独特な絵の新作アクション『MONOWAVE』は「感情パズルアクション」。敵を倒さず感情を付与して先へと進む。どんな仕組みなの?開発者に訊いた
韓国のインディースタジオであるStudio BBBが手がける『MONOWAVE』(モノウェーブ)が展示されており、開発者に話を伺うことができた。

日本最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit the 13th」が7月18日から3日間、京都市勧業館「みやこめっせ」にて開催された。会場には韓国のインディースタジオであるStudio BBBが手がける『MONOWAVE』(モノウェーブ)が展示されており、開発者に話を伺うことができた。
『MONOWAVE』は感情をテーマにした横スクロールのパズルアクションゲームだ。感情の守護神である“MONO”のアクションが感情によって変化したり、周囲に感情を付与するシステムが特徴となっている。対応プラットフォームはPC(Steam)で、2025年内の発売が予定されている。試遊展示されていたバージョンの体験版も配信中だ。
本作の世界は、4つの感情「幸せ」「悲しみ」「怒り」「不安」で結ばれており、それぞれの感情の精霊と守護神によって調和が保たれていた。しかし、突然の災厄により守護神がいなくなり、孤立した精霊たちはそれぞれの感情に飲み込まれ暴走してしまう。そんな中で「共感」の能力を持った新たな守護神“MONO”が生まれる。プレイヤーはMONOとして、平穏な世界を取り戻すために、精霊たちを癒す旅に出る。

MONOは感情の源泉植物に触れることで、4つの感情が切り替わり、感情によってアクションも変化する。たとえば「幸せ」になればより高くジャンプすることができ、「不安」になればトゲのエリアを通れるようになる。さらに、MONOの共感の歌により動物たちに自身の感情を付与することも可能。動物たちも4つの感情それぞれに異なる動きをするため、それらをMONOのアクションと上手く組み合わせることで先へと進めるわけだ。
面白いのは、動物は敵ではなく友達であるところだ。「怒り」の動物はこちらを攻撃してくることもあるが、あくまで感情に支配されているだけなので倒すことはできない。さまざまな動物たちと力を合わせてパズルを解いていくアクションとなっている。
また一際目を引くのは、カラフルな一筆書きのようなグラフィックだろう。本作の感情システムやアートスタイルはどのように生まれたのか、Studio BBBの代表イム氏にお話を聞いた。
大学在学中に制作開始
――自己紹介をお願いします。
イム・グォンヨン(以下、イム)氏:
Studio BBBにてCEOを務めるイム・グォンヨンと申します。よろしくお願いします。
――Studio BBBはいつ頃から活動しているのでしょうか。
イム氏:
大学在学中の2022年に今のチームが結成されました。メンバーは大学のアート&テクノロジー学科で出会った友達です。2023年からずっと『MONOWAVE』を作ってきて、今年の2月に大学を卒業し、すぐに会社として起業しました。
――『MONOWAVE』がデビュー作ということですが、制作のきっかけを教えてください。最初から感情をテーマにすることが決まってたのでしょうか。
イム氏:
私たちは大学で美術を学んでいて、ゲーム好きな友達が集まってゲームを作り始めました。順序としてはまず、キャラクターの能力が変化していくパズルアクションを計画したんです。そこに私たちならではのクリエイティブなテーマを悩んだうえで、感情を使って何か作ってみることになりました。
――先にパズルアクションを作り始めて、そこに感情というテーマが付与されたと。
イム氏:
最初はキャラクターが液体や気体に変化するような科学的なものを考えていたのですが、もっと人間に関わるものを作りたいと思って変わっていきました。プレイした人が共感できるようなものとして感情というテーマになったのです。
――たしかに感情の方が共感してもらえそうですね。試遊版でも「悲しみ」のときには液体のようにふにゃふにゃに溶けるなど科学的だった頃の名残を感じます。

