ヘンテコ博物館経営シム『ツーポイントミュージアム』は水族館も作れるので、「本物の水族館職員」に本作の印象を訊いてみた。ちょっと水族館に詳しくなった

弊誌はシーパラで働く現役の飼育スタッフ佐藤氏に取材。『ツーポイントミュージアム』について訊いた。

セガは『ツーポイントミュージアム』を発売中だ。対応プラットフォームはPC(Steam)/PS5/Xbox Series X|Sで、通常版の価格は税込3888円。ゲーム内は日本語表示に対応しており、また4月12日に配信された無料アップデートで、「ツーポイント」シリーズ初となる日本語吹き替え音声にも対応された。

本作は駆け出しの学芸員となり、博物館を運営するシミュレーションゲームだ。プレイヤーはそれぞれ5つのテーマが設定された博物館の館長となり、自分だけの博物館を設計していく。展示物を集めたり、装飾を配置したり、スタッフを管理したりして、理想の博物館を目指すのだ。

そんな『ツーポイントミュージアム』には博物館のテーマのひとつとして「海洋生物」が存在。生きた魚たちを展示することができ、平たく言えば水族館も作ることができる。そんな本作は現在、現実の水族館「横浜・八景島シーパラダイス」(以下、シーパラ)とコラボイベントを開催中。5月18日までシーパラ施設内にて、『ツーポイントミュージアム』に出演する藤田咲さんの館内放送などを聞くことができるなど、さまざまなコラボ企画が実施されている。

そうしたコラボの実施にともない、今回弊誌はシーパラで働く現役の飼育スタッフ佐藤氏に取材することができた。筆者は博物館がテーマのゲームなのに水族館を作れるという、本作の設定にほのかな違和感をもっていたが、佐藤氏に話をうかがったところ、奇妙にも思えた本作の設定に“納得感”を抱くに至った。また水族館の運営の裏側などもうかがうことができたため、以下ではそのインタビューの模様をお伝えする。

水族館には学芸員もいる

――自己紹介をお願いします。

佐藤氏:
横浜・八景島シーパラダイスの佐藤 和です。2018年よりシーパラで勤めており、これまでペンギンやイルカなど、さまざまな生きものの飼育を担当してきました。現在は魚類をメインに担当しています。

――本作『ツーポイントミュージアム』の主人公は学芸員という設定で、ゲーム内ではいろんなテーマの博物館を運営しつつ、水族館も運営できるという感じなのですが、現実の水族館に学芸員さんというのはいらっしゃるんでしょうか?

佐藤氏:
水族館にも学芸員はいますよ!私も学芸員資格をもっています。

――おお、佐藤さんも学芸員でいらっしゃる。水族館の飼育員さんというのはみな学芸員資格をもっているものなのでしょうか?

佐藤氏:
いえ、そういうわけではないですね。学芸員資格がなくても飼育員になることができます。学芸員資格をもっていると、より専門的な業務に取り組むことができます。

――佐藤さんは普段どのような業務をおこなわれているのでしょうか?

佐藤氏:
飼育員として業務をこなしつつ学芸員としての仕事もしているのですが、やはり毎日欠かせないのは魚の飼育です。飼育員の仕事はよく、3つの「じ」と言われます。

――じ?

佐藤氏:
じ、です。給餌・掃除・調餌の3つのことなんですが。

――なるほど、どれも語尾に「じ」がついていますね。ただ給餌と掃除はわかりますが、調餌というのは?

佐藤氏:
調理の調に、餌と言えばわかりやすいでしょうか?つまりエサを魚たちが食べやすいように料理してあげるんです。

――魚のエサって料理しているんですか?小魚をそのまま食べさせたりしているのかと思っていました。

佐藤氏:
そういう丸飲みが好きな魚もいますが、食性や口の大きさなどに合わせて調整が必要な場合もあるんですよ。たとえば小魚の骨をとったり三枚におろしたりなど、それぞれの魚の好みにあわせて、日々エサを準備しています。

――本作『ツーポイントミュージアム』では、魚のエサはフレークと生き餌の2種類で結構シンプルなんですが、実際は魚の種類ごとにエサを調理しているんですね。ちなみに本作ではエサをあげる際は、潜水服を着たスタッフがわざわざ水中に潜るのですが、こんなあげかたをすることは実際あるんでしょうか?

