「ふつうのおばさん」「ふつうのおじさん」らに憑依し、人がゴミのように散っていく。『野狗子: Slitterhead』はホラーかアクションかよくわからないけど面白い。先行プレイ感想

『野狗子: Slitterhead』はホラーアクションゲームだ。開発は外山圭一郎氏率いるBokeh Game Studioが務める。今回、発売前に本作を特別に試遊する機会を頂いたので、その感想を本稿にてお届けする。

野狗子: Slitterhead』はホラーアクションゲームだ。開発は、『GRAVITY DAZE』シリーズや、『SIREN』シリーズ、『SILENT HILL』などを手がけたゲームクリエイター、外山圭一郎氏率いるBokeh Game Studioが務める。本作は2024年11月8日に発売することが「Summer Game Fest 2024」で発表された。今回、発売前に本作を特別に試遊する機会を頂いたので、その感想を本稿にてお届けする。

試遊会は目黒にあるBokeh Game Studioで行われた。中は赤と青のライティングに彩られており、ゲームスタジオとは思えないシックな印象を感じられた。奥にはバーカウンターもあり、ますますスタジオらしくないつくりである。スタジオの中には外山氏が過去に手がけた『SIREN』の貴重なグッズや『GRAVITY DAZE』のフィギュアも飾られており、同作のファンにとってはたまらない空間となっていた。まさに大人の秘密基地といった具合の、リラックスした雰囲気のスタジオだったのが印象的であった。

 

憑依アクションのおもしろさ

本作の舞台となるのは1990年代の架空の都市「九龍」。謎の殺人事件がはびこる街には、人間に擬態し、人の脳を食らう怪物「野狗子(やくし)」が潜んでいた。そんな中、主人公である「憑鬼」は記憶をなくした状態で街に降り立つことになる。憑鬼は野狗子をせん滅するという強い動機を持ち、その記憶を取り戻しながら、街に蔓延る野狗子たちと戦っていくことになるというのが本作のストーリーのおおまかな流れになるようだ。

本作のチュートリアルは「憑鬼」が匂い立つ九龍の路地裏で犬に憑依した状態からスタートする。主人公である憑鬼には記憶がないため、憑依した体の使い方もおぼつかない状態だ。そして憑依する対象は周囲の生物から切り替えることができる。犬を操作しながら対象を人に切り替え、憑依体の性質にあわせて思考や身体能力を取り戻しながら、チュートリアルをこなしていく。

そして街で遭遇するのが本作のタイトルにもなっている怪物「野狗子」。戦闘においては、街にいる人間につど憑依しながら戦うことになる。武器は血を媒介として生成する。それを操るキャラクターもその時居合わせた人によっては中年太りのおじさんであったり、おばちゃんであったりするところが面白い。憑依した人間はやや戦闘能力が強化されるものの、基本はいたって普通の人間だ。人間にはそれぞれ固有のHPがあり、憑依している対象のHPが減ったら死亡してしまう。ただ憑鬼自身がやられてしまう前にほかの人間に憑依対象を切り替えることもできる。この憑依システムによる自由自在な憑依対象の切り替えが、探索、戦闘に通じる本作の肝となっている。


そして本作の主な憑依対象である「九龍」の市民たち。そのほとんどが野狗子との戦いに巻き込まれた無辜の市民たちである、ということも本作のキモとなっている。ゲームシステムにおいてはリソースとして記号化されつつも(後述する稀少体が使用するスキルには周りの人間を呼び寄せる効果があるものも存在する)、野狗子や憑鬼に遭遇するまでは普通に生活していた一人の人間たちなのである。そういった人間たちが激しい戦いに巻き込まれる中で、憑鬼に取りつかれながら野狗子に果敢に立ち向かい、血をぶちまけながら散っていき、一種のリソースと化していく。そういった感覚には、ある種の背徳感を覚えるような面白さがある。

そこにアクセントを加えるのが稀少体という存在。いわゆるメインキャラクターであり、本作におけるヒーロー、ヒロインのような存在だ。稀少体は憑依されても自分の意志を引き継ぐことができ、それぞれの思惑で憑鬼に協力している様子が伺えた。稀少体ごとに特別なスキルが使用可能で、性能自体も街の市民よりは強力なものになっている。デザインも各キャラクターでヒロイックなものとなっており、チャイナドレスやバイクヘルメットとソードオフショットガンを構えた姿など、街の人間とは対照的に個性的なデザインで描かれている。

本作のアクションは自由度が高く、通常攻撃や回避といったアクションのほかに各種スロットにスキルをセットし、場面に応じて使い分けることができる。またガードはソフトロックオンのような機能も備えており、構えることでガードしながら相手をロックオンすることが可能。そしてガードした状態で、敵の攻撃方向に合わせて方向キーをタイミングよく入力することでディフレクトが可能となっている。武器の耐久度を減らすことなく、敵の攻撃を受け流すことができる。ただタイミングを合わせるだけでなく、攻撃方向を見極める必要がある為やや難しい。ディフレクトが難しい場合は人間を使い捨てることで武器の耐久度をリフレッシュしながら戦うことも可能だ。

