タイランド電脳ガイド – WHO KILLED VIDEO GAME vol.2
お待たせの連載第2回目をお届けするが、その前に更新が遅れたことをお詫びしたい。ご存知のとおり、8月末にバンコク中心部で発生した無差別連続爆弾テロ事件は、大変衝撃的なニュースとして世界を駆け巡った。当地に暮らす筆者も、これまで封鎖デモやクーデターやら政情不安な国にありがちなトラブルはひととおり経験したつもりだったが、今回ばかりは流石に外出を自粛せざるを得なくなり、それはタイの人々も同じだった。そのため、安全を考えて予定していた取材を延期して行動することになり、連載の順序を再検討した次第である。
もちろん、延期された取材も現在は無事に終了している。テロ犯人グループも続々と検挙されており、ひとまず平常に戻ったと見て良いだろう。そして観光業は見事にダメージを被りチケット代も値下がりしている今日、これからタイに(電脳系目当てに)渡航しようと考えているであろう方々に向けて、まずは基本的な知識としての東南アジア最大の観光立国タイランドの首都バンコクにおける電脳市場の現状を解説しておきたい。なお、現地に赴いた際に辿り着くまでの難易度(到達レベル)と商品の充実度(電脳レベル)に関して、筆者の独断と経験を基準に三ツ星評価を設定したので、観光計画の手助けとなれば幸いである。
※1バーツ=約3.3円=2015年9月上旬為替レート計算
最大級の混沌ショッピングモール “MBK”
到達レベル:★
電脳レベル:★★
電脳系というより、普通に観光スポットとして有名なショッピングモールである「マーブン・クロン・センター」こと、略して“MBK”。首都バンコクの中でも最も人が集まるエリアである“サイアム”の一角に位置し、周囲には大学や専門学校、国立競技場やホテル街が隣接しているため道路は万年渋滞スポット。最寄駅は高架鉄道BTSシーロム線の国立競技場駅、なのだが実は隣のBTSサイアム駅が二本の路線が交差する数少ないターミナル駅であるため乗降客数もNo.1。シーロム線利用なら便利かもしれないが、スクンビット線からだとサイアムで1駅分だけ乗り換えるのは意外と面倒だったりする。しかもMBKのビル自体はハンパにサイアム駅から離れているため、夕方あたりに通り抜けようものなら、観光客と地元民と仕事帰りのサラリーマンと、仕事始めの晩めし屋台を引っ張るオヤジと学校帰りの女子大生と宝クジ売りのババアでごった返しのカオス状態となった歩道を進む羽目になる。一応スカイウォークと呼ばれる、ちょっとスター・ウォーズっぽい名前の長い歩道橋もあるにはあるが、駅から連結されてないため、一度は歩道に降りるか、駅直結の商業ビルから迂回するしかない。タクシーで行こうにも渋滞のため徒歩のほうがマシなので、到達レベル★1つとさせてもらった。
MBKは創業1985年。バンコクでは歴史のあるショッピングモールで、東急ストアのバンコク支店など日系の企業やレストランも出店。ハイ・ファッションから食品、時計に化粧品に乾物に下着まで8階建のビル内に約2500軒の店舗がひしめいており、お土産Tシャツのフロアだけで道に迷う可能性がある。メインディッシュとなる電脳系は5階のITエリア。通称“携帯市場”と呼ばれることからもわかるとおり、携帯電話やスマホ、スマホケース(お約束の著作権ぶっちぎりデザイン多数)や周辺機器などが中心。珍しいところではSIMカード利用の携帯電話番号の中から語呂の良い番号を抜き出して高値で売る店(パッと見は競馬の予想屋にしか見えない)や、日本や欧米では見れない中国産のフリーキーな造形/デザインの携帯電話も売っているのでいろんな意味で一見の価値あり。ただし、携帯に関しては故障品を売って即座に店を閉め逐電する悪徳業者もいるので見学で止めるのが無難である。
そんなテナント群の中の何軒かにコピーゲームやアプリソフト、DVDを取り扱う店がある。しかし販売価格に家賃が含まれるせいなのか、コピー系の平均価格1枚100バーツ以上と割高。また、コピー品は店に在庫を置かず、番号を紙に書いて渡して5分、10分待たされるスタイルなのも地味に面倒くさい(違法行為という認識はある模様)。1、2枚なら洒落の買い物なので良いだろうが、本気で5枚以上買うなら他の電脳エリアをおすすめする。
とはいえ、かなり行きやすい場所であることに変わりなく、電脳以外のお土産品も充実しているので、三泊四日程度の短期ツアーならば無理せずMBKで調達するのがベストかもしれない。ビギナー向けである。
【所在地】444 Phayathai Rd, Bangkok, Pathumwan 10330
【営業時間】午前10時~午後10時
元祖電脳ビル “パンティップ・プラザ”
到達レベル:★★
電脳レベル:★
