中でしたね。

――シーズン1というと2010年から2011年にかけてですから、相当早い時期ですね。誘われたのは海外のご友人からですか?

その人は日本人ですけど帰国子女ですね。早く始めたおかげで、ちょっとした自慢なんですけどシーズン1のゴールドランク以上になった人だけがもらえるJarvan IVの限定スキン(Victorious Jarvan)を持ってます。その限定スキンで試合に入ると北米の外国人プレイヤーから「お前シーズン1のそのスキン持ってるの!?」と言われるという(笑)。

――LoLで実況を始めたのはいつ頃から?

シーズン2(2011年~2012年)からですね。

――それ以前にべつのゲームで実況を行ったことは?

いや、やってなかったです。そもそも少し前まではネットでPCゲームの試合の実況をするのはPCスペックが結構必要だったので、単純に高い機材を持ってなかったんですね。でもここ数年でゲームを生放送することの垣根がかなり低くなって、PCも機材もずいぶん安くなったのでやってみようかなと思って始めました。

――当時すでに社会人ではあったわけですよね。ちなみに前職は?

岡山で介護士をやってました。

――じゃあゲームとは直接関係のないお仕事で。キャスターになる際にそちらのお仕事を続けようかという迷いは?

いやあ、全然なかったです(笑)。LJLでキャスターの仕事ができることになって、前職を辞めるときも「僕、東京行ってきます!」っていう感じでしたね。

 

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――渡りに舟だったんですね。LJLのキャスターに選ばれたのはどんな経緯で?

これはちょっと紆余曲折ありまして、僕、もともと前はLJLにも参戦しているDetnatioNに所属していたんですよ。

――選手として?

実況ですね。当時はまだLJLが発足してなかったですから、DetnatioNが参加するLoL関係のイベントがあるときにeyes君に実況してもらおう、みたいなポジションだったんです。で、DetonatioNの代表のLGraN(梅崎伸幸氏)さんと、LJLの運営元であるSANKOの鈴木社長が以前から交流があったんですね。それで、鈴木社長から「今度始めるLJLのキャスターを探しているんだけど、誰かいい人いないだろうか?」みたいな話があったらしくて。

――DetnatioNからLJLへ。

そうですね。そことは話が前後するんですが、じつはちょっとした運命の分かれ道がありまして。「LJLからキャスターのオファーがあったよ」と言われるより前に、LGraNさんから「君は将来LoLの実況をやっていくのか、解説でやっていくのか決めなさい」と言われたことがあったんですよ。

――当時DetnatioNでやっていくにしても。

そうですね。「絶対に一人二役は無理だし、どちらかに絞らなきゃダメだよ」と言われて。

――確かに決断ですね。

「どっちもダメですか?」みたいな優柔不断なことを言っていたら「どこの国でもLoLのプロの試合中継は実況と解説で2人以上は絶対に必要だから」ということで、悩んだ挙句に「じゃあ解説ができる人はほかにもいると思うんで、僕は実況をやります」みたいな答え方だったと思うんですよね。

――その段階でプロのLoLキャスターを目指す決断を。

そうですね。しかもその頃、確か2013年頃だったかと思うんですけど、僕は結構天狗になってまして(笑)、狭い世界のなかで「俺よりLoL実況がうまい奴はいねえ!」という感じだったんです。でもそこであらためてシビアな決断というか、自分もLoLのキャスターとしてプロを目指すという機会をLGraNさんにいただけたのは本当にありがたいことでしたね。eスポーツという業界自体がまだ立ち上がったばかりなので似た境遇の人も多いとは思いますけど、僕の場合は本当に趣味で実況をやっていたら、たまたまここまで来ちゃったという感じです。

 

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――なるほど。ところで実況席以外のeyesさんの姿がなかなか思い浮かばないんですが、試合の日以外の1日はどんな感じですか?

所属はLJLの運営元であるSANKOになるので、試合や打ち合わせなどがある日はもちろん出社するんですけど、それ以外の日は自宅作業をさせてもらっています。で、LJLが始まると試合はおもに夜なので、自然と生活リズムが夜型になるじゃないですか。というとだいたい起きるのがお昼ごろになるんですよね。で、仕事としてはほとんど丸一日LoLの動画を見る(笑)。

――それはまたニートとかなり見分けが付きにくい1日ですね(笑)。

そうですね(笑)。で、LoLのeスポーツカレンダーがあって、海外の試合の予定が全部そこに入っているので、それを動画でチェックして、各地域の最新の戦術であるとか、カメラワークのやり方、海外ではどのタイミングでキャスターのテンションが上がって、どのタイミングで解説者が解説を挟んでいるかとかを全部研究している感じです。

――海外のプロの試合はどれぐらいチェックするものですか?

見られるものはほとんど見ていますね。あとLJLに関係する業務としては、参戦しているチームから要望があれば、僕が練習を見てアドバイスをしてもいい、というのをLJLが許可してくれているので、そういうコーチとしての仕事もあります。6チームのどこかからオファーがあった場合に、僕が世界のプロの試合を多く見ているということで、そのチームの練習を見て、直せるところを教えますよ、という感じですね。最近は結構DetonatioN RFから練習を見てほしいという要望があるので、その場合はチームの練習時間にオンラインで同席する形です。

――その制度は国内のレベルアップのためにはありがたいですね。すべてのプロチームが海外の状況を逐一追えるわけではないので。

LJLの規模がもっと大きくなるとなかなか難しいとは思うんですけど、それは日本が世界と戦い出してからだと思うんですよね。いまはまだみんなで協力しながら力をつける段階だと思うので、全チーム公平になるように配慮しつつ、僕もできる範囲で助言していこうと。

 

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――ゲームのキャスターというのも前例が少ない専門職ですが、アナウンサー学校で勉強したような経験は?