スキルの中には自爆して大ダメージを与えるものも存在しており、そのままだと自分もダメージを受けてしまう。しかし爆発の直前で憑依対象を切り替えることで、自身はノーダメージのまま相手にだけダメージを与えるといった芸当もできる。強敵相手にはディフレクトや回避を駆使してテクニックで切り抜けるもよし、周囲の人間を次々に乗り換えて駆使し、数の暴力で押し切るもよしといった、一風変わったアクションが楽しめる。アクションゲームとしてもとてもユニークな仕上がりとなっている。

変なゲームだけど、なんだかおもしろいという感覚

そんな本作のファーストインプレッションとしては、なんだこれ?といった「言葉にできない奇妙な感覚」をまず感じた。先述した憑依システム、アクションはキャッチーでありながらも、それに終始することのない、どこか変な感覚が作品を通じて感じられるのである。

本作のチュートリアルにおいて印象的だったのは、敵である野狗子を追うために高所から飛び降りる場面。憑依した人間を操作してマンションの屋上から飛び降りるのだが、そのまま落下すると憑鬼自身がダメージを受けてしまう。そのため、地面にする前に憑依している肉体を放棄、別の人間に憑依することで無事にやりすごすことになる。当然、抜け殻になった人間はそのまま地面に激突して死亡してしまう。街の人たちから見ると突如人が飛び降りたように見え、人だかりができたり被害者を心配したりするものの、憑鬼は意にも留めないようすだ。


本作における野狗子は人間の脳を容赦なく食いちぎり捕食、そして人間に化けることで人間社会に紛れ込むことができる。明確に人間にとっては脅威である存在だ。しかし見方を変えると、主人公である憑鬼も野狗子と戦う手段として人間を利用し、プレイヤーもリソースのように人間を消費していくことになる。稀少体たちを中心にした群像劇のストーリーが描かれるにつれてこの印象は変わっていくのかもしれないが、人間にとっては表面上野狗子も憑鬼もどちらもさほど変わらない存在に見える。

そして試遊した範囲では、憑鬼は人間を救うといった動機は薄く(前述した屋上から飛び降りるシーンなどに如実に表れている)、あくまでその理由は不明なものの、野狗子をせん滅するということが第一の使命となっている。人間にとってはいわば「上位存在の争いに人間が巻き込まれている」かのような感覚と、プレイヤーによって人がちり芥のように散っていく本作のプレイ体験が合わさり、なんとも自分がどの立場にいるのかわからないという独特な手触りになっている。

また本作の舞台となる九龍の街並みも印象的だ。今回は九龍の路地裏から始まり街を駆け巡るチュートリアルステージと、野狗子の襲撃にあった建物内を探索する中盤のチャプターをプレイすることができた。人にあふれた猥雑な街並み、さびれた賭場に飛び散る麻雀牌や、生活感の溢れるアパートの一室など、つくりこまれたロケーションからは経験したことがないはずのノスタルジーを感じるつくりとなっている。本作のモデルとなっている九龍城砦は90年代に既に取り壊されており現在は存在していない。筆者も実際に訪れたことはないため、そのなつかしさは奇妙な感覚であった。そういった「失われていくノスタルジー」をゲーム内で表現しようとする試みは、舞台の違いはあるものの、日本のさびれた村の原風景を再現した『SIREN』にどこか通じるものを感じざるを得なかった。


また試遊した範囲では、本作はステージクリア形式で進行。チャプターセレクト画面があるかどうかはわからなかったものの、ポーズして表示されるミッションインフォメーションのUIやチャプター名の表示などからも、どことなく『SIREN』らしさを感じた。とはいえあくまでそれは要素でしかなく、本作のゲームプレイはまったく違うものになっており、それだけで『SIREN』とこじつけるのはいささか乱暴なきらいもする。しかし本作の随所から確かに『SIREN』らしさを感じたのは個人の感覚として強くあった。

総じて本作を形容するのは難しく、つかみどころのないゲーム、という感覚が正直なところとしてあった。ホラーゲームのような要素もありつつも、アクションゲームとしてもユニークかつよくできたつくりで、その二つの要素の橋渡しを憑依システムが実現している。この感覚は外山氏の過去作品をはじめてプレイした感覚に似ており、当時は明確に存在していなかったサイコホラーというジャンルを切り開いた『SILENT HILL』やホラーアドベンチャーとしていまだ追随するもののない『SIREN』、重力を自在に操る『GRAVITY DAZE』のような、一見形容しがたいけれども、なんだかおもしろいというような印象に近いものを覚えた。

本作を一言で形容するのであれば「ホラーアクション」という事になりそうなのだが、そういった一言に収まらない、なんだかわからない「変なゲーム」だけどワクワクする、そんな印象でもある。今ここにないものをかたちにして世に送り出そうとする、外山氏およびBokeh Game Studioの意気と気鋭を感じる、そんな試遊体験であった。

『野狗子: Slitterhead』はPC(Steam/Epic Gamesストア)/Xbox Series X|S/PS5/PS4向けに、11月8日発売予定だ。

Jun Namba
Jun Namba

埼玉生まれBioWare育ちです。悪そうなやつはだいたいおま国でした。RPG全般が好きですが、下手の横好きでいろいろなジャンルに手を出しています。

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