感情表現として「インサイドヘッド」などに影響を受けた
――感情によって自身や変化するだけでなく、感情を動物に付与して異なる動きをさせるギミックが斬新でした。感情を付与するギミックも当初からの構想でしょうか。
イム氏:
感情というテーマを決めた後に考えたのは、感情とはみんなと共有・共感するものだということです。なので、パズルアクションと感情が繋がるとなると、アクションや周囲のものも感情によって変化する形にしようと思ったんです。
――感情がテーマになった時点でほとんど必然的に感情を付与するようなシステムを思いついたと。
イム氏:
現実でも感情は周りに伝わるものなので、ゲームでも感情が周囲に影響を与えるという考えになっていきました。
――システム周りで影響を受けたゲームはありますか。
イム氏:
プラットフォームアクションのようなシステム面では昔のゲームや任天堂のゲームなどから影響を受けてますし、リスペクトもしています。感情をどう表現するかについては、アニメーションだったり、心理学理論や自分自身の経験などからゲームシステムに落とし込みました。
――影響を受けたアニメーションをお聞きしてもいいですか。
イム氏:
アニメーションで有名なものだと、ディズニーピクサーの映画「インサイドヘッド」からも影響を受けています。
――日本では感情を表す言葉として「喜怒哀楽」という4つの感情が一般的に使われます。本作での「幸せ」「悲しみ」「怒り」「不安」という4つの感情はどうやって選びましたか。
イム氏:
韓国でも喜怒哀楽をそのまま意味する言葉はあります。しかし、心理学の面では感情はいくつもの種類に分類されます。感情をゲームシステムとして表現するとき、喜怒哀楽の喜びと楽しいは似てしまうのが気になりました。ですので喜びと楽しいをまとめて「幸せ」とし、空いた一つに「不安」を採用しています。最初は恐怖のような感情を考えていたのですが、「不安」に落ち着きました。
――一筆書き風のアートスタイルも強く印象に残りました。このアートスタイルはどういう経緯で生まれたのでしょう。
イム氏:
童話や夢の世界のような幻想的なグラフィックを表現しようと考えた時に、スクラッチアート(※)が思い浮かびました。また、ディズニーピクサーの映画の影響も受けて、感情を刺激するような表現として一筆書きを採用しています。言葉や文字でなく、見るだけで感情が伝わるようなスタイルにしたかったんです。
※カラフルに塗りつぶされた下地の上に覆われた黒い面を削ることで描くアート。


――実際に一目で感情が伝わりますし、本作ならではの独特なアートスタイルにもなってますね。
イム氏:
ゲームでは4つの感情それぞれに精霊が存在していて、4つのワールドもそれぞれ異なる雰囲気のアートになっています。不安のジャングル、怒りの洞窟、悲しみの海、幸せの空です。そして、1つのワールドをクリアすると精霊の助けを得て感情に新たな能力が生まれます。
――たしかに体験版で1ワールドをクリアすると「不安」に新たな能力が追加されました。
イム氏:
ワールドをクリアするたびに新たな能力が加わっていくというシステムになっています。それらの能力は4つの感情表現を補完するような能力となっているので楽しみにしてください。
インタラクティブに変化するサウンドにも注目してほしい
――ゲーム制作するうえで苦労したところはありますか。
イム氏:
今年の2月まで学生だったので学業と両立することが大変でした。また、会社を起業しても資本が不足しており、未来への不安がある状況で創作を続けることは困難を極めます。ゲーム作り自体も大変ですが、外部的な要因に苦労しています。もっと集中して作りたいですね。
――作品でこだわったところや、注目してほしいところはありますか。
イム氏:
アートスタイルに興味を持ってくださることが多いですが、サウンド面にも非常に力を入れていて、自分たちで作曲しています。また、感情やステージ進行によってサウンドがインタラクティブに変化するようにもなっています。
――たしかに感情によってサウンドも変わるのは印象的でした。
イム氏:
そうしたインタラクティブな変化やサウンドトラックにも注目してほしいです。
――Nintendo SwitchやPS5などコンソール版の展開予定はありますか。
イム氏:
コンソール版の方が良い反応があると考えており、このBitSummit でコンソール版のパブリッシャーにお会いできればいいなと思ってます。

――最後に読者の方へのメッセージをお願いします。
イム氏:
一番大切なのは、ファンの皆さんです。私たちには大手のような資本力や技術力はありませんが、小さいからこそ強く真っすぐなメッセージを届けることができ、ファンの方々に私たちの「真心」を伝えることができます。ゲームデザイン、キャラクター、そしてイベントブースでの会話など、すべてに私たちの「真心」が込められています。それこそがインディーゲームならではの力であり、芸術性や独創性につながっていくのだと、私たちは信じています。
BitSummitに足を運んでくださった方は、遠くから駆けつけ、まだ完成もしていないゲームを応援してくれたり、熱心に感想を伝えてくれました。そして、きっと誰かにも話してくれる。 ゲームはこのように「みんなと一緒に完成させていくもの」だと、心から信じています。是非読者の皆様も私たちのゲームの「最初のファン」になって一緒にゲームを作りあげましょう。
──ありがとうございました。
『MONOWAVE』はPC(Steam)向けに、2025年発売予定。1ワールドが丸ごと収録された体験版も配信中だ。