「バンコクの秋葉原」の異名を持つ電脳商業ビルであり、MBK、サパーンレックと並ぶ“バンコク三大電脳市場”の一角を担っていたパンティップ・プラザだが、2015年現在において往時の姿を見るのは難しい。ほんの数年前までは、バンコクでは最大のパソコン市場として栄えていたが、ユーザーがスマホ/タブレットに移行すると利用客が激減してしまい、現在大規模な改修工事の隙間で営業続行中という状態となっている。もとよりバンコク中心部に位置するとはいえ、決して交通の便が良くはない立地条件。衣料品卸問屋がアメーバーの細胞分裂のごとく増殖拡大した巨大衣料品市場、プラトゥーナム市場の一角にあるため、ペップリー通りに面した歩道は常に買い出し客で溢れ、タクシーは売り手市場でボッタクリ上等なうえ、道路事情がこれまた酷い。バンコク最悪の渋滞エリアであるセントラルワールド前を抜けなければならないという悪条件で、比較的近いとされるBTSチットロム駅から向かうとこの道を通る羽目になり、運が良ければ5分。不運にも渋滞に出くわしたら20、30分は覚悟せねばならない。なので、スムーズに向かうならば最寄駅のBTSスクムヴィット線のラーチャテゥイー駅から徒歩かモタサイ・タクシー(原付の二人乗りのデンジャラスな移動手段。パンティップまでなら20バーツ)で「パーイ、パンティップ!」と伝えればすぐに着く。徒歩ならひたすら歩いて7、8分といったところか。近隣を流れる運河のボートタクシーで向かうと早いというローカルな手段もあるが、筆者はまだ試していない。
メインディッシュの暗黒電脳系を確認してみよう。現在のテナント数は最盛期の3分の1程度。インディー系PC修理店は、何軒かは健在だが閉店が目立つ。コピー系は二階の隅にまとめて押し込まれており、裏DVDやコピーゲーム、コピーアプリという内容は相変わらずだが、やはり価格は100バーツ前後と割高で、販売スタイルもMBKと同じ待機型だが、隠し部屋が近いのかMBKより早く渡してくれるし、場合によっては隠し部屋まで付き合ってその場で手渡されるケースもある。
とりあえずパンティップの現状としては、質や規模からしても到達難易度のわりに実りがあるとは思えないので、旅先で唐突にラップトップPCがクラッシュしたなどの緊急事態以外では立ち寄る必要性は無いかもしれない。今後は電脳系ではないテナントを誘致して再生を図る模様なので、この魔窟ビルの栄枯盛衰については現在精力取材中! なので改めて機会を設けて報告させていただきたい次第である。
【所在地】604/3. Ratchathewi, Bangkok 10400
【営業時間】午前10時~午後21時(年中無休)
電脳新名所 “フォーチュンタウン・ITモール”
到達レベル:無し
電脳レベル:★★
目下のところ最新の電脳ショッピングモール。アクセスも地下鉄MRTのラマ9世駅から徒歩1分という便利さで、縦長の巨大商業施設の2階から4階までが“ITモール”と呼ばれる電脳市場となっている。携帯、スマホ、タブレットの店が目立つがPCパーツや大型家電、プロジェクター専門店やオーディオショップなども集まっているので、見ていて飽きない(が、大したものは売ってない。それがタイ)。
メインディッシュの暗黒電脳ショッピングは、ここの一押しはブルーレイ(のコピー)。1枚150バーツで最新作から旧作から流出海賊盤まで選り取り見取り。しかも待たずにその場で在庫から手渡してくれるファストショッピングも遵法意識ゼロで嬉しい限り。コピーDVD、ゲーム共に充実しており、価格もサパーンレックに次いで安めのローカル基準。まるでパンティップの繁栄が移転したかのような充実ぶりである。何よりもアクセスが良いので、下手にMBKやパンティップに向かうならば、こちらのほうが収穫が期待できる。隣のタイカルチャーセンター駅では週末になるとナイトマーケットが開催されるので、観光もついでに楽しめるエリアとしてオススメしたい
【所在地】1 Ratchadaphisek Rd., Dindaeng Bangkok 10400
【営業時間】午前10時~午後10時
(モールの営業時間/テナントごとに営業時間や休業が異なる)
暗黒電脳市場最後の聖地 “サパーンレック”
到達レベル:★★★
電脳レベル:★★★
やはり最後に行き着く場所は此処しかない。バンコク最大にして東南アジア最大級の海賊盤市場“サパーンレック”の登場である。中華街ヤワラーの奥深くにあるドブ川のような運河の上に建立された、長さ50メートルほどのバラックに、百数軒のゲームショップを中心とした極小店舗がひしめき合う光景は、混沌の二文字では表現しきれない禍々しさと爽やかさに満ち溢れている。
筆者は長年の謎とされていたサパーンレックの起源を解き明かすために取材班を結成。先月末より目星を付けていたさまざまな業種の店舗に突撃インタビューを敢行した。そこで我々は、誰も知らなかった(調べなかった) 意外すぎる市場誕生の経緯、タイオリジナルの海賊タイトルの成り立ちを知ることになる。これらの情報が文字化されるのは、おそらく本邦初、否、世界初となるであろう。その詳細は次回更新にてタップリと報告予定。乞うご期待! なのであります。
【所在地】川の上にあるので住所番地無し
【営業時間】昼ごろ~夜6時ぐらいまで/平日は休業店が多い
WHO KILLED VIDEO GAME
vol.1: 記録に残らないゲームたち
自称・洋ゲー冒険家。
元々は別ジャンルで執筆活動を続けていたフリーランスライターだったが、洋ゲー好きという趣味が高じて知り合った某海外有名ディベロッパーに勢い入社。約2年半の勤務を経て再びフリーランスライターに戻り、その経験を活かした洋ゲー愛溢れる深い考察を、盟友であるゲームデザイナー須田剛一と共に週刊ファミ通にて洋ゲーコラムを連載。
2011年よりタイのバンコクに移住し、現在もファミ通.com他、 多様な媒体にて執筆活動を続ける。
※「WHO KILLED VIDEO GAME」は、マスク・ド・UH氏による現地リポートであり、アジアゲーム市場の真実をお届けする連載です。犯罪を助長することを目的としていません。