いや、行ったことはないですね。今年行く予定です。ただLoLの実況ってスポーツ実況に近い要素もあるんですがやっぱり独特ですし、視聴者から求められる要素もまた変わってくると思うので、正しい日本語の使い方の基礎を学んで、あとはどうアレンジしていこうかなという感じですかね。

――読み間違えたり噛んだりすると、ニコニコ生放送のコメントで突っ込まれますし。

ねえ? あれ本当に厳しいんですよ(笑)。もうちょっと手心を加えてほしい。まあ、試合中はコメントを見ている暇はないんですけどね。あとニコ生で面白いのは、自分では全然名言じゃないだろうと思っててもなぜか名言になってたりすることもあって、以前「挟むと強い」って言ったら「名言出ました」とか言われて「名言かなあ?」みたいな(笑)。

 

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――キャスターとして苦労する点は?

うーん、まずシーズンが始まったらお酒は飲まない。まあ、お酒が大好きというわけでもないんですけど、社会人としてお酒の席の付き合いはあるわけじゃないですか。そういうときも断るしかなくて「僕もLJLのシーズン中なので……」と断ると「え?」みたいにトーンダウンした雰囲気になって、逆にすごく申し訳ないという(笑)。

――ほかにLJLで大変なことは?

つい先日2015年のオフィシャル写真の撮影があったんですけど、撮影は毎年本当に大変なんですよ。何が大変かって僕も選手もかなり無茶ぶりされるんです。昨シーズンの撮影のカメラマンさんの第一声は「君、実況する人だよね? じゃあとりあえずそこで実況してみて」でしたからね。で、マイクもないのにその場で1分間ぐらい実況させられて、その写真は全部NGでした(笑)。ほかにも「君、シャウトキャスターって肩書きだよね? 汗かいてる雰囲気がいいから、ちょっと霧持ってきて」ってメガネ外されて、顔面に霧をぶわーっとかけられて、水滴がダラダラ垂れながら「それでちょっと撮ろうか」みたいな。最終的に使われたのは腕を組んで振り向いている「eyesの目」で使われている写真でしたね。そういうところも気にしながらオフィシャル写真を見てもらうと、面白いかもしれないです。

――LJLの情報番組としてeyesさんがニコニコ生放送でトークする「eyesの目」も2年目に入ります。

そうですね。シーズン中は毎週木曜日の夜にニコ生で放送しています。今シーズンもいろんなゲストを迎えて、LJLの試合を振り返りながらおしゃべりする予定ですので、そちらもぜひよろしくお願いします。

 

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――LJLのキャスターを昨シーズンを1年務めて、印象に残った反響などはありましたか?

うーん、そうですね。反響とはちょっと違うんですけど、このところ立て続けに「自分は腕前がないのでプロプレイヤーを目指すのが難しいんですけど、eスポーツに関わる仕事にどうやったら就けますか?」みたいな質問がSNSで4件ぐらい来ちゃいまして。

――どう答えました?

「まずはもっと目標を明確にしよう」とか答えるんですけどね。例えば僕がいま専門のスタッフがいるとありがたいなと思っているのがカメラワークなんですよ。いまは実況中に自分でやっているんですけど、ぶっちゃけかなり負担なのでしゃべるのに集中できたほうが絶対いいし、海外ではLoLに詳しいプレイヤーが専門職としてカメラワークを担当しているので、そこを誰かがやってくれるとすごく助かる。選手やキャスターじゃなくてもいろんな分野を目指してみてはどうかなと思うんですね。

――まだ発展途上なので意外なポジションが空いていると。大舞台を支える専門スタッフは絶対に必要ですからね。

そうですそうです。なので今後eスポーツが日本で発展してくれば、思いもしない関わり方で、それから仕事に就けちゃうケースがあると思うんですよ。なのでそういうチャンスをあきらめないで、積極的にがんばってほしいなと思いますね。

 

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――前回は海外のプロシーンとの比較の話が出ましたが、海外のプロキャスターの現場とも大きく違いますか?

これは僕も聞いた話なんですが、海外で有名な解説者にMonteCristoという韓国のOGNの解説者がいまして、その人が世界大会の会場入りするときには、SPが周りに3人ぐらい付いてたらしいですね。あとは中国の女性キャスターの年収が何千万もあるらしいとか。

――それはまた桁違いですね。では最後にeyesさんのキャスターとしての目標は? SPが付くぐらい?

いやー、どうかなあ?(笑)もちろん今年の目標は2年目のLJLを盛り上げることなんですが、それ以外の目標だと絶対に海外の試合を見に行きたいですね。できれば世界大会の現場から日本語実況したいです。それで思い出したんですけど、いま韓国って強くなりすぎて、世界大会の中継では韓国のプロシーンに詳しい解説者をそれ専門で呼ばないと、戦術面での会話が成り立たないぐらい突出してるんですね。それで世界大会に韓国担当として呼ばれたのが、先ほどのMonteCristoだったんです。なのでこれからの目標としては日本がもっともっと強くなって、僕もキャスターとして日本の状況を世界大会の舞台で伝えられるような機会があったら、本当に嬉しいですよね。ただ僕は英語がまだできないので(笑)、選手たちと同様に僕も世界を目指すなら英語を覚えないといけないよね、という感じでしょうか。

――ありがとうございました。

 

[取材・構成: 野口 智弘]

[写真: Mon Gonzalez]

 

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野口智弘(のぐち・ともひろ) 1978年生、三重県出身。ADを経た後、ライターとしてアニメやゲーム関連の媒体を中心に執筆。北欧や中東など海外のオタク事情についても取材を重ねる。