それは、まだ肌寒い3月上旬ごろのことだった。

「今度うちのチームが日本の侍をコンセプトとしたファンイベントを行うので、日本の『League of Legends(LoL)』ファンにも一目でいいから見てもらいたい」

台湾のプロゲーミングチームFlash Wolves(FW)のマネージャー4Leaf氏からの連絡だった。彼はかつて日本に留学していて、SorrowRushというIDでアマチュア『StarCraft2(SC2)』プレイヤーとして活動していたのだが、2011年春から『SC2』のプロリーグが始まったことがきっかけでプロチームのコーチになるため帰国。私は2012年初めに念願の現地取材を敢行し非常に有意義な時間を過ごしたものの、充実しすぎてしまったためかその後はなかなか台湾に目が向かなくなってしまった。

当時私は『LoL』にまったく興味がなかったのだが、私が台湾を訪れた半年後にあたる2012年の秋に行われた「Season 2 World Championship」でTaipei Assassins(TPA)が優勝しているほど、台湾は『LoL』が盛んな地域だ。その後は世界においてかつてほどの存在感は見せられていないものの、地元では安定した人気を誇っている。私は去年の年末あたりから台湾への思いを強めていたが、今回の連絡をきっかけにその思いを形にしようと決心。5年ぶりに台湾を訪れ、「2017 LoL Master Series Spring Final」を現地で観戦してきた。

 

台湾プロリーグ 「LoL Master Series」とは

LMS参加チームは左からFireball、Wayi Spider、Machi E-Sports、ahq e-Sports Club、Flash Wolves、Hong Kong Esports、J Team、eXtreme Gamersの全8チーム。

そもそも、「『LoL』は好きだけど台湾のリーグについてはあまりよく知らない」という人も多いのではないだろうか。台湾・香港・マカオ地域のチームが戦う「LoL Master Series(LMS)」には、現在合計8チームが参加している。試合は毎週金曜、土曜、日曜の週3日、台北市内にある専用競技場にてオフラインで行われ、2回の総当たりで順位を決定。上位4チームがプレイオフ進出となる。

今年1月から始まったSpring Seasonでは、Flash Wolvesが全勝無敗で1位通過を果たしファイナル進出が確定。2位と3位もahq e-Sports ClubとJ Teamでほぼ確定といった感じだったが、プレイオフ進出をかけた4位争いがシーズン中盤までは熾烈だった。最終的に、後半戦で追い上げを見せたMachi E-Sportsが最後の切符をもぎ取ることに成功している。

プレイオフは4月21日から23日の3日間で一気に行われ、初戦はMachiとJ Teamが対戦。3-1でJ Teamが勝利をおさめ、翌日にahqとの試合に臨んだ。しかしそこでは試合内容でもスコアでもahqが圧倒し、3-0で勝利。これにより、23日のファイナルの対戦カードは「Flash Wolves vs ahq」となった。

 

台北の常設競技場Garena e-Sports Stadium

オフィスビルの1階が常設競技場になっており、LMSは毎週末ここでリーグ戦を行っている。

ファイナルが行われる会場は、Garena e-Sports Stadium。MRT文湖線の西湖駅から徒歩10分圏内の場所にあるe-Sportsの常設競技場だ。台北市内を東西に流れる基隆河の北側にある内湖地区は、一般に観光客が多く訪れる場所からは少し離れている。IT企業の多く集まる街として知られ、かつて『SC2』リーグが行われていたTeSLの競技場もこの街にあった。

小規模であるため、角度によっては選手たちの顔がよく見えるという利点も。

Garena e-Sports Stadium は120席と小規模ながら観客席を備えており、正面のステージには巨大スクリーンが設置されている。競技席は『LoL』の選手5名が横並びに座ってプレイできるようになっていて、観客席後方には中央にある実況解説席のほか、左右に豪華なVIP席があった。ちなみにこの日は、各チームの選手の家族たちが観戦していたようである。

後方の真ん中にあるブースが実況解説席。観客席に背を向けて座っているため、残念ながら顔は見えない。

競技場には、さまざまな工夫が施されているのが目にとまった。観客席とVIP席が左右に分かれており、ひいきチームの競技席がある側でかたまって応援することができる。また、正面のスクリーンは3分割になっているのだが、右側にミニマップが拡大されて表示されていたのが非常に見やすかった。