佐藤氏:
エサをあげるために水に潜ることはありますよ。たとえば潜水して、様子を見ながら直接個別に給餌をすることもあります。もちろん水槽の上からエサをあげることがほとんどですが、魚次第でいろいろな方法があります。

――潜られることもあるんですね。個人的に、エサやりで水に入る必要はないのでは、と思っていたので意外でした。また本作では水槽の横に扉が付いていて、スタッフが水槽に入る際はそこから出入りするのですが、こうした水槽は実際あるんでしょうか?

佐藤氏:
こういう形式の水槽は当館にはちょっとないかな……?水槽に入るにしても、上から入りますよね。ふつうは。

――やはりそうですよね。でもエサを調理したり、わざわざ水槽内に隠したりと、魚の世話にはすごく手をかけているんですね。

佐藤氏:
そうですね、生きものたちが自然界に近い環境で健康的に生活できるように、可能な限り配慮しています。生きものを飼育するうえで、アニマルウェルフェアはとても重要なんです。

――なるほど、アニマルウェルフェアですか。本作では肉食の魚と小さな魚を一緒の水槽に入れると小魚を食べてしまうため、別々の水槽を用意することになるのですが、福祉に気をつかうということですと、現実の水族館でもやはりこうした配慮は必須でしょうか?

佐藤氏:
配慮は必要ですが、実際の水族館では必ずしも分けなくてはいけないということはないですね。たとえば単独では大きな魚に食べられてしまう小魚たちも群れを作ったり、隠れたり逃げたりと、それぞれ本来の回避能力をもっています。生きものたちにとって、なるべく選択肢が多く、自然界と同様の環境を再現することで、そうした回避能力を含む本来の行動を水槽の中で発揮できるように心がけています。

――同じ水槽でも大丈夫なんですね。でも分けた方がより安全な気もするのですが、それでも一緒にする理由はあるんでしょうか?

佐藤氏:
生きものの行動や生態も含めて、自然界の海の環境を知っていただきたいからです。先程お話させていただいた通り、水族館でもできるだけ自然界と同じような環境を再現することで、その魚特有の回避能力を含めた本来の行動などを見ることができます。もちろん縄張り意識が強い生きものなど、さまざまな特徴や生態の生きものがいるので、対応を変えるなど、日々の観察が重要になります。

――なるほど、天敵の存在も含めての自然界ということなんですね。本作では同じ水槽に入れるのは難しそうですが、本作の魚たちは縄張り意識が強いのかもしれませんね。

水族館は、博物館の仲間

――これまで飼育員としてのお仕事をうかがってきましたが、佐藤さんは学芸員としてはどんなお仕事をされているのでしょうか。本作『ツーポイントミュージアム』ですと、海洋専門家の主な仕事のひとつに分析室で魚の研究を進めることがあるのですが。

佐藤氏:
現実でも似た感じかもしれないですね。水族館では魚の生態の研究もしており、そうした研究活動の際には、学芸員資格をもっているスタッフが中心となってやっています。

――学芸員は博物館で働くものだと思っていたのですが、水族館で研究活動もおこなっているんですね。実際、博物館と水族館とは何が違うんでしょうか?

佐藤氏:
基本的に、水族館は博物館の一種ですよ。

――え、そうなんですか?ぜんぜん違うものだと思っていました。

佐藤氏:
細かい定義や区分はちょっと複雑なのですが、水族館は博物館と同じで、博物館法で管理される施設なんですよ。

――具体的に、水族館も含め「博物館」とはどんな施設のことを言うんでしょうか。

佐藤氏:
定義は難しいですがざっくり言うと、博物館は4つの活動を一体的におこなう施設ということになっています。資料の収集と保存・調査研究・展示・教育普及の4つですね。つまり収集した資料や研究で判明したことなどの展示を通じて、お客さまが楽しみながら学ぶことができる施設として役割を果たしております。水族館も基本的な考え方は同じで、その役割は教育・環境教育、調査研究、種の保存、レクリエーションと、大きく4つの役割を担っております。

――個人的に、博物館のゲームでなぜ水族館が作れるんだろうと思っていたのですが、そう聞いて納得感が芽生えてきました。ただやはり、日常的なことばの意味では博物館と水族館は違うようにも思えます。両者の違いについて教えていただけませんか?

佐藤氏:
そうですね、いわゆる博物館で展示されている資料は、恐竜の化石、はく製、液浸標本、歴史資料などがほとんどですが、一方水族館では魚などの生きものたちが実際にくらしているという点が大きな違いと言えるかもしれません。

――確かに博物館に生きものがいるイメージはないです。生きものを扱っているというのが水族館の特色なんですね。

魚を捕ったり、増やしたり

――水族館で展示する魚たちはどうやって集めているのでしょうか?本作では水族館のスタッフを海に送り出して捕ってこさせるのですが、実際にそのようなことはありますか?

佐藤氏:
水族館のスタッフが海まで行って採集することは実際にありますよ。採集以外にも、生態の調査など研究目的でフィールドワークをおこなうこともありますね。

――実際に海で魚を捕るんですね!なんだか漁師さんみたいですね。

佐藤氏:
そうですね(笑)実際に、漁師さんの船に同乗して調査をおこなうこともあります。その際、魚を採集するときはできるだけ魚を傷つけないような素材でできた網を使い優しく採集をおこないます。

――展示する魚はみんなそうして集めているのでしょうか。

佐藤氏:
水族館内で繁殖することもありますし、ほかには他園館からやってくることもありますね。

――おお、そうなんですね。本作『ツーポイントミュージアム』でも魚を養殖することができるんですが、現実を反映した要素だったんですね。ゲーム的には養殖した魚を売って稼ぐこともできるのですが、実際の水族館で魚を販売することは……?

佐藤氏:
養殖した魚を売って稼ぐことはないですね……(笑)水族館は、種の保存という役割を担っているので、研究や絶滅危惧種の繁殖など海の豊かさを守るために取り組んでいます。

――なるほど。本作でも増やした魚を売らずに、分析室に回して研究に役立てることもできるので、そうした方がより現実の水族館に近いかもしれません。

――ここまでお話をうかがってきましたが、佐藤さんの『ツーポイントミュージアム』の印象について教えてください。

佐藤氏:
水族館のレイアウトを自由に変えられるのが面白いと思いました。水槽も大きいのを気軽に導入できたりして。現実だと大きい水槽はなかなか新設できませんし、動かすことも難しいですから、館のレイアウトを好きに変更できるのはいいですよね。スタッフルームに無料のコーヒーマシンを設置したりもできるんですよね?

――そうですね、コーヒーマシンを置くこともできます。ちなみに以前とある博物館の学芸員さんに本作についてインタビューした際、「本作のスタッフは無料のコーヒーが飲めてうらやましい」とのコメントを頂いたのですが、シーパラさんのコーヒー事情はいかがでしょうか。

佐藤氏:
当社のスタッフは、食堂で無料のコーヒーが飲めます(笑)

――さすがです。本日はありがとうございました。

『ツーポイントミュージアム』はPC(Steam)/PS5/Xbox Series X|S向けに発売中だ。通常版の価格は税込3888円で、ゲーム内は日本語表示および音声に対応している。

また『ツーポイントミュージアム』と「横浜・八景島シーパラダイス」のコラボイベントは5月18日まで開催中である。詳しい情報はツーポイントシリーズ公式X(@TwoPointJPss)でも発信されているので、ぜひチェックしてみてほしい。

Akihiro Sakurai
Akihiro Sakurai

気になったゲームは色々遊びますが、放っておくと延々とストラテジーゲームをやっています。でも一番好きなのはテンポの速い3Dアクションです

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