チームがドラゴンを獲得すると名前と絵が表示される。「疾風飛龍」「癒水飛龍」「赤焔飛龍」など『LoL』を愛する皆さんならどのドレイクか分かるだろう。

真正面下にはもうひとつスクリーンが設置されていて、こちらではおもに取得した中立モンスターを表示。さらに競技席の下にもスクリーンがあり、どちらがブルーサイドでどちらがレッドサイドなのか一目で分かるよう色分けされていたり、ファーストブラッドや中立モンスターの獲得などが文字情報で示されていたりして、なかなかユニークであった。

 

“魅せる”リーグづくり、女性ファンも多数獲得

手作りの応援ボードと公式のうちわを持って応援する女性ファン。

私が5年前に『SC2』観戦をしたことは先に述べたが、当時のリーグは『Spacial Force(SF)』と『KartRider(KR)』の試合も同時に行われており、とくにSFの女性ファンが非常に多かった。今回の『LoL』でも当時以上に女性ファンが多く、個人的に用意した応援ボードや、会場入り口で配られていた公式の応援グッズでひいきチームを応援していた。

オープニング動画もとてもカッコよく、試合の合間には短いインタビューや過去の試合中のVCをまとめたものが流されており、それは韓国リーグ「LoL Champions Korea(LCK)」のものと非常によく似ていた。そもそもGarenaではLCKの中国語放送を行っており、影響を受けている可能性は非常に高い。女性ファンを喜ばせる仕組みが施されている韓国と似た雰囲気が、女性ファンの獲得につながっているのかもしれない。

入口はいってすぐのフロアでパブリックビューイングを実施。すぐ左隣が試合会場となっている。

今回のファイナルのチケットは300台湾ドル(約1,100円)で、すべて事前購入。しかし発売してすぐに売り切れになってしまったとのことで、買えなかったファンのために隣のフロアでパブリックビューイングが開催されていた。選手の姿をはじめ会場の様子こそ見られないものの、仕切りは暗幕一枚のみ。歓声や実況はダイレクトに聞こえるため、無料でこの会場の空気感を味わえるのはちょっとお得かもしれない。そしてこれは後から知ったことだが、高雄でFlash Wolves主催のパブリックビューイングも開催されていたという。台湾の面積は九州よりやや小さいとされているが、台北から高雄までは長距離バスで5時間ほどかかる。そちらの会場も、相当盛り上がっていたようだ。

Flash Wolvesが3/11に実施した日本の侍をコンセプトとしたファンイベント。写真提供:Flash Wolves

また、LMSの大きな特徴のひとつは「ホーム&アウェイ方式」をとっている点ではないだろうか。これは自分のチームがホームの試合のときはファンイベントを行うことができるというもので、冒頭で触れた「日本をコンセプトとしたファンイベント」というのは、まさにこれの一環だったのである。この日はファイナルということもありファンイベントはなかったが、全体的に“魅せる”ということを常に意識したリーグづくりが非常に印象深く、個人的にとても好感が持てた。

 

Spring Season全勝のFWが強さを発揮

開始時間は16時からとなっていたが、試合の前にレギュラーシーズンの表彰が行われた。詳細は以下のとおり。

「最優秀コーチ賞」はFlash WolvesのSteakコーチが受賞。ちなみに髪型は天然パーマだそう。

「最優秀新人賞」はFlash WolvesのADC、Bettyが受賞。顔を合わせるたびに挨拶してくれる礼儀正しい青年だった。

「Spring Season MVP」にはFlash WolvesのMIDレーナーMapleが選ばれた。MVP候補の上位3名をFlash Wolvesが席巻している。

いよいよ始まった1戦目。誰もがFlash Wolvesの圧勝を予想するなか、ahqはJungleのMountainがTopギャンクに入りファーストブラッドを獲得。その後もahqが勢いに乗る形で有利を築き上げ、最後はエルダードラゴンをとってから敵陣に攻め込み見事1戦目を制した。しかしここから、初戦を落としたFlash Wolvesの反撃が始まる。

2戦目は序盤からJungleのKarsaが積極的な動きを見せ、試合中盤にはすべてのレーンで優位を得ることに成功。しかしFlash Wolvesは先の敗北の影響か、非常に慎重なプレイを見せる。ゆっくりとした試合展開となったが、Flash Wolvesが見事勝利し1-1となった。

この勝利で流れに乗ったFlash Wolvesが、ついに本領を発揮。3戦目はahqにオブジェクトをひとつもとらせぬまま、30分以内にゲームを終わらせてしまう。王手をかけた4戦目も、序盤からいきなり5キルを獲得するなどFlash Wolvesの勢いが止まらない。気づけば1万ゴールド以上の差をつけ、ahqを圧倒。最終的に3-1でFlash WolvesがLMS Spring Seasonを制した。

最後に表彰式と優勝インタビュー、メディア向けの写真撮影が行われ、LSM Spring Season Finalは幕を閉じた。優勝したFlash Wolvesは優勝賞金150万台湾ドル(約553万円)を獲得し、5月にブラジルで行われるMSIに出場する。

 

プレスルームで垣間見た、韓国式のシステム踏襲

Garenaの広報担当が司会進行を務め、記者たちが挙手をして質問をしていくという形式で優勝インタビューを実施。

じつは、私が会場に到着して最初に案内されたのは「プレスルーム」だった。競技場の上にあるGarenaオフィスの一角に、プレスルームが用意されていたのである。そこには、持参したノートPCを広げながら中央のPCモニターに目を向ける地元の記者たちが集まっていた。記者の男女比は半々といったところで、ゲームメディアはもちろん一般のポータルサイトの記者たちも取材に訪れていた。

何人かはすでに顔見知りのようで、メディアの垣根を越えて和気あいあいとした雰囲気だった。私は日本からやってきた珍しい客といった感じでその輪のなかに入れてもらえ、途中でピザがふるまわれたときも一緒にごちそうになった。台湾では日本に興味を持っている人が多いが、e-Sportsとなるとゲームメディアの記者以外はあまり詳しくないようだった。その他のメディアは、決勝戦のような大きな大会だけ取材しているのかもしれない。

試合終了後の優勝インタビューも、ここで行われた。実はこのプレスルームでのすべてが、韓国e-Sportsそのものだった。規模こそ小さいものの、各メディアが集まって一つのモニターで観戦しつつ記事を書く。電源はもちろん飲み物やお菓子、軽食が準備されるなど、記者が仕事をしやすい環境が整っている。ちなみに今回Wi-Fiがあったかどうかまでは把握できなかったのだが、韓国の場合はかならず用意されている。そして最後はメディア共同のインタビューだ。進行方式もまったく一緒。やはり台湾はe-Sports先進国・韓国をお手本に、リーグを作り上げてきたのではないだろうか。

 

一般市民にも浸透している台湾の「電競」という概念

余談だが、私は台湾でタクシーに乗るとかならずと言っていいほど運転手さんに話しかけられる。とくに訪台の目的はかならず聞かれるため、試しに「e-Sportsの取材に来ました」と言ってみたのだが、「なるほど、ゲームですか」といった感じで毎回普通に受け止めてもらえた。最近は政府レベルでもe-Sportsに関心を寄せているというニュースをたびたび目にしたが、ここまで「電競」というe-Sportsを表す中国語が浸透していることに驚きを禁じ得ない。ちなみに調子に乗って「『LoL』なんですけど」と言ってみたものの、さすがにそこまでは分からないと言われてしまった。

今回LMSを取材してみて、全体的に「小規模ながら完成されている」という印象を受けた。ただファイナルとしては、かつてはGarenaよりも大きな会場を借りて行ったこともあるそうで、今回はいつものGarena e-Sports Stadiumとなってしまったことは少し残念ではあった。次回チャンスがあれば、もっと大規模な大会もぜひ見てみたいものである。

ところでじつは今回、私は冒頭で触れた4Leaf氏にお願いして事前にFlash Wolvesのインタビューを実施させていただいた。この日の試合後のインタビュー内容と合わせて、次回記事でお伝えする予定にしているので、ぜひお楽